第79話 ダメ姉は、三者面談を受ける(後編)
いつもは土曜日の21時頃更新していますが、今週の土曜と日曜がちょっと忙しくて……申し訳ございませんが予定を早めて更新します。
あともしかしたら来週、それと12月になりましたらもっと忙しくなって更新が遅れてしまうかもしれません。その時はのんびりまったり待っていただけたら嬉しいです。
「―――姉さま。それに叔母さま。お疲れ様でした。私の面談にお付き合いくださってどうもありがとうございます」
「お礼なんて良いってコマ。そもそも私の場合、自分から望んでコマの面談に無理やり潜り込んだわけだからねー。感謝するのは私の方だよ」
「アタシはただ座って先生やオメーらの話を聞いてただけだしなー。礼言われるような事はなんもしてねぇよコマ」
コマを悩ませていた希望進路については、もう少し家族や先生と相談しながら決めるという話でまとまり。その後はつつがなく面談は進んで、5分もかからないうちにコマの面談は終了となった。
「マコとかいうお邪魔キャラの乱入もあったわけだし、もうちょい時間かかるかとアタシは踏んでいたんだがあっという間に終わったな。コマの面談は楽でいいねぇ。……さーてと。次はマコの三者面談だな。この隣の教室だよな?」
「うむす。そんじゃ悪いけど叔母さん、続けてそのお邪魔キャラの面談も頼むよ」
保護者の方に二度手間にならないようにと、双子で別々のクラスに在籍している私とコマの面談は同じ日に連続して行われる事になっている。次はこの立花マコの面談だね。よろしく叔母さん。
「へいへい了解っと。にしてもマコの面談かぁ……」
「……?なにさ叔母さん。人の顔を見てニヤニヤして」
「いや何。こっちはコマと違って大変そうだなーって思ってな。成績もダメ。運動もダメ。素行は言うまでも無くダメダメで……マコの担任の先生から一体どんな罵詈雑言が飛んでくるのか、今から楽しみ―――もとい不安だわアタシ」
意地の悪そうなにやけ顔でそんな事を私に言うめい子叔母さん。……この反応。さてはこの人、私が先生に怒られる様子を楽しむ気だな?もしくはそれをネタに何か今度書く小説のネタにするつもりかもしれない。なんて失敬な叔母なんだ。
「やれやれ。何を仰る叔母さんや。成績と運動―――は、確かにちょっと残念だけど。でも叔母さんが知らないだけで、これでも私って結構学校ではちゃんとしてるんだよ?ねー、コマ?」
「はい、その通りです姉さま。叔母さま、姉さまは凄いのですよ。ムードメーカーとしてクラスを盛り上げたり。悩み多き生徒たちに親身になって悩み相談を引き受けてくださったり。ご友人に料理や家事を懇切丁寧に教えたり。生助会の役員として清く正しく真面目にこの学校の為に働いていらっしゃるのです。それはもう、私も他の皆様も姉さまの事を大変お慕い申しておりますよ」
「ほらね!コマもこう言ってくれてるじゃないの叔母さん」
試しにコマに話を振ってみると、コマは胸を張って私を褒めてくれる。流石コマ。お姉ちゃんを立ててくれるよくできた妹だよホント。
「それはどーだかなぁ。コマのマコ評価は常にフィルターかかってて当てにならんし。……まぁ、それは面談受けてみればわかることさね。んじゃ、そろそろ時間だし行くぞマコ」
「へーい。……てなわけで。ごめんねぇコマ。私と叔母さん、面談に行ってくるよ。コマはちょっとその辺で待っててね」
「……えっ?」
コマに一言告げて叔母さんと共に今度は自分の面談の場に向かう私。さーて、本日一番のお楽しみだったコマの面談は終わった事だし、自分の面談なんてどうでも良いからちゃっちゃと済ませましょうかねーっと。
「面談なんてすぐ終わらせてくるよ。今日もお姉ちゃんと一緒に帰ろうねーコマ♡」
