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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
九月の妹も可愛い
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第60話 ダメ姉は、没収される

 海水浴に夏祭り、天体観測にバーベキューにetc.―――普段は別々のクラスのせいで授業中では会えない時間を目一杯補うかのように、一日の大半をコマと共にイチャイチャ仲良く過ごした楽しい楽しい八月の夏休み。

 その夏休みもあっという間に終わってしまい、今日から新学期へと突入した。


「―――さて諸君。わかっていると思うが、今日のホームルームは持ち物検査を実施させて貰うからな。全員速やかに鞄の中の物を机の上に出してくれ」

「「「はーい」」」


 新学期に心ワクワク胸ドキドキしていた私たち生徒一同に対し、教室にやって来た担任の先生は軽く挨拶を行ってからそのように指示する。

 九月に入ったというのにまだまだ残暑も厳しい上、夏休み気分が抜けずにだらけきっている生徒たちも多々いるであろう。そのだらけた精神を授業が始まる前に引き締めてもらうべく、この学校では新学期初日には必ず持ち物検査が行われるのである。


 というわけで。先生の指示に従い、クラスメイト達はみんな素直に鞄の中身を取り出して机の上に置く。


「……よしよし。皆ちゃんと出してくれたようだな。結構結構。では早速持ち物検査を始めようと思うんだが…………その前に、立花マコ。ちょっと良いか?」

「……?あ、はい。何ですか先生?」


 と、友人たちのように鞄の中の物を先生に見えやすいように綺麗に並べていると……何故かこの私だけ先生に名指しで呼ばれる。

 ふむ?持ち検前に呼び出しとは一体何の用だろうか?


「『生助会』の一員であるお前に頼みがある。持ち物検査を始める前に、一体どうして持ち物検査というものが行われるのか……その理由を先生や皆に説明をしてくれないか?」

「持ち物検査の理由、ですか?えーっと……そうですね」


 私とコマの二人が所属するボランティア部―――『生助会』は仮の生徒会としての仕事の他にも、時に校門に立って生徒たちの服装チェックとかあいさつ運動とか……言ってしまえば風紀委員会のような仕事も先生たちにやらされる。どうやらこれもそのお仕事の一環らしい。

 先生に命じられ教壇に立った私は、少し考えてから持ち物検査の目的について簡潔に答えてみることに。


「それはアレですよね。私たち生徒に勉学に必要ないものを持ってこないようにする為とか……他にも生徒間で余計なトラブルの元にならない為の予防の為とか。後は……社会に出た時にちゃんとルールを守れるようにその教育も兼ねて……とか?」


 学生の本分は勉学だし、その集中を乱してしまうものを持ってきたらマズいもんね。それに……高価な物を持って来て、それがもしも盗まれたりでもしたら色々と問題になっちゃうし……

 そういった問題の種にならない為にも持ち物検査は実施されるのだと私は思う。


「うむ、正解だ。普段不真面目で不道徳で不純な前代未聞の問題児である立花らしからぬ、非常に素晴らしい模範解答だな」


 そう答えてみると、大きく頷いて私のその説明を褒めてくれる担任の先生。……なんか一部余計な一言二言三言が付いてた気がするけど、多分気のせいだろう。


「お前の言う通りだ。社会勉強的な意味でも……それからトラブル予防の為にも、授業に必要の無いものは持って来てはいけない。これは当然の事だよな立花」

「ええその通りです先生。常識ですよねー」

「そうだ、常識だな。それをお前がよく理解していてくれて、先生はとても嬉しいぞ」

「いやぁ、それ程でも」


 先生と二人、頷き合いながらハハハと笑う私。学校が始まったばかりなのにこれ程までに先生に褒められるとは……非常に幸先の良い新学期のスタートとなって嬉しい限りだ。


「さて……それを踏まえたうえで、一つ立花に聞きたい事がある」

「ん?まだあるんですか先生?」


 と、笑い合っていた先生が私の肩を掴んで―――それはもう、私の肩が粉砕されそうなくらい強く掴んでそのように尋ねてくる。


「ああ、ある意味ここからが本題だからな。では聞かせて貰おうか立花―――







(ダァンッ!)貴様の持ってきたその持ち物の数々は……本当に学校に持って来て良い物なのかをナァ……ッ!」


 あれだけにこやかに笑っていたのに、突然青筋立てた先生が私の机を力強く叩いてその机の上の品々を指差し糾弾する。急に何ですか先生。癇癪持ちなんですか?


