第74話 ダメ姉は、制裁を受ける
先週は更新できず申し訳ございません。時折こんな風に更新できない時もあるかもしれませんが、出来るだけ定期更新を心がけたいと思っています。遅くなった時はのんびり待っていただけると嬉しいです。
コマに告白、その上フラれた癖に強引に迫ってコマに傷をつけるという神をも恐れぬ所業をやらかした名も顔も知らぬ先輩。その先輩を天に代わって制裁していた私なんだけど。
「―――だから、お前は一体何度叱られれば気が済むんだ立花。……まだ午前中だというのに、本日二度目の説教だぞ?そう二度目!」
……大天使:コマと大親友:カナカナに『これ以上は色々マズいからやめて』と必死に止められて、その後駆けつけた担任の先生に朝と同じく拳骨一発喰らわされ……職員室に連行され一時間ミッチリ説教を受ける事になってしまった。
「……むー。だ、だって……コマに迫ったあの先輩が悪いし……」
「だってもへちまも無いわ。ほんっとにお前は反省せんな立花……」
「す、すみません先生。……で、ですがその……姉も些かやり過ぎではありましたが、それもこれも迫られる私の身を案じた結果やった事ですので……どうかこの辺で……」
正座させられている私の隣で、コマは先生に一生懸命取り持ってくれる。コマはある意味今回一番の被害者だというのに、本当に何処までも優しくて良い子だなぁ……
「…………ハァ……。まあ、立花にボコボコに殴られたあの三年生も『気が逸って、ついあんな酷い事を立花さんにしてしまいました。立花さんを怖がらせてしまって申し訳ないです……』と反省してたもんな」
コマの説得を受け、盛大に溜息を吐きながら先生がそう呟く。ちなみにその例の先輩は現在保健室にて治療中。軽い打撲程度で済んだそうで(残念ながら)命に別状はないそうだ。
……慈悲深いコマとカナカナに救われた命なんだし、その命……せいぜい大切にすることだね。
「確かに立花妹の言う通り、度が過ぎていたとはいえ一応は妹を守るためにやった事ではあるか…………ならわかった。今日のところは妹に免じてこの辺で勘弁してやる。もしも今度同じような事をやったなら、こんなに寛大な処置はしないから覚悟しておけよ」
「…………へい。すんませんでした先生……」
一応私も女の子なのに……容赦なく拳骨喰らわせておいて、しかも一時間ノンストップで説教するのはどのあたりが寛大な処置なのかと問いかけたい気持ちをぐっと呑みこむ私。
これ以上ここに拘束されたら、事情聴取を受けていたコマにまた迷惑を掛けちゃうし……ここは素直に謝っておこう。
「うむ。ちゃんと反省するように。それじゃあもう行って良いぞ二人とも。……すまんな、立花妹。授業中だというのに姉の説教に付き合わせる事になってしまって」
「いえ……元はといえば私がしっかりあの先輩に断っていればこんな事にはならずに済みましたので。ご迷惑をおかけしました先生。それでは私たちはこの辺で失礼しますね」
「失礼しましたー……」
コマと共にもう一度だけ先生に頭を下げてようやく職員室を後にする。あー……疲れた……流石にガチなお説教は心も身体も堪えるねぇ。朝礼中もがっつり叱られたばっかりだからか余計に疲労が……
……まあ、それもこれもコマの為に(?)怒られたんだし悔いは無いけどネ。
「……改めて。ごめんね、コマ」
「え……?ごめん、とは……一体何の話ですか姉さま?」
「まさかこんな大ごとになっちゃうなんて思わなくて……コマに迷惑かけちゃったね。お姉ちゃん考え無しに、ついかーっとなっちゃって……しかもお説教に付き合わされて、コマまで一時限目の授業に出られない羽目になっちゃうしホントにごめん……」
