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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
七月の妹も可愛い
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第40話 ダメ姉は、説得する

「ふぃー、解いた解いたっと」


 あれからひたすら解きまくり、コマに指定された問題全てをなんとか解き終えた私。一旦シャープペンシルを置き、ググーっと身体を伸ばしてみると強張っていた筋肉が伸びて気持ちがいい。


「おぉ、もうこんな時間か。……うん、私にしては頑張ったほうかな」


 図書館に設置してある時計を見ると、問題を解き始めてからすでに一時間が経過していた様子。結構集中して勉強していたらしく、一時間があっという間に感じてしまう。こんなに集中して勉強したのは中学受験以来だろうなぁ。


「さーてと、あとは合ってるか間違ってるかの確認だね。コマ、悪いけどこれを採点してもらっても―――あ、あれ?コマ?コマ……どこ……?」


 数学の試験はたとえ答えが正しくても、途中式が間違っていたらそれだけで減点されることがある。教科書の問題には残念ながら答えだけ載せられていることが多いし、途中式まできちんと正解しているのか確認するにはコマに見てもらうのが一番だ。

 そう思って採点を家庭教師のコマ先生にお願いしようとしたけれど……どういうわけか隣の席で私を見守ってくれていたコマの姿が見当たらないではないか。


「って……ああそっか。コマはついさっき席を外したんだっけ」


 姿の見えない妹に一瞬困惑した私だけれど、しばらく前に問題を解いている私に対して


『すみません、ちょっと姉さまに合いそうな問題集を借りてきますね。姉さまはそのまま問題を解いておいてください』


 と言ってコマが席を立ったことをふと思い出す。そういえばそうだった。解答に夢中で忘れてたよ。


「……いや。でも待てよ。本を借りに行ったにしては……コマ、戻ってくるの随分遅いような……」


 思わず座ったまま首を傾げる私。……よく考えたらおかしいな。多分コマが席を立ってから10分くらいは経っていると思う。借りると言った問題集はこの図書館内にあるわけだし、ならばもう戻ってきても良い頃ではなかろうか?

 だというのに、一向にコマが戻ってくる気配がないのはやっぱりおかしい……よね?


「んー……?試験前だから参考書とかは先に誰かに借りられててもおかしくはないし……もしかして、借りる予定だった参考書がもう借りられてて……仕方なくコマは別の問題集探しているとか?…………いや、そうだとしても、一度こっちに戻ってきても良いはずだし……」


 他に考えられることと言えば……お手洗いとか、もしくはわざわざ職員室とかに行って問題集を借りに行ったとかか……?


『―――ちゃん、次はあたしに教えてよ』

『あー!横入りはダメですよ先輩!わたしが先です!』

『何言ってんだよ!次は俺が教えてもらう番だぞ!』

「ん……?」


 そんな感じであーでもないこーでもないと考えていると、なんだか図書館がざわついていることに気付く私。どうしたことかと声のする方に視線を向けてみると、図書館の入り口辺りに大きな人だかりが出来ているではないか。

 何だろう?何か事件でもあったのだろうか? ちょっと気になるし、コマを探すついでにあれは何の騒ぎなのか確かめるべく野次馬しに行くことに。


『ねえねえ、この問題ってどうやって解けばいいのかな?』

『オイお前、ちゃんと順番守れよ!次は俺の番だって言ってるだろうが!』

『せ、先輩……その前に私の質問が先です……』


 どうやらこの人だかりは図書館で勉強していた生徒たちが作っているようだ。傍からだけど中央にいる誰かにしきりに質問をしている様子が伺える。

 誰か知らないけど随分人気だね。一年生二年生三年生を問わず、色んな生徒がその中央の人物に向けて質問しているし……余程教え方が上手な先生でも来ているのだろうか?


