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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
六月の妹も可愛い
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第29話 ダメ姉は、柔軟する

「―――はい、ではこれから5時間目の授業を始めます。礼」

「「「よろしくお願いします」」」


 結構時間ギリギリだったけれど、何とか昼食を済ませ体操服に着替えて無事5時間目に間に合った私とコマ。


「さて。今回もやはり雨でグラウンドが使えませんので、前回と同様にA組とB組の合同でバスケを行いたいと思います」


 今日の5時間目の授業は体育。皆の前に立った体育の先生の言う通り、梅雨のせいでここ最近グラウンドが使えない。

 その為に通常の体育の授業ならば私の所属するA組とコマの所属するB組はグラウンドと体育館に分かれて別々に授業を行っているけれども、こういう日は特別に合同で授業を行うことになっている。


「最初の10分は前回の授業で皆さんに教えたレイアップシュートの練習をやりましょう。残りの40分はチーム分けをして練習試合をしたいと思います。チーム分けに関しては後で私が決めてから皆さんに指示を出しますので―――」


 むふっ……むふふふふ……っ!いつもは別クラスでコマと一緒にいられない故に、コマと一緒に授業ができるなんて死ぬほど嬉しい、嬉しいぞぉ……!

 運動音痴で体育自体は大嫌いな私だが、今日だけは体育も大好きになってやろうじゃないか!


「ふ、ふふっ……ふっふっふっ……ぐふふふふ…………っ!」

「……ちょ、ちょっとマコ。あんたさっきから何をブツブツ言ってるのよ……」

「……先生にうるさいって注意されるわよ。あとそのにやけ顔は止めて、気持ち悪いから」

「……ね、ねえマコ……よだれ、よだれめっちゃ出てる……めっちゃ床に垂れてるよ……」


 と、まあこのようにコマと一緒にいられることが嬉しくてそれが顔に出てきちゃう始末。浮かれている今なら物理的に宙に浮いてダンクシュートとかも出来そうな勢いだ。

 ……いや、勿論たとえ話であって、運動ダメダメな私にはそんな芸当無理だけどさ。


「それでは早速男子は向こうのコートで、女子はこちらのコートで。別れて練習を行いましょう。男子、起立っ!」


 体育座りをして先生の話を聞いていた男子が、先生の指示に従って隣のコートへ向かっていく。残った私たち女子組はそのまま先生の次の指示を待つ。

 さぁてと。私もいつまでも妄想していないで、すぐ動けるように気を引き締めなければ。先生の説明に耳を傾け神経を集中させる私。先生の口から()()()()()()出てくるのを待ち、脚にぐぐっと力を込めていつでも動けるようにこっそりと準備する。


「さて皆さん。まずはいつも通り怪我をしないよう、練習を始める前に―――」

「っ!」


 来たっ……!


「―――()()()()をやりましょう。誰とでも良いので()()()()になってください」


 『柔軟体操』、そして『二人一組に』。そうだ、その言葉を待っていた……!

 先生のその単語を聞いた瞬間、すぐさま行動に移る私。即立ち上がり目的地へと一直線にダッシュする。頼む、間に合え……間に合え……っ!


「ねえコマさん。よかったら私と一緒に柔軟を―――」

「させるかぁ!」

「えっ!?ちょ、きゃあっ!?」


 間に、あったぁああああああ!!コマの隣でコマを誘おうとした女生徒の間に強引に割って入り、インターセプトに成功する私。

 許せ、名も知らぬ隣のクラスのコマの友人よ。コマと柔軟できる機会なんて限られている故、これだけは譲れぬのだ。


「……?あの、姉さま?そんなに慌ててどうかなさいました?」

「こ、コマ!ぜぜぜ、是非とも私と一緒に柔軟をやらないかな!?だ、ダメかな!?」

「姉さまと……柔軟……?ああ、柔軟ですか。ええ、勿論良いですよ。こちらこそ喜んで♪」

「ほ、ホント!?あ、ありがとう!」


 息を切らせながらコマに熱烈アタックしてみると、ニコッと笑ってOKを出してもらえる。や、やった。やったぞ……!一緒に授業を受けられるどころかコマと柔軟できるなんて夢のようだ!


