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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
七月の妹も可愛い
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第42話 ダメ姉は、勉強する(in 診療所)

「―――なるほどです。どうやらパッと見たところ姉さまは文章問題を少々苦手にしているようですね」

「う、うん。ちょっとだけ……いや、かなり苦手だと思う……」


 コマ特製の数学の小テストを受けた私。そのテストの採点をしてくれたコマは、私にそんな指摘をしてくれる。


「単純な計算問題ならコマの素晴らしい指導のお陰で多少は解けるようになったんだけど……どうしても文章問題は苦手なんだよね。どうも文章から式を作るって感覚がよくわかんなくてさ、いっつも混乱しちゃうし」

「文章から式を自分で作る問題は躓きやすい箇所ですよね。何をXとYとおくのか、どこからどこまでの文章で等式を作れば良いのか。これらを見極められなければ、連立方程式の文章題は解けません」

「そうなんだよね……うぅ、むずかしいなぁ……」


 解けなかった文章問題とにらめっこしながら思わず唸る私。コマの作った問題には、


【姉さまはスーパーで一個50円の玉ねぎと一個60円のジャガイモを合計で14個買い、790円払いました。この時姉さまは玉ねぎとジャガイモをそれぞれ何個買ったでしょうか?】


 と書かれている。困った……どうやって式にすればいいのかさっぱりだわ。


「ちなみに姉さま。式を作るのは置いておくとして、この問題の答え自体は分かりますか?」

「え?玉ねぎが5個でジャガイモが9個でしょ?」

「…………お見事。流石ですね姉さま」


 一応こういう代金とか個数を求める問題は、何故かなんとなくだけど答えはわかる。わかるんだけど……途中の式が一切作れない私。

 一体どういう作りになっているんだ私のヘンテコリンな脳内は……?私、何故に答えだけはわかるんだろう……?


「それは姉さまがスーパーなどで食料品等の買い物をしている時、無自覚に訓練を続けてきた賜物でしょうね」

「訓練?」

「はい。恐らく姉さまは普段から買い物をしながら頭の中で式を組み立て、『これとこれをいくつ買えば何円になる。こっちの方がお得だ』と計算しているのだと思います。だからこそこういった問題の答えはすぐに導き出せるのでしょうね」

「……おお、なるほど」


 コマに尤もらしい説明をしてもらい納得する。そっか。だから私って答えだけは出せるのか……。いやはや凄いなコマ。ひょっとして私以上に私の事を理解しているのでは……?


「というわけで。無意識化で式は作られているハズですから、きっとすぐに姉さまも文章問題の式も作ることが出来るようになりますよ。後は慣れと数をこなすだけの問題です」

「そうかなぁ?ちょっと自信ないんだけど……」

「大丈夫です、絶対に出来ますよ。これにはちょっとしたコツがあるのですが―――」


 そう言ってコマはノートを使いながら、押さえておくべきポイントや解き方のコツなどを実際に例題を解きつつ私に解説してくれる。

 助かるなぁ…やっぱり数学という教科は他の科目と違って、他の人に実際に解いてもらった方が理解しやすい。


「―――というわけです。では姉さま、今私がやったように先ほどの文章題の式を作ってみてくださいな」

「う、うん……わかった。んーと、最初に何をXとYに置くかを決めて……あとは…………こ、こんな感じ?」

「はい、正解です姉さま♪ほら、やっぱり出来るじゃないですか」


 コマの丁寧な解説に少しずつではあるけれど理解し始める私。なんというか…問題が解けるって結構楽しいね。コマと一緒に勉強しているから余計にそう感じるよ。


「あとは繰り返し問題を解いていけばすぐに解けるようになりますよ。今日は文章問題を重点的に解いていきましょう。良さそうな問題をピックアップしておきますから、少し休んだ後にその問題を解いて戴きますね」

「はーい。わかりましたコマ先生。そんじゃちょっと休憩を―――」



 コンコンコン



『コマさん、マコさん。入っても良いですか?』

「「あ、はい。どうぞー」」


 と、一息入れようとしたところで、タイミングよく私たち二人のいる待合室の扉がノックされる。


「失礼します。お二人とも、勉強は捗っていますか?」


 現れたのはいつもちゆり先生の側にいる看護師さんの小川(おがわ)沙百合(さゆり)さん。麦茶の入ったコップ二つを乗せたトレイを手にしつつ、にこやかに私たちに声をかけてくださる。