 一体どんな人物が質問攻めされているのだろうかと好奇心に煽られて、人垣の隙間からその人気者の姿を覗いてみると。


「あ、あの……皆さん落ち着いてください……わ、私急いで姉さまのところに戻らないと……いけないのですが……」

「…………って、こ……コマぁ!?」


 するとそこには姿が見えなかった私の最愛の天使である妹のコマが途方に暮れた表情で連中に取り囲まれているではないか。

 ど、どうしてそんなところでそんな奴らに囲まれているんだコマ……!?慌ててその人垣を掻き分け蹴飛ばし踏み越えて、コマの元へと急ぐ私。


「ええい、邪魔だキサマら……どけぇい!―――コマ!大丈夫!?怪我とかしてない!?こいつらに何かされたりしてない!?」

「あ……姉さま。す、すみません。すぐに戻るつもりでしたのに……」


 何とか集団の中央のコマのいるところへ辿り着くと、すぐさまコマの怪我の有無を確認してみる。

 よ、良かった……パッと見た感じ、コマに外傷とかは無さそうだ。一先ず一安心かな。


 それにしてもこの状況がイマイチわからない。確かにコマはこの学園のアイドル的な存在だし、取り囲まれること自体はそこまで珍しいことではない。だけど普段はここまで節操無しに囲い込まれることはなかったハズ。だというのに今日は一体なんでこんなことになっているんだ……?

 とにかくコマの口から何があったのかを聞いてみない事には始まらない。そう考えてコマに状況説明をお願いすることに。


「ねえ、この騒ぎは何なのコマ?一体何があったの?」

「え、ええっとですね。見ての通りと言えばそれまでなのですが―――」


 私の問いにすぐさま答えてくれるコマ。コマ曰く、何でも数学の問題集を借り終えた直後に図書館に来ていたクラスメイトの一人と偶々出会ったそうだ。


 その際、そのクラスメイトから……


『ああちょうど良かった。ねえ立花さん、お願いがあるのだけど』

『はい?どうかなさいましたか?』

『実はさ……一つわからない問題があるの。もし良かったら教えてもらいたいんだけど……今ちょっと良いかな?』


 と、頼まれたコマ。その時はまだ姉である私も問題を解いている最中で時間もあったため、一問だけならすぐに答えられるだろうと考えて快く引き受けたとか。

 実際その質問自体は一分もかけずに回答できたそうだけど……話はそれだけでは終わらなかった。


 回答した直後、その様子を見ていた一年生に『すみません……私もわからないところがあって困っています。助けてください立花先輩』と声をかけられたコマ。その一年生の質問を答えてあげると今度は三年生に『コマちゃん、悪いんだけどここわかる?』と尋ねられ、それも答えたら更に別の人からも質問される。そんなことを繰り返し続けると―――


「―――気が付けば、いつの間にかこんな状況になってしまったわけでして……」

「な、なるほどね……」


 取り囲んだ集団を見渡しながら困り顔でコマは説明を終える。OK、よくわかった。だからこんなことになったのか。


 試験勉強するために図書館に来ているのは、何も私たちだけじゃない。当然だが同じように色んな生徒がここで勉強しているわけだし、問題を解いているうちにわからないところとか解説の欲しいところとかが浮き彫りになっていたことだろう。

 そんな中、突如図書館に舞い降りた学業優秀で教え上手なコマの存在は、一点でも多く点数を取りたい彼ら彼女らからしてみれば救いの女神に見えたとしても仕方ない。ある意味こうなることは必然と言っても過言では―――


「いや、いやいやちょっと待った。……今のコマの話、一部なんかおかしくない?」

「と言いますと?」

「…………何で()()()()()()()()()、うちのコマに質問してんのさ……?」


 後輩である一年生や、同学年の二年生がコマに対して質問してくるのはまあわからんでもない。だけど何で下級生であるコマに対して質問してるんだ三年生……?アンタらそれでも最高学年の生徒か。

 三年生の質問にナチュラルに答えられるコマもコマだけど、そもそも普通は三年生が下級生に教える側の人間なのではなかろうか? 近くにいた顔見知りの先輩に代表してそのように尋ねてみると、苦笑いをしながら先輩はこう答える。