「あ、あの……姉さま……?わ、私って……待ってなきゃいけないのですか……?」
「へ?待たなきゃいけないのかって…………と、当然じゃない!ダメだよ一人で帰っちゃ!?危ないよ!?ホラ!この前先生から連絡があったでしょう?最近また不審者が出没してるから帰宅の時は気をつけろって!」
「い、いえ……そういう意味で待ってなきゃいけないのかと聞いているのではなくてですね……」
「コマが何と言おうと、二人で仲良く下校するの!ちゃんとコマは待っているんだよ。いいね?」
何やら私の面談が終わるのを待つ事を嫌がっているご様子の我が妹。むぅ……面談も終わって今からはコマの自由時間になるわけだし、早く帰りたい気持ちはよくわかるけど……
でもやっぱコマを一人にして帰すわけにはいかない。心苦しいけれど姉としてしっかりコマに言い聞かせなきゃ。
「ち、違うくて……ですからそういう事じゃなくてですね姉さま。……わ、私も……私も姉さまの面談に―――」
「おいマコ、何コマと長々話し込んでんだよ。面談始まるしとっとと行くぞー」
「あ、うんわかった!……ごめんコマ。もう行くね。絶対一人で帰っちゃダメなんだからねー!」
「あ、ああ……待って姉さま、姉さまぁ……!」
叔母さんに呼ばれて後ろ髪を引かれる思いでコマと別れる私。コマを一人で帰さない為にも、私の面談なんざさっさと切り上げてしまおうじゃないか。
『…………うー……私も……姉さまの面談に同席したかったのに……』
◇ ◇ ◇
「―――では、これより立花マコさんの三者面談を始めたいと思います。担任の池田です。本日はよろしくお願いします」
「おうさ。この子の保護者やってる宮野めい子っていう者さね。こちらこそよろしく頼むよ。さて……うちのマコが随分世話になってるみたいだね先生。この子って学校ではぶっちゃけどうなんだい?先生方に迷惑をかけちゃいないかい?」
私の担任の先生と叔母さんの軽い自己紹介が終わるとすぐに私の面談が始まった。まずは先ほどのコマの面談の時と全く同じ台詞を先生に向ける叔母さん。
その叔母さんの一言に対して、先生は満面の笑みを浮かべてこう仰る。
「ええ、その通りです宮野さん!立花マコさんには毎日毎日大変迷惑をかけられておりますよ!」
「だろうなー。いやはや、うちの駄姪がすまないねぇ先生」
「あれー?」
……おかしい。そこは仮にも保護者の前なんだし『いえいえ。そんな事はありませんよ』と返してはくれないのでしょうか先生?
「見てください宮野さん。これがマコさんの成績表なのですが……直視できないくらい酷いものでしょう?」
「どれどれ?……うーむ。わかっちゃいたけど確かにこれは見るも無残な惨状だねぇ。ほぼ毎回ワーストスリー入りかマコ。良かったのはコマに勉強を教えて貰ったこの前の期末くらいじゃねーか」
「その期末試験でさえも、ある科目においては堂々と試験中に居眠りなんてしでかしましたからね。それもクラス担任であるこの私の受け持っている科目で、しかも私が試験監督していた時にですよ?信じられますか宮野さん?」
「すまん先生、この子ホントにダメな子だからねぇ。妹のコマに前日『しっかり眠って試験に備えましょう』って言われてたってのに……忠告を聞かずにやらかしたんだよなー」
「成績だけでなく授業態度もダメなんですよ。授業中に突然奇声をあげて妹さんへの愛を語り出したり高笑いしだすのは最早当たり前。時折堂々と授業をサボってコマさんの応援に勝手に行ったり、コマさんに告白した三年生に暴力をふるったりと―――」
当人である私を置き去りにして何やら楽しそうに私の酷評で盛り上がる叔母さんと先生。お二人とも?とても保護者と担任の教師の会話とは思えないんですが……?
