第81話 ダメ姉は、エールを送る
~SIDE:マコ~
コマ(とついでに私)の楽しい楽しい面談が終わったその翌日。
「……で、では姉さま。本日はその…………い、色々と……お気をつけてくださいませ……」
「はーい。ありがとねーコマ♡んじゃ、とりあえずまたお昼に!」
「……はい」
今日も姉妹二人で仲良く登校し、自分の教室の前で非常に不安そうな表情のコマと別れる私。昨日下駄箱の中に入っていた果たし状の文面の通りならば、本日の放課後にその果たし状の送り主と私が対面する事になる。
その私の果し合いが相当心配なご様子のコマ。今朝なんてコマは開口一番―――
『姉さま。やはり果し合いなんて危険ですよ。……い、いっそ今日は……学校をお休みになられた方が良いのでは……?』
と、いつものコマらしくない不真面目な事を私に提案しちゃう程に心配してくれている。まさかコマからサボりのお誘いをされるとは夢にも思っていなかったし超ビックリだったよ。
「……まあ、それだけコマが私の事を大事にしてくれてる証拠だよね……ふへ、ふへへ……ふへへへへ……」
心配してくれているコマには悪いけど、この私をそれ程までに心配してくれている事実に嬉しくなってついにやけ顔してしまう。こんなクズ姉でゴメンねコマ……
「おっはよー皆。気持ちの良い朝だねー」
「……えっ!?……ま、マコ!?」
「おっ、カナカナだ。おっはーカナカナ♪」
「……お、おはようマコ。きょ、今日はあんた随分早いのね……」
「そういうカナカナだって早いじゃない。一番乗りとは流石真面目なカナカナだわ」
そんな最低な事を考えつつ、いつものように元気に朝の挨拶をしながら教室に入る私。その私の挨拶に、先に来ていた我が親友である叶井かなえ―――カナカナが少ししどろもどろになりながらも挨拶を返してくれる。
どうやら少し早めに登校したせいか、教室にはまだカナカナ一人しか来ていないようだ。
「…………(ブツブツブツ)な、なんで今日に限ってこんなに早く登校しちゃうのよマコ……!?わ、わたしまだ心の準備が出来てないってのに…………お、おおお……落ち着くのよかなえ……い、いつも通り……とりあえず今はいつも通りに会話を……」
「……?あの、カナカナ?なにを一人でブツブツ言ってんのさ?」
「な、なんでもないわ……え、ええっと……その…………きょ、今日のマコも無駄に元気だなって思ってね……」
「あはは!いやぁ、何せ元気なのが数少ない私の取り柄だからねー!カナカナも今日も元気そうでなにより…………あれ?」
自分の席に鞄を置きながら隣の席に座っているカナカナと会話をしていると、ふとカナカナからなにか違和感を感じる。……あれれ?今日のカナカナはいつもと何かが違うような……?
「…………(じー)」
「え……あの……マコ?ど、どうしたの?わたしの顔に何か付いてる……?」
「ああ、いや……ごめんジロジロ見ちゃって。そういうわけじゃないんだけど……何か今日のカナカナはいつもと違うような気がしてさ」
「……っ!…………そ、そう?き、気のせいじゃ……ないかしら……」
「いーや、気のせいじゃないね。んーと……なんだろ?何が違うんだ……?」
カナカナをじっと観察しながら考える。そういや昨日もこれに似た違和感を感じた気がするぞ。そう、あれは確か……昨日の朝に……
「……あ。あー、そっか。何が違うのかやっとわかった。今日のカナカナはさぁ……いつもより気合入った格好だよね?」
「……っ!?」
数分くらいカナカナを見つめてようやく気付く。何かこの違和感には既視感があるなと思ったけど、昨日のヒメっちと同じだコレ。