「あ、あはは……ごめんマコ。いやさ、私たち三年だって後輩にわかんないとこ質問するのは流石に悪いかなーってちょっとは思ってるんだよ?でもね、コマちゃんの解説がとってもわかりやすくて……つい教えて貰っちゃってね」

「いくらわかりやすいからって、まだ授業で学習していないはずの単元を後輩に質問しないでくださいよ先輩方……そもそもコマに質問するより、担当の先生に質問する方が確実じゃないんですか?」

「いやー、ここだけの話だけど…………ぶっちゃけ先生の解説よりも、コマちゃんの解説のほうがわかりやすくてさー」


 あっけらかんとそんなことを言いだす先輩。そりゃ先生の立場がないわな……優秀過ぎるというのも考えものってことか。


 ともあれこのままワラワラと囲まれちゃコマが身動き取れないし、何より図書館で頑張って勉強している他の人たちの邪魔になってしまいかねない。

 そう考えた私はパンパンと手を叩いて注目を集めてから、コマを解散するように周りの皆に説得を試みることに。


「あのさ皆。コマだって試験勉強しなきゃいけないんだよ?そこのところはちゃんとわかってるの?」

「「「うっ……」」」


 痛いところを付かれたのか、騒いでいた集団は一斉に目を逸らす。


「おまけに場所も選ばず勝手気ままに質問しまくってさぁ……皆はコマに迷惑だって思わなかったの?集団で鬼気迫る勢いでこんな風に取り囲んで、コマがどれだけ怖い思いをしたかわからない?」

「「「……」」」

「どうして皆が皆、自分の事ばっかりで……コマの気持ちを少しは考えてあげられないのさ?いくら何でもさ、皆ちょっと自分本位が過ぎると思うんだけどそこのところどう思う?」

「「「…………」」」


 私の言葉に俯いて押し黙ってしまう集団。どうやら一応はコマに迷惑かけていることを自覚していたようだね。勉強を教えてもらおうと躍起になっていた彼ら彼女らも、申し訳なさそうにコマを見つめ始める。

 よしよし。この様子なら説得も上手くいきそうだ。


 …………なんてことを内心考えていた私に対して、


「で、でもさ。それってここに来てからずーっと妹に勉強教えてもらってる姉が言える台詞なの?」

「えっ?」


 生徒の一人がこんなことを言いだした。か、カウンターが飛んできた……だと?その一言に今度はこっちが目を逸らしてしまう。


「さっきから二人の事を見てたけどさ、マコだってコマちゃんから勉強教わってたよね?」

「そ、それは……まあそうだね……」

「確かコマちゃんは試験勉強をする暇もなく、付きっきりであんたに勉強教えていたよね?」

「う、うん……」

「……つまりマコが一番コマちゃんに迷惑かけてるんじゃないの?違うの?」

「い、いや……そんなこと言われちゃうと、ちょっと反論できないと……いうか……」


 続けざまに私に言葉の刃を突き刺してくる。……参った。そこを突かれると……全く言い返せない……

 た、確かに私もコマの試験勉強時間を削ってまで自分の赤点回避のために勉強を教えてもらっているし、この私自身もコマに多大な迷惑をかけている自覚はあるわけだし……


「何だよ!お前だって妹に世話になりっぱなしじゃんかダメ姉!」

「偉そうなこと言っておいて、結局マコはコマさんのこと独り占めしたいだけじゃないの!ズルいよマコ!」

「そーよそーよ!ズルいわよ!だいたい、コマちゃんと一緒に暮らしているあんたは家に帰ってからでも勉強教えて貰えるでしょ!?こっちは学校にいる時しかコマちゃんに教えてもらえないじゃない!不公平よ!」

「代われよ立花ー!俺だってコマさんから手取足取り教えてもらいたいんだぞー!」


 私が言い返せないと分かるや否や、囲っている集団が私に向かってヤジを飛ばす。ぐぬぬ……他人の事情も知らないで好き勝手に言いたい放題言いおって……!