「あ、あの……先生?一応保護者の前なんですし、もう少しオブラートに包んで話してくれても私は一向に構わないんですよ……?」
流石にたまりかねて先生にそう進言してみる私。すると先生はため息を一つ吐いてこう答える。
「……すまんな立花。私だって本当は大事な教え子を、よりにもよってその保護者さんの目の前で非難なんてしたくは無いんだよ。だが……」
「だが?」
「だが……一教師としてはやはり生徒の前で嘘は付けない。非常に心苦しいが、お前のこの学校での立ち居振る舞いをありのまま暴露すべきだと先生は思うんだ」
「心苦しいとか言いながら、すっごい活き活きしてるように見えるのは私の気のせいでしょうか先生!?」
先生ったらここ最近じゃ一番の笑顔でそんな事を言ってくださる。こ、これ……さてはアレか?日頃手を焼かせている私への当てつけか何かか?お、おにょれ先生。アンタ大人げないぞ……!
「それでそれで?他にはなんか無いのかい先生。面白いマコの学校での珍行動ってやつはさ」
「そうですね。これは持ち物検査をした時の話なのですが……」
そしてメモ帳片手に楽しそうに先生に話を振る叔母さんも叔母さんだよ。アンタ何しに今日ここに来たか言ってみろ。
「い、異議あり先生!確かに私って成績も運動も素行もちょっとアレかもしれませんが……そ、それでも真面目に頑張らなきゃいけない時はちゃんと真面目に頑張っているでしょ!?そっち関連で褒める事は何か無いのでしょうかね!?」
このままでは無駄に面談が長引いてコマを待たせてしまう上に、叔母さんにいいように私の事をネタにされかねない。そう考えた私は先生に褒める方向性で話を進めて貰えるように主張してみる事に。
「ほほう?立花お前……真面目に頑張る時は真面目にやると自分で主張するわけだな?」
「ええ勿論ですとも先生。ご存知ないかもしれませんが、私ってオンとオフはきちんと切り替えることの出来るとっても真面目な女なんですよ」
「……ならばちょうど良いな。なあ立花よ。ここに先日お前が提出したとある紙があるんだが……」
そう言って先生は、立花マコと名前の書かれた一枚の用紙を私の目の前にススッと差し出した。おや……これは例の進路希望調査票じゃないか。
「進路希望調査が一体どうしたというのですか先生?私、ちゃんと真面目に配布されたその日のうちに第三希望まで書いて提出したじゃないですか。それの何処に問題があるというのですか?」
「……提出期限の事を言っているんじゃない。問題はその中身だ。確認するぞ立花。これがお前の希望する進路先なんだよな?間違っていないよな?」
「ええ、間違いありませんよ先生」
「…………ならちょっと試しにそれを音読してみろ立花」
「音読しろ、ですか?……はぁ、まあそれくらい別に良いですけど。あー、コホン。2-A所属立花マコ。私の希望する進路は―――」
先生にそう命じられて、一度咳払いをしてから書いた内容を先生と叔母さんの前で音読してみる私。
「第一希望:コマの専属メイド 第二希望:コマの愛の奴隷 第三希望:コマのお嫁さん♡―――です。これが何か?」
「書き直してこい」
一蹴された。何故だ。
「ハァ……立花。お前って奴は、お前って奴は本当に…………本当に、どこまでふざければ気が済むんだ!?これのどこがオンオフ切り替えられる真面目な女だ!?こんなふざけた進路希望があってたまるか大バカ者め!とっとと真面目に書き直せ!!!」
「んな!?失礼ですね先生!私、本気です!ふざけて書いたつもりはありません!これが私の将来の希望進路です!」
「…………これでふざけていないだと?……クソッ、なんてことだ……教員生活30年。これでも多少の経験と知識を積んで来たつもりだったが……この私では立花を真人間にするには力不足だとでもいうのか……!?」
一度憐れむように私をチラリと見てから零れる涙を拭い、そして天を仰いで大いに嘆く先生。よくわからんが相当アホな子扱いされてる気がする。
「ハッハッハ!あー、ダメだ……笑い過ぎて腹痛い……は、腹がよじれる……さ、流石マコだぜ。想像以上にアホ過ぎる……!アッハッハッハ!」
「そして叔母さんは笑い過ぎだよ……」
何だよもう。先生も叔母さんも失礼だなぁ。これでも私、大真面目に書いて提出したってのに。
「…………あのなぁ立花。確かに先生もこれを配る際、『何も思いつかなければ将来やってみたい職業等を書いてくれても何も問題ないぞ。気楽に赴くままに、今の素直な希望を書いてくれ』とは言ったさ。……だが、仮にもこの進路希望も面談も将来を左右しかねない大事な話なんだぞ?ちゃんと考えなきゃダメなんだぞ?」
さっきとは打って変わって、まるで小さな子供に諭すかのように私に語り掛ける先生。いや、ですから大真面目に書いた結果がコレなんですが?