「コマちゃん気をつけてね。このバカ、油断してたら柔軟を口実に絶対コマちゃんの身体いやらしく触ってくるわよ」

「特に胸とか太ももとかお尻とかガードしておいた方が良いと思うよ立花さん」

「首筋にも気をつけてね。マコの事だし、さり気なく匂いとか嗅いでくるかもしれないわ」

「危ないって思ったら私たちがこのダメ姉をちゃんと止めてあげる。その時は遠慮せずに教えてねコマさん」

「え?ええっと……皆さん?それは一体どういう意味で……?」

「ハハハ、ちょっと黙っててくれないかねマイフレンズ」


 コマに悟られぬよう心の中でガッツポーズをしていると、友人たちが現れて愛しのコマにそんな余計なアドバイスを送る。酷い……コマの前で何て事を言ってくれるんだ。


 というか…………どうして私がどさくさに紛れてやろうとしてたことが全部お見通しなんだ畜生……お陰でコマに警戒されちゃったじゃないか……


「では姉さま、まずは開脚前屈をしましょうか。私が最初に補助として後ろから姉さまを押しますね」

「はーい。じゃあお願いねー」


 ま、まあいい。まだきっとコマに触れたり触れてもらったりするチャンスはいくらでもあるだろうさ。

 とりあえず余計なことをコマに唆してくれた友人共を蹴散らして。その後はまずは普通に柔軟をするべく床に座り込み、両脚を広げて自身の上半身を前へ倒していく私。


「なるべくゆっくりと柔軟しますけど、もしも痛かったらすぐに言ってくださいね姉さま」

「うん、わかった。んじゃよろしくコマ」

「こちらこそです。それでは……失礼します姉さま」

「っ!?」


 う、うぉおおおおお……!さ、早速チャンス到来と来た!私の背中に回ったコマは私の開いた両脚を両手でしっかりと押さえ動かないようにしてから……


「はい、息を吐いてください姉さま。それに合わせてゆっくりと倒していきますからね」

「りょりょりょ、了解……っ!」


 そして、()()()()使()()()私の呼吸に合わせてぐぐーっと丁寧に前へと身体を押してくれる。


「(む、胸……!コマの……お胸……っ!お胸ぇえええええええ!!)」


 手を使わずに自身の上半身を器用に使って私を前へと倒してくれるコマ。それはつまるところ……私の背中に胸をふにょんと押し付けるように密着させているという事で。お陰でコマの形の良い胸を背中越しでもはっきりと感じることができてしまう。

 その温かさとこの世のものと思えないほど極上な柔らかさとトクントクンと鳴る心地よい鼓動、更に耳元ではすぐ近くにコマの吐息がダイレクトに伝わってきて……あ、ヤバい……また鼻血とよだれ出ちゃいそう……


「姉さまどうですか?痛くはありませんか?」

「へ、平気だ……よ。そ、それより……も、もっと圧しつけて―――じゃない、押し続けて良いんだよコマ……」

「はい、わかりました。ではもう少し倒しますからね。……それにしてもビックリです。姉さまってかなり身体柔らかかったのですね。知りませんでしたよ」

「ま……まあ、ね……」


 私の身体の柔らかさに感心しているコマ。……ゴメン嘘。実を言うと私はかなり体が硬い方なの。現在進行形で滅茶苦茶痛いの。

 もうすでに私の身体は『立花マコ隊長!これ以上は曲がりません!』と悲鳴を上げており限界を超えている。本来であればこの時点でギブアップ宣言をしたいところだ。


「わぁ……こんなに身体柔らかいんですね姉さま。私も毎日お風呂あがりに柔軟をやっているお陰で身体は柔らかい方ですけど、ここまで身体を倒せるかどうかわかりませんよ。凄いですね姉さま」

「う……ん、やわらかい……やわらかい、ね……」


 けれども我慢、我慢だ立花マコ……!コマと合法的にそして公然と密着できるこのチャンス、決して無駄にはしてたまるか……!

