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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
七月の妹も可愛い
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第36話 ダメ姉は、諭される

 長かったジメジメとうっとおしい梅雨も無事に明け、季節は青空が広がる七月を迎えた。


 七月はいよいよ夏本番。灼けるような日差しが身を焦がし、うだるような暑さは日ごとに増す。そのせいで梅雨時期以上に今の季節が嫌いだと思っている人も決して少なくは無いだろう。

 あまりの暑さで嫌というほど汗をかいたり汗疹ができるし、日焼け対策を怠ると大事な肌が酷いことになる。日差しの強さと暑さのせいで熱射病や熱中症が怖いし、かといってクーラーをつけたら外との温度差で夏バテになりやすい。

 他にも暑くなれば虫たちも活発に活動しだして、蚊に刺されちゃったりセミがうるさかったりで―――こうやって夏の嫌な面を上げていくときりがない。


「―――けれどね。夏はとても素晴らしい季節だと私は思うんだ。」

「「「……」」」


 いつものように教壇に立ち、何故か一心不乱に机にかじりついているクラスメイトたちに向かって諭すように話しかけるのはご存知ダメ姉こと私、立花マコ。

 今日のお題はズバリ『夏の良いところ』について。


「何が素晴らしいって、夏は私のコマをひと際輝かせてくれる季節だからね!」

「「「……」」」


 いや、勿論どの季節であっても妹を様々な形で輝かせてくれることには変わりはない。


 春。別れの季節であり新たな出会いと始まりの季節でもある春は、コマの人間としての成長を促してくれる。秋。スポーツの秋や芸術の秋、読書の秋などと表現されるように、運動や学業を問わず多方面でコマの活躍が期待される季節だ。冬。一年の締めくくりでもあり私とコマの生まれた季節でもある冬は、コマの一年間の成長を感じさせてくれる良き季節だ。

 春も秋も冬も、それぞれが違ったコマの姿を私に魅せてくれる。どれもこれも捨てがたい魅力があるといえるだろう。


 だけど……だけどやっぱり私は夏こそが、最もコマを輝かせてくれる季節だと思っている。


「プールで水泳、川でカヌー体験に魚釣り、海で海水浴にスキューバダイビングにビーチバレー!身体を動かすことが得意なコマにとっては最高の季節といっていいハズ。他にも夏祭りや花火大会といったイベント目白押しだし、色んな意味で熱いよね!」

「「「……」」」


 今言ったこと以外にも、例えば避暑地のひまわり畑で写生をしたりキャンプやバーベキューをしたりと夏は各種イベントが盛りだくさん。真夏の太陽の元、コマの笑顔がより際立つ行事がいっぱいだ。

 毎年コマもこの時期になると爽やかに汗を流しながら楽しく過ごしている。そんなコマの姿を見る事が出来て私も嬉しいしとても楽しい。


「それにイベントごとにコマの色んなファッションが楽しめるから夏ってホント良いものだよね!だって、水着一つ取っても様々なコマが楽しめるんだもの!」

「「「……(イライラ)」」」


 体育の授業として行われるプールの水泳ではスクール水着のコマ、カヌー体験やスキューバダイビングではウエットスーツのコマ、そして海水浴やビーチバレーではビキニなコマ―――より取り見取りの水際の天使を堪能出来て、あんたマジ良い季節だよ夏ゥ!


「コマの浴衣姿ももちろん見たいッ!お祭りで私のお手製の浴衣をコマに着てもらえたら……コマを着付けさせてもらえたら……そしてそのコマをこの網膜に焼き付けさせてもらえたら……!それは何て、何て幸せな事だろうか……!」

「「「…………(イライライラ)」」」


 すでに夏祭りの準備は整っている。コマの浴衣も巾着も全部夜なべして作ってあるし、勿論浴衣の着付けもマスター済み。ああ、今から楽しみだ……

 衣紋を抜くことで見えるコマの真っ白で綺麗なうなじ。胸元や浴衣の合わせの部分からチラリと覗く素肌。そんな浴衣姿のコマを想像するだけで……うへへ……!マジでたまりませんなぁ……!