「沙百合さんどうもです。ありがたいことにすっごい捗ってますよ」

「お疲れ様です沙百合さま。診療所を貸してくださって本当にありがとうございます。とても助かっています」

「それは良かったです。あ、よかったらどうぞ。麦茶です」


 そう言って私とコマにキンキンに冷えた麦茶を渡してくれる沙百合さん。


「いやぁ、沙百合さんナイスタイミング!喉も乾いてきたところだったんでありがたいっす!」

「ありがたく頂きますね沙百合さま。今丁度休憩入れようかなと思っていたところだったんですよ」

「あら……でしたら飲み物だけじゃなくてお菓子も持って来れば良かったですね。後で何か甘いものでも持ってきますから待っていてくださいね」


 診療所にある待合室を勉強場所に使わせてもらっているだけでなく、こんなサービスまで頂けるなんて……ホント至れり尽くせりでありがたいやら申し訳ないやらで胸いっぱいだ。


 ……そう。私とコマは現在ちゆり先生の診療所の待合室で試験勉強をしている。

 一体どうしてそんなおかしなことになったのかって?それは昨日先生に、ある事を提案されたのが発端だったんだけど―――



 ◇ ◇ ◇



「確か家と図書館では勉強できないから……ある程度人目があって、それでいて静かに勉強できる場所を探しているって二人とも言ってたわよね?だからねマコちゃんにコマちゃん。大事な試験前に呼び出しちゃったお詫びにさ、今日と明日は―――診療所(うち)で勉強するのはどうかしら?」

「「…………はい?」」


 コマの検査も無事に終わり、そろそろ家に帰って勉強しようと思った矢先。帰ろうとする私とコマに向けてそんな突拍子もない提案をするちゆり先生。

 し、診療所で勉強……?最初にその提案を聞いた時は、流石に先生のいつものお茶目な冗談かと思っていたんだけれど……先生は本気だった。


「正確に言うと診療所の中の待合室で勉強するのはどうかしら?あそこならかなり静かだから落ち着いて勉強出来るわよ」

「「は、はぁ……」」

「泊まりなんだから電車のことを気にせずに遅くまで勉強できるし。図書館と違って大きな声で勉強を教え合っても誰も怒らないし、それに沙百合ちゃん―――あ、この看護師ちゃんの事ね。沙百合ちゃんか私が時々二人の様子を見に行くから、二人の気も引き締まって勉強に集中出来ると思うのよ。それで、どう?」


 先生のお誘いに思わず顔を見合わせてしまう私たち。ど、どう?って聞かれてもなぁ……


「い、いえ……確かに私たちは集中できそうな勉強場所を探していたわけですし、その提案自体はめっちゃありがたいんですが」

「……そもそも当然ながら、私も姉さまも泊まりの準備なんて出来ていませんよ先生」

「でも、勉強道具は持ってきているんでしょう?学校から直接こっちに来たって言ってたもんね。それさえあれば十分よ。こっちは二人がいつでもお泊り出来るように準備は万端だからマコちゃんとコマちゃんは何の心配もいらないわよー♪二人の泊まるお部屋は勿論、歯ブラシにタオル、そして二人の背丈・スリーサイズもピッタリのパジャマやブラもちゃんと用意してあるから」


 …………どうして先生が私とコマのスリーサイズを知っている上に、すでに泊りの準備をしているのか、非常に気になるところだけど……ツッコむのは止めておこう。藪蛇になりそうだし。

 とりあえず叔母さんにも電話で連絡を取り、このまま泊まって良いものかそれともさっさと帰るべきかの判断を仰いだのだけど、


『―――ふむふむ、なるほどな。…………別に良いんじゃないか?』

「いいの!?」

『おう。丁度いい勉強場所になりそうじゃん?あの先生になら安心してお前ら任せられるしな。まあただ、仕事の邪魔をすんのはダメだからな。あとくれぐれも失礼のないように気をつけな』