「い、いいえ!とんでもありません姉さま。姉さまが謝る必要なんてありません……!謝らないでください姉さま……!」
職員室を出てすぐに、迷惑をかけてしまったコマに謝る私。そんな私の謝罪を見て、コマは慌てて両手を振って否定してくれる。
「本当に姉さまが謝る必要なんかどこにも無いんですよ。先ほど先生にも言いましたが、私がしっかり断れてさえいれば姉さまが叱られることもなかったですし」
「で、でも……コマを困らせちゃうことになったのは事実だし……」
「……困らせてなんかいませんよ。といいますか、寧ろ助かりました。多分あのまま迫られていたら、もっと困ったことになっていたと思います。あの先輩、随分と頭に血が上っていたみたいで……ちょっと怖かったですし」
そう苦笑い気味にコマは話す。…………そうか、やっぱ怖かったんだねコマ……おのれ、あと一,二発くらいは殴っとけばよかった……次会ったら忠告も兼ねてやっておくか……
「それに。実を言うと私、あの先輩さんの事……全く興味がなくて人となりとか全然知らなかったんです。何せどういう方なのかを、朝友人に軽く聞いたくらいですもの。……お陰で上手い断り方が思いつかずに朝からずっと悩んでいましたし、姉さまが割って入ってきてくれて助かりましたよ」
「あ……そ、そうなんだ。じゃ、じゃあ最初からコマは断る気だったんだね」
「ええ勿論。…………(ボソッ)だってあの人、ありとあらゆる意味で……私の好みのタイプからかけ離れすぎですもの。……私はただ一人だけに夢中ですし……」
こそこそ隠れて告白を覗き見していたうえに、途中で乱入して大暴れ。そのせいで一時間丸ごと私の説教に付き合わされる羽目になったというのに、コマは怒るどころか感謝してくれる。ええ子や……ほんに、うちの妹はええ子やで……!
「それに……困るどころか姉さまがあの場にいてくれて、私本当に嬉しかったです……」
「へ……?う、嬉しかった……?」
ほんのり頬を赤く染め、心の底から嬉しそうにコマはそんなことを言う。嬉しかったって……な、何故に?さっきの私の行動の、どの辺が嬉しく思われたのだろう……?
自分で言うのもなんだけど、私ってコマに迷惑かけた覚えしかないんだけど……
「はい……!だって、姉さまはいつでも私の事を見守ってくれていて……私がピンチになれば、いつだって私の元に駆けつけてくれるんだってまた実感出来たんですもの。私にとってそれは……とても嬉しい事なのですよ。だからありがとうございます姉さま!」
「はぅわ……!?」
私の手をギュっと握って精一杯感謝の気持ちを伝えてくれるコマ。おぉ……しゅごい……こ、これだけで長々と説教された苦痛も疲れもどっかに飛んで行っちゃうわ……!めっちゃ元気になっちゃうわ私……!
「……さて。名残惜しいですが姉さま、私はそろそろ戻ります。のんびりしていると二限目の授業に遅れちゃいますからね。姉さまも急いでお戻りくださいませ」
「あ、ああうん。そだね……それじゃコマ!ホント迷惑かけちゃってごめんね!またお昼休みに!」
「はいっ!またお昼に♪」
そう言ってペコリと頭を下げてからコマは隣の教室に向かう。……うん。私も名残惜しいけどそろそろ自分の教室に戻るとしますか。もしこれで二限目を遅刻でもしちゃったらまた先生にお説教されてしまう事だろう。流石に三度目の説教は勘弁だわ。
◇ ◇ ◇
「ヤッホー。ただいま皆。帰ったよー」
「……ん?あ、ああー!マコじゃないの!おーい、みんな!やーっとマコが戻ってきたわよー!」
「へ……?ぅお!?」
そんなことを考えながらいそいそと教室に戻って来た私なんだけど……教室に入ると私の姿を確認するや否や、クラスメイト達がわぁっと私を取り囲む。な、なんだ一体……?
