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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
大学生の妹も可愛い
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ダメ姉は、未来を見据える(前編)

「――はい、はい……すみません。ですが自分で決めた道ですので。…………はい!ありがとうございます!頑張ります!それでは……失礼します!」


 お世話になった教授に全力で頭を下げて研究室を後にする私。


「ふー…………よしっ!」

「お疲れ様でしたマコ姉さま」

「おつおつマコ。その様子だと上手くいったみたいじゃない」

「ああ、お疲れコマ、カナカナ。待っててくれてありがと。うん、緊張したけど案外あっさりOK貰えた。……無事に学科変更が受理されたよ。問題無ければ来月から薬学科から栄養薬学科に転科出来るってさ」


 部屋から出ると最愛の妹兼最愛の妻のコマと最強で最強な親友のカナカナがお出迎えしてくれる。ピースサインを送りながら、心配してくれた二人に駆け寄る私。

 全員次の講義まで時間はある。ちょうど良い時間だしと食堂に立ち寄って、コマとカナカナに先の報告をしてあげる事に。


「諸々の手続きとか転科試験とか……その辺の問題は残ってはいるけど、単位とかは今まで取ってきたものが8割くらい使えるらしいし、転科試験もほぼ面接だけで良いらしいから心配しなくて大丈夫だって教授言ってたよ」

「良かったです。最悪一から受験し直しもあり得ると覚悟していましたからね」

「そうなったらマジで地獄だっただろうねー……」


 実は私、立花マコは……色々と思うところもあって。大学生活四年目を迎える直前に一大決心し、進路変更――もっと詳しく言うと学科変更を試みる事を決めたのである。


「しっかしまた……随分と思い切ったわねマコ。薬学科から栄養薬学科に転科とか、教授も勿体ないって嘆いてたでしょ」

「いやはや……私も思いきり良すぎかなって内心思ってるよ。カナカナの言うとおり、教授からも最初は止められたからね」


 ……急な学科変更。頑張れば後数年もすれば薬剤師国家試験も受けられたハズなのに、何故今になって?わざわざ転科試験を受けてまでどうしてその道を希望したのか?担当だった教授も不思議がっていた事だ。かくいう私ですら、多分他の誰かが自分と同じ事を言い出したら一度は止めるだろうなって思うし。


「わたしがとやかく言うべき事じゃないとは思うけど。マコはそれで良かったの?」

「んー、けどまあ……今更言うのもなんだけど。私が薬学とか性に合ってなかった感が否めないからね。今でさえ結構ギリギリだったし、ぶっちゃけ後3年やれたかどうかも怪しかったから良い機会だったと――」

「そっちじゃなくて。…………栄養薬学科って事は、あんたが目指す方向って、また料理関係に戻ったって事よね?……あんたはそれで良かったの?また……自分には料理しかないって思い込んでいるんじゃないの?」


 真剣に私を見つめ、『大丈夫か』と暗に問いかけてくれるカナカナ。つい最近、たった一ヶ月とはいえ……私が味覚障害を患った経緯を知っているカナカナとしては、また私が変な道に迷い込んでいるのではないかと心配なのだろう。

 ……親友のそんな優しさと気遣いに感謝の念を送りつつ、首を振ってこう答える。


「……カナカナ、それからコマも聞いて。私ね……大学受験する時ね。コマの志望校に行くってかなり躍起になってたんだ。覚えてる?」

「あー、あったあった。マコったら随分とまぁ無茶で無謀な道を選んだわねって……呆れを通り越して尊敬したわ」

「……ええ、覚えていますよ姉さま。そのお陰で……姉さまとのキスやらイチャイチャが受験期間中ずっと封印されて。そのせいで私も死ぬほど辛かったですし」


 ポンッと手を叩いて思い出してくれるカナカナと、しみじみと目を細めてそんな事を呟くコマ。あ、ああうん……そんな事もありましたねコマさんや……いや、その話はちょっとその辺に置いておいて貰うとしてだ。


「あの時はさ。コマと一緒の大学に行きたいって理由で、死に物狂いで受験勉強してたけど。……大学さえ同じなら別の学科…………それこそ今回転科する事を決めた栄養薬学科を受験すれば良かったハズなんだよ。その方がまだ受験も楽だったし。私の将来的にも合ってたハズだし」

「……そうね。その通りだわ。けどマコは……」

「……うん。コマと同じ学科を選んだ。唯一の特技である料理の道から……自分から離れてった。これって……どうしてか二人はわかる?」


 私のそんな問いかけに、コマとカナカナは眉をひそめて首を傾げる。


「どうしてって……そりゃあんた。コマちゃんと四六時中一緒に居たいから……でしょ?」

「……私の味覚障害が将来再発した時の為に、薬学を勉強したいと仰っていませんでしたっけ?」

「うん。そう。コマもカナカナもあってる。……でもね、それだけじゃないの」


 皆にヒミツにしていた事。もう隠す必要なんかないし、折角の機会だからと打ち明けてみる。


「私さ……怖かったんだと思う。料理以外の事が出来ない自分の事が。もし仮に料理出来なくなったら……何も出来なくなって……皆に見捨てられるんだって……怖かったんだと思う」