「行きたい高校が思いつかないなら私も工面してやる。尤もお前の場合成績や内申点が怪しいが……まあ、今から頑張ればダメダメなお前でも可能性はある……かもしれない。希望を捨てずに頑張るんだぞ立花」
「そこは『可能性はある』と断言してくれないんですね先生……」
希望を捨ててるのは先生の方なのではないかと邪推してしまうぞ私。
「と言うかですね先生。これでも私、ちゃんと考えてますよ?」
「何をだ立花。また気色の悪い願望について考えているとでも言うのか?」
「いえ、そうじゃなくて―――行きたい高校ならちゃんと考えていますよ」
「…………え?」
私のそんな何気ない一言に、先生は目を点にして固まる。
「……私の聞き間違いか立花?お前今……行きたい高校は考えていると言わなかったか……?」
「ええ、言いました。ここに書いておいたコマの専属メイドもコマの愛の奴隷も、それから…………こ、コマのお嫁さんも……私が最終的にやってみたい職業(?)って意味で書いただけです。二年後に通いたい学校ならば私もちゃんと考えています」
「……ちゃんと、考えてる……?お、お前がか……?」
何やら予想外の一言だったらしく、先生は何だか混乱しているように見える。私そんなにおかしな事言ったかな……?
「その……立花?ならば言ってみてくれないか。お前の考えている通いたい高校ってやつをな」
「あ、はい。第一希望はコマと一緒の高校ですね。まあ、これに関してはコマと二人で相談しあって決めるつもりなので今は保留って事にして―――第二希望からが立花マコとしての希望進路になります。……先生。実は私、高校に入ったら今よりももっと専門的に栄養学を勉強したいんです。将来的には管理栄養士の資格とかも取っておきたいですし」
「え、栄養学……?管理栄養士……?」
……私の妹、コマは今も味覚障害を患っていて毎日コマには苦しい思いをさせてしまっている。味覚障害自体は何が何でもコマがこの学校を卒業するまでに治してあげるつもりだけど……仮に、卒業までに治らなかったら。いいや、治ったとしても将来的に再発する恐れだってあり得るわけだ。
そうなった時、この私に何が出来るか考えてみたら……やはり自分の唯一の特技である『料理』でコマを支えてあげる事が一番だと思う。
「今までの私は独学で栄養学について勉強していましたけど……それじゃ限界があるんです。ですから私、高校でそういう食や栄養について学べる場所がないか調べてみたんです」
「……」
「調べた中で良さげだったのは家から近くて食に関しての専門的な勉強が出来て、ついでに卒業後に調理師免許も取れる久留高校の食物科ですね。ですからこの高校を私の第二志望にするつもりです」
「……」
「あとは……こっちは少し家から遠くなりますけど、二駅先にある八米女子高校のフードデザイン科が第三志望です。ここもしっかり調理や栄養学を勉強できますし、何より私の尊敬している料理の本出してる作家さんの母校でもあるので……通えるならば是非とも通いたいって思ってます」
「…………」
そして……料理でコマを支えていくには今よりももっと栄養学等の勉強に打ち込んで、知識と経験を積んでいく必要がある。だからこそ、そういう勉強が出来るこの二校が今のところ私の希望進路だ。
「あー、そういやマコお前……夏休みの間に暇だからって言ってどっちの高校も学校見学に行ってたよな。実際に行ってみてどうだったんだい?」
