ダメ姉は、かけ声をあげる
晴れ渡る空と心地良い風吹く本日。待ちに待った私とコマ、カナカナの三人が通う大学の学園祭が幕を開けた。
普段通い歩く校舎の至る所に様々な出店が立ち並び。学びの場である講堂や教室はスタンプラリーやお化け屋敷、喫茶店や研究展示などが盛りだくさんだ。有名大学の学園祭ということもあり、始まったばかりだというのにすでに大盛況。チケット制を導入し人数制限しているにも関わらず一体どこからこれだけの人が集まっているのやら。押し寄せてくる人の波に呑まれそうになるのをコマとカナカナにかっこよく助けて貰いながら、学園祭を堪能する私。
「ふひー……話には聞いてたけど、人がいっぱいでホント凄いね。コマ、カナカナ。二人ともありがとね。二人がいなかったら今頃あの人集りに流されて楽しむどころじゃなかったよ」
「いえいえ。姉さまに立ちはだかるあらゆる脅威から守るのが最優の妹である私の使命ですからね。これくらいお手の物ですよ。……もっとも、もっとも危険な脅威を排除出来ないのは残念ですが」
「気にしないで。いつでもわたしがあんたを守ってあげるわよマコ。ついでにちょっと過激で独占欲強めな妹からの過剰な愛からも守ってあげるわ」
「「~~~~~~ッ!!」」
「今の会話の流れでどうして君たちはいつもみたいに喧嘩出来るのかね……?」
とりあえずコマにカナカナ。楽しい学園祭が台無しになっちゃうから二人ともやめなさい。
「っと……ねえコマ。そろそろ準備に行かないとミスコンが始まっちゃうんじゃない?」
「え……?あら、もうそんな時間でしたか。控え室に行きませんとね」
いつも通り仲良くじゃれ合う二人を宥めていると。校舎の大時計がミスコンの集合時間三十分前を指し示していることに気づく私。着替えとかの時間を考えたらぼちぼち行って貰わないといけないよね。
「では……マコ姉さま。見ていてくださいませ、私の勇姿を。姉さまから授かった……この天女の羽衣にも匹敵する勝負服と共に、姉さまに勝利を届けます」
「うん!頑張ってねコマ!カナカナと一緒に観客席で応援してるよ!」
「はい、頑張りますね。……それとかなえさま。不本意ではありますが。私が離れている間はマコ姉さまの事を頼みます。間違っても、姉さまに変な事はしないように」
「前半に関しては言われるまでもないわ。約束してあげる。ミスコン頑張ってる間はマコのことは任せなさいなコマちゃん」
「あの……私としてはかなえさまには後半こそ約束して欲しいところなのですが……?ほ、ホントに頼みましたからね……?」
物言いたげな顔をしながらコマは控え室へと向かっていった。さて、コマも戦場に向かった事だし私たちも行くとしますかね。
「そんじゃカナカナ。私たちも行こっか」
「ええそうね。お邪魔虫も消えた事だし……あの子がいない時間を有効活用してご休憩出来るところに行きましょうねマコ」
「待てや親友。どこに私を連れ込もうとしてるんだ」
コマがいなくなった途端。大学から抜け出そうと私を引っ張ってくるカナカナ。気のせいでなければ向かう方面にあるのはホテル街が立ち並ぶ場所ときた。流石カナカナ、コマが警告した側からこれですよ……
「なーんて、冗談よ冗談。四割くらい冗談だから安心しなさいマコ。折角学園祭に来てるのにそんな場所に行くのは勿体ないものね」
「過半数は本気ときたか……ま、まあそれは置いておくとして。ほら、コマの応援に行くよカナカナ」
そんな感じで親友と冗談を言い合いながら、ミスコンが開催される野外ステージに足を運ぶ私。辿り着いた会場は、すでに観客が大勢入っていた。
「おお……ただでさえかなりの人数が学園祭に来てるのに、ここはまた滅茶苦茶多いねぇ」
「そらそうよ。何せ有名声優を司会に呼び、有名アイドルのライブが行われ、そしてコマちゃん含めレベルの高い女子たちが出場するミスコンが開催されるからね」