「お勤めご苦労様マコ。話はかなえ達から聞いたわよ。アンタあの三年のサッカー部キャプテンが気に食わないからって、先輩を屋上に呼び出して……蹴り倒し殴り倒して顔面が腫れ上がるまでボコボコにしたらしいじゃない」
「おぉう……顔殴ったのか。あーあ、知らねーぞ立花。うちの部のキャプテンって超イケメンで校内にファンクラブも結成されてるらしいってのになー」
「マコ。先輩のファンクラブの過激派な子たちから、恨まれたり呪われたり刺されたりしないようにせいぜい夜道には気を付けなさいな」
「よお立花。娑婆の空気は美味しいか?ついさっきもあんだけ先生に叱られたってのに、ホントに立花は叱られるの飽きないよなぁ」
「もしかしてぇ……マコってわざと先生に怒られるような事してない?狙ってるとしか思えないし……先生に説教されるのが趣味なドMだったり?」
どうやら私はやった一件はもうすでにクラス中に広まっているらしく、みんながみんな面白そうに一斉に話しかけてくる。
いや……お勤めって……娑婆の空気って……ドMって何さ。人の事をまるで問題児や犯罪者や変態みたい扱うのは止めて頂きたい。…………まあ一部、いや9割方否定できないけど。
「ていうか皆、違うからね。通り魔とか昔ながらのヤンキーじゃあるまいし、気に食わないからって理由で人一人をボコボコにしたわけじゃないからね。訂正を要求するよ。あれにはちょっとした理由があってだね……」
「「「……え?違うの?ホントに?」」」
「ちーがーいーまーすぅー!」
おい君たち。なんだその、『お前ならやり兼ねないだろう』的な反応は。毎度毎度言いたい放題で君たちには失礼しちゃうよ全く。
「いいからちゃんと聞いてほしい。あのね皆、私はただ単にコマに仇する不埒な輩を、正義の名のもとに制裁してただけなんだよ。何せあのヤロウ……コマに告白しやがるだけじゃ飽き足らず、フラれた癖にしつこくコマに迫って……あろうことかコマを傷つける行為をしやがったんだ。そんなん人として許せるわけないよね!」
「……ほほう?正義の名のもとに制裁、ね……」
「うむす。それなのに先生ったら、制裁しようとする私にまたもや拳骨喰らわせたうえ、授業中にコマまで巻き込んであんなに怒っちゃうんだよ?……全くもって酷いと思わない?」
「…………いいえ。酷いのはきっとあんたの頭の中身の方よマコ……!」
「へ?」
と、皆に弁明している私に対して、刃物のように鋭いツッコミを入れてくる女生徒が一人。誰かと思い声のした方へ視線を向けてみると、ついさっき暴れる私を止めてくれた親友のカナカナが、えらく不機嫌そうにジト目でこの私を睨みつけているではないか。
「……なーにが正義の名のもとによ。あれだけ派手に暴れておいて、よく抜け抜けとそんな事が言えるわよね。……わたしとコマちゃんがあんたを止めなきゃ、今頃色んな意味で大変な事になってたってのに」
「あ、あの……か、カナカナ?どしたの?何か怒ってない……?」
「…………怒っているか、ですって?ふ、ふふふ……一体誰のせいでこうなったとお思いで?」
「???」
そう言って青筋を寄らせ私を睨み続ける我が親友。え、え?誰のせいでこうなったかって……はてさて一体何の話だろうか?マコちゃんちょっとよくわかんないや。
「…………(ボソッ)バカ。これ以上不機嫌になられる前に、良いからさっさとかなえに謝っておきなさいよマコ」
「…………(ボソッ)え?どうして私が謝るの?ていうか、なんでカナカナ怒ってるの?」
「…………(ボソッ)なんでって……お、お前……マジで気付いてないのか……?」
「…………(ボソッ)気付いてないって何が?」
「…………(ボソッ)ああ、ホントマコったらアホ過ぎる……仕方ないからヒントあげるわ。かなえの姿をよーく見てみなさい」
カナカナの不機嫌な理由が分からない私が小声で何があったのか尋ねてみると、そんな助言をくれるクラスメイト達。カナカナを見て気付いた事って……ええっと……
「……って、あれ?そういえばよく見るとカナカナったら少し見ない間に……いつもは艶のある綺麗な髪も、ビシッとアイロンがかかった制服も、盛大に乱れてボロボロになってない?それに……なんか腕も引っ掻かれたり噛みつかれたみたいな痕があるっぽいし……どうかしたん?もしや野良猫にでもやられたのかな?」
「…………どうかしたのか、ですってぇ……!?……さぁ、どうしたんでしょうね……マコはその足りない頭をフル回転させて考えてみたらどうかしら……」
「んー?」
そう言われて、カナカナの言う通りちょっと考えてみる事に。うーむ、おかしいなぁ。朝私と一緒にいた時はカナカナもこんなにボロボロじゃなかったハズなのに、一体何をしたらこんな惨状になるんだろう?まるで暴れる猛獣と一戦交えた後みたいな……有り様じゃ…………ない、か―――あ。
そこまで考えて、一つ心当たりがある事に気付いてしまう私。ま、まさか……
「あ、あのさ……カナカナ?」
「……なによマコ」
「こ、これって……ひょっとしなくても、さ。……先生が来るまでの間、あの告白してきたヤロウを始末しようと躍起になって大暴れしていた私を……コマと一緒に必死に抑えつけてくれた時に出来たものでせうか……?」
「…………他に何があるって言うのよ、この超弩級ド阿呆シスコン娘がァ……ッ!」
「ぅぐぇ……!?」
地の底から湧き上がるようなドスの効いた声を上げつつ、むんずと私の胸倉を掴むカナカナ。我を忘れて暴れてたから、カナカナに何したのか全く覚えてないけど……や、やっぱこれ、私のせいだったのか……!