 こっちだって家に帰ってからじゃ全く集中できないからこそ、図書館で頑張って勉強していたっていうのに……


「あ、あの皆さん……姉さまに勉強を教えますと提案したのはこの私なのです。ですから姉さまを責めないでください。悪いのはこの私ですので……」

「庇わなくて良いんだよコマちゃん。どうせこいつが『赤点になるとヤバいから助けてコマぁ!』って泣きついたんでしょ?大丈夫、ちゃんとわかってるって」

「い、いえ……本当に私が姉さまにお願いしたことなのですが……」


 コマも一生懸命私のフォローをしてくれているけれど、白熱したこの集団は聞く耳持たないらしい。さて困った。この様子だと連中も簡単にはコマを解放してはくれなさそうだぞ。


「というわけで!さっきの続きだけどさコマちゃん。この問題ってどうしてこんな答えになるんだっけ?」

「だーかーらー!何でお前割り込んで来るんだよ!俺が先に質問があるんだって言ってんだろが!?」

「で、ですから先輩!その前に並んでいたのは私ですので―――」


 再びコマに詰め寄って矢継ぎ早に質問攻めを再開するこの集団。悪いことに中断されたのが裏目に出たのか、先ほどよりも騒ぎが大きくなっている気がする。このままこの騒ぎを放置すれば暴力沙汰に発展しかねない勢いだ。

 もしそんなことになれば、集団の中心にいるコマに怪我をさせてしまう恐れも出てくるんじゃないだろうか……?


「ね、姉さま……どうしましょう?このままでは勉強するどころではなくなってしまいますよ……」

「ぅうん……そう、だねぇ……」


 コマと目配せしてどうしたものかと考える。このまま説得しようにも、多分皆はそう簡単に納得してはくれないだろう。

 なら……仕方ない。だったら説得じゃなくて別の方法でアプローチしてみますかね。


「…………よしわかった。皆の言い分はよくわかったよ。わかったからちょっと落ち着こう。私に一つ提案があるんだけど、聞いてくれないかな諸君」

「「「は?提案?」」」


 このままでは埒が明かない上、エスカレートしつつあるこの状況下では大事なコマや図書館にいる他の無関係の生徒まで巻き込むのも時間の問題。

 そこでとあることを思いついた私は、急遽皆にそれを提案してみることに。


「姉さま……?どうなさるおつもりですか?」

「まあ私に任せてよコマ。―――コホン。あのね皆。ここはさ、本当にコマに教えてもらうべき人を厳選してみるというのはどうだろう?」

「「「厳選……?」」」


 まずは近くに置いてあった椅子の上に立ってから、いつもの調子で周りの皆に対して諭すように話を始める私。


「私もね、コマに勉強を教えて貰いたいという君たちの気持ちは痛いほどわかるんだよ。だって教えるのめっちゃ上手だし、わかりやすくて正確で、何より丁寧に優しく教えてくれるんだもの。コマに勉強を教えて貰った人たちもそう思うよね?」

「「「うんうん」」」

「だけどね、コマだって人間なんだよ。今コマに質問したいって集まっている人たちなんて……パッと見ただけでも30人以上いるわけだし、ここにいる全員の質問を受け答えするのは無理があると思うんだよ。時間的にも、それからコマの労力的にもね」

「そ、それは……うん。そうだろうな……」

「まあ……流石に全員は無理よね……」

「でしょう?」


 皆に対して言い聞かせるように言葉を紡いていく私。ヒートアップしていた皆も少し熱が引いたのか、私の言う事を黙って聞こうとする姿勢を感じる。


「だから一つ提案させてもらうよ。……ここは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、選ばれた人がコマに勉強を教えてもらうって事にしない?」

「一番切羽詰まって……」

「困っている人……?」

「うむす。要するにこの中で最も勉強できない人が、コマに勉強を教えて貰える権利を有するってことで手を打とうって言ってるのさ。その一人にだけ勉強教えるならコマの負担も少なくて済むし、選ばれなかった人たちだって『ああ、こいつよりは自分の方が勉強出来るから選ばれなくても仕方ないな』って納得出来るでしょう?どうかな私の提案。結構良い案だと思わない?」


 周りの皆は私の提案を受けてしばらく思案顔。……いけるか?無理そうか?頼む……通れ……通れ……っ!