「カナカナの自慢の髪はいつも以上にサラサラしてて、寝癖は勿論枝毛一つ見当たらない。制服もしっかりとアイロンがかけられているよね。それにいつもはしてないリップまで付けて唇が艶々してるし、おまけに……微かだけど香水までつけてるでしょ」
「…………わかる?」
「うむす。まあ仮にも親友なんだしさ……いくら私が鈍いとは言え、それくらいはすぐにわかるよカナカナ」
今日のカナカナの格好は、昨日の朝に会った隣のクラスのヒメっちみたいに随分と気合が入っているように見える。元々髪のお手入れにはこだわりを持っているカナカナだけど、今日は特に念入りに髪をセットしているみたいだ。
制服だって糊がきいていてまるでおろし立てのようだし、更に言うと真面目な彼女にしては珍しく校則にギリギリ引っ掛からない程度でリップや香水なんてつけているし……こんなに気合の入った格好をしたカナカナなんて始めて見たぞ私。
「…………(ボソッ)普段抜けてるダメな子の癖に、こういう所は無駄に鋭いのよねマコ……そりゃあ頑張って身だしなみ整えたんだし、気付いてくれるのは嬉しいけど……だったらわたしの気持ちもちゃんと気付いて欲しいものだわ……」
「え?何?何で私カナカナに睨まれてんの?もしや私、なにか気に障るような事言っちゃったりした?」
「……なんでもない。…………そ、それより……マコ?もしかしてこれ……似合わない?ちょっと攻めすぎてる?引いた?変だと、思う……?」
「へ?」
私にまじまじと観察させられた挙句、自身の格好を指摘されて不安になってきたのだろうか。恐る恐る感想を聞いてくるカナカナ。
似合わない?変?やれやれ、我が親友は何を唐突におかしなことを言い出しますやら。
「似合わないなんてとんでもないし変なところなんて一つもないよ。寧ろその逆だよ逆」
「ぎゃ、逆?逆って言うと…………つまり、それは……」
「うん。とっても似合ってるよカナカナ。今日はいつも以上に綺麗だなーって思った」
「んな……っ!?」
確かにいつものカナカナらしくないなとは思ったけど、おかしいとはこれっぽっちも思わない。髪の美しさに関してはコマにさえ引けを取らないだろうし、制服も清潔感あふれていてポイントが高い。
リップや香水のお陰か今日のカナカナはいつもより大人っぽく見えて、何だかキラキラ輝いている気がする。雑誌のモデルさんみたいでホント綺麗だわカナカナ。
「…………に、似合ってる……綺麗…………そ、そっか♪…………ま、まあ美的感覚のおかしなマコに褒められても……そんなに嬉しくは……無い、けど…………ブスと蔑まれるよりかマシかもね」
「おーい親友?今私キミの事を褒めたハズなのに、何故私はキミに貶されねばならんのかね?」
……そんなに私の美的感覚っておかしいのかな?いや確かにファッションセンスはイマイチだろうけど……でも一応コマという名の至高の芸術を毎日見ているわけだし、目は肥えている方だと自分では思っているんだけどなぁ……
「ところでカナカナ?何故にそんな気合の入った格好してるのさ。今日何か特別な事でもあったっけ?時間割とか学校行事をパッと見た感じ、今日一番目に付くイベントって言えば月曜日から始まった三者面談くらいだけど……カナカナって今日が三者面談とか?」
自分の美的センスはちょっと置いておくとして、カナカナに気になっていた事を問いかける私。今日のこのカナカナと同じように、昨日気合の入った格好をしていた隣のクラスのヒメっちは……三者面談でお母さんに綺麗な姿を見せたいからというマザコンらしい非常にシンプルかつ分かり易い理由であんなに張り切って身だしなみを整えていた。
ここにいるカナカナは別段マザコンって訳じゃないっぽいけど……もしかしてカナカナも三者面談に備えてこんなに小綺麗にしているのかな?