「それだけじゃない!夏になれば当然制服も夏服に代わる!ハッハッハ!もうホント、夏服に代わるだけでも夏は最高の季節だって言えるよネッ!」

「「「…………(イライライライラ)」」」


 この学校もすでに完全に衣替えを終えており、暑い夏を乗り切るため冬服から夏服に代わっている。長袖は半袖に。スカートやブラウスも暖かい素材から涼しい素材に代わっているのが肌で感じられる。

 夏服。嗚呼夏服。これもまた良いものだ。まず着ていて涼しいし冬服より窮屈じゃない。それに……


 夏の暑さでコマから流れ出た聖なる水ともいえる汗が、夏服故に薄い生地の制服を濡らしコマの肌に張り付いて……そのお陰でセクシーなブラジャーが見えてしまう程にブラウスが透けちゃう―――なんてハプニングが夏の間は幾度となく見られちゃって…!


「当然ながらお姉ちゃんとしては、そんな無防備な姿を他の人に見せないようにと注意してるけど……当のコマは『大丈夫です、姉さま以外には絶対こんな姿見せませんよ。姉さまが特別なんです♡』なんて言ってくれちゃって!もうお姉ちゃんは毎日コマのそんなエロいお姿拝見させていただけて色んな意味でドッキドキですよ!夏サイコー!夏服大好き!!コマ愛してる!!!」

「「「…………(ブチィ)」」」

「そして最後に!夏と言えば私の可愛いコマが―――」



 バンッ!×29



「うわっ!?び、ビックリした……」

「「「…………に、しろ……。いいかげんに……しろ……!」」」


 演説もクライマックスというところで、私を除くクラスメイト全員が突如机をバンッと叩いて私の演説を強制終了。椅子を蹴り倒す勢いで一斉に立ち上がる。


「ちょ、ちょっと皆?いきなり立ち上がってどうしたのさ?ここからが一番盛り上がるところだし、ちゃんと聞いとかないと損するよ?」

「「「…………」」」

「あ、あの?皆……?」


 全員が据えた目で私を睨みつけ、机に置いていたある物を手に取って大きく振りかぶる。そして次の瞬間……



 ブンッ×29



「「「やかましい!勉強の邪魔すんなダメ姉ぇええええええええ!」」」

「う、うぉおおおおおおおおおおお!?」


 合計29冊の辞書が、教壇に立って演説していた私に向かって勢いよく飛んできた。



 ◇ ◇ ◇



「いたたたた……痛いじゃないの皆。辞書は投げる物じゃないでしょう?一体何を考えているんだい?」


 飛んできた辞書を皆に返しながら文句を言う私。全く……いくら紙の束とはいえ、これだけの質量の物をクラス全員が人に向かって全力投球するとか危ないじゃないか。


「うっさいわマコ。人が必死で勉強してるっていうのに、聞きたくもない話をペラペラペラペラと……!」

「何を考えているんだって台詞、アタシたちがマコに対して言いたいわ…」

「つーか『夏の良いところ』について演説するとか言っておいて、結局いつも通りコマちゃんの話になってるじゃねーかテメェ……ふざけてんのか」


 クラスメイト全員がイライラしながら辞典を受け取って、さっさと自分の机に戻り教科書を開きまた勉強を始める。


 むぅ……なんだろう、この教室内を包んでいる重苦しい雰囲気は。近頃はずっとこの調子だし、緊張を解してあげようと明るい話題をしていたというのにクラスメイトの皆はどうやら私の話はお気に召さなかったご様子。

 いつものこの教室の明るいノリと空気は何処へやら。大体まだ朝礼すら始まっていない時間なのに、なんでまた皆勉強なんてしてるんだろうか?君たちいつもそんなに真面目だったっけ?


