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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
十月の妹も可愛い(上)
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第72話 ダメ姉は、再び没収される

 スポーツの秋に相応しく、陸上競技大会にてうちの可愛い妹のコマが大活躍をした九月。その九月もあっという間に過ぎ去って、本日いよいよ十月を迎えた。


 九月が秋の前半ならば十月は秋の後半。そろそろ冬に向け朝晩は特に肌寒さを感じ始め、半袖で登下校するにはちと厳しい季節になってきた。そのお陰か、うちの学校もすでに制服を衣替えされて夏服から冬服へと完全に移行されてしまっている。

 ……うーむ。露出の多い夏服姿のコマを見られなくなっちゃったのはちょいと残念だ。まあ、冬服のコマも夏服姿とはまた違った魅力を感じるから全然問題ないけどネッ!


「―――さて。次の連絡事項で最後になる。皆、これから話すことはとても重要な話だから特にしっかりと聞いておいて欲しい」


 と、いつもの如く朝礼中にそんな事をボケーっと考えていると、担任の先生が私を含めたクラス全員に話を集中して聞くように促しだす。

 むむむ……重要な話ですと?先生がここまで念を押すのは珍しい。何かあったのだろうか?


「えー、皆は先月の……そう、持ち物検査を行った時の事を覚えているかな?あの時ちょうど先生は『帰宅途中の中学生に声を掛け連れ去ろうとした、怪しげな二人組の不審者』の話をしたと思う。そいつらなんだがな、実はまだ捕まっていない上に……その連中らしき二人が前回と似た手口を使って、再びこの付近の中学生を連れ攫おうとしたらしいんだ」

「「「えぇ!?」」」


 そんな先生の話にクラス全体がどよめく。うわ……例の不審者共ってまだ捕まってなかったんかい……先生はクラスメイト達に向け一度『静粛に』と注意をして、話を続けてくれる。


「つい三日前の事だ。部活が終わり夜道を一人で帰宅していた女子中学生に、一人が道を尋ねるふりをして接近。そのままもう一人が運転する車の中に連れ込もうとしたそうだ。……ただ幸運な事に、奇しくも九月に似た事件があった為にその中学生も警戒していたらしくてな。念の為にと用意していた防犯ブザーをすぐさま鳴らしたら、その二人組は大慌てで逃げ出したそうだ」


 『全く嘆かわしい連中だ』と嘆息を漏らしながら、先生は真剣な表情でここにいる全員に語り掛ける。


「十月に入り、より一層日が落ちるのが早くなってきた。皆には話に出てきた彼女のように常日頃から防犯ブザー等を持ち歩く、また部活動や学校での勉強で帰宅が遅くなりそうならば集団で帰宅する・保護者に迎えに来てもらう・我々教師に送ってもらうなどして、不審者対策を怠らずどうか学校への行きかえりには注意してほしい。帰りのHRで対策プリントを配布する予定だ。各自しっかりと読み、そして保護者の方々にも渡して良く読んで貰ってくれ。さて、長くなったがこれにて朝礼を終了する。今日もしっかり勉学に励むんだぞ」


 そう言って話を締めてから、先生は教室を後にする。


『やだなぁ……ちょっと困るわ。今日はちょっと帰りが遅くなりそうなのになぁ。……ね、ねぇ。悪いけどしばらくの間、一緒に帰っても良いかしら……?』

『おお、任せときな。近所だしお前の家まで送ってやるよ。……にしても例の連中ってまだ捕まってなかったんだな』

『事件のあった場所って駅前の近くだって。アタシも偶に通るところなんだけどさー』


 その先生が教室を出た瞬間、教室中が不審者の話に持ち切りに。まあ、同じくらいの歳の学生がそんな事件に遭遇したとあっては不安になるのも無理は無いよね。私も姉として、コマを身を挺してでも守ってあげなきゃ……

 なんて事を考えているとヒソヒソと囁きながら私に視線を向ける数人のクラスメイト達を発見。……おや?一体なんだろうか?