「あ、いや……違うわ。わたしの三者面談は月曜日に終わったもの」
「ありゃ、そうなの?」
「うん。…………というかさ、どこの世界にこんなに気合を入れた格好で自分の三者面談に挑む生徒がいるっていうのよマコ」
「……ソダネー」
カナカナが知るハズもないけれど……ある意味カナカナ以上に身だしなみを整えて三者面談に挑んだ親友を、少なくとも一人私は知っているぞ。
「とにかく三者面談は関係ないのか。……んじゃ、改めて聞くけどさ。どうしてそんなに気合入れてんの?カナカナからはまるで……今から一世一代の大勝負に出ます!って感じの気迫みたいなものを感じるよ?もしやカナカナにとって今日は何か特別な日なの?」
「……」
三者面談が関係ないのならば他に思い当たる節が無い。なにせ今日は何の変哲もない授業が行われるだけもの。ならばこそ、何故彼女は朝からこんなに気合を入れた格好をしているというのだろう?ますます気になってもう一度理由をカナカナに問いかける私。
その私の問いかけに対して、カナカナはとても真摯な瞳で私を見据えてこう答える。
「一世一代の大勝負、か。…………ええそうね、その通りよ。マコの言う通り、今日は……わたしにとって特別な日になると思う」
「んむ?カナカナにとって特別な日?それってどういうこと?」
「……わたしね、マコ。今日譲る事の出来ない大勝負に挑むつもりなの。……それはもう、勝ち目なんて一切見えない大勝負にね」
「勝ち目の見えない大勝負……?あ、ああ……それって確か、カナカナがこの前私に相談してきた例の……」
そのカナカナの一言に、ついこの間カナカナから『欲しいものの為に勝ち目のない勝負を挑むか否か』について相談された事を思い出す。そうか……つまり今日がその勝負の日なのか。
「そうよ。……勝ち目は今も見えないけれど。でもやっぱり……譲れないから。諦められないから。どうしても……手に入れたいから。だから……マコのアドバイス通りに、やれること全部やって勝負を挑もうって決心したのよわたし。そしてこれもその一つ。多分気休め程度にしかならないとは思うけど……この通り勝負の為にちょっと頑張って身だしなみを整えてみたわけよ。わかった?」
「カナカナ……」
緊張しているせいか少しだけ身体を震わせつつも、真剣な表情で私に語り掛けるカナカナ。
……一体どんな勝負を彼女が挑もうとしているのか、私も知りたい気持ちが無いわけではない。けれど……もうカナカナから深くは聞くまい。このカナカナの表情を見ればどれだけ彼女が本気なのかがわかるから。私の中途半端なお節介や好奇心でカナカナのその真剣勝負の邪魔はしたくないし。
「…………カナカナ。ごめん、手を出して貰えるかな」
「え……?手?え、えっと……それはまたいきなりどうして?」
「良いから、お願い」
「う、うん……はいマコ。……こ、これで良い?」
深く聞かない代わりに、そんな一世一代の大勝負を挑もうとする彼女にせめてものエールを送ってあげよう。
そう考えた私はカナカナに手を出すように頼み込む。私の唐突なお願いに首を傾げながらも、言われた通り手を出してくれるカナカナ。
「ありがとカナカナ。そんじゃ、ちょっと失礼して―――(ギュッ)」
「っ!!???」
その差し出されたカナカナの手を取って、両の手で包み込むように優しく握る私。
「あ、ああああの!?ま、マコ!?な、何!?急に何するのよ!?」
「…………随分手が震えているねカナカナ。それに……かなり冷たくなってる。これって相当緊張している証拠だよね」
「……え」
握ったカナカナの手は緊張している為か、小刻みに震えていて……そしてとても冷たかった。
「親友のささやかな応援だよ。……私にはカナカナが今日どんな勝負を挑むのかわからない。でもね……そんなに緊張してたら、勝てるものも勝てなくなっちゃうよ」
「……マコ……」
「緊張するなとは言わないよ。でももうちょっとリラックスしようね」
「ん……」
冷え切っているカナカナの手を自分の両手で擦り合わせて温めてあげる私。自分の手の温もりをカナカナに送りながら、ついでに『頑張れ!』って気持ちも送ってあげる。
「大丈夫だよカナカナ。絶対大丈夫。……あ、いやまあ……その根拠は特に無いんだけど……でもきっと大丈夫さ。カナカナはもっと自信をもって良いんだよ」
「……うん。……ありがと……マコ」
「なんのなんの。これくらいお安い御用さ」
大した力にはなれないけれど、親友として陰ながら応援してるからねーカナカナ。
「…………前から思ってたけど……マコの手って、温かいわね」
「ん?そうかな?あー……確かに私って無駄に体温高いか。…………そういやさ、『手が冷たい人は心が温かい』ってよく聞くんだけど……その理屈で言うと手が温い私って心が冷たい奴って事になるのかにゃー?」
「…………冗談。マコほど……心が温かい子は、私見た事ないわよ。ホントに……どこまでも優しいわよねマコって…………どこまでもアホだけど」
「ぅおい。アホは余計でしょうアホは」
と、まあこんな感じで。いつものように他愛のない会話を楽しみつつ、他のクラスメイト達が登校するまでカナカナの緊張を解きほぐしてあげた私であった。
~SIDE:コマ~
「―――緊急事態発生ですヒメさま……ッ!どうか、どうか私にお力添えをくださいませ……!」
「……おはようコマ。朝の挨拶もすっ飛ばして急にどうしたの?」
自分の教室に入ってすぐ、私の唯一の親友ともいえる麻生姫香―――ヒメさまに駆け寄る私。いつもなら周りの人の目に気を配りながらきちんと挨拶をするところですが……
