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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
大学生の妹も可愛い
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ダメ姉は、大人を語る

 どんな時でも元気爆発、エネルギーの塊みたいな可愛いワンコ系後輩である柊木レンちゃん。何を間違ったのか私のようなダメ人間を慕う彼女は、私やコマが大学生になってからも以前のように仲良く交流を続けている。


「マコせんぱーい!朝のお散歩はきもちーですねー!」

「ぜぇ……ぜぇ……そ、そう……ね……陸上長距離の……アスリートレベルの……散歩じゃなきゃ……きもちいい、かもね……ぜぇ……」


 例えば……毎朝彼女に呼び出されて一緒に(10㎞ほど)お散歩したり。


「せんぱーい!次!次をよろしくおねがいしまーすっ!」

「ま、まって……れんちゃん……もう、私……肩……あがらな……せめて、休憩……を……」


 休みの日には公園で(私が倒れる寸前まで)キャッチボールしたり。


「えへへー♪先輩!せんぱいっ!もっと!もっと撫でてください!」

「あの……レンちゃん……?そろそろ終わりにしない……?それ以上やったらレンちゃんの髪も逆に傷みそうだし……私の手もすでに限界突破してるんだけど……」


 時には(私の手の感覚がなくなるまで)ブラッシングしてあげたりと……

 …………なんか後輩と言うよりもペットと戯れている感が凄いけど。でも……まあうん。本人がそれを望んでいるわけだし良しとするとしよう。


「……マコ先輩。今日は先輩にお願いがあって来ました」

「お、おう……改まってどうしたのレンちゃん?」


 さて、そんなレンちゃんが今日も今日とて私に会いに来てくれたんだけど……どうしたことかなんだかいつもと違った様子。何やら私にお願いがあると、珍しく表情を強ばらせながら彼女はそう告げてくる。


「もしかしてレンちゃん、何か悩みごととかあるのかな?」

「……はい」

「それは……私が聞いてもいいこと?」

「寧ろ、先輩だからこそお願いしたいことです」


 とても真剣な目で訴えてくるレンちゃん。なんだか……最初にレンちゃんと会った日のことを思い出すなぁ。初めて会った時も……レンちゃんは私にお願いしたいことがあるって私を尋ねてきたっけ。ここは……先輩として力になってあげたい。


「そっか。私に解決出来る問題なのか分からないけど……それでも可愛い後輩の頼みだもんね。私で良ければ相談に乗るよ」

「マコ先輩……!」


 私のその一言に、強ばっていた表情を和らげていつものキラキラした笑顔を見せてくれるレンちゃん。うんうん、やっぱりキミはこうでなくっちゃね。


「先輩ならそう言ってくれるって信じてました!ありがとうございます!これで悩みも解決したも同然ですね!」

「こらこらレンちゃん?相談には乗るけど私に解決出来るかどうかはわかんないって言ってるでしょ。とにかくまずはその悩みごととやらを教えてちょうだいよ」

「あっ……そ、そうでしたね!すみませんあたしったらつい浮かれちゃって肝心なことを言ってませんでしたね!で、では……遠慮なく先輩にお願いします!」


 そうしてレンちゃんは咳払いをして、私にこうお願いする。


「マコ先輩……あたしを――大人の女にしてくださいっ!」



 ガシャァアアアアアアアン!



「――今まではいたいけな後輩の皮をかぶっていたようですのでそれなりに見逃してあげていましたが。とうとう本性を現しましたね。残念ですよレンさま……貴女のような後輩を失うのはね……」

「へ……?コマ先輩……?」

「れ、レンちゃん逃げて!?今すぐにげて!?そしてコマ、落ち着いて!?多分コマが思ってるような事じゃないから!誤解だと思うからおちついてぇ!?」


 レンちゃんの大胆発言が言い放たれた瞬間。タイミング良く――いいやこの場合はタイミング悪くか?私にお茶菓子を持ってきたコマがやって来てしまった。コップやらを盛大に床にぶちまけ、持っていたケーキを切り分ける用のナイフを片手にレンちゃんへと迫るコマ。そのコマを抱き止めながらレンちゃんに一時退避を命じる私。刃物は!刃物はマズいって……!?



 ~マコ説得中:しばらくお待ちください~



「――と言うわけです。あたしって……高校3年生になっても未だに学校の皆から『子どもっぽい』ってバカにされるんです。成長していないって言われているみたいで悔しくて……だからあたし、一足先に大人になった先輩に……どうやったら大人の女になれるのか聞きたいって思いまして」

「な、なるほど……それで『大人の女にしてください』ってことね……」

「…………紛らわしい発言はやめてください。危うく前科が付くところだったではないですかレンさま」

「寧ろコマ先輩は何と勘違いしたんです……?」


 どうにかコマを落ち着かせ。改めてレンちゃんに話を聞いてみると……案の定誤解だったことが判明する。良かった……コマに前科が付くような事にならなくてマジで良かった……