「うん。その学校の先生たちのお話を聞いた感じだとかなり良かったよ。学校そのものの雰囲気も悪くなかったし、私の学力的にも今から頑張れば何とか行けそうみたい。だから今のところその二校が私の志望先になりそうかな。……尤も、あくまでコマと一緒の学校に通ってコマを支える事が最優先だし、第一希望がコマの行きたい学校って事に変わりはないけどねー」
「その辺はコマとよく相談して二人で進路を決めるんだぞマコ。そうそう。それとコマのやつもお前が行きたい高校を参考にしたいって言ってたし、帰ったらアイツに教えてやるといいさね」
「うむす。言われなくてもそうするつもりだよ」
私とコマの将来目指す職業は違ってくるだろうし、学ぶ分野もまたそれぞれ違ってくるだろう。コマの希望進路が当然優先だけど、なるべくは二人の希望進路にあう学科がある学校が無いかコマと一緒に探してみましょうねーっと。
「てなわけで。今のところの私の希望高校はこんな感じです先生。何か担任の先生としてアドバイスとかあったらヨロシクです」
「…………お、おぅ……」
「……?先生?どうかなさいましたか?」
言われた通り自分の希望する高校について語ると、先生は唖然とした表情で何やら口ごもっているご様子。……さっきから怒ったり怒鳴ったり固まったり驚いたりと忙しないですね先生。
「あ……い、いや…………こう言っては何だがな、立花に少しだけ驚いてしまって……」
「へ?驚く?驚くって……別に私、誰かに驚かれるような事は何も言ってないじゃないですか。何をそんな驚いて―――」
「意外と……しっかり進路については考えているんだなお前。驚いたぞ……誰に言われたわけでも無く学校見学に自主的に行ったり、将来のビジョンをしっかりと持っていたりと……わ、私はてっきり何も考えていないとばかり思っていて……」
「いやいや。いつも阿呆なマコの行動見ていれば、先生にそう思われるのも無理は無いさね。普段はこの駄姪は目を覆いたくなってくるくらいのダメダメ人間だが、こういう所は意外としっかりしてんですよ先生」
「何故に先生も叔母さんも揃って『意外と』をめちゃくちゃ強調するんですかね?」
それじゃまるで普段の私は何も考えず、ただ本能と煩悩の赴くままに行動しているように聞こえるじゃないか。全く失礼しちゃうわ。
「とにかく高校やその上の大学とかに行けたなら、今以上に栄養学や調理についてもっとしっかりと学んでいくつもりです。ゆくゆくは調理師や栄養士、管理栄養士等の資格も頑張って取得して……そして今よりももっと料理のスキルを上げていきたいですね」
「そ、そうか……ま、まあ立花は家庭科だけは本当に良く出来ているみたいだし……その道を目指していくのは悪くないんじゃないか?」
「おっ、そうですか?先生にそう言って貰えると安心しますよ」
「アタシ的には料理や栄養に関する職に就くのがマコの天職だと思ってるし、そうじゃなくともどんな道を進んでも保護者として見守るだけさね。思うがまま好きな事を好きに頑張りなー」
「うん了解。頑張るよ」
自分の将来について語ってみると、先生からも叔母さんからもかなりの高評価を貰う私。さっきまであれだけダメ出しされてたわけだし、また今度も同じようにダメ出しを受けるかと思ってただけにちょっと拍子抜けだわ。
「それだけ将来設計を立てていれば先生も文句は言えないな。ならば立花、お前はまずそれらの高校に受かるだけの学力を備えなさい。今のままの成績だと高校受験はかなり厳しい事になるだろうからな。勉強に関しての相談ならいつでも受けるぞ」
「はーい。わかりました先生」