「ええ勿論。全部必要なものですよ先生」


 先生と対照的に私は静かに、そして胸を張りつつ冷静に答える。だって没収される類の物は一切ないんだもの。

 そんな私の堂々とした態度が気に食わなかったご様子で、拳をワナワナと震わせながら私に再度問いかける先生。


「……良い根性だな立花。随分自信満々のようだが……貴様が持ってきたあれらが没収品に値しないという……私が納得できるような言い訳、ちゃんと用意できているんだろうな……?えぇ?」

「勿論ですとも。ちゃんと説明して差し上げますよ先生」


 そんなわけで。私と先生の『第一回:これは没収品にあたる・あたらない』議論が、今ここに開催されることとなった。


「ではまずその数台のデジカメは何だ立花?こんなもの、学校に持ってくる必要は一切ないだろうが」


 最初に先生が指差したのは5台にも及ぶ録画機能付きのデジタルカメラ。まあ確かに授業で使うってわけでも無いし、こんな高価な物を盗難されたり壊されたりでもしたら学校内でトラブルの元になる恐れがある。

 そういう意味では先生が没収品としてカウントするのも無理は無いかもしれないけれど……


「いいえ、必要です。これが無いと妹のコマの日常を盗さ―――記録出来ないじゃないですか」

「お前今、盗撮って言いかけたよな立花?」


 妹の成長を陰から見守り日々その一瞬一瞬をアルバムに記録するのは姉として当然の義務だもの。デジカメはやっぱり必需品だよね。


「…………まあデジカメはまだ良い。いや全然良くはないが他に比べればいくらかマシだからまだ良い。…………この催涙スプレーやスタンガン等は一体全体何なんだ立花?どう考えても授業に必要じゃないだろうに」


 眉間にしわを寄せながら、次に先生が指差したのは催涙スプレーやスタンガンを筆頭としたストーカー対策グッズ。こっちもやはり授業で使うはずもない……どころか、恐らく日常生活ですら使う事は稀だろう。

 一歩使い方を間違えれば警察の厄介にもなり兼ねないちょっぴり危険な物だけに、先生が没収品と認定するのも仕方のないことかもしれないけれど……


「コマに近づく悪い虫を仕留めるための虫よけですね。これが無いとコマが危険ですので」

「どう考えても誰よりも危険なのはお前の方だと先生は思うんだがな……」


 学校内も学校の外も、気を抜けばすぐコマに纏わりついてくる悪い虫共。その為、殺虫剤(催涙スプレー)電撃殺虫器(スタンガン)は手放せない。つまりはこれも必需品と言えよう。


「…………まあ催涙スプレー等もギリギリ防犯グッズと思えばわからんでもない。……いやどう考えても過剰防衛になりそうだがまだわからんでもない。…………が、そっちのわけのわからん機械は何だ立花。こんなもの一体何に使う気だ?」


 若干疲れた表情で、最後にちょっとゴツイ一昔前の携帯電話のような機械を指差す先生。どう見ても学校で必要な物とは思えないだろうし、そもそもこれが何なのか自体恐らく素人目ではわからないだろう。

 これもまた没収品だと先生の目に映ってしまうのは至極当然かもしれないけれど……決してそうではないんですよ先生。


「盗聴器―――コホン、じゃなくて。コマに何かあった時の為に備えたトランシーバーですね。これさえあればコマに付けてる発信機を通してコマの声がいつでも聞けるうえに、コマの現在位置情報を容易く把握できるという優れモノ。つまりは最も必要な物なのです先生」

「オイ待て立花、自分の妹に対してなんてヤバい物を仕掛けているんだ貴様という奴は……!?」


 当然コマには言えるはずもないけれど……例えばコマが遭難してしまった場合とかコマが何者かに連れ攫われた場合に備え、こっそりとコマの制服や靴や鞄の底……それからプレゼントしたペンダントなどの至る所に超小型GPS発信機を付けている私。

 その為私の持っているこの盗聴器―――でなく、トランシーバーがあればいつでもどこでもリアルタイムでコマがどこにいて何をしているのかまるわかり。これ以上の必需品が他にあろうか?いや無いね。