「もー、皆なにをそんなにピリピリしてるのさ。私みたいにもっと夏を楽しもうよー」

「……あんたね。そりゃわたしたちだってこの夏を楽しみたい気持ちは皆同じよ」

「けど……いいや、だからこそ。夏を楽しむ前にやることあんだろがダメ姉」

「ホントよね。……っていうか、あんたは随分と余裕じゃないのマコ」

「その余裕……お前、今回よっぽど自信があるんだろうなぁ。ええ?立花よ」


 ……うん?やること?余裕?自信?ハテ、皆は一体何を言っているんだろう?


「ええっと……ゴメン。何の話だっけ?」

「「「…………お前というダメ人間は……」」」


 心底呆れた、哀れみすら感じる視線で私を見つめる友人たち。何だねその目は?


「マコさんや。まさかあんた本当にわかってないわけじゃないわよね?」

「いや、ごめんカナカナ。全然話見えないんだけど……」

「ああもう、仕方ないわね……ヒントをあげるわ。マコ、もう少ししたら始まるものと言えば何かしら?」

「もう少ししたら、始まるもの……?んーと…………ああ、夏休み!」

「「「―――の前に、()()()()があるだろうがバカァ!!!」」」

「あいたぁ!?」


 今度は皆に殴られた。いたい。


「前からバカだダメだとはわかっていたけど……まさか期末試験の存在すら知らない程おバカなダメ姉だとは……マコ、あんたって子はなんて頭が可哀そうな子なの……」

「一応ここ私立の進学校で割とレベル高いハズなのに……今更ながらよく中学受験で受かったなお前」

「ああダメだ……マコと話しているとIQがゴリゴリと削られていく気がする……頭痛い……」


 友人たちよ、その溜息+手遅れっぽい子を憐れむような表情は一体何かな? ま、まあそれは一旦置いておくとしてだ。


「ああ、そっか。来週から期末試験なのか。だから皆こんなに必死に勉強してるんだね」

「そういう事よ。……さっきも言ったけど、わたしたちもこの夏を楽しみたいの。その為にはこの期末を良い成績で修める必要があるの。だからこそ、こうして朝早く来て一生懸命勉強してるわけ。わかった?」

「ふむふむ。なるほど、やっとわかったよ」


 どーりでクラスが……いや学校全体の空気が、ここ最近ピリピリしてると思ったよ。


「ハァ……立花、お前やっと理解できたのかよ。ほんっと察しが悪いな。察しどころか頭も悪いけど」

「失敬な。……っていうかさ、それにしたってさ皆。今から勉強とかちょっと気が早くない?期末までまだ一週間もあるんだよ?」

「……マコ、勉強できる人が言う台詞ならいざ知らず、学年ワーストワンの学力のアンタが言って良い台詞じゃないわよそれ」

「あんたは私たち以上に勉強しないとヤバいでしょ実際。期末で赤点取ったら夏期特別講習と追試があるの忘れたわけじゃないよね?」


 若干心配そうな口調で私にそのように問いかけてくる友人。んー……んなこと言われてもなぁ。


「いや、まあ確かにヤバいけど……今から勉強してもきっとすぐに忘れちゃうもん。それにたとえ赤点取ってもさ、補習や追試なんていつもの事だし―――ぶっちゃけ追試の方が問題内容は簡単だから別に今無理して勉強しなくてもいいかなーって思ってるんだー私♡」

「「「こいつ……!」」」


 だいたい勉強なんかに当てる時間があるなら、私だったらその時間をコマのことを考える時間に変えるね!