 ―――とかなんとか言って、叔母さんはあっさりと認める始末。てっきり止めてくれるとばかり思ってたのにね。


「で、でも……やっぱ帰るべきじゃないかな?先生に申し訳ないし、それに私……今日の叔母さんの晩ご飯とか作ってないし……」

『先生の方から提案されたんだろ?だったら遠慮せずに甘えても問題ないだろうさ。それとアタシの晩飯の事なら心配すんな。酒さえあれば十分さね』

「う、うん。そういうことなら…………って、酒?……ねえ叔母さん?今日は確か休肝日って決めたはずじゃ―――」

『そ、そんじゃーなマコ!先生によろしくー!』

「あ、コラ!叔母さん!?もしもし!もしもーし!?」


 ……めい子叔母さん。さてはこの私たちのお泊りを良いことに、私に隠れて休肝日だというのにお酒飲む気だな……

 帰ったらお酒が減ってないかきちんと調べておかなきゃ。


「宮野さんもOKサイン出してくれたのでしょう?なら良いじゃない。ね?」

「い、いやでもですね……診療所で勉強なんてどう考えても先生とか看護師さんとか、勿論他の患者さんたちの邪魔になると思うんですけど……」

「ですよね。姉さまの言う通り、いくら何でもそんな場所で勉強するなんて非常識なのでは……?」

「構わないわ。だって今日は予約されている方はもういないし、そもそもあと一時間で診察時間は終わるもの。それに明日は休診日だから、伸び伸びとあそこを使ってもらって良いのよ。全然邪魔にはならないし、何よりここの責任者の私が良いって言っているんだから問題ないわよ。ねー、沙百合ちゃんもそう思うでしょ?」

「そうですね。コマさん、それにお姉さん。お二人さえ良ければどうぞご自由に使ってください」

「ほらね。沙百合ちゃんもこう言っているじゃない。泊まりましょうよー」


 更には看護師さんをも味方につけて先生はぐいぐい攻める。それでも迷惑になるだろうと、しばらくコマと共に遠慮していた私だったけれど…



 ◇ ◇ ◇



「結局私たち、ちゆり先生に押し切られてしまったんだよね」

「そうなんですよね……」


 そのままとんとん拍子で先生に上手い事説得され、この通り診療所の待合室で勉強することになったというわけである。

 まさか診療所で期末試験の勉強をすることになるなんて……ホント貴重すぎる体験だわ…


「……あの。マコさん、コマさん。やっぱりこんな場所で泊まることになったり、勉強しなければならなくなったのはご迷惑だったでしょうか……?」


 と、そんな風に苦笑交じりに呟く私とコマを不安そうに見つめる沙百合さん。


「あ、いやいや迷惑だなんて。さっきも言いましたけど勉強かなり捗ってますし、感謝こそすれ迷惑なわけないじゃないですか。めちゃくちゃ助かってますよ沙百合さん。そうだよねコマ?」

「その通りです。寧ろこんなによくしていただいて、沙百合さまは勿論……その、一応先生にも感謝していますよ」


 昨日は診察時間が過ぎてから陽が落ちるまで待合室を借りて勉強し、陽が落ちてからは医院併用住宅として作られている診療所の二階にあるちゆり先生と沙百合さんのお家で晩ご飯やお風呂まで頂いた。

 勿論その後も再び待合室を使わせてもらい10時くらいまでしっかりと勉強して、眠くなってからは私とコマ用に用意してあった部屋でぐっすり就寝。


 日曜日である今日も引き続き待合室で勉強させてもらっている。おまけに美味しい朝食や合間合間にドリンク・デザートまで付くサービス付きだ。こんなによくして貰えるなんて、先生にも沙百合さんにも何てお礼を言ったらいいかわかんないや。


「それは良かったです。……正直なところ、半ば強引に先生が誘ってしまったわけですし……ご迷惑じゃないかと不安でしたので。そう言って頂けると嬉しいです」


 心底ほっとした表情を見せる沙百合さん。ホントいい人だなぁ……そんなこと気にしなくても良いのに。

 寧ろ私たちの方がいっぱい感謝しなきゃいけない方なのにね。


「それから……すみません、ちょっと謝らせてください。マコさん、コマさん」

「へ……?謝る?」

「え、えっと……沙百合さま?謝るとは何の話でしょうか?」


 沙百合さんに謝られる理由に心当たりがない私たちは同時に首を傾げる。何か謝られることってあったっけ……?