「……う、うーん……ど、どうするよ?」

「なんというか……マコが考えた案だしとても良い案とは言えない提案だけど……でも……」

「かと言って他に何か良さそうな案もないし……マコの言い分自体はわからんでもないよね……?」


 コマと私を囲っている皆は若干不服そうだけども、他に良さそうな案が出てこなかった様子。私の提案に渋々だけど頷いてくれた。

 …………かかったな阿呆共め。これで勝てる。


「じゃあ早速厳選しちゃおうか。我こそはこの学校の誰よりも勉強が出来ないって自信がある人は手を挙げてくれない?その人たちの中から一人を選びたいんだけど……誰かいないのー?」

「「「…………(ススッ)」」」


 私が朗らかにそう声をかけると、あれほどコマに対して教えを請いていた連中の大半が静かに集団から離れはじめる。

 まあ無理もない。ここで手を挙げるという事は『私は学校一のバカですよ』と公言しているようなものだからね。


「はいはーい!あたしがコマちゃんに教えてもらう人に立候補します!あたしが一番、この中で勉強出来ないし!」

「いやいや何を言うんだ。お前は俺より成績良いだろ?俺なんて中間テストでワーストスリーだったんだぜ?つまりはコマさんに勉強教えてもらうべき人間は俺なんだよ」

「何を言っているんですか先輩方!わたしなんか授業に全くついていけていません!わたしこそが立花先輩に教えてもらうのに相応しいと思います!」

「こらこら君たち。そう卑屈になっちゃダメだよ。今年受験なのに前回の全国模試で学年最下位を取ってしまったこの僕こそ、立花さんに勉強を教えてもらうべきなのさ」


 それでもコマに教えて貰うのを諦めきれない人たちは、力強く挙手しながら揃って勉強出来ないアピールを始める。

 プライドを投げ出してまでコマに勉強を教えて貰いたい姿が何とも涙ぐましいね。…………まあ、無駄な足搔きだろうけど。


「ふーん?それじゃあそこの人たちは、『この学校の中で自分こそが一番勉強が出来ない』って言いたいんだね?」

「「「その通り!」」」


 そう確認すると、大きく頷き肯定する手を挙げた数人。そうかそうか。この学校で一番勉強が出来ないのか。……良い度胸だ。次の私の台詞を聞いても、同じことが言えるかな?


「ほー?なるほどね。それは良い事を聞いた。つまり君たちは―――()()()()()()勉強が出来ないって言いたいんだね?」

「「「…………え?」」」


 そんな連中に対して私のとっておきの切り札を切ると、全員表情が一気に固まってしまう。


「勿論この私、立花マコもコマに教えてもらえる人に立候補するよ。ちなみに皆も知っての通り、私は自他共に認めるダメ人間だってことをお忘れなく」

「「「……っ!」」」


 完璧超人な妹のコマは良い意味でこの学校で有名人だけど、姉の私は悪い意味で有名人。学年成績ワーストワン!毎回赤点補習の常習犯!義務教育であるにもかかわらず留年さえも危ぶまれるこのダメさ加減!それが私である。

 このことは同学年の二年生や上級生である三年生は勿論のこと、一年生でさえ知っているわけで。


「そんな私よりも、君たちは勉強が出来ないって……本当に、堂々と宣言できるのカナ?」

「「「(…………やられた!!!)」」」


 嵌められたといった表情で私を睨む皆。……ふふん、バカめ気づくのが遅いわ。この勝負、皆が私の提案に乗ってしまった時点ですでに決着は付いているんだよ!