「(ボソッ)なんか腹立つな……立花見てるとこっちが必死になって勉強してるのがバカらしくならない?」

「(ボソッ)うん、なるね。ダメだ……色んな意味でこのままじゃ勉強に集中出来ないよ…」

「(ボソッ)こいつにも勉強させれば少しは大人しくなるだろうし……この際、先生に喝入れて貰って勉強するように説得しちゃう?」

「(ボソッ)待って。わたしにもっと良い考えがあるわ。皆、この危機感のないダメ人間を静かに勉強させる策があるんだけど……手伝ってくれるかしら?」

「「「…………乗った!」」」


 と、何やらボソボソと教室内で内緒話をしていた友人たちが何故かニンマリ笑ってこちらを向く。


「……コホン。ねえマコ、あんた本当に勉強しなくていいの?」

「ん?うん、まあ一応前日に一夜漬けくらいはする予定だけど……今はまだ良いかなー。多少赤点になっても別に問題ないでしょ」

「ふーん、そっかぁ……赤点になっても問題ないかぁ。そうなんだ。それじゃあマコは()()()()()()()()()()()()()

「……ん?」


 隣の席の親友が、何だか残念そうな表情で私に向けてそんな台詞を呟いてくる。……え?た、大変な事ってなんのことだろ……?


「あの……ちょっとゴメンよカナカナ。話が見えない。一体何が大変な事なのかね……?」

「あら?マコは知らないの?あまりに赤点ばかり取っちゃうと―――マコ、()()しちゃうわよ」

「ふーん、留年かぁ。…………うん!?」


 留……年?この私が……留年!?流石にシャレにならない単語が飛び出してきて、慌ててその友人の元に詰め寄って話を聞くことに。


「い、いやちょっと待った!?留年って……!ちゅ、中学って確か義務教育だし……いくら赤点取ろうと留年なんてありえなくない!?」

「いいえ。マコ、よく聞きなさい。確かにあまり聞かない話ではあるけれど……中学で留年ということは決して無い話じゃないのよ」


 私の肩を掴んで諭すように、真剣に友人は話を続ける。


「叶井の話は本当だぞ立花。俺も先輩から聞いたことあるからな。あくまで『留年』という言葉は使われなかったらしいが……原級留置とか何とかで友人の中学生が、一年下の学年やつと同じクラスになったって話だ」

「そうねぇ。この学校って一応私立だし……成績が振るわないから留年にされちゃうなんて普通にあり得る話よね。只でさえマコは普段の素行がちょっと良くないし……だったらなおさら危ないかもね」

「ああ、そう言えばアタシもそういう話を先生から聞いたことあるかも。そっかぁ……マコが留年ってことになったら……コマちゃんと一緒に卒業することはできなくなっちゃうわね」

「ま、マジで……?」


 妙にリアリティある話に思わず動揺し、友人たちの話に聞き入ってしまう私。そんな私に追い打ちをかけるように話は続く。


「そしてマコ、あんたが仮に留年した場合……あんたの妹のコマちゃんにも多大な迷惑がかかっちゃうことになるわ」

「こここ、コマに迷惑が……!!?な、なんでさカナカナ!?」

「考えてもみなさいよ。コマちゃんの双子の姉が留年した場合―――それは今後、コマちゃんのこれからの輝かしい経歴に泥を塗っていくことになると思わない?」

「……っ!」


 た、確かに……!只でさえダメ姉な私の存在は、完璧超人なコマの人生の唯一の汚点。そんな姉が更に中学を留年でもしたら……


『あの子はとても優秀だけど、双子の姉の方がダメなんだよねぇ……』


 とかいう理由で、今後コマの足を引っ張りかねないのでは……!?


「仮にマコが中学を留年した場合……あんたは今後どこへ行っても『君は義務教育の中学で留年したのかい!?』と言われ続けることになるでしょうね。不景気の今、そんな子を雇ってくれる会社は限られてくるわ」

「……う、うん……そうかも」

「そうなるとマコは働くことが出来ないわね。そして働けないという事は―――結局マコはコマちゃんのヒモになってしまうのよ……!」


 ヒ、ヒモ……だと……!?