「……どういうこと?」

「自分でもバカだなーって今では思うけど。あの頃ってさ、まだ私……料理しか出来ないって思い込んでたわけじゃん?だから……無意識のうちにこう思ってたんだと思う。料理以外の事も出来るようにならないとって」


 料理は唯一の特技。けれどそれ故に……今回の味覚障害騒動みたいに何かのきっかけでそれが出来なくなったら?…………きっと私は何の能力も持たない、皆と――コマと並び立つことが出来ないただのお荷物になってしまう。きっと私はそれが怖かった。


「多少無理してもさ、料理以外でも出来る事を増やしたかったんだと思う。万が一に備えてのアフターケア的な感じかな。料理以外でも頼れるところがあれば……仮に料理が出来なくなっても皆から見捨てられずに済むんだって」

「…………バカねぇ、マコはホント……」

「…………あはは。今は自分でもそう思う」


 ホントバカだったよ。料理が出来ないくらいで……コマやカナカナたちが私の事を見捨てるハズないのにね。


「……でもね。今回の味覚障害の騒動で目が覚めた。目が覚めて……色々と自分を見つめ直すきっかけが出来たんだ。自分のやりたいこととかって何だろうって。夜も寝ないで昼寝して、そんでわかったの」

「……何がおわかりになったのですか姉さま?」

「やっぱ私……料理するの好きなんだって」


 見つめ直してわかったこと。どうやら特技とかそういうの関係なしに……私ってばコマの為に、皆のために料理をするのが好きみたいだ。味覚障害が戻り、コマにお料理を作り直してあげて……幸せそうに食べて貰った時の反応を見たら……それが改めて再確認出来た。


「私も、それからコマも含めて味覚障害もいつ再発するかわかんないし。そういう意味でも栄養薬学科で学ぶ事って結構多そうなんだよね。将来を見据えられて、趣味の補完にもなる。そう考えるとこの道もありなんじゃないかなーって思った次第でございます。……えと、どうかな二人とも?こんな理由でコロコロ進路変えちゃって……やっぱり考えなしだったかな?」


 恐る恐るコマとカナカナに尋ねる私。事前に簡単に二人には相談したとは言え、それでも少しだけ不安になる。どうかな……軽蔑されたりしてないかな……


「ん、悪くない。というか……寧ろマコにしては良く考えているんだなって感心したわ。もしもこれでまた……自分には料理の道しか残っていないからって理由なら止めてたかもだけど……そういう理由なら応援してあげたいってわたしは思う」

「素晴らしい考えで感激いたしました姉さま。……尤も、私は全面的に姉さまの言うことは正しいと思っていますし、姉さまがどんな道を選ぼうともどこまでもお供いたしますからご安心下さいませ」

「二人とも……うん、ありがと!」


 そんな不安な気持ちを吹き飛ばし、二人は笑って私の背中を押してくれているみたい。……良かった。本当に良かった。私頑張るよ、今度こそ間違えないように。今度こそ胸を張って……コマが、皆が好きでいてくれた……私らしい私であるために……頑張るよ。







「でも……そっか。これでマコは……コマちゃんとは違う学科になるわけね。学科が違うって事は……講義とかも別になっちゃう事も増えちゃうわけよね」

「へ?ああ、うん……そうなる……かな?」

「…………ちょっと。何が言いたいのですかかなえさま?」

「いーや?別にぃ?……これでまた、マコと二人っきりになれる時間が増えるわって思ったりなんかしてないわよ。あ、良い事考えた。わたしも正直マコと一緒の大学に通いたいって理由だけでここを受験したわけだし。なら折角だしわたしもマコと一緒に転科試験受けて転科しちゃおっかなー♪」

「はい!?い、いやいやいや!?何を言い出すカナカナさん!?」

「させませんよかなえさま……!そういう事なら私も姉さまと一緒の学科に行きますので!」

「コマもコマで何言ってるの!?ダメでしょそれは!?」

「マコさん……!お話は聞かせていただきました……!やはりマコさんはお料理の道を、私と共に歩む道を選んで下さったのですね……!」

「マコせんぱーい!あたしはどの道を選んでも先輩についていきますね!一生!」

「ちょ……せ、先生にレンちゃん!?君たち一体どこから……てかどうやってこの大学に…………うぉ!?な、なんか警備員さんが鬼の形相でこっちにダッシュしてきてるけど……まさか君ら無断で侵入したんじゃ――」

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