 もしここでコマに勉強を教えてもらいたいがために、私よりも勉強が出来ないと宣言してしまえば最後……『あんなシスコン変態ダメ人間よりも勉強できないダメ人間』というレッテルを周囲に貼られてしまうことになるだろう。


 いくら何でもそんな屈辱に耐えられる人間はこの学校にいるはずもなかろう。普段から私の事を『ダメ姉』と罵ってきたことが仇となったようだね諸君!


「この私に勉強で負ける(かなう)人間なんて存在しないんだよ!ふはははは!つまり今回コマに勉強を教えてもらえる権利を有する人間はこの私!キング・オブ・ダメ人間の私、立花マコというわけさ!!!」

「「「…………ぐぬぬ」」」


 勝利を確信した私は、天に向かって高らかに両腕を挙げる。


「ほらほらどーしたの皆?コマに勉強を教えて貰いたいんじゃなかったの?この私以上にダメ人間だって自覚がある人は、遠慮せずに申告しても良いんだよー?…………申告出来るならね!私こそ、この学校一のダメ人間!その事実に文句がある奴は、誰でもいいからかかってくるんだね!」

「「「…………くそっ」」」


 高笑いをしながら皆に煽る私。はっはっは!これでコマと私の勉強会を邪魔する者は誰一人としておるまい!

 そんな私に対して誰かが肩をポンポンと叩いて同意してくれる。


「…………ああそうだな。私もお前こそが、この学校が始まって以来のダメ人間だと思っているぞ立花」

「ですよね()()!いやー、ご理解いただけて感謝感激ですよ私!」


 そう何せ、私のダメさは()()()()()()()()()()()()()()()()()だもの。この私、立花マコこそ学校で最たるダメ人間という事実をこの中の誰も否定できるはずもなかろうて。

 これでコマに勉強を教えて貰えるのは私一人ということに―――







 …………うん?先生……だと?


 な、なんだろう……すっごい嫌な予感がする。生唾をごくりと飲み込んで恐る恐る振り返ってみると、


「図書館が騒がしいと連絡があり、様子を見に来てみれば……やはり騒ぎの原因はお前か立花……!」

「あ……あの、マイティーチャー?違うんすよ。……お、恐らく何か大きな誤解をなさっていると思うんですが……」

「安心してくれ立花。誤解なぞしておらん。…………図書館という神聖な場所で、試験前だというのに大騒ぎするキサマは、疑いようもなくバカで阿呆でダメな奴だからなァ……!」


 そこには私のクラスの担任の先生が、引きつった笑顔で立っていた。



 ◇ ◇ ◇



「―――と言うわけで。その後は最終下校時刻まで先生たちに職員室でみっちり説教されたってわけなのさ……」

「おまけにですね……騒ぎの中心にいた姉さまには罰として一週間図書館の出入り禁止令を出されてしまい、予定がまたもや狂ってしまったのですよ。姉さまは勉強をあんなにも頑張ってくださっていましたのに……なんだかとっても理不尽です……」


 夕食時、今日あったこと全部を叔母さんに打ち明ける私とコマ。うぅ……どうしてこんなことに……?私か?これは私が悪いのか?た、確かに最後の方は私もちょっと調子に乗り過ぎたのは認める。認めるよ……

 でもね?最初に騒いでたのは私じゃないんだよ?……つーか寧ろ私はコマを助け、そしてあの連中の騒ぎを止めようと奮闘していただけなのに……この仕打ちはあんまりだと思うの……


「……それは……まあうん、ドンマイとしか言えんな……」

「「……はぁ」」


 今日何度目になるのかもわからない溜息をコマと共に吐いてしまう私。流石の叔母さんも嫌味無しに同情してくれる。


 結局今日は大事な数学の勉強は一時間しか出来ず、貴重な勉強時間は騒ぎと説教で潰れてしまった上、数学の勉強をできる最高の環境までも失ってしまった。

 こんな調子で全科目赤点回避とか本当にできるのだろうか……?


【試験まで残り6日】

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