 柔軟のあまりの痛さに背中も額にもびっしりと汗をかき、涙目で必死にやせ我慢をしながら、それでもコマのお胸の柔らかい感触とコマから与えられる心地よき痛みを全身全霊で楽しむ私。


 嗚呼……至福。なんて至福の時なんだろう。できることならこの瞬間が永遠に続けばいいのに……


「―――はい、終了です姉さま。お疲れ様でした」

「ぅぐぐぐ…………えっ?も、もうおしまい?」

「ええ。お終いです。……と言いますか、これ以上は姉さまを倒せませんでしょう?」

「……あ、ホントだ……」

「凄いですね姉さま、まさか最後まで倒せちゃうなんて思いませんでした」


 気が付けばいつの間にやら自分の胸が床に付くまでに達していたらしい。あぅ……これで開脚前屈は終了か……

 私と柔軟の交代をするために、密着していたコマの胸と私の背中が離れて行く。空いてしまった隙間がちょっと寒くて寂しいや。


「どうでしたか?痛みとかありませんでした?」

「うん……最高、だった……気持ち良かったよコマ……」

「ふふっ♪それは良かったです。柔軟すると気持ちいいですからね。血行も良くなりますし疲労も回復しやすいと聞きますし」


 うん、気持ち良かったのは柔軟じゃなくてコマの感触だけどね。


「じゃ、じゃあコマ!次は私が補助に回らせてもらうよ!もー、全力でやらせてもらうからね!」

「ふふっ♪姉さま、やる気満々なのはとてもありがたい事ですが、全力でやってはダメですからね。柔軟というものはゆっくりとやるのが基本ですので、くれぐれもそのつもりでお願いします」

「うん!了解!それはもうゆっくり時間をかけて()()()!」


 さてさて。気持ちを切り替えて次はお待ちかねのコマの番。私のそんなヘンテコな誘いにくすくすと笑いながら、コマは先ほどの私のように床に座って開脚して私が後ろから押すのを待つ。

 さあ、コマに言われた通り、ゆっくり時間をかけて―――コマの身体を堪能させてもらおうじゃないか……!


「な、なら行くよコマ」

「はい。よろしくお願いします姉さま」

「あ、あの……先に行っておくけど……わ、私ちょっと下手だと思うからさ、()()()()()()()()()変なところを触っちゃうかもしれないけど……その時はゴメンねコマ」

「ああ、そんなの気にしないで。大丈夫ですよ姉さま。ちょっとくらいなら平気です。…………(ボソッ)寧ろ、姉さまにならどこを触られても私は……」


 念のために予めコマに対して予防線を張っておく私。よ、よし……!これでちょっと(故意に)手とか滑ったとしても事故ってことで済むわけだ。

 そう、ちょっと手元が狂って胸とかお尻とか太ももとかをすりすりしても、身体がふらついた反動で首筋に口づけしたり甘噛みしたり舐めたりしても、そしてコマの香りを嗅いだとしても全ては事故ということで許されるという事わけだ……ッ!


 良い、最高じゃないか柔軟……!ついつい生唾を飲み、手をワキワキとさせ柔軟を始めようとする私。

 そんじゃあまあ、コマの素敵なその身体……余すことなく触らせていただきましょうかねぇ!


「で、では早速!コマ、いただきま―――」

「「「マコ、待った」」」

「「え?」」


 と、あと数センチでコマの身体に触れるというところで、突如私に対してどこからともなく『待った』のコールがかかる。な、何だ急に……?

 驚いてその声が聞こえた方向に私とコマは顔を向けてみると。


「マコ、話があるわ。あんたこっちに来なさい」

「え、か……カナカナ……?そ、それに皆まで……な、何?急に何なの?」

「え?え?あ、あの皆様……?」

「ゴメンねぇコマちゃん。このダメ姉に少しだけ話があるからちょっと待ってて」

「は、はぁ……」

「ホラ、早くこっち来なさいなマコ。キリキリ歩く!」

「何!?って言うか、痛い!痛いって!手を引っ張らないでよ!?」


 待ったコールをかけたのは、ついさっきもコマに余計なアドバイスを送った数名の私の友人たち。全員何故か険しい顔で私を睨んでいる模様。

 その友人共に手を引っ張られそのまま体育館の隅まで連行されてしまう私。何?何なのこいつら?


