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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
六月の妹も可愛い
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第28話 ダメ姉は、チェックする

 叔母さんが盛大にやらかしてくれたその翌日の昼休み。今日も空は真っ黒な雨雲が広がり、昨日以上の豪雨となりて地に降り注がれている。


「「―――んんっ……っ……」」


 そして生助会の部室の中では、コマの味覚を戻すためいつも通り私とコマの禁断の口づけの雨をお互いの唇に降り注がせていた。


「は、んっ……んん…」

「あ……ふ……ぁ……っ」


 最初は短く唇を触れ合うように、慣れてきたらゆっくりと互いの唇を重ねる時間を増やしていく。重ねた先で今度は舌と舌を合わせ、絡ませ、弄り、溶かし、吸い取り、そしてまた合わせてコマに舌の存在を思い出させる。

 しばらくすると唇と唇を少しの隙間もないほどにくっつけて、舌を動かしながらお互いの唾液と触媒に使っているリンゴジュースを口内で交換する。それらは熱く激しく混ざり合って、やがてコマの喉奥へと向かっていく。そしてまたジュースを補充してから同じことを繰り返す。


「んちゅ……はぁ…んっ……こ、まぁ……」

「あ……ん。…………ふぅ……ねえさま。辛くは……ありませんか?」


 貪るかの如く熱く激しく、それでいてコマの私への気遣いも伝わってくる優しい口づけ。コマと舌を重ねるごとにその重ねた舌がどろどろと溶けて一つになってしまう。そんな錯覚さえ覚える。

 こう思っちゃうのは元々私たちが一卵性の双子だからだろうか?


「はぁ……はぁ…………ん、へーきだよ。それより、もうちょっと……しよっかコマ」

「はい……ありがとうございます姉さま。……んんっ」


 口づけがあまりに気持ち良くてポーッとそんな変な事を考えつつも、息を整えて再び口づけを再開する。いやはや。それにしても凄いよなぁこのコマとの口づけ。6年前からずっとやっているのに全然飽きることがないんだもの。

 一年365日に毎食三回、これを6年だから単純計算で365×3×6=6570回。さらにうるう年の一日やおやつを食べる際にやった口づけを含めると……少なくとも7000回以上はコマと私って口づけを交わしていることになるわけだね。


「ぁ……はぁ……ん……こま……んくっ……」

「姉さ…ま……ん、む……」


 通算7000回以上だよ?しかも毎日三回は必ずやっているんだよ?こんなの通常なら新鮮味を感じなくなって飽きてしまうのが普通だと思う。けれども全く飽きること無きこのコマとの口づけは、もしかしたら中毒性のあるものなのかもしれない。

 現に私はすでに依存症になっているもんね。病名『妹との口づけ依存症』。言うまでも無く私は末期患者だろう。


「……んん……ねえひゃま…………はむ……」

「んー……ん?んっ、ふにゃぁああああ!?」

「えっ!?あっ……ご、ごめんなさい姉さま!」


 そんな妙なことをそんないつものように考えていたせいで油断していた私は、唐突にコマに舌をカリッと甘噛みされ驚いて思わずコマから離れて変な声を出してしまう。

 は、恥ずかしい。なんちゅう声出してんだ。猫か私は。


「だ、大丈夫ですか?もしかして……痛かったのですか?」

「ら、らいじょうぶ……ちょっとびっくりしただけ……」

「……すみません驚かせてしまって。その、お嫌でしたらもう止めましょうか?」

「いやいやいや!?嫌なわけないよ!……こ、こっちこそゴメンね。私ったら大げさに反応しちゃって。さ、続けてコマ」


 うろたえるコマを制して、笑顔で迎え入れる私。いかんな……なんだか不思議と今日はいつもよりも舌が敏感になっているように感じる気がする。


「は、はい。では、失礼します姉さま……」

「遠慮せずにどうぞーコマ。……んむ……ちゅっ…」

「……は……ん…っ」


 ……あ。そう言えば視覚が制限されてしまうと、他の感覚が敏感になるって話をどこかで聞いたことがあったっけ。

 只でさえ中の様子が外から見られぬように分厚いカーテンで閉められて暗い私とコマの二人だけの部室は、今日はなおのこと曇天で陽の光が遮られているせいでいつもよりも一段と部室内が暗く感じてしまう。


 そう、それこそ目の前のコマしか見えないくらい部室の中は薄暗い。


「……ふ、むっ……んちゅ…」

「……ねえ、ふぁま……ねえふぁま……んんっ…!」


 その為かいつも以上にコマとの口づけの感覚が鋭くなっていて。舌が、いいや舌だけじゃない。コマのクラクラする甘い香りを感じる嗅覚も、コマの切ない息遣いを感じる聴覚も、コマの温かな体温を感じる触覚も―――全てが敏感にコマを感じてしまう。


「……っん…ぁ……」

「(声を頑張って抑えてるコマ、すっごいエロいなぁ)」


 おまけに暗い部屋の雰囲気(ムード)に当てられたのか、コマがとっても扇情的に見えてしまって―――


「……?……は、あぁ…………ふぅ……。あ、あの姉さま……?大丈夫、ですか?」

「……へ?だ、大丈夫って何が?」


 と、ヤラシイ目でコマを見ているとふとコマが私の顔を見て、またもや口づけを止めて不思議そうな表情になる。おや?どうしたんだろう?