「それにしても……大人の女かぁ。ねえコマ?大学生って大人って言えるのかな?」

「そうですね…一応二十歳を越えましたし、法律上は間違いなく成人と言えると思いますが……」


 コマの言うとおり法律の上では確かにその通りなんだろうけど……でもぶっちゃけ自分が大人だってあんまり思えないんだよなぁ……


「教えてください先輩!どうやったら大人になれますか……!?」

「と言われてもなぁ……」


 正直レンちゃんは相談する人選をミスっているとしか思えない。未だに小学生並みの身長と顔たちの私から言わせて貰うと……寧ろ私の方がどうやったら大人の女になれるのか知りたいんだけど……


「んーと。じゃあとりあえず大人というか……大学生になってから出来るようになった事とかレンちゃんにお話ししてみようか」

「よろしくおねがいします!」


 とは言えレンちゃんも藁にもすがる思いで私なんかに相談しているのも事実だし無碍にするのも可哀想だ。あんまり参考にはならないかもしれないけど……まあ何も無いよりはマシかと思いながらお話ししてあげることに。


「まず……ありきたりだけどお酒が飲めるようになったよね」

「ですね。と言っても、私はほとんど飲めませんが」


 二十歳になってからはちょくちょくお酒を飲む機会が増えた。飲み会に誘われたり仲の良い友達と宅飲みしたりビアガーデンで飲んでみたりとか。そういやつい最近もコマやカナカナたちと一緒にお酒飲んだっけ。


「お酒……!大人の代名詞みたいなものですよね!確かマコ先輩ってすっごくお酒に強いって聞きました!かっこいいです!やっぱりお酒って美味しいんですか?」

「「…………うーん?」」

「あれ?美味しくないんです?」


 改めて聞かれると……どうだろ?合うお酒は合うんだけど……独特だったり苦みがあったりで……あれは雰囲気で飲んでるって言うか……アルコールの酩酊感を楽しんでいるだけというか……


「まあうん。そこは大人になって飲んでみてのお楽しみって事で。…………一応言っておくけど。二十歳になってから飲むようにねレンちゃん。間違っても未成年の飲酒はダメ絶対。先輩との約束だよ」

「はーい先輩!」


 素直で宜しい。レンちゃんが大人になったなら、お祝いに一緒に飲もうね。


「そう言えば先輩たち。お酒は飲まれるみたいですが……たばこは吸ったりしないんですね。あれもお酒と同じように大人にならないと吸えないものですけど」

「たばこ?ああ、うん。吸わないね」

「ゼミの教授や先輩、同級生は吸われている方も身近にいるにはいますけどね」

「そうなんですね。先輩たちって吸いたいって思ったりしないんですか?」


 たばこか……周りに喫煙者もそれなりにいるし、美味しそう(?)に吸っているのはよく見かける。


 別に吸うことが悪い事だとは思わないし、吸いたい人は健康状態にさえ気をつけておけば吸いたいように吸えば良いって思ってるけど……


「私は吸わなくていいかな。だって私の場合は……料理するからね。たばこのせいで味覚がちょっとでも代わっちゃったら料理が下手くそになりそうだからね」

「たばこって味覚を鈍くするとも言われていますからね。流石、姉さまらしいです」

「そういうコマ先輩は?吸わないんです?」

「私ですか?吸いませんよ。吸いたいと思った事もありません。だって……」

「だって?」

「マコ姉さまとキスする時に……たばこ臭くて嫌がられたら困りますし」

「……むー。ノロケですかコマ先輩……いいなぁ……」


 あの……コマさんや?レンちゃんの前でそういう事言うのやめて……恥ずかしいからさ……


「あ、あと二十歳関連だとアレだよね!成人式!ついこないだ私とコマは行ってきたんだよ!」

「そうでしたね。久しぶりに旧友の皆さまと会えて楽しかったですね」

「そうそう!タイムカプセル掘りに行ったりとかしてすっごい楽しかった!」


 気恥ずかしさを隠すように成人式の話題に切り替える私。成人式こそ大人にならないと出来ない事の一つだもんね。


「へぇー成人式ですか。確かに昔の友達と会えるのは楽しそ――ん?成人式……?え、ちょ……待ってください先輩方……も、もしかして成人式と言うことは……まさか……!」

「???まさか……何かなレンちゃん?」


 と、成人式の話題の途中で何かに気づいたのか慌てた様子を見せるレンちゃん。どうしたんだろう?