「…………まあうちのクラスの中にも約一名、不審者が居るけどね。実の妹をストーキングしたり、実の妹に向けて真昼間からしつこく愛の言葉を送ったり、実の妹にセクハラしたりするような不審者が。まさかとは思うけどあの子……この事件に関わっているんじゃないでしょうね……?」

「いやちょっと待てよ。不審者って定義的には『その場に似つかわしくない怪しい・疑わしい行為をしている者』って感じだろ?罪状が特定されているなら不審者とは言えないんじゃないのか?アイツの場合は不審者というよりも―――変質者って言うべきなんじゃ……」

「誰かさんってもうすでに余罪がありまくりだし、やっぱ後々問題を起こす前に今のうちに警察に犯罪者予備軍として突き出した方が良いんじゃないかな?きっとその方が世のために、そして妹ちゃんのためになりそうだもん」

「ヘーイ、そこのマイフレンズ。どうして君たちはこの私、立花マコをチラチラ見ながらそんな話をしているのかね?ちょっと全員ツラ貸して貰おうか?ん?」


 いくら寛容な私といえど、その腹立たしい不審者共と同列に扱われるのは流石に許さんぞキサマら……!?


「……まあ、皆の軽いジョークはさておき。……マコ、あんたも十分気を付けなさいよ」

「へ?気を付けなさいって……カナカナ、何の話?」


 と、今ヒソヒソと囁いていた連中を私が優しく締めあげていると、隣の席の我が親友である叶井(かない)かなえ―――カナカナが神妙な顔つきで私にそんな事を言ってくる。ええっと。気を付けろって何を気を付けなきゃいけないのだろう?

 …………まさか今のこいつらの話の流れからすると、カナカナが言いたいのはアレか?『警察に不審者として間違われないように気を付けなさいよマコ』って事なのか?そ、それはちょっと酷いぞカナカナよ……


「いや実はさ、その例の不審者二人組に声を掛けられちゃった子ってね……わたしの小学校の頃の友人だったのよね」

「えっ?そうだったの?それは……そのカナカナの友人さんも大変だったねぇ」

「ええそうね。ちょうどその事件があった夜に『ちょっとビックリしたよー。警察の人にも色々聞かれて疲れたしー』なんてメールが来てたわ。まあ、しばらく用心のために警察の人に護衛して貰えるそうだし、何より本人が『大丈夫だったから心配しないでねー』とも言っていたから彼女自身は問題ないと思うけどね」

「そっかそっか。それは良かった―――って、言って良いかわかんないけど。とにかく友人さんが無事で何よりだね。…………それで?私に気を付けろって話と、その友人さんの話とは何の関係があるの?」


 今のところカナカナの友人さんが不審者に出くわした話と、この私に気を付けるように進言する関連性が見えてこない。カナカナは私に一体何を気を付けろと言っているのだろうか?


「ここからが本題よマコ。大事な話だからよく聞いておきなさい。……マコとその友人ってね、実は背丈がかなり似ているのよ。それにそれだけじゃなくてね、聞いた話だと先月被害にあった子もあんたと似た背丈だったらしいの。……ここまで言えばわかるわよねマコ?」

「は、はぁ……私と背丈が似てるのか。…………それが?」

「…………あんたさ。ここまで丁寧に説明してやってもまだわかんないの……?」

「うん、わかんない」


 素直にわからんと答えると、ガクリと肩を落として呆れたような疲れたようなもどかしいような……とにかく色んな感情のこもった表情で私を睨みつける我が一番の親友。

 何さ?だからカナカナは何が言いたいのさ?


「…………だ、だからさぁ……!もしかしたら、その不審者の連中が()()()()()()()()()()()()()()()()狙っているのかもしれないって言ってんの!だから、あんたもそんな連中に連れ攫われないように気を付けなさいって意味なの!これくらい話の流れでわかりなさいよぉ!?」

「…………おぉ。なるほど」


 そこまで説明してもらってようやくカナカナの言いたいことを理解する私。もー、カナカナったら説明が回りくどくて分かりにくいんだから。もっとストレートに言って貰わないと困るよねー。


「全く……マコのその鈍感さ、察しの悪さは相変わらずよね。……あー……ダメだ、本格的に心配になってきた。ホントに大丈夫なのマコ?」

「と言うと?」

「確かあんたもコマちゃんも部活で遅くなることが多いんでしょ?その時に狙われちゃったらどうすんのよ。正直、マコって簡単に付け込まれて連れ攫われちゃいそうでちょっと怖いわ。…………な、なんならわたしがボディガードとして……マコと一緒に帰ってあげても……い、いいのよ?」