あかん。キレてる……カナカナめっちゃキレてる……
「か、カナカナストップ……く、首絞まる……絞まっちゃう……」
「折角マコの為を思って……人が一生懸命あんたを止めてやったってのに……情け容赦なく暴れてくれちゃってさぁ……!見なさいこの髪!この服!そして……この腕!よくも噛んで引っ張って引っ掻いてくれたわね……!?あんたは猫かなにかなの!?」
「あ、あわわ……お、落ち着いて……お怒りをお納めくだされカナカナや……」
「…………しかも。しかも……わたしと同じようにあんたを抑えていたハズのコマちゃんには、かすり傷一つ無いってのが余計に腹立つわホント……ッ!」
「そ、そりゃあコマを傷つけるなんて愚行を、この私が出来るハズないし……」
「それはつまり、わたしならどうなっても良いって意味かしら……!?」
しまった華麗に墓穴掘った……い、いや違うんすよ……カナカナはとってもキュートで優しいお方だから、なんだかんだでこのおバカな私の事を許してくれるんじゃないかなー……と、内心思っているだけなんすよ……
「み、みんなヘルプ!ヘルプミー!か、カナカナがヤバい!誰か止めて!?た、たすけ……」
「「「いや、どう考えても全面的にマコが悪いし……大人しく制裁受けときなよ」」」
「Noooooo!!?」
頼れるクラスメイト達に助けを求めるも、ものの見事に見捨てられる。そんな……うちのクラスの連中には、助けを求める友人の声を聞こうとする慈愛の心は無いというのですか……!?
「おまけに能天気に戻って来たかと思ったら、あろうことか暴れた事を自慢げに話し始めてさぁ……!このわたしには詫びの一つも無しとはどういう了見なのかしら……!?もしかしてあんたのその脳みその中には『悪い事をしたらまずは謝る』って一般常識は詰め込まれていないの?それとも一般常識を詰めないほどに脳の容量が足りないの?本来脳に行くべき栄養が、このデカ乳に送られているとでも言うの……!?どうなのよマコォ……!こぉたぁえぇろぉおおおおおお!!!」
「あ、あのカナカナさん……?なんだか怒りの方向性が、おかしな方へ行ってな―――い、いだだだだ……!?な、なんでもありません!とにかくギブ、ギブですカナカナ様ぁ!?すんません、マジすんませんでした……!反省してますし何でも言う事聞きますから、もう許してくださ―――ぬぎゃああああああ!!?」
まるで日頃の恨みと不満と怒りをぶつけるように私の胸を掴み取り、そのまま力いっぱい揉みしだくカナカナ。
そんなわけで。カナカナにお許しを頂くまでの数分間、制裁として胸を揉みに揉まれた私であった……
心底どうでもいい余談ですが、カナカナは貧乳。
同年代で見ると大きい順に
マコ>>>コマ≧ヒメ>>>>>>カナカナ
こんな感じ。マコは規格外、コマ&ヒメはそこそこ大きく、そしてカナカナは絶壁です。