「ごめんなさい。この診療所にお二人が来るたびに、ちゆり先生はお二人の事をからかったりしますよね?先月や先々月は勿論…………昨日もマコさんの身体を触ったり、コマさんの事を弄ったりと……」

「「あー……」」


 その沙百合さんの言葉に昨日の出来事を思い出す。……ああ、うん。先生に身体くすぐられたり弄られたりと色々されたね私。思わず苦い顔を表に出してしまう。

 それは私の隣に座っているコマも同じらしく、苦い顔をして何か思い出しているようだ。


「悪気や悪意があったわけではないのです。元々お茶目な性格な上に……先生は昔からお二人の事を……ただの患者やその患者の家族ではなく、自分の娘のように可愛がっていますので。ついお二人への接し方がちょっとだけ過激になりがちなんですよ」


 娘のように……か。確かに6年前からコマと私の面倒を見てくれている先生からは、私たちが娘のように思えるのも当然だよね。寧ろ、先生にそんな風に思ってくれているなんて光栄だと思う。


「時にはからかいに度が過ぎることもあると思います。ですが……決して悪い人では無いのです。ですからどうか、あの人を嫌わないでいただけると嬉しいです。後で私から叱っておきますから……」

「なるほどです。それに関しては大丈夫ですよ。先生はとても優秀で優しい大人だってわかっていますから!そうだよねコマ?」

「え?…………あ、ぅ……そ、それはまあ……私もお世話になっていますし……一番の恩人ですから……。なんだかんだで、あの先生も嫌いには……なれませんよ」

「……ありがとうございます」


 私とコマがそう答えると、花の咲いたような嬉しそうな笑顔を見せる沙百合さん。流石は長い間ちゆり先生の助手をやっている方だ。先生の事を褒めたりフォローしたりすると自分の事のように喜ぶあたり、助手の鑑のような人だよね。


「……あ。そう言えば昨日ちらっとコマから話を聞きましたけど、沙百合さんとちゆり先生って10年以上一緒にいるとか?」

「あ、はい。実はそうなんですよ」


 コマは検査室で二人きりになる機会が多いからか、これまでも沙百合さんとよく話をしていたみたいだけど……看護師さんと患者の家族という立場上、私はこんな風にじっくりと沙百合さんと話す機会なんてほとんどなかった。

 ちょうど今は休憩時間だし、良い機会だから沙百合さんとお話をしてみることに。


「すっごい長い付き合いですよね。沙百合さんたちって小中高、おまけに大学も一緒で……更にはお仕事も一緒な上に、今はこの診療所の二階にあるお家でルームシェアまでしているんでしょう?」

「…………(ボソッ)いえ。ルームシェアというか、同棲ですけどね。……これでも私、あの人の…………か、彼女……ですし」

「?あの、何か言いました?」

「い、いえ何も」


 ……?今何か沙百合さん、ポツリと呟いたような……?気のせい?


「コホン。……そ、それでマコさん?それがどうかしましたか?」

「あ、いや。単純に大変じゃなかったのかなって思いまして。ホラ、さっき沙百合さんも言ってたでしょ?ちゆり先生はお茶目な人だって。そんなに長い間一緒にいるなら沙百合さんも色々先生に弄られちゃったりしたんじゃないかなって」

「あ、それは私も気になります。()()先生とお付き合いなさるなんて……かなり大変じゃなかったのでしょうか?」


 私の疑問にコマも同調して沙百合さんに尋ねる。そんな私たちの質問に、沙百合さんは手を唇に当ててしばらく考える素振りを見せた後、ゆっくりと答えてくださる。


「……そうですね。大変じゃなかった……と言えば嘘になります。先生の傍にいること自体が……とても大変でしたから」

「傍にいることが……大変?」

「はい。先生は優秀な方ですので一緒の中学や大学に行く為には相当勉強しなければならなくて大変だったんですよ。勿論一緒の職に就くためには更に猛勉強しなければなりませんでした。先生と違って私は勉強ができるわけではなかったので、本当に死に物狂いで勉強せざるを得なかったですし……それは今でも同じです」