「アハハ。いやいや。気持ちはありがたいけど、良いよそこまでして貰わなくても。流石にカナカナに悪いしさ」

「…………別に、わたしなら問題ないのに……」


 つーか、カナカナのお家って私のお家と逆方向じゃないの。


「それにさー。カナカナに心配して貰えるのは嬉しいけど、へーきだよへーき」

「平気ってあんた……何なのよそのマコの根拠のない自信は?」

「だってさぁ、考えてもみなよ。これがコマならともかく―――()()()()()()()()好き好んで連れ去るような物好きなんて、そうそう居ないって!」

「……ッ!」

「って……あ、あれ?カナカナ……?」


 『だから心配しないで良いよ』という気持ちを込めてそうカナカナに笑いながら言ってみる私。

 するとそのカナカナは私の発言に何やらカチンときたらしく、額に青筋を寄らせ拳を震わせ始める。あ、マズい。何か知らんがカナカナがキレた……


「……あ、あんたの危うさと無防備さと能天気さには、呆れ通り越して脱帽するわ。…………ええい、マコ!このわたしが直々にあんたに忠告してあげたわけだし、マジで気を付けなさいよね!?『自分が狙われるわけがない』―――なんて甘い事考えてる奴が一番危なくて一番狙われやすいのよ!」

「そ、そうかな……?」

「そうよ!……考えても見なさいよ!もしかしたら例の不審者たちはマコみたいなロリ巨乳を大好きな変態共かもしれないでしょ!?例えその不審者たちの趣味にマコが合わなかったとしても、身代金目的で誘拐される可能性だってあるのよ!?そこのところ、あんたちゃんと理解してんの!?」

「え、あ……うん。まあ一応は……」


 まるでオカンのように説教交じりに私に長々と忠告し始める親友。……うーん。私狙いな人なんて、世界広しといえどもそうそう居るとは思えないし、そんなに心配する必要は無いと思うけどなぁ。

 ……これ言うと、たぶん火に油を注ぐ形になって更にカナカナに説教されちゃいそうだから絶対言わないけどさ。


 でもまあ言ってる事は分からんでもないし、勿論一人の友人として心配してこんなに真摯に忠告してくれるのは素直に嬉しいね。


「先生の言った通り、帰る時は集団下校!最終下校時刻を過ぎるようなら頼れる大人に送ってもらう!そうでなくとも登下校の際は、常に背後に気を配り……路地裏やひと気のない場所は避けて通る!マコは危機感ってものをしっかり持ちなさい!わかったわね!?」

「う、ウッス!ぜ、善処するでありますカナカナ隊長!」

「……ったく、ホントに分かってんのかしら?…………(ボソッ)お願いだから、ほんっとに気を付けてよ。マコって…………その、可愛いから……連れ攫われちゃいそうでわたし不安よ……もしそんな事になったら、絶対あんたを許さないんだからね……」


 腕を組み溜息を吐きながら、何やらブツブツ呟いているカナカナ。……普段はすぐからかったり弄ったり容赦なくツッコミ入れたり私の事を割とぞんざいに扱うけれど。でもなんだかんだで優しいよなぁカナカナって。

 ……サンキュー親友、愛してるぞー。…………勿論コマの次くらいに。


「まー、立花本人が狙われる可能性は低いかもしれんが……妹ちゃんの方が狙われる可能性は十分あるわけだしさ。叶井の言う通り、お前も妹ちゃんと二人で帰宅する時はちゃんと気を付けた方が良いとは俺も思うぞ」

「だよねー。マコなら煮るなり焼くなりお好きにどーぞって感じだけど、コマちゃんの方は可愛いから特に不審者とか変質者とかにマークされやすそうだよね」

「うんうん。現にコマちゃんって実の(へんたい)からも絶賛マークされちゃってストーキングされちゃってるもんねー」

「オイコラ。まだそのネタを引っ張るかキサマ」


 親友の優しさに心の中で感謝していると、カナカナと私の話を横で聞いていた他の友人たちも私たちの会話に混ざってくる。

 最後の奴はもう一度念入りに締め上げるとして―――ふむ。まあ確かにこいつらのいう事も一理ある。


 天使のようにあどけなく、妖精のように愛らしく、それでいて女神のように美しい我が妹コマ。この近辺を中心に活動しているなら、そのコマの噂が不審者共の耳に届いている可能性も十分にある。