「きっとコマちゃんは大人になっても苦労するわ。行きたい学校・やりたい仕事に就きたくても、ずっと付いて回る双子のダメ姉の悪評のせいで思い通りの進路に進むことが困難なことになるわね。もし努力して仕事に就いたとしても……結局家に帰ればヒモで穀潰しなダメな姉の世話までしなきゃならない。ああ、何て報われない事でしょう」

「……う、うぅ……」

「とても優しくて優秀なコマちゃんは、それでもあんたの為に一生懸命頑張って働くわ。でもね、いくら優秀であってもコマちゃんだって一人の人間なのよ。自身の人生のあまりの報われ無さに、いずれは神経を擦り切って摩耗してしまうでしょうね。そうなったら……」

「そ、そうなったら……?」

「ある朝マコが起きると、『姉さま……いいえ、立花マコさま。ここで姉妹の縁を断ち切らせてください。さようなら』と書かれた手紙だけを残され、言葉も交わせぬまま絶縁を―――」

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!?」


 私の耳に足元が崩れていく音が聞こえてくる。……や、ヤダ!そんなの絶対、嫌だぁああああああああああああ!!?


「嫌よね?そうなるのは嫌よねマコ?」

「嫌!ヤダ!そんなの絶対嫌だよぉ!?どどど、どうすれば……どうすればいいの!?教えてよカナカナぁ……!」


 涙目になりながら友人に詰め寄ると、優しい笑みを浮かべて友人は私に応えてくれる。


「大丈夫よ。単純な事じゃない。今回マコが赤点さえ取らなければそんな最悪の事態は回避できるのよ」

「あ、赤点さえ取らなければ……回避できる……!?」

「ええそう。そして赤点を取らないようにするには―――わかるわよね?」

「…………勉強を、するしか……ない?」

「その通りよ」


 そう言って私の肩をポンポンと叩いてくれる友人。そ、そうか。そうか……!勉強すれば良いのか……!何だよ、めちゃくちゃ簡単な事じゃないか……!よし、よし……っ!


「(ボソッ)よし……っ!これだけ言っておけば、少しはマコも大人しく勉強するでしょう」

「(ボソッ)ナイス論破よかなえ。見てよあのマコの顔、死ぬほど効いてるわ」

「(ボソッ)そのようね。……まぁ、ちょっと脅かしすぎて可哀そうな気もするけど……赤点免れればマコも嬉しくないはずはないでしょ。良い薬になるわ。これでわたしたちも勉強に専念できるわね」



 ガラッ!



「おはよう諸君。何だか今日は昨日と違って賑やかだな」

「「「あ……せ、先生……」」」

「元気があって明るいことはとても良いことだが、来週の期末の勉強も忘れるなよー。さあ、とりあえず朝礼と出席確認をするから皆も席に座ってくれ」

「「「は、はいっ!」」」


 そんなことを考えていると、私たちの担任の先生が勢いよく扉を開けて教室に入ってくる。

 その先生の言葉に従いクラスメイトは慌てて席に着き、教壇に立っていた私は……その言葉には従わずに席とは反対方向の先生のいる方へと駆け寄る。


「せ、先生!せんせーい!立花マコ、一生のお願いがあります先生……っ!」

「こらこら立花、席に着けと先生は言っただろう。何の話かは知らんが、朝礼が終わってからちゃんと聞いてやるから―――」


 今回の私の使命は……何が何でも赤点を取らないこと。つまりは勉強することだ。だからこそここは……


「この私に、どうか勉強を教えてください先生……っ!」

「…………」


 ここは、勉強のスペシャリストである先生にご教授をお願いすべきだ。そう考えた私は、先生に90度の最敬礼をしつつ懇願する。

 そんな私の懇願に、先生は一瞬言葉をなくしたように立ち尽くす。10秒くらい固まっていたけれど、おもむろに懐から携帯を取り出してピッピッピッとボタンをプッシュ。そして―――


「―――あ、もしもし救急をお願いします。……そうです。大至急救急車の手配を。ええ、実は教え子が突然…………『勉強を教えてください』と言い出しまして……」

「私が勉強したいと言うのは、そんなにおかしなことですか先生!?」


 どうやらあまりに衝撃的な発言だったらしく、思わず救急車を呼び出した先生。あのぅ、流石に泣いても良いですか……!?

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