「…………ふふふ。レンさま。分かりますよ。貴女が何を考えているのかを。その通りです。私も、そして姉さまも。ちゃんと着ましたよ――振り袖を」

「やっぱりですか!?そ、その時の写真は!?マコ先輩の振り袖姿の写真とかはないんですか!?」

「げ……ふ、振り袖って……や、やめようレンちゃん。そんなもの見ても面白くもなんとも……」

「仕方ないですね……特別ですよ。はい、こちらになります」

「こ、これが……マコ先輩の振り袖姿……ッ!」

「やめようって言ったのに……」


 コマがスマホのギャラリーを開いてレンちゃんに見せつける。そこには成人式で振り袖を着た私が……いいや、端から見れば七五三に向かう子どものような私が撮されていた……

 自分で言うのも何だけど……これのどこが成人だと言いたくなるね……子どもか私は……


「あーもうコマ!?こんな写真消してって言ったのに酷いよ!なんでこんなもの取っておくのさ!?」

「とてもよくお似合いですし、最高に輝いていましたので♡」

「こんなの見せられちゃレンちゃんも困るでしょ!……ね?そうだよねレンちゃん。反応に困っちゃうよね?」

「……ですね。困っちゃいます」

「ホラ見たことか。レンちゃんもこう言っているし、即刻その写真は処分を……」

「今月お小遣いピンチなのに……買う以外の選択肢がないじゃないですか……!コマ先輩。こちらのデータ……おいくらなんですか!?言い値で買います……!」

「非売品です♡例え写真であろうと姉さまは未来永劫私だけのモノです♡」

「レンちゃん?コマ?」


 消してって言ってるのにこの子たちは……


「ま、まあともかくだ。とりあえず二十歳になってからはこんな感じの生活を送ってるよ。あとは……コマと一緒に友人のライブハウスでライブを聴いたりタコパしたり……」

「ナイトプールで姉さまと熱い夜を過ごしたりもしましたね」

「そっかぁ……良いなぁ、大人って凄いなぁ……私も早く大人になりたいなぁ……」


 話が脱線しかけていたのでどうにか軌道修正しつつ大学生活を語ってみた私。話を聞いたレンちゃんは、私たちを羨ましげに指をくわえている。


「……んー。なんかアドバイスらしいアドバイスが出来なかったっぽいし。先輩としてちょっとレンちゃんに言わせて貰っても良いかな?」

「えっ?あ……はいお願いします!」

「色々語らせて貰った後で言うのも何だけどね。お酒が飲める=大人とか。そういう大人のお店に行ける=大人とか。レンちゃんは思っているのかもしれないけど……それって違うと思うんだよね」

「と、言いますと……?」

「私もコマもさ。学費やら何やらを保護者である叔母さんに負担して貰っているわけで。そう考えるとまだまだ大人とは言えないんだよ」

「あー……なるほど。姉さまの仰っている事、私なんとなく分かります。まだまだ子どもですよね私たちって」


 私の意図を理解してくれたのか、コマも同意してくれる。私的には正式に働いてもいないのは大人だとは言えないと思うわけで。


「ねえレンちゃん。この前言ってたよね。確か高校卒業後は……進学しないで就職するつもりだって」

「……ですです。本当は先輩と一緒の大学に行きたかったですけど……流石にマコ先輩たちと同じ大学に行くのは……あたしの学力的に厳しすぎましたので……それで泣く泣く就職の道を……」

「それだよそれ。私ね。そういう意味だとレンちゃんの方がよっぽど大人と思うわけよ」

「???どうしてです?」

「だって考えてもみなよ。将来やりたいことがまだ見えてすらいない、保護者におんぶに抱っこな私よりもさ。年下でも高校卒業してすぐに就職してさ、自分の力でお金を稼ごうとしているんだよ?これって凄いことだよ」

「そ、そう……ですか?」

「うん。胸を張って良いと思う。『子どもっぽい』ってバカにされてたって言ってたよね。……私はそうは思わない。立派だよ。胸を張って良いよ。この私が保証してあげる。レンちゃんは……私の自慢の後輩だよ」

「マコ先輩……!」


 そう語った私を前に、レンちゃんはみるみるうちに元通り。いつも通りの元気なレンちゃんになってくれる。


「あ、ありがとうございますマコ先輩!ついでにコマ先輩もありがとうです!「ついで……?」なんだかあたし……吹っ切れました!」

「そかそか。それは良かったよ」

「はいっ!他の人にどう思われても……知った事じゃありません!先輩がそんな風に言ってくれるだけで十分です!」


 あんまりアドバイスらしいアドバイスは出来なかったけれど。それでも可愛い後輩の元気は取り戻せたみたいだし良かった良かった。やっぱりレンちゃんはこうでなくっちゃね。







「……と言いますかレンさま。『大人の女』になりたいと仰っていましたが……貴女、すでに大人の女になっていると思いますけど」

「へ?どうしてですかコマ先輩」

「いや、だって貴女……まだ18なのに私たちのラブホ女子会に無理矢理付いてきたじゃないですか。高校生でそんな場所に侵入している時点で……ある意味クラスの誰よりも大人の女になってしまっているのでは?」

「…………確かに!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] い、いい話だったのに最後のを言っちゃあ、おしめぇよ レンは酔ったマコには会っていないのか、会ってたら今回の話はなかったもっと酷くなってたなぁ(笑)
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