「あ……」


 何だか他人事と思えない沙百合さんの言葉。その言葉に思わずちらりと私の隣に座っているコマを見てしまう。……優秀な人の傍にいる大変さは、ほんのちょっとだけどわかる気がする。


「先生の傍にいて大変だったと言えば他にもありますね」

「え?他にもですか?それってどんな…?」

「…………マコさんたちが仰った通り、気に入った人を弄るのが大好きな人ですから付き合うのが本当に本当に大変でして。……隙あらばセクハラしてきますし、私の昔の恥ずかしい過去をネタにからかうのは日常茶飯事。あとは…………あとは…………(ブツブツブツ)あの人ったらとにかく可愛い子には目がないタラシで、傍にいても私のすぐ目の前で別の子をお手付きして。マコさんみたいな中学生だろうと躊躇なく手を出し、その上それを何度注意してもその悪癖は今でも治りませんし…………それなのに、私の事はなんだかんだで束縛しちゃうワガママ女王様で……っ!」

「さ……沙百合さーん?な、何か話が変な方向に行ってませんか?だ、大丈夫ですか沙百合さーん!?」

「沙百合さま、漏れてます……本音や愚痴と一緒に、何か黒いものがだだ漏れてますよ……」


 あ、あれれー?おかしいなぁ。途中から何の話をされているかよくわからない上に……何か微妙に沙百合さんから黒いオーラが見える気がするぞ…?

 どうしよう。ブツブツと呪詛めいた呟きを続ける沙百合さんにそろそろストップをかけるべきだろうか……?


「……ですが。辛いと思ったことは一度もありませんよ」

「「え?」」


 そんなことをコマ共々考えていた私に対して、沙百合さんは先ほどまで見せていた優しそうな笑みを浮かべてそう言い放つ。


「大変でしたけど……この人の傍にいたい。ずっとこの人の隣で立っていたい。その想いさえあればやってやれないことは無かったですから。だってそうでしょう?現在(いま)だけでなく……10年後や20年後、更にそれ以上の長い時間を共に過ごすための努力なら、決して辛くはないですもの。勉強はずっと先生に見て貰えましたから乗り越えられましたし、からかわれたり弄られたり…………時々お手付きしちゃうのも、ある意味先生の一つの愛情表現と思っていますし」

「「…………」」


 そこまで話し終えると、私たちが飲み終えたコップをトレイに乗せてから立ち上がる沙百合さん。


「なんだかおかしな話になっちゃってごめんなさい。マコさんも大変だとは思いますが、勉強頑張ってくださいね。マコさんならきっと良い結果を残せますよ。……だって私の傍にちゆり先生がいたように……マコさんにはコマさんという優秀な家庭教師さんが傍にいますから。それでは失礼しました」


 そう言ってペコリと頭を下げてから、沙百合さんは部屋を後にする。

 んーと…後半の話はよくわかんなかったけど…とにかくコマと一緒にいたいなら勉強をもっと頑張れって事…かな?


「…………(ボソッ)傍にいたい、ずっと隣で立っていたいから……共に過ごすための努力は辛くない……か。私も……姉さまとずっと一緒に……」

「んー?コマ、何か言った?」

「……いえ、なんでもありません。ただ……私も沙百合さまのように頑張らなきゃなって思ったところです。……色んな意味で」


 沙百合さんの話に何やらコマも触発されたのか、気合が入っている様子だ。


「そうだね、頑張らなきゃね。……それじゃあ頑張る繋がりで、早速勉強頑張っちゃおうね。コマ、悪いけどまた教えて貰えるかな?」

「はいっ!お任せください!……それでは先ほど予告しておいた通り、姉さまには連立方程式の文章題を解いて戴きますね。わからないところは遠慮せず言ってください姉さま」

「はーい。そんじゃ、よろしくねコマ先生」


 休憩時間を終わらせて勉強を再開する私たち。


 さあ、赤点回避のためにも……それからさっきの沙百合さんの話じゃないけど……優秀で頑張り屋さんなコマの隣に立てるくらいの立派な姉になるためにも、ここはしっかりと勉強を頑張らないとね。

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