「ご、ごめんなさいヒメさま……今はその挨拶をする時間すら惜しいのです。どうかお許しください……本当に緊急事態なんです……!私の話を聞いていただけませんでしょうか!?協力していただけませんでしょうか!?」
「……なんかホント切羽詰まっているっぽいね。ん……わかった。良いよ。役に立てるかわかんないけど……とりあえず話してみてコマ」
「あ、ありがとうございますヒメさま!……じ、実はですね……ね、姉さまが……私のマコ姉さまが―――」
急に泣きついてきた私に動じずに、静かに話を聞いてくださるヒメさま。そのヒメさまに感謝しつつ事のあらましを話してみる私。
「…………ふむふむなるほど。あのマコが、ラブレターを貰ったのか……」
「より正確に言うとラブレターではなく告白前の呼び出し文です。……ですが。あんなもの、ラブレターのような物です……!ああ……とうとう恐れていた事態になってしまった……」
昨日姉さまの靴箱の中に入っていた例の手紙。封筒の封にハートマークのシールが貼られてあった事や愛らしい便箋が使われていた事、そしてあの丁寧に書かれた字と手紙の文面を読めば……手紙の送り主は姉さまに好意を持っている相手と見てまず間違いないでしょう。
……迂闊でした。普段ならば一日一回は必ず姉さまの下駄箱や姉さまの机の中に余計な物が入っていないかをしっかりチェックしていましたのに……昨日に限っては姉さまの面談が気になってチェックを怠ってしまっていて……嗚呼、立花コマ一生の不覚です……
「まあ、本人に自覚は全くないっぽいけど……なんだかんだでマコってモテる要素が詰まってるもんね。ちょっと妹自慢がうるさいけど、それさえ目を瞑れば……家事が得意で気配り上手で黙っていれば美少女で……なにより誰に対しても底抜けに優しいからそりゃモテる。私もよくマコに慰めて貰ったり元気づけて貰ったりしてるし」
「……ええ、ヒメさまの仰る通りです。あの通り天真爛漫で愛らしく、それでいて時にドキッとしてしまう程美しくカッコよく、そして誰よりも心が清らかで優しい姉さまですし……好意を持った人間が、この学校内だけでも100人や200人くらい居てもおかしくはないですよね……」
「……それは流石に二桁くらい盛ってない?それじゃこの学校の過半数以上の生徒がマコの事を狙ってる事になるよコマ……せいぜい一人や二人くらいかと」
いいえ。気持ち的には私のマコ姉さまと私の唯一の親友でありお母さまにゾッコンなヒメさま以外、この学校にいる人間全てが信用出来ません。一体いつ誰がどこでマコ姉さまを狙ってくるのか、私はいつも不安で不安で……
「で?その手紙を送って来た相手って誰なの?」
「……わかりません。差出人の名は書かれていませんでした。…………これでは告白前にその差出人を穏便に処分出来ません。ですから私、本当に困っていまして……」
「……よーし。ちょっと冷静になろっかコマ。暴力禁止・危険な事禁止、OK?」
ヒメさまに呆れた表情でおでこにチョップされる私。うぅ……だってぇ……姉さまが盗られちゃうかもしれないと思うと居ても立っても居られないじゃないですかぁ……
「というか……そのラブレターもどきを貰ったマコ本人は何て言ってるのさ。喜んでた?それとも歯牙にもかけない感じ?」
「…………」
「……?どしたのコマ?」
「え、ええっと……それがですねヒメさま。どうやら姉さま……その手紙の意味を全くご理解なさっていないようなのです」
「……はい?」
「なんでも貰ったその手紙を―――果たし状か何かと勘違いなさっているみたいで……」
「……流石マコ。予想の斜め上だ」
姉さまが勘違いをなさっている今のこの状況は、ある意味私にとって好都合と言えば好都合なのですが……昔から姉さまにアプローチし続けて悉く失敗しているこの身としては、姉さまに手紙を差し出した相手にも流石に同情してしまいます。
姉さまって……本当に他人の好意にはトコトン鈍いんですよね……
「まあ、状況は大体分かった。……で?私にどうしろと。まさか『その告白の邪魔をしろ』とか言わないよねコマ。人の恋路の邪魔をして馬に蹴られたくはないよ私」
「いえ……私がヒメさまにお願いしたい事はそういう事ではないのです。……実はですね。その手紙の書いてある通りならば、今日の放課後に姉さまと差出人が屋上で対面する事になるらしいのです。恐らくですが、その時差出人の方が姉さまに告白するのではないかと……」
「だろうね。……それで?」
「…………一体どこの誰が姉さまに告白するのか、そして姉さまがその告白に何と答えるのか。私はそれがどうしても知りたいのです。ですから……その。私……今日のその告白を陰で監視していようと思っています」
「……うん。…………うん?監視?」
「え、ええ。監視です。ですが私一人では心細いですし……もしもの時の為にも、ヒメさまも……私と一緒にその告白を監視して頂けないでしょうか……?」
「……えぇー」
私のお願いにとても嫌そうな顔をするヒメさま。ま、まあ……そんな反応されるのも無理は無いですよね。
「……つまり一緒に告白の覗き見をしろって事でしょ?あんまり気が乗らないんだけど。それに放課後は出来れば早く帰って母さんの為に美味しい夕食を作りたいなーって……」
「む、無茶なお願いだとはわかっています!ですが、ですがこんな事……ヒメさまにしか頼めないのです……!お、お願いですヒメさま……!私と一緒に居てくださいまし……!」
全く乗り気じゃないヒメさまに必死に懇願する私。ここでヒメさまに断られたら非常にマズい……どうにか説得しないと……!
