ダメ姉は、一計を案じる
「ぐ、ぬぬぬぬ……」
「……」
ゴロゴロゴロ……
「む、むむむむ……」
「……おい」
ゴロゴロゴロ……
「ぬ、ぉおおお……」
「……おいマコ」
ゴロゴロゴロゴロ……
「うぅにゃぁあああああああ!!!」
「(バシィ!)マコ、やかましいわさっきから」
「あいたぁ!?」
ある深刻な悩みを抱え、あーだこーだと思い詰めて気もそぞろ。そんな中、景気の良い一撃が私の頬に打ち込まれてその衝撃で意識がハッキリする私。い、いかん……いつも通り意識が飛んじゃってたわ……
「やっと気がついたか。ったく、お前さんの奇行はいつものことって言えばそれまでだが。今日はいつにも増して気持ち悪いぞ」
「いたた……お、叔母さん……意識を戻してくれたのはありがたいけど、もうちょっと姪っ子に対して優しくしてくれないのかねあんたは……」
躊躇いなく可愛い姪の頬にビンタをかましたのは、我らがダメ叔母であるめい子叔母さんだった。今日に限って言えばありがたいけど……でも少しは加減して欲しいなぁちくしょうめ……
「これくらいしないと正気には戻らんだろマコ。んで?今度は一体コマの身に何があったんだい?」
「……なんでコマ関連で悩んでいるって分かるのさ」
「いつも言ってるが、それ以外の事でお前が悩むハズないだろうが。いいからさっさと聞かせろよ。放置するとまたお前さん気持ち悪い奇行に走るだろうが」
まるで私がコマ以外の事を考えていないとでも言いたげだな……間違っちゃいないけどさ。
「……うちの大学で学園祭があることは、叔母さんも知ってるよね」
「んー?ああ、そうらしいな。コマから学祭のチケット貰ったよ。んで?」
「色々な催しがあるんだけどね、その中の一つにミスコンがあるらしいんだ」
容姿や美貌、知性や品性などを基準に審査員が優劣を決めるミス・コンテスト。ああいや、今回の場合は大学でやるからミスキャンパスって言えば良いのか。とにかくもっとも美しい者を決める祭典だ。今回あるミスコンはうちの大学側も積極的に行っているらしくて、テレビやカメラも入るかなり大がかりなイベントなんだとか。
「へぇ……そういうの今もやってるもんなんだね。んで、そのミスコンがどうしたんだい?…………ハッ!?ま、まさかマコ……」
「うん……そのまさかなんだよ叔母さん……実はね——」
「お前マジか……身の程知らずも良いところだろ……考え直した方が良いと思うんだがな……」
「……そうだよね考え直した方が…………うん?」
あれあれ?なんだか話がかみ合ってないような……?
「確かに顔だけなら出場してもギリギリ問題無いかもだが……その特徴的過ぎる体型に、頭のおかしい言動、そして隠しても隠しきれない溢れ出る変態性……それでミスコン出場を狙っているとか……いくらなんでも無謀だぞマコ。考え直した方が……」
「いつ誰がどこで私がミスコンに出場するって言った!?つか、黙って聞いてりゃすっごい失礼だな貴様!?」
そりゃ私が出るって話なら無謀だって自分でも思うけどさ!?
「冗談冗談。お前の話しぶりだとアレだろ?コマがミスコンに出場する事になったんだろ」
「わかってるなら変な事言わないでよまったく…………その通りなの。コマがね、ミスコンに出場する事になっちゃったの……」
「ま、あいつの美貌なら余裕で優勝出来るだろうしな。……しっかし珍しいな。そういうの、コマはあんまり乗り気じゃなさそうなんだが」
「今お世話になってる大学の先輩とか、教授とか。あと実行委員の人たちから熱烈に出場してくれってせがまれたらしいの。コマも人が良いし、あまりの圧に断り切れなかったんだとか……」
くそぅ……その時私が一緒にいたらそんな圧跳ね飛ばしてあげられたのに……やつら私がいないところを狙うなんて姑息な……
「なるほどな。って事はアレかい?コマが困ってるから、ミスコンになんとかして不参加にさせてやりたいって悩んでいるって事かい?」
「へ?ああいや。断れなかったってコマも言ってたけど……参加自体はするし頑張るってさ。『出るからには、マコ姉さまに相応しい女として頂点を目指します』って意気込んでたよ」
「んんん……?じゃあ、マコは何をさっきから悩んでいるんだい?」
何を悩んでいるかって?そんなの……決まっているじゃないか……
「……そりゃあね、ミスコンの覇者なんてもの。天上天下唯我独尊、うちの完璧プリティ&ビューディフルシスターであるコマにこそ相応しい称号と言えるよ。当然私もコマがミスコンで輝く姿は見てみたいし、コマに優勝して貰うための協力も惜しまないつもりさ」
ステージに上がる時の衣装は自分で用意してもOKと要項に記載されていた。ならば……この私が直々にコマの衣装を仕立ててあげよう。もちのロンでコマは何を着ても(そして何を着なくても)似合っちゃうんだけど……折角なら美しいコマにはそのコマに相応しい、煌びやかな衣装を用意してあげなくちゃね。ふ、ふふふふふ……久しぶりに腕がなるぞぉ……!
