ダメ姉は、飲み会で飲酒する
~SIDE:コマ~
大学生になり、随分時間が経ちました。マコ姉さまの頑張りのお陰で一緒の大学に通うことが出来た私こと立花コマは……姉さまと共に大変充実した大学生活を送れています。
まず学業に関しては中学高校とはまた違って、より高度で幅広い専門知識や専門技術が必要になりました。テストや実験、レポート作成などは中々大変ですが……授業を通じて姉さまと共に将来生きていく力を身につけられている実感を得られています。
大学生活と言えばサークル活動が定番です。かくいう私も例に漏れずサークルに所属させて貰っています。私たちと共に大学に通う、永遠の恋敵であるかなえさまと一緒に高校時代の延長で大学に入っても新たに申請し立ち上げた『新・立花マコを愛でる部活』——通称マコラ部でかなえさま並びに新たに勧誘したマコ姉さまを慕う方々と切磋琢磨しながら、日々マコ姉さまの素晴らしさを布教しています。
私生活は言うまでもなく、毎日がパラダイスです。マコ姉さまとの二人暮らしは……それまもう大変刺激的。ちょっと二人で朝まで愛し合いすぎて……危うく遅刻しかけたことが何度もあったり。その他にも二人で映画を見に行ったりお買い物したり、小旅行を楽しんだり……あとはかなえさまが率いるいつもの姉さまを奪おうとする連中と一線混じり合ったりと……
とにもかくにも学業・サークル・私生活と……楽しい大学生活を送っている私。不満らしい不満などは全然…………ああ、いや隙あらば姉さまを奪おうとするかなえさまたちの悪行への不満はありますがそれは置いておくとして…………不満らしい不満はほとんどありません。
それでも敢えて、敢えて不満を打ち明けるなら——
◇ ◇ ◇
「——コマちゃん、この後どーう?」
「折角だし二次会行こうよ、勿論俺らの奢りだよ」
「明日休みだしさ、パーっと遊んじゃおうよ」
「もうしわけございません。明日は予定がありますのでご遠慮させていただきます」
新歓、サークル、ゼミ、女子会にetc.……大学に入り、様々なコンパに誘われる機会が増えました。ミスコン優勝も拍車をかけたようで、私に興味を持った男性から言い寄られる事が度々あります。
一応そういう事は昔からありましたので、あしらい方はそれなりに分かっています。ですので通常であれば角が立たないようにお断り出来る私。
……ただ、ちょっとだけ大学生になってから困った事が増えてきまして……
「ところでさーコマちゃん飲んでるぅ?」
「あれー?もしかしてそれ烏龍茶じゃない?」
「遠慮してる?酔っても俺ら送ってあげるから飲んで良いんだよ」
「い、いえその……私はあまりお酒に強くありませんので……」
成人されている方々からナンパされる際に、一緒にお酒を勧められるようになった私。先述の通り普通のナンパならなんとかお断り出来るのですが、お酒の席でお酒が絡んだナンパの場合だけは例外でして……
「へー?意外だわ、あいつと違ってコマちゃんってお酒弱いんだ。でも、折角飲み会に来てくれてるわけだしちょっとくらい良いんじゃなーい?」
「だいじょーぶ!お酒ってものはね、たくさん飲めば慣れていくもんなんだよ!こういうの慣れておけば将来絶対に役に立つよ!」
「あ、もし潰れたら俺が介抱してあげるよ!つか俺の下宿先この近くだからさー、何かあってもお泊まり出来るよ!だからさ、ほら……一緒に飲もうよ」
「で、ですから本当に私お酒は……」
困りました……昔からお酒にめっぽう弱く、少しでも口にしようものなら記憶をなくして姉さまに迷惑をかけてしまっていた私。姉さまからも『コマは私と二人っきりの時以外がお酒飲むの禁止』と言われています。
その為か私はどうにもお酒に苦手意識があるみたいで。こういう風にお酒をの席で強引に来られると上手くあしらう事が出来なくなってしまいます。そうこうしているうちに、半ば強引にグラスを持たされお酒が注がれてしまって……
「「「はい、それじゃコマちゃんかんぱーい!」」」
「あ、あの……!」
無理矢理乾杯させられて、期待を込めた目を向けられる私。どうしましょう……飲むまでは帰さないぞと言わんばかりの彼ら。断ってもきっとあの手この手で私に飲ませようとしてくることでしょう。ならば……一口だけ嗜む程度で飲むしかないのでしょうか……?