先生の言う通り、進路とか将来のビジョンとか決めていても……肝心の高校受験で失敗したら意味がない。私の場合学力に問題があるわけだし、立派なコマのお姉ちゃんになる為にも勉強する習慣をつけてどんな高校でも受かるくらいの気持ちで学力も上げていかなきゃね。
「……いや、それにしても本当に驚いた。まさかこのクラス一……いいや、学園一の問題児である立花がこれ程までにはっきりと将来を見据えていたなんてな。先生はてっきり立花の事だし、『妹のヒモになりたい』とかふざけた事をぬかしてくるんじゃないかと正直身構えていたぞ」
「まあこのシスコン娘の場合は目的や目標が明確だし、あと余計な事をごちゃごちゃ考える脳みそも無いからねぇ。悩まずシンプルに自分の進路決められる分、マコは強いよなー」
「いやぁ、それ程でもー」
叔母さんと先生に珍しく褒められて照れる私。…………あれ?いやちょっと待って。褒めてるのかコレ?褒めているようで二人とも私の事さり気なく貶してないかコレ?私の気のせいか?
「なあ立花。これは他の生徒の参考になりそうだし、良ければ高校や大学に行った後でどんな道に進む予定なのか先生に教えてはくれないか?」
「…………へ?」
と、何やらご機嫌な先生にそう請われる私。……?どんな道に進む予定か?先生は何をいっているんだろうか?
「いえ、その……先生?もうお忘れですか?それに関しては私、ついさっき先生に言ったじゃないですか」
「え……?お前さん、何か言ったか?……ええっと、たしか管理栄養士だったかな?それとも調理師?」
「違います。それはあくまで資格が欲しいだけです」
「え、ええっと……ならコックとか?」
「それも違います。コックなんてやりませんよ。私の夢見る未来はですね―――」
「夢見る未来は?」
「―――ある時はコマ専属のメイドとして。ある時はコマの愛の奴隷として。そしてまたある時は……こ、コマのお嫁さんとして♡得られた知識と磨かれた料理のスキルをコマの為だけに振るう、これが私の夢見る未来です先生!」
「…………」
何のために栄養学をより専門的に学び、そして料理の腕を上げたいのか。そんなもん最初から決まっている。コマの味覚を正常にして、その上でコマに私の最高の手料理を食べてもらいたい―――ただそれにだけに尽きる。
やれやれ、最初からそう言っているってのに先生は何で理解してくれないのやら。
「…………あの第一希望から第三希望までの進路希望調査……本気だったのか立花。……せっかく良い話で面談も終われそうだったのに……これさえなければなぁ……」
「すまんな先生。ご存知の通り、このシスコン娘は超弩級の阿呆なんだよ。大変だと思うが生暖かい目で見守ってやってくれや」
今回マコが進路希望として『コマ専属メイド』になりたいとか(頭の)おかしなことを言っていましたが……実は職業適性上、マコにとってメイドは天職です。
なにせ彼女の場合、料理は勿論掃除や洗濯お裁縫だってお手の物。接客に関しても基本的にコミュ力は高い子なので問題ありませんし、欠点である『ファッションセンスがイマイチ』な点もメイド服を日常的に着せとけばその欠点が露見される事もないですし(あと何気にメイド服似合いそうですし)。
……まあマコがメイドとして働くにあたり、問題点があるとすれば。こやつの場合コマの言う事しか聞かないので、彼女の言っていた通り『コマ専属メイド』としてのお仕事しかできない―――いいえ、する気が無いという致命的な問題があるところでしょうか。