「覗き見―――もとい、監視するだけならコマ一人でも出来るでしょ?どうしてまた私に付き添って欲しいのさ。私必要ないじゃないの」
「ひ、必要です!告白の時、ヒメさまが居ないと絶対に大変な事になるんです!で、ですからどうか一緒に来てくださいませヒメさま!?立花コマ、一生のお願いですッ!」
「……大変な事?一体何が起こるのさ」
要領を得ない私の言葉の意味を訝しげに問うヒメさま。何が起こるのか、ですか。……いいえ、起こるというよりも起こすと言いましょうか……
「い、いいですかヒメさま。よく考えてみてください。私一人で姉さまが告白されているところを見せられたとするじゃないですか」
「……うん」
「私の最愛の姉さまが、どこの馬の骨ともわからない人に告白されちゃうんですよ?ひょっとしたら姉さまがその場で告白を受諾するかもしれないのですよ?」
「……うん」
「そんなところを一人で見せられたら、私―――」
「……私?」
「―――私、自分で自分を制御できる自信が全くもってありません……」
「…………よくわかった、理解した。何が大変って……コマが我を忘れて衝動的に犯罪行為に手を出しかねないから大変って意味なのね……」
私のその一言で、全てを理解してくれるヒメさま。姉さまが告白されているところを見てしまったら……私、自分が一体何をしでかすか全くわかりません。
……最悪の場合ついカッとなり、可憐でか弱い姉さまを守る為に学校にこっそり持って来ている防犯グッズを総動員させて告白相手を―――その、プチっと……ヤっちゃう恐れも……
「つまりコマの頼みって……コマが暴走してしまった場合、コマを私に取り押さえて欲しいって事、か。……ああ、だから一人じゃダメだしコマの本性を知っている私以外の人にも頼めないと……」
「……その通りです」
「…………ハァ。わかった……なら引き受ける。貸しイチだからねコマ」
「っ!ほ、ホントですかヒメさま!?」
「だって……そうじゃなきゃ、数少ない親友が牢屋送りになっちゃうでしょ。流石にそれは見過ごせないし……そうじゃなくてもいつだってコマにもマコにもお世話になってるし……」
「あ、ありがとうございますヒメさま!」
仕方ないといった表情で溜息を吐きながら了承してくださるヒメさま。あ、ありがたい……これで最悪の事態は避けられますね……お優しいヒメさまに心から感謝です。
頼れる一番の親友の協力を得て、後は放課後を待つばかり。一体誰が姉さまにあのような手紙を送ったのか。告白されたら姉さまは何と答えるのか。そして…………私は冷静さを保てるのか。
何もかもが未来の事ですし、放課後になるまで私には何も分かりませんが……そんな私にも断言できる事が一つだけあります。それは……
「ヒメさま……もしもの時はコレを使って暴走する私を止めてくださいね。遠慮せず、躊躇わず首元にバチッと頼みます」
「…………ねぇ待って。まさかスタンガンを使わざるを得ないほど暴れる気なのコマ……?というか、今コマはどこから出したのスタンガン……?そもそも何でコマは学校にスタンガンを持って来てるの……?」
……どう転んでも、放課後はヒメさまにとんでもない苦労をかける事になると。
来週かなり忙しいので多分更新できないと思います。申し訳ございません、12月は特にバタバタしていまして…なるべく早めに更新出来るよう頑張ります。気長に待っていてもらえると嬉しいです。