渡されたグラスを一瞥する私。そうして深呼吸をし、覚悟を決めてグラスに口を——
「…………はいそこまで。コマ、それ私にちょうだい」
「えっ……あ……♡」
「もう大丈夫だよコマ。ったく……貴様ら人の大事な妹になにやっているんだか」
「「「げっ!?ダメ姉……!?」」」
口を付けようとしたところで、私のグラスを受け取って。そのまま一気にお酒を飲み干したのは……私のヒーロー……いえ、私の双子の姉のマコ姉さまでした。
「あのさぁ……飲めないってコマも言ってたのに何で無理矢理飲ませようとしているわけ?しかもこの酒、結構強いよね?お酒に弱い人にこんなものを飲ませるつもりだったの?……まさかと思うけど、コマを酔い潰そうとしてたわけじゃあるまいね?」
「「「ぅ……」」」
私を庇うように私の前に立ち、お酒を勧めてきた男性たちに棘のある一言を放つ姉さま。あれだけ強引に迫っていた彼らも、姉さまの圧に耐えられずタジタジです。
「な、何だよ……ちょっと乾杯しようとしただけじゃねーか白けるなぁ……」
「お、俺らはただコマちゃんと交流しようとしてただけだっての……」
「くそぅ……過保護すぎだろ……あいつさえいなけりゃ上手くいってたのに……」
姉さまの出現に、悪態をつきながら席を離れるナンパたち。私はほっと胸を撫で下ろします。
「待ちなよ。そんなに飲みたきゃ……コマの代わりに私が付き合ってあげようか?」
「い、いや……俺らは別に……」
「立花と飲んでも……なぁ?」
「コマちゃんと飲むならいざ知らず……立花と飲んだところでなぁ……」
「まあそう言うなって。折角だしちょっとゲームしようよ。飲み比べゲーム。君らが勝ったら……コマと一緒に飲むことを許してあげる」
「「「マジで!?」」」
ところが……そのナンパたちを姉さまは呼び止めて、こんな事を言い出しました。
「その代わり……君らが負けたら今後一切、コマにお酒を勧めない事。ついでにコマに二度と近づかない事。これでどう?」
「「「乗った!!!」」」
「上等。そんじゃ早速始めようか。…………ああ、時間も惜しいしちまちま飲むのも面倒だからさ、この店で一番強い奴持ってきてよ。さっさと終わらせて楽しい飲み会にしたいからね」
「ハッ!言ってくれるじゃねーか!」
「へへへ、返り討ちだぜ!」
「ちゃんと約束は守って貰うからな立花!」
「ね、姉さま……?あんな約束して大丈夫なんですか……?」
姉さまの突然の提案に困惑する私。けれど姉さまは私ににっこりと、私の大好きな……とっても安心する笑みを浮かべてこう宣言します。
「大丈夫。コマは私が守るから」
~30分後~
「「「…………」」」←死屍累々
「はん……っ!雑魚共が。この程度で私からコマを奪おうなど片腹痛いわ」
そうして突如始まった飲み比べゲームの結末は……マコ姉さまの文句なしの圧勝でした。一対三の圧倒的不利な条件下で宣言通り私を守ってくれた姉さまは……本当にかっこよくて素敵でした……♡
「うーっし、そんじゃコマ。あとは二人で楽しく飲み直そうねー♪勿論コマはソフトドリンクだからね!……お姉ちゃんはちょっと、この三人を片付けてからすぐ戻るよ!先に飲んでてねー!」
「は、はい!お待ちしています姉さま!」
酔い潰れた三人を邪魔にならない端っこにズルズル引きずっていく姉さま。ああ……最後までなんて凜々しいお姿なのでしょう……姉さまが姉である事を私は誇りに思いますよ……
「はー……すっご。相変わらずマコはお酒に強いわねぇ」
「ああ、かなえさま……今の見ていらしたんですか」
そんな姉さまに見とれて惚れ直していたところで。別のところで飲んでいたかなえさまがやって来て私に話しかけてきました。
「見てて惚れ惚れする飲みっぷりだったわね。わたしもそれなりに強い方だけど……あれだけの高い度数のお酒をあんなに飲むとか無理だわ。おまけにあれだけ飲んでおいて顔色一つ変わってないし酔ってもいないとかどうなってるのよマコは」
「あはは……どうも姉さまはうちの叔母に似ているみたいですね。叔母と違ってこういう場所以外では飲まれないみたいですが……飲んだらうちの誰よりもお酒に強いんですよね」
その逆で、私は絶縁した母に似たみたいでお酒に滅茶苦茶弱いんですが。双子でもこういうところで違いって出てくるものなんですね……
「ある種の才能よね。てか、あれだけ飲んでも酔えないって事は……マコの酔った姿は今後拝めないって事かしらねー。残念」
「…………え?」
かなえさまから発せられた何気ない発言。その一言に私は心打たれます。
「…………マコ姉さまの、酔った……お姿……?」