「一体何さみんな……私これからコマに柔軟してあげなきゃならないんだし邪魔しないでよ」

「マコ。突然だけどあんたが今考えていること、わたしが当ててあげましょうか」

「は?私の考えていることぉ?なーに言ってんのカナカナ?」


 急に何を言い出すのかと思えば……そんな、私の考えなんて私にしかわかるハズないじゃないか。何バカな事言っているんだろう。

 つい鼻で笑う私に友人の一人がジト目でこんなことを言いだした。


「まずマコ。あんたコマちゃんに予防線を張ったから何をしても大丈夫って考えてるでしょ」

「えっ?」


 ははは…………待って。ちょっと……待って。何でそれを見抜いてるのマイフレンド……?


「最初は肩、腕あたりから触って……様子を見て徐々に太もも、そして胸とお尻を触りに行くと見たわ」

「まあ、マコならするわね。絶対に」

「あ、いや……その……」

「ワザとよろけたふりをしてコマちゃんの首元にキス、そして匂いもいっぱい嗅ぎたいって思っていると思うわ」

「それも同感。マコならやり兼ねないわね」

「ま、まさかぁ。そんなこと私がするはず……なぃょ……?」

「嘘ねマコ。だったら目を逸らさずにちゃんとこっち見て喋りなさいよ」


 おかしい……どうして私の考えどころか手順すら把握してるんだ…?戦々恐々している私に追い打ちをかけるように友人たちが責め立てる。


「あまつさえ隙あらば耳を甘噛みしたり、コマさんの汗を舐めたいって企んでない?企んでるよね?」

「は、ははは……ななな、何を根も葉もないようなバカなことを言ってるのさマイフレンズ…?そそそ、そんな変態みたいな行為……この私が、するとでも?」

「するね。絶対する。だってマコの顔にそう書いてあるもの」


 何故だ……何故私の思考回路がわかるんだ君たち。何なの?エスパーか何かなの?

 伊達に普段から同じクラスで一緒に過ごしていないという事なのか。それとも私が隠し事が苦手なだけなのか。恐ろしいくらいに次々と私が現在進行形で考えていることをズバズバ言い当てられてしまう。


「そう言うわけだからマコ、コマちゃんにセクハラしないって今ここで誓いなさい。誓うなら戻ってコマちゃんに柔軟するの許してあげるわ」

「だ、大丈夫だってカナカナ……大事な妹にそんなヤラシイことをする姉なんてこの世にいないってば……」

「わたしの目の前にいるわよ。妹に対してそんなヤラシイことしでかしそうなダメな姉が。良いからさっさと誓いなさいマコ。誓わずにコマちゃんに変な事をしようものなら―――今すぐにでもあんた縛って体育倉庫の中に閉じ込めるわよ」

「…………誓い、ます……」


 ……そりゃあ、本音を言うとやりたいけど。なんて言葉はぐっと胸の内に呑みこむ私。

 ダメだ、こいつらホントに私の考えていたことを全て見抜いていやがる……下手に動けないぞこれ……


「コマちゃんの太ももとかお尻とか胸とか触ったらすぐに止めさせるわよ」

「う、うん。わかってるって……」

「それからマコ。立花さんの耳を噛んだり息吹きかけるのもNGだからね」

「し、しないってば!」

「あとはコマさんの匂いを少しでも嗅ごうとした場合も鉄拳制裁で止めるからそのつもりで。呼吸するのもダメよ。柔軟中はアンタ()()()()()()()()()()マコ」

「それはいくら何でも無茶じゃないかなぁ!?」


 こ、呼吸するなって……一体どんだけ警戒されてんだ私。しかも割と本気で言ってるっぽいのが怖い、私……私の友人たちが超怖い。

 そんな心優しき友人たちの監視の目がギラリと光る中、迂闊な事など出来るはずもなく。泣く泣く普通にコマと柔軟を始めることになった私であった。

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