 ひょっとしたら次に狙われてしまうのはコマかもしれないと、友人たちが心配するのも無理は無いよね。


「でもどうか安心してほしい諸君!ストーカー&不審者対策に関しては、バッチリだからダイジョーブなのだ!」

「「「対策……?」」」

「うむす!まあ、百聞は一見に如かず。全員これを見るが良い!」

「「「……んなっ!?こ、これってまさか……!?」」」


 そう言って鞄の中身をゴソゴソと漁り机の上にクラスの皆に見えるように配置して、その対策グッズのすべてを見せてあげる私。


「まずは定番の催涙スプレー!顔面に目掛けワンプッシュするだけで、襲い掛かって来た相手の目や鼻に強烈なダメージを負わせることが出来る優れもの!」

「「「……」」」

「お次は頼れるスタンガン!強力な電気ショックでビリビリ感電!非力な私でも屈強な暴漢共を相手に手痛い一撃を食らわせる事が出来る!」

「「「……」」」

「まだまだあるよ!仮にコマが連れ攫われても必ず見つけ出してくれる盗ちょ―――トランシーバー!格闘戦を挑まれた場合には特殊警棒!敵をまとめて一網打尽、とっておきの切り札グレネード……!」

「「「…………」」」


 どれだけ愛しいコマを守護(まも)る為の準備をしているかを分かってもらえるように、手持ちの防犯グッズの内容を順に説明してあげる私。これさえあれば不審者対策はバッチリ☆クラスの皆もお一つどうかね?


「…………マコ。色々ツッコミたいところだけど……とりあえず一つだけ聞かせなさい。……あんた確かこれって、先月没収されたハズじゃ……」

「おっ!流石カナカナ、ナイスな指摘だ。そうなんだよね。先代の防犯グッズたちはみーんな先生に持ってかれちゃったんだよね……」


 (何故か若干引きつった顔をしている)カナカナの言う通り、先月の持ち物検査で以前持っていたコマを守るための道具たちは全て先生に問答無用で没収されてしまった。あれ高かったのに残念だわ……


「ま、お陰で全部新しくて且つ高性能なものに買い替えられたから結果オーライだったけどね♪だからこの防犯グッズはさしずめV2ってところかな。催涙スプレーは小型な上に噴射時間が長いし、スタンガンも軽くて持ちやすいやつに変えたし、トランシーバーもより感度良しな上にビーコンも備わっているお陰で、コマの居場所が今まで以上に発見しやすくなってるんだよ!」

「……そ、そう……」

「他にも追加で色々買ったし、これでいつどこで誰がコマを襲おうとも、誰がコマを連れ去ろうとも……地獄の果てまで追い詰めて、本物の地獄を見せられるって寸法よ!完全武装したこの私に、怖いものなど何もないわ!」


 そう言ってフハハハハと高笑いをする私。コマを狙う不審者?変質者?ストーカー?……上等よ、いつでもかかって来なさいってーの!この私がいる限り、コマには指一本触れさせやしないわ!


「…………(ボソッ)ねぇ。冗談抜きに、取り返しのつく今のうちに警察にこの過激派シスコン駄姉を突き出した方が良いんじゃない……?」

「…………(ボソッ)すげーな。このダメ姉、不審者以上に不審者じゃんか」

「…………(ボソッ)こんなものを街中で持ち歩いてたら、職務質問された後で一発逮捕だわ……」


 おや?皆が私を見る目が、いつも以上に厳しい気がするのは何故だろう?


「マコ……あんたって本当に懲りない女よね。ある意味感心しちゃうわ。…………と言うかマコ。うしろうしろー」

「ん?後ろ?」


 と、急に私の背後を指差して何かを訴えかけるカナカナ。何だろうと私も振り返って見てみると、







「…………先月あれ程『学校に余計な物は持ってくるな』と叱りつけてやったというのに。……全くお前は……お前というダメ人間は……本当に良い度胸をしているなぁ立花ァ……!」

「……あ」


 そこには般若のようなお顔で私を睨みつけている、我らが担任の先生のお姿が。


 この後、拳骨一発+お説教+再び持ち物没収のトリプルコンボを決められてしまった私。……すまない。つい先ほど『完全武装したこの私に、怖いものなど何もないわ!』と言いきっちゃったけれど……どうか前言撤回させて欲しい。

 完全武装したこの私を一瞬で無力化してしまう先生が、私は一番怖い。

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