「ねぇ先生。先生はご存知ですか?嘆かわしい事にですね、昨今では女性や子供を狙う窃盗・暴行・拉致監禁・強制わいせつにその他諸々の悪質な犯罪が後を絶たないそうです。ただでさえそんなご時世な上、皆々様もご存知の通りコマはとても……そう、とても可愛い。その可愛さに心を奪われてストーカーと化したヤロウ共が100人や200人くらい居ても全く不思議じゃないのです」

「……」

「つまりコマは他の人に比べて犯罪者共に狙われてしまう可能性が高いという事。通学路・街中、果ては学校の中でさえ絶対に油断できないのです。……ですので、その最愛の妹であるコマを守れるのは……自宅・通学路・街中、果ては学校の中でさえいつでもどこでもコマの隣にいるこの私、立花マコ以外に適任者はいないのですよ!」

「……」

「ではそのコマを守るにはどうすれば良いのでしょうか?……自慢じゃありませんが、私は運動神経など皆無で非力なか弱い(?)女の子。例えコマを守るべく大の大人と立ち向かっても、残念ながら返り討ちに遭うのがオチでしょう。……だから!だからこそ、この道具たちが活きるのです!」


 畳みかけるように私は先生に対して力説する。途中から先生も口を挟むことはせず、何故か頭を抱えながらもただ黙って私の演説に耳を傾けてくれる。


「例えばこのデジカメがあればおはようからお休みまでやらしく―――じゃない。優しくコマの成長を見守り、そしてその日々の成長を記録出来るし……催涙スプレー&スタンガンがあればコマを狙ってくる悪漢共だってイ・チ・コ・ロ♡仮にコマが何者かに連れ攫われても、このトランシーバーさえあれば発信機を頼りに地獄の果てまでも追っかけてコマを連れ戻せる!…………(ボソッ)あとついでに、コマの嬉し恥ずかしな日常会話をこっそり盗聴も出来る……ッ!」

「…………」

「と、まあ今説明した通りです。この私の持ち物は、全てコマを守る為には欠かせない必要な物なのですよ。そういうわけですので……これらは全て没収品なんかじゃない、学校に持ってきても何も問題ない物なんです。わかっていただけましたか先生?」


 最後に再確認をするように先生に問う私。ふぅ……我ながら完璧な論破だった。きっと先生も妹想いの姉の心境やこの私の私物が没収品には値しないと理解してくれたことだろう。

 そんな期待を込めた私の確認に対して、先生は肺が口から飛び出るんじゃないかと思うくらい盛大に溜息を吐いてから一言。


「……なるほど、よくわかったよ」

「それは良かった。理解して頂けて嬉しい限りです」

「ああ、よくわかった。…………貴様が空前絶後の大バカ者でダメ人間な変態犯罪者(ストーカー)予備軍という事が、よーくわかったよ立花……!」

「へっ?」


 地の底から響いてくるようなドスの効いた、怒りと侮蔑と呆れがミックスされた低い声で私に対して言い放つ先生。え……えっ?


「当然、すべて没収に決まっておるわこの阿呆め」

「何故に!?」

「何故に!?ではないわバカ者!?…………とりあえず、後で生徒指導室に顔出せ立花。立花妹の為にもお前はしっかり教育しておかないと色々マズすぎる。まだ見ぬストーカーを警戒するよりも、身内のダメ姉の方がよっぽど危険だからな」


 そうやってただ無慈悲に情け容赦なく、私がもう一度弁明する暇もなく。先生は机に置いていた私の大事な私物全てを『没収品』と書かれた箱の中へとぶち込んだ。

 あ、ヤダ嘘待って……待ってください親愛なるマイティーチャー……!?決して悪いようには使ったりしないんですってば……!?


「さて皆。待たせてしまってすまなかったな。このダメ人間は無視するとして、そろそろ持ち物検査を始めようか」

「「「はーい」」」

「クールでカッコいいナイスガイな先生様!べ、弁明を!どうか今一度わたくしめに弁明の機会を―――待って!?そ、それ持ってかないで……!お、お願いです!私の話を聞いて……おねがい、まってぇええええええ!!!?」


 必死に先生の背中にしがみつき懇願する私だけれど、取り付く島もなく先生は私を引きずったまま他の生徒の持ち物検査に移っていった。

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