そりゃ人も集まるわけだわ。ちなみにここ目当てに学園祭のチケットを狙う輩も少なくないらしい。一部ではオークションにかけられているんだとか。
「そういやさ、マコ。あんたよくコマちゃんがミスコンに出場する事認めたわよね」
「んー?と言うと?」
二人で空いている観客席を探していると、不意にカナカナがそんな事を言ってくる。
「てっきりわたしはマコのことだし『コマを衆愚の前に晒してなるものか……!』って嫌がるんじゃないのかって思ってたから意外だったわ。ただでさえ大学に入って毎日のように男連中にコマちゃんナンパされてるじゃない?ミスコンに出たら今以上にコマちゃんを狙うナンパが増える可能性もあるってのに……よくもまあマコがコマちゃんの出場を認めたなって思ったわけよ」
「なるほどね。……まさしくその通りだよ。コマを応援したい気持ちは勿論あるけれど……コマを変な目で見る輩共は抹殺したいと思ってる」
「でしょうね。それなのにわざわざコマちゃんのミスコン用の衣装を作って素直に応援するなんてどういう心境なのかしら?もしかして……何か企んでたりする?」
流石私の大親友……私の事をよくわかっているじゃないか。
「そこはまあ、見てのお楽しみって事で。それより今はコマの応援しようカナカナ。おっ……ちょうど良いところに二つ席が空いてるっぽいよ」
「……なーんか嫌な予感がするわね。まあ、別にいいんだけどね」
二人分の空いている席を発見し、カナカナと一緒に腰掛ける。うんうん、ステージからの距離も悪くない。これならベストショットが期待できそうだ。
「って言うか……そういうカナカナこそミスコンに出ないの?うちのコマは実行委員にせがまれたのがミスコン出場のきっかけだったんだけど……話を聞いてたらカナカナも同じように『是非とも出場してください』って懇願されてたらしいじゃん」
コマとはまた違った顔の良さを持つカナカナ。元々コマ同様に大変人気な彼女だけれど、大学入学してからその人気は更に磨きがかかっている。折角ならコマと二人で出場したら良かったのに。
「あー……うんまあ、ね……確かに実行委員からお呼びはかかったわよ……」
「んー?なにその微妙な反応は?何かあったの?」
「…………それが……何故かミスコンじゃなくて、ミスターコンに出場してくださいって言われてね……」
「…………ごめん」
「…………マコが謝る事じゃないわ」
気まずくなって思わず二人顔を伏せる。……何考えてんだ実行委員……いや、確かにカナカナは容姿も性格もその辺の男どもよかよっぽどイケメンで、ミスターコンに出場したら女の子たちのハートを射貫いてダントツで優勝しちゃいそうだけどさ……
『——はい、それではいよいよ皆さまお待ちかね!今年のミスコンテストを開催致します!』
そんなお通夜みたいな私たちをよそに。ノリの良い司会のアナウンスが会場に響き渡る。同時に待ってましたと言わんばかりに、大勢の(※主に男性客の)野太い歓声があちこちから上がった。
『まずはルール説明です!出場する女の子たちは事前に各々が用意した衣装を纏って舞台に上がって頂き、自己紹介と簡単なアピールを行います。アピール後に我々運営スタッフから女の子に簡単な質問をさせていただきます。そして……審査方法は得点方式!皆さまの投票により優勝者を決定いたします!皆さま奮ってご投票くださいね!では……早速ミスコンテストを始めましょう!エントリーナンバー一番——』
司会の簡単なルール説明の後、早くも最初の人にマイクが渡されミスコンが始まる。
「へぇ……流石ミスコンに出場しようってだけあって。中々にレベル高い子がいるじゃない」
「だねぇ。ただでさえうちの大学はコマやカナカナを筆頭に可愛い子が多くて。その上で書類選考を勝ち抜いたミスコン出場者ってなるとどの子も皆すっごい美人さんだよねー」
「っ……!」
ま、その中でもうちのコマが一番の美人さんなんだけどねっ!