「何だか目が赤いと言いますか……血走っているみたいですし、何より鼻血も出てますよ?もしかして酸欠になっていたりしてませんか?」

「はな……ぢ?」


 ……マジか、マジだ。言われて鼻に手を当ててみると、どくどくと熱いコマへの愛と言う名の鼻血が流れ出ていた模様。オイオイまたかよ私……

 このちょっとしたことで鼻血出す私の体質……コマの味覚障害と並んで、近いうちにどうにか治していかないといかんねこりゃ……


「う、うんっ!大丈夫大丈夫っ!多分、きっと、絶対、大丈夫だから!が、頑張るから私!頑張って自分を抑えるからねコマ!」

「抑える?えっと……抑えるって、鼻血をですか?抑えられるものなのですが……?」

「そ、それよりホラ!私大丈夫だから続けよう!ね!」

「あ、はい。では…………んっ」


 うん、安心してねコマ。お姉ちゃん頑張って抑えるからね……自分の煩悩(ムラムラ)を。

 ……何というかその。ちょっとムラムラしてきてコマをこのまま押し倒しそうでヤバいわ。思春期ヤバいね。マズいなぁ……暗がりでやっているせいかいつも以上に興奮してきてる気がするぞ私。ちゃんと自制しなくちゃ……


「(……それにしても、今日はどうしたんだろコマ…)」


 溢れんばかりのコマへの煩悩を抑えるため、口づけを続けながら別の事を考える私。今更言うまでも無い事だがやっている私たちも未だに理屈はわかっていないけれども、私とコマのこの儀式めいた行為は―――コマの失われている味覚を正常に戻す効果がある。


「……こま。これ……飲んで……」

「ふぁい……んくっ…」


 だからこそコマには悪いとは思っているけれど、私たちはこれを6年間毎日毎食欠かさずに行っているのである。

 そうだ、通常ならば触媒のリンゴジュースを使えば約10分でコマの味覚も戻る―――


「んちゅ……ふ、っ……んん……はぁ……。あー、コホン。さてどうかな?そろそろ戻った?」

「……んくっ………ぷはっ……。いいえ、すみません姉さま……まだみたいです…微かに戻っている感じはあるのですが……」

「んー……そっかぁ」


 ―――ハズなんだけど。今日はどうもいつもと様子が違っていた。


「おかしいなぁ……今日は何だかいつもより時間かかるねぇ」

「はい……」


 この通り。どういうわけか今日は10分以上口づけをしてもコマの味覚が戻ってこないのである。


 一応これまでも時間がかかることはあった。例えば触媒のリンゴジュースを使っていないなら10分以上戻るのに時間がかかってしまうし、そうじゃなくてもその日の気候とか気温とかの関係で3~4分の誤差があることだってある。

 だけど今はちゃんと使っているし、その上念のため10分経った後もしばらく口づけを試してみたけど……コマ曰く味覚の戻りがいつもよりも悪いらしい。一応微かに戻りつつあるのは実感出来ているそうだけど、まだはっきりと味覚は戻ってきていないようだ。


「……ごめんなさい姉さま。昨日に引き続き今日も姉さまのお手をいつも以上に煩わせてしまって」

「へ?いや何言ってんのコマ。私は全然気にしてないからね」


 何せ気にしないどころか、私としてはむしろ合法的に長い時間コマと口づけ出来て超ラッキー!神に感謝!―――とかなんとか、不純なことを今この時も考えてるくらいだし。何なら一日中だって口づけ続けても良いのよとか思っているくらいだし。……ごめんよコマ、やっぱり駄姉だわ私…


 しかし本当にどうしたことだろう。リンゴジュースも使っているのに戻りが悪いなんて。……そう言えば今朝もいつもより味覚が戻るのちょっとだけ時間がかかってたよなぁ……


「もしかしてジュースが悪いのかな?念のために今度はリンゴ味のキャンディー使ってみようか」

「あ、はいです。よろしくお願いします姉さま」


 何度も言うが何も問題なければこの口づけ、私の本音は何時間でも付き合いたいところだけど……このままじゃコマがお昼を楽しめなくなってしまう。出来れば早急に済ませてあげたいところ。


