ダメ姉は、○○を失う(その4)
~柊木レンの場合~
「――マコ先輩!マコ先輩!これっ!このクッキー、マコ先輩のために作ってみたんです!良かったら……どうぞですっ!」
「おー、ホントレンちゃんは気が利く優しい後輩だねぇ。私如きのためにわざわざこんなに美味しそうなの作ってくれるなんて、レンちゃんの料理の師匠として鼻が高いよ。折角だし一緒に食べよっか」
「はいです先輩っ!喜んで!」
「ふんふん……色合いも形もお店で買ったものみたいに綺麗ね。レンちゃんも随分お料理とかお菓子作りが上手になったねぇ」
「えへへー♪マコ先輩のご指導のお陰です」
「ううん、レンちゃんが一生懸命だからだよ。そんじゃ早速……いただきまーす」
「いただきますっ!」
「――ふむ。中々いい口当たり。ホントにレンちゃん上手に…………ん?レンちゃん?どしたの?お顔が真っ青よ?」
「あ、あああ……あの……あのっ!?ま、マコ先輩……ご、ごごご……ごめんなさい!?あ、あたし……なんてものを先輩に食べさせて……!?」
「……え?な、なになに?どうしたって言うのレンちゃん?」
「む、無理して食べなくて良いですよ先輩!?こ、こんな塩辛いクッキー……とても食べられたものじゃないじゃないですか!?な、なんで……!?どうしてこんな事に……!?」
「え…………ッ!?あ、ああ……なるほどね。こ、これ塩クッキーかと思ったけど……レンちゃんのその様子だと違ったみたいね。多分だけどレンちゃん、お砂糖とお塩の分量逆にしちゃったんじゃないかな」
「……うぅ、絶対そうです……せ、先輩も無理にそんなパクパク食べないでくださいよ……あたしが責任持って処分しますので……」
「あ、ああいや大丈夫。出されたものはちゃんと食べるよ。他でもない、レンちゃんが私の為に一生懸命作ってくれたものだからね。あ、でも……いつも口酸っぱく言ってることだけどさ。今度からはちゃんと味見しようね」
「はいです……本当にごめんなさい先輩……」
「謝んないでいいって。あ、あはは…………(ボソッ)あっぶねぇ……危うくボロ出すところだった……」
~清野和味の場合~
「――和味せんせー!出来ました!ご試食よろしくお願いします……!」
「うむっ!相も変わらず惚れ惚れする手際の良さだ!それでは折角だ――あ、温かいうちに……いただきますね……マコさんの手料理……♪」
「はいですせんせー!食べてご指導お願いします」
「で、では…………ぁむ……ん、んー…………んー?」
「……え、あの……せ、せんせー?ど、どうです……か?」
「えと、マコさん……?お一つ聞かせて欲しいのですが。こちら……レシピ通りに作られたのです……よね?」
「え、ええ……寸分違わずせんせーのレシピ通りに……作りましたけど……」
「です、よね……?私も……マコさんの勇姿を一瞬たりと見逃すまいと視姦……もとい見守っていましたからマコさんがレシピ通り作られていたのは分かっています。……けど……んー……」
「あ、あの……せんせー?もしや私……何か失敗してたり……します……?」
「え?あ、いえ……失敗しているわけじゃないのですが……なんだか違和感が…………マコさん。良ければ……使った食材とか、調理道具とかも見てみても構いません……か?」
「は、はい……よろしくお願いします……」
「ええっと……使った食材は……うん、特に問題はなさそう。だとしたら…………これ、かな?ああ、やっぱり……」
「な、なにかわかりましたかせんせー……」
「え、ええ。どうやらこのお玉が原因のようですね……マコさん、恐らく隣の鍋用のお玉と間違えて……それでお皿に注いだ時にお玉に残っていた鍋の汁が微かにこの料理に混ざっていたみたいです……違和感はそのせいですね」
「あ、あちゃー……ホントだ……取り違って使ってたんだ……ご、ごめんなさいせんせー。私ったらうっかり……」
「い、いえいえ……料理そのものは完璧ですし……違和感と言っても私くらいしか感じないと思いますので…………ですが、珍しい……ですね。いつものマコさんなら……私に指摘される前に気づくかと思いましたのに……?」
「あ……あ、あはは……わ、私もまだまだって事ですよ……こ、これからもどうか至らぬ私を導いてください和味せんせー!」
~叶井かなえの場合~
「――お待たせカナカナ!ごめんねぇ、ちょっとゼミの教授に捕まっちゃってて遅くなっちゃったわ」
「ああマコ、お疲れさん。大丈夫、待ってはいないから」
「そんで?私に話があるって言ってたけどどうかしたんカナカナ?なにか悩みごととかあるならこの私が――」
「悩みごとぉ?そりゃこっちの台詞よマコ。あんたさ……どうかしたの」
「はい……?どうかしたのって……何の話……?」
「すっとぼけてんじゃないわよ。……あんたこそ何か悩みごとがあるんじゃないかって聞いてんの」
「…………ッ!!!?な、ななな……なにを……おっしゃるカナカナさん……わ、私はこの通り……毎度お馴染み悩みごとなど一つもない……ダメ人間筆頭でして……」
「嘘おっしゃい。長年あんたを追い求めてきたこのわたしの目は誤魔化せないわよ。普段のあんたと違って――ここ最近のあんたは口角が1ミリ、目尻が2ミリほど下がっているわ。これはマコが何か不安や悩みを抱いているっていう確かな証拠じゃないの」
「ミリ単位!?それはもはや誤差じゃないかね親友!?」
「じゃあ違うとでも?何の悩みもないんだってわたしの目を見て言える?」
「…………い、言えま…………すん……」
「どっちよソレ……」
「ま、まあ聞きたまえ我が生涯一番の親友よ。この世界にほんのちょっとの悩みや不安すら抱かぬ人間が存在しないって思うかい?私にだって花も恥じらう乙女なわけで。人並みに悩みの一つや二つくらいは……」
「あんたついさっき自分で悩みごとなど一つもないって言ってたわよね?」
「と、とにかくだ!私は大丈夫!し、心配してくれてサンキュー親友!愛してんぜ!コマの次に!」
「あっ、こらマコ待ちなさい!話はまだ――マコォ!!!」




