ダメ姉は、○○を失う(その1)
「――どういうことよ!?おヒメから聞いたわよコマちゃん!?マコへのオシオキと称して……マコにリアル痴漢プレイしてわからせたですってぇ!?どうして……どうしてそんな重要な任務にこのわたしを呼ばなかったのよ!?」
「呼ぶ必要性がないからに決まっているじゃないですか!?逆に聞きますがどうしてかなえさまを呼ぶ必要があるんですか!?」
「この自他共に認めるマッサージの達人のわたしにこそ相応しいイベントでしょうが!?わたしならコマちゃんよりもスマートにマコを気持ちよくさせられたわよ!」
「だからこそ貴女がやると冗談じゃすまされない事になるのは目に見えているじゃないですか!?あくまで痴漢は姉さまに危機感を抱かせるのが目的なんですし呼ぶわけないでしょうが!?」
「はへー……まーたあの先輩たち喧嘩してますねー。いっつも喧嘩しているくせに、よくもまああんなに喧嘩のネタが尽きないですねー」
「ま、マコさんを巡って……何をするにしても喧嘩できちゃう二人ですし……い、一周回って……仲良しと言いますか……お似合いじゃないかと思っちゃいますよね……」
「冗談じゃないのはこっちの台詞よ……!そんな尤もらしい事を言いながらコマちゃんだって、ちゃっかりマコとのプレイを楽しんでたんでしょうが!わたしにはわかるんだからね!?」
「ち、違いますけど!?過程はどうあれ私はちゃんとマコ姉さまの悪癖を治そうとしていましたけど!?」
「悪癖…………あ、そうだ。ちょうどよかった。あのー!そこでいつもみたいにくだらない喧嘩をしているお二人に以前から聞こう聞こうと思ってたことがあるんですけどー!」
「く、くだらな……!?」
「い、言うようになったわね柊木……」
「悪癖で思い出したんですけど。あたし、ずっと気になってて。でも聞くタイミングがなかったことがあるんですよね。良い機会なんで聞かせて下さい。あたしの気のせいかもなんですけど…………マコ先輩ってなんか自己評価低くないですか?」
「……あら」
「……へぇ」
「あ……わ、私もそれは前々からちょっと気になっていました……なんかマコさん……凄くご自分を卑下されるんですよね……あんなに素晴らしい料理の腕と志を兼ね備えておいて『自分は何にも出来ない』っていつも口癖みたいに……」
「ですです!あたしにとってはあんなに優しくて素敵で綺麗で可愛くてかっこいい理想の先輩なのに。私がいくら称えても『私なんかダメ人間だから』って自分で自分を否定しちゃうんです。そこだけはあたし……先輩のこと嫌いなところです。コマ先輩、かなえ先輩。何か知ってたりします?」
「「あー……」」
「流石ですね。何だかんだこの二人も……姉さまとの付き合いが長いだけにちゃんと姉さまの事を見ているんですね」
「そうね。よく見ているわね。……まあ、なんと言うか。色々マコにも事情があるのよ事情が」
「むー?なんですかそれ。何か先輩たち二人だけ理解しているみたいですけど……教えて下さいよぅ」
「かなえさまの言うとおり、色々あるのですよレンさま。…………ですが。実際、私もいずれどうにかしたい問題だと思っていました。根が深い問題ですが……何か解決のきっかけになるような出来事でもあれば良いんですけど……」
◇ ◇ ◇
「ふんふふんふふーん♪」
今日も今日とて愛するコマの為。唯一と言っても過言ではない特技である料理の腕を活かして絶品料理を作成中の私……立花マコ。いつものようにキッチンに立ち、鼻歌交じりにコマの喜ぶ可愛い顔を思い浮かべながらジュージューといい音を鳴らして調理に励む。
「ふっふーん!良い感じ良い感じ。焼き具合もパーフェクトと言わざるを得ないね!」
大学生になり見聞が広がったこと、そして和味先生の個別授業も厳しさを増したこともあり、料理のレパートリーがまた増えた。お陰で大変ありがたいことに、コマにいつ如何なる時でも最適の……そして最高の料理を提供できている。さあ、今日もコマに美味しいって喜んで貰えるように頑張らなくっちゃ。
「よーし、我ながら会心の出来だわ。とりあえず見た目は完璧だね」
あっという間に一品目の料理が完成。出来映えは……うむっ!焼き色も火の通り具合もバッチリのパーフェクト。お店に出せと言われても自信を持って提供できちゃいそう。
「そんじゃ忘れちゃならない味見を――」
とはいえ、見た目だけよくても慢心ダメ絶対。こういうのはちゃんと食べるまではわかんないもんね。そう思いながらコマにお出しする前に、しっかり味見しようと一口頬張ってみる。
まあ、そうは言ってもキッチリレシピ通りに作ったし、何よりもコマへの愛情を目いっぱい注いだから何も問題は――
「…………あ、れ?」
そこで私はとある異変に気づいてしまう。いつものように作ったし、レシピ通りに作った。見た目はちゃんと出来ているっぽいし……覚えている範囲ではミスらしいミスもしていない……ハズ。だと言うのに……圧倒的に何かが欠けている。
「…………あ、あはは……調味料……入れ忘れた……かな……?」
不気味な違和感を払拭するように頭を振り、自分を誤魔化すように私は塩や砂糖を慌てて棚から取り出す。取り分けた味見用の料理にそれらを適当に振りかけて……恐る恐る改めて食べてみるけれど…………
「…………変わらない……?」
それでも結果は変わらない。さっき食べた時と……何も変わらない。まさか……いや、そんな……
今日は割と暖かいし、何よりさっきまで料理をしていた私は寧ろ熱いはずなのに……自分の中でなんだか得体の知れない恐怖がじわじわと浸食し肌寒くすら感じる。それでも私は自分の状態を正確に確認するために、意を決して……持っていた塩と砂糖を交互に舐めて――
「…………嘘、でしょ……」