「……はぅ……ぁん…」

「んぅ…っ…コマ。したを…あわせて…」

「ふぁい……ねえひゃま……」


 そんなわけで急遽キャンディーを投入してジュースと交互に試し、口づけの時間短縮を試みる事に。



 ◇ ◇ ◇



「―――こんなにお時間を取らせて、本当に申し訳ありませんでした姉さま……」

「あはは、気にしない気にしない。それよりほらコマ、ご飯食べちゃおうよ。今日のはコマの好きなレンコンときんぴら入っているよー」


 あれから更に10分後、ようやくコマの味覚も戻り私とコマはいつもより少し遅めのお昼を楽しんでいた。


「にしても今日はホントに大分時間かかったねぇ。多分……20分以上はやってたよね口づけ」

「…………すみません」

「あ、いやだから違うって!全然、全く、そうこれっぽっちも!コマが謝ったり申し訳ないって思うことじゃないんだからね!」


 心底申し訳なさそうに私に謝るコマ。ああ、こっちこそゴメンねコマ!私、コマにそんな悲しそうな顔をさせたいわけじゃないのよ……


「お姉ちゃんはコマを責めているわけじゃないんだよ。……ただ、やっぱりどうしたんだろうなって思って心配でね。ねぇコマ。何か味覚が戻りにくかった心当たりとかある?」

「心当たり……ですか」


 私の作ったお弁当を二人で食べながら、時間がかかった事に何か心当たりがないかコマに聞いてみる私。味覚の戻りが遅いのがもし今日だけじゃなくて明日以降も続くようなら、ちゆり先生のところで精密検査を受けなきゃならないだろう。

 それに昨日は寝不足が原因(?)で随分と疲れていたコマだ。もしかしたら何かしらの身体の不調が色んな所に現れているのかもしれない。少し心配になりつつ尋ねてみると、コマは手を口に当てて少々考える素振りを見せる。


「ええっと……そう、ですね。私が分かる範囲で思い当たることと言えば……」

「言えば?」

「……昨日夕ご飯を食べていた時、スープを飲んでいたら舌を火傷しちゃいまして。そのせいじゃないかなって思ってます」

「えっ!?そ、そうだったの!?」


 やだそれ初耳……でもそう言えば昨日、コマって夕食の時にしきりに自分の舌を気にしていたような気もしなくもない。コマの不調に気付かぬとは……姉として情けないぞ私。


「コマ、ちょっと火傷したところ見せてもらっても良い?」

「え、ええ!?い、今ですか……!?」

「うん。味覚が感じられないくらいの火傷ならかなり酷いかもしれないでしょ。もしそうなら早めに病院行った方が良いし、チェックさせてよ」

「う、うぅ……わ、わかりました……」


 食事を中断してコマの舌をチェックさせてもらうことに。何やらコマは恥ずかしがっていたようだけど、お茶で口の中をゆすいでから恐る恐る私に舌を見せてくれる。


「ど、どうですか?」

「んーどれどれ……?―――っ!?お、おぉ……!」


 コマの口内を見て驚愕する私。こっ、これは……!


「あ……何かわかりましたか姉さま?」

「うん……!すっごい綺麗な歯並びとピンクで小さくて愛らしい舌だよねコマ!カワイイ!」

「ど、どこを見ていらっしゃるのですか姉さま!?は、恥ずかしいこと言わないでくださいよ!?」

「っと、ごめんごめん」


 いかん。顔立ちだけじゃなく歯並びも舌も綺麗で可愛くてついつい感心していらぬことまで口走ってた私。

 可愛らしく怒るコマに謝りながら気を取り直してコマの舌をチェックしてみる。


「えーっと……?ああ、なるほど。確かに舌先が少し赤く腫れてるみたいだね」

「でしょう?ですから多分……味覚の戻りが遅かったのもこのせいではないかと」

「そっか、そのせい……かなぁ……?」

「ええ、きっとそうですよ。ですから大丈夫です姉さま。火傷も味覚の戻る時間もすぐに治ると思います」


 うーん、そうか。舌の火傷が原因か。…………何かちょっと胸に引っ掛かるものがあるというか、違和感があるけど……まあ当人のコマがそう言うなら多分そうなんだろう。


「コマコマ。こういうのはさ、お砂糖を舌に乗せると痛みが和らぐし……あとははちみつとかも効くらしいよ。後で私が二つとも調理室からくすねてくるから試してみると良いんじゃないかな」

「い、良いのでしょうかそれ……?」

「あはは、気にしないで良いんじゃない?あそこ自由に使って良いって言われているしさ。とりあえず比較的軽い火傷っぽいし明日まで様子を見て、痛みが続いたりまた味覚の戻りが悪いようなら病院一緒に行こうねコマ」


 一応今のところそこまでの火傷ではなさそうだし、何よりコマ自身が大丈夫と言っているわけだし、私の気にしすぎかもしれない。あんまり心配しなくてもいいか。


「わかりました。……それにしても姉さまはとても物知りなのですね。凄いです。私、そう言う舌の火傷の応急処置の方法なんて知りませんでしたよ」

「い、いやぁそれ程でも。それよりコマ。急いで食べちゃおうよ。もう昼休みの時間も少ししかないし、5限目は体育だから急いで着替えないと遅刻しちゃうよ」

「ああ、そう言えばそうでしたね。雨でグラウンドが使えませんし、A組B組合同の体育でしたっけ」

「そうそう。だから早く食べちゃおうねー」


 一先ずコマの不調は様子見することにして、今は急いで次の授業に遅れないようにしなければ。不真面目で素行に問題アリな私が遅刻するならともかく、真面目で模範生なコマが授業に遅れたら大変だもの。

 そんなわけでコマを促して急いでご飯を済ませることにした私とコマであった。

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