「な、ナチュラルに人を可愛い子とか言わないでよねマコ……流石に不意打ち過ぎるわ…………こ、コホン。それはそうと……話を戻すけどさ。わたしにミスコン出場しないのって言ってたけど、マコこそどうしてミスコンに出なかったのよ」
「んんん……?私がミスコン……?それはつまり……カナカナまで私をネタ枠で出場しろって言いたいの?」
そらミスコンもネタ枠がいたら別の意味で盛り上がるかもだけどさぁ……
「いや……わたしが言ってるのはそっちじゃなくてね……」
「そっちじゃない?そんじゃあ……あ、わかった。コマを勝たせるためにミスコンに出場して、隙を見て他のライバルたちを控え室で闇討ちしろって言いたいんでしょ。それも考えなかったわけじゃないけど、やっぱできる限り穏便にすませたいじゃん?」
「誰がそんな事言った。いつもの事ながら、どうしてそうあんたはその如何にも人畜無害ですって顔をしながらポンポン危険な発想が出てくるのよマコ……」
若干(?)引きながらジト目で私を見つめるカナカナ。安心して欲しい。あくまで保険として考えただけで実行しようとは思ってないからね。そもそもそんな事しなくてもコマの実力なら余裕で優勝出来るから。
「もういいわ。わたしもちょっと言ってみただけで、本気でマコにミスコン出場して欲しいとは思ってないから。……てか、マコがミスコンなんかに出場しちゃったら、またマコに近づくライバルが増えちゃう恐れもあるわけだし……コマちゃんと共に全力で止めてたでしょうからね」
「???カナカナ、何の話?」
「何でもないわ。それよかマコ。そろそろじゃない?」
『——はい、ありがとうございました!それでは続きましてエントリーナンバー五番!立花コマさんです!どうぞ!』
「…………ッ!」
と、カナカナとそんな会話をしていたところでいよいよコマの出番となった。それはつまるところ……私の出番とも言えるわけで。
さあ……それじゃあ私も……久しぶりに本気を出すとしますかねぇ!
「はい、立花コマ「こまぁあああああああ!ふぉおおおおおおおお!!こまぁあああああああ!!!」です。本日はよろしく「コマぁあああああああああ!!!」お願いします」
『えー……立花コマさんですね。こちらこそよろしくお願いします。随分素敵なお洋服ですね。まるで今から舞踏会でダンスなさるような……大変良くお似合いですよ』
「ありがとう「よく似合ってるよコマ!!しゅてきすぎるよぉおおおおお!!!」ございます。ふふ……実はこれ、私の大好きな姉が「私もしゅきぃいいいいいいいい!!!私の見立ては間違ってなかった!!!コマ、かわいい!綺麗!!悶絶しちゃいそうなくらいだよぉおおおおお!!!」私の為に夜なべして作ってくれたんです」
『そ、そうですか……それは、はい。素敵ですね。ええっと……それでご趣味などは』
「趣味ですか。そうですね。「コーマ!へい!コーマ!!ヘーイ!!!」最近は料理上手な姉に教わってお料理「ほら、カナカナも一緒に!「嫌よ人として恥ずかしい」ついでに他の皆も一緒にやるよ!せーの、コーマ!!!ヘイっ!コーマ!!!へぇええい!!!」するのがマイブームです」
『お、お料理は家庭的でポイントが高いですね…………え、えーっと……では次の質問を——』
「「「コーマ!!!へいっ!コーマッッッ!!!」」」
『——する前に。スタッフの皆さん、あそこで騒いでる人を取り押さえて排除してください今すぐに……!』
「(ガシィ!)な、なにする貴様ら……はっ、離せ……!私にはコマを応援する崇高な使命が…………はーなーせー!!!」
「あ、あわわ……ま、マコ姉さまぁああああ!!!?」
「…………おバカ。なんでミスコン出場者よりも目立ってんのよマコは……」