私が作った(ちょっと過激な)衣装を着て、ほんのり頬を染めながら……それでも前に立つコマ……その場にいる全ての者の目を奪い、圧倒的な戦力を知らしめて優勝を飾る……いかん、その様子を想像しただけで涎が止まんねぇ……ふへへへへへ……
「…………だが、だがしかしだね……そうなると一つ問題があるのさ」
「問題?なんだいそれ?」
「わからないの叔母さん?ミスコン出場って事はさ…………コマを衆愚の前に晒す事になるって事じゃないの……!!!」
「あー……なるほどそっちか……」
嗚呼、なんというジレンマか。くそっ……私はどうしたらいい……!?愛する妹が輝くステージの上で、その圧倒的美貌を観客に見せつけるそのさまを……見たくない姉がどこにいるというのだ。
だがそうなると……コマをステージに立たせるとなると……コマをやらしい目で見るヤロウ共に餌を振りまいてしまうことと同義になってしまうではないか。ミスコン出場はコマを知っている輩は勿論、知らない輩にもコマの魅力を知らしめてしまう事に繋がりかねない。ただでさえ大学に入って中学高校以上にコマへのナンパが増えていると言うのに……これ以上厄介なストーカー共が増えたら私でも対処しきれない可能性だってある。
おまけに先ほども述べたとおり。うちの大学のミスコンはかなり大がかりなイベントでテレビやカメラまでも入るとのこと。その上観客席からの写真撮影・動画撮影まで許可されているというんだからたまったものではない。
「これでコマが優勝しちゃったら……テレビで……ううん、今のご時世……SNSで世界中に一瞬でコマの個人情報が拡散されてしまう恐れが……ああ、考えただけでも恐ろしいしおぞましい……」
「なるほどな……それでマコは悩んでいたのか」
「そういうこと。……ねえ叔母さん、私はどうすればいいの……?私に出来る事と言えばせいぜい…………私以外の観客のスマホとカメラを全て破壊し、取材に来たテレビカメラを全て粉砕し、ついでに会場にいるヤロウ共の目を全て潰すくらいしか出来そうにないんだけど……」
「お前の考えの方が恐ろしいしおぞましいと思うんだが?」
自分の無力さが腹立たしい……何か良い方法は無いだろうか?コマが穏便にミスコンに優勝して、その上でコマがあまり目立たないようにする方法とか……
「ふーむ。だったら……マコも一緒にミスコンに出てみれば良いんじゃね?」
「は?」
と、頭を悩ます私に叔母さんがとんでもない提案をしてきたではないか。一緒にミスコンにって……私が……!?
「要するに注目がコマから別に奴に移れば良いんだろ?ならマコが出てみれば良いんじゃないかい?」
「い、いや……私がミスコン出場って……どんだけ自意識過剰なんだって話にならない?つーかあんた、ついさっき『お前がミスコンに出場とか正気か?』的な事自分で言ってたよね?どういうつもりさ」
この人直前に自分で言ったことをもう忘れたというのか?ということは……やはり歳か……悲しいことだ、もう叔母さんったら痴呆が進んで……
そう叔母さんの(頭の)心配をする私に対し。叔母さんはこう宣った。
「安心しろ、お前はネタ枠だ。出ただけで会場を笑いの渦に包み込めるぞ」
「ぶちのめすぞBBA」
誰がネタ枠だコラ……
「叔母さんが言いたい事ってさ、つまり私が道化になって男たちのコマへの視線を私に向けろって事でしょ……そりゃコマの注目は薄れるかもだけど、コマに近づくヤロウ共たち撲滅という根本的な解決には…………あっ」
と、そこまで口にしてふとある事を思いつく私。待てよ……ミスコンに出なくても……私に出来る事ならあるじゃないか……!
「ん?なんだマコ?どうしたんだお前」
「…………ナイス叔母さん。珍しく良いアイデアだったよ。要するに……ヘイトを私に集めれば良いって事ね」




