ダメ姉は、チェックインする
ダメ姉更新です。Rが18ばーじょん送りにされていない理由が今回判明。
大学合格のお祝いに、忘れられない思い出を作りたい。そんなコマの大胆なおねだりを受け止めて。覚悟を決めてドキドキ初ラブホへ出陣した私とコマ。
ここまで随分と我慢させてしまったお詫びに、今日はコマに全力で奉仕しよう。そう意気込んでラブホテルの入り口を通り抜けた私の目に映ったのは……
「――ああ、やっと来たわねマコ、ついでにコマちゃん。遅いじゃないの」
「マコせんぱーい!お久しぶりです!女子会にお誘いいただきありがとうございまーす!」
「……すまんマコ、コマ。止められなくて」
「「…………は?」」
本来この場所にいるはずもない、見慣れたいつものメンバーたちであった。
「待ちくたびれたわよマコ。予約の時間ギリギリじゃないの。主役が来なきゃ女子会も始められないわよ」
なんて事を言いながらお洒落に磨きがかかった格好でバッチリ決めて来ているのは、つい4,5時間前に『また明日ね』と別れたハズの我が一番の親友カナカナ。
ちなみに待ちくたびれたとなにやら文句を言っているが、待たせた覚えなどないし呼んですらいない。
「マコ先輩!またお会いできる日を待ちわびていましたよ!まさか先輩から女子会にお誘い頂けるだなんて光栄です!」
ホテル全館に響き渡りそうなくらい元気いっぱいに挨拶をしてくれるのは、何故かダメな私を全力で慕ってくれているワンコ系後輩のレンちゃん。
こちらはお誘い頂けて光栄だと歓喜の声を上げているが、カナカナ同様に誘ってなどいないし年齢制限的な意味でもこの場に誘えるわけない。
「……すまん二人とも……一応言い訳させて貰えるなら、私は止めたんだ。……止められなかった上に、頭数に入れられちゃったわけだけど……」
そして申し訳なさそうに私とコマに手を合わせて謝るのは、スーパーマザコン娘なヒメっち。その疲弊した表情を見ただけで苦労が推し量られる。間違いなく巻き込まれたんだろうなぁ……
この場にいる全員に言いたい事は山ほどあるが、とりあえず黒幕であろう人物に説明を求めることに。
「か、カナカナっ!これは一体どう言うこと!?な、なんでここに……!」
「水くさいわねマコ、それにコマちゃん。女子会をするならわたしたちも呼んで頂戴よ」
「じょ、女子会……!?な、なんの話をして……」
「女子会プランでこのホテルを予約したんでしょ?折角の女子会なのに二人だけじゃ寂しいでしょう?だから来てやったってわけ」
た、確かにここには『女子会プラン』でコマは予約を入れていた。け、けどそれは建前であって……
「そ、それ以前になぜここがわかったのさ!?そもそも私たちがこの場に行くって一言だってカナカナの前で言っちゃいなかったよね!?どうして……!?」
「わたしをナメないで頂戴なマコ。入学式前のマコとコマちゃんの様子を一目見れば一瞬でわかったわ。マコの方はすっごい可愛らしく恥じらいながらも、そのくせ何か覚悟を決めたみたいな素敵な顔をしてたし。コマちゃんはコマちゃんでポーカーフェイスを装いながらも、いつもよりもテンション高めだったし。ああ、こりゃ何か企んでいるなってバレバレだったわ。わたしにナイショにしたいって事は……つまりは二人っきりになりたかったって事。大方コマちゃんに『大学入学祝いでマコ姉さまと二人っきりの思い出を作りたい』っておねだりされたんでしょうねって推理に至ったのよ」
やはりと言うべきか、朝の時点ですでにここまで察していたカナカナ。なんて勘が良いんだこやつは……
「大学受験でマコとのスキンシップが減って欲求不満を募らせていたコマちゃんなら。必ずこういう場所にマコを誘うであろう事はお見通しだったわ。変なところで生真面目なコマちゃんの事だから絶対に偽名じゃなくて本名で予約を入れただろうって想像出来たし、あとは片っ端から大学付近のラブホに――
『すみません、本日女子会プランを予約した立花コマと申しますが。人数の追加をお願いしたくてお電話しました』
――って電話しまくってここを突き止めたってわけ。マコとの最高の思い出を作るって目的なら、それなりに上等な場所だろうってある程度目星を付けてたから突き止めるのはそう難しい事じゃなかったわ。ちなみにおヒメと柊木をここに呼んだのは、居れば尚更思い出作りの雰囲気じゃなくなるから——もとい、女子会するのに人数が欲しかったからね」
その洞察力と労力は、是非とも別のところで有効活用して欲しかったところだ……
「……………………ッ!」
ヒュンッ!
「おっと」
「へ……?」
パシィ!
と、そんな親友の凄まじい行動力に呆れるを通り超して感心していた矢先のことだった。突如として文字通り風を切る、鋭い一撃がカナカナを襲う。
完全に不意打ち……それも一切の躊躇のない必殺の一撃のハズだったんだけど……まるでこうなることを予想していたように襲われたカナカナは余裕でそれを受け止めた。
「あーら、どうしたのかしらコマちゃん?どうしていきなり襲ってきたの?」
「フーッ!フーッ!!…………フシャー!!!」
「……人語忘れているわよコマちゃん」
カナカナを襲ったのは他でもない……私の一番大好きな人、妹のコマだった。あまりのショックでさっきまで一時的にフリーズしていたらしいけど。今ようやく再起動した模様。
いつもの理性的で凜々しいコマはどこへやら。怒りで我を忘れて完全に言葉をなくし、モノホンの獣のような雄叫びをあげてカナカナを始末すべく攻撃を繰り出している。
「こ、コマ落ち着いて……!?だ、ダメだって暴力沙汰は……!?」
「ねえ、さま……離してください……ッ!こ、この女……今まではどうにか我慢してきましたが…………今日という今日こそ許せません、許しません……!よ、よくも……よくも私と姉さまの素敵な思い出作りを……思い出作りをぉ……!今後一切の邪魔が出来ぬよう……ひと思いに息の根を止めるべきなんです……ッ!」
「んー?ごめんねーコマちゃん。わたしどうしてコマちゃんが怒っているのかわかんないわ。女子会プランで予約を取ったのは他でもないコマちゃん自身よね?人数は多いに越したことないでしょうに」
「フシャァアアアアアアアアッ!!!」
「か、カナカナも無駄に煽らないでよ!?」
散々私に待たされて、焦らしに焦らされてそれでも一生懸命我慢してくれて。そして待ちに待った今日この日、ようやく夢が叶うと思った最高のタイミングでそれをぶち壊されたんだ。そりゃコマも殺気を丸出しにもするわな……
「き、気持ちはわかる!コマの気持ちは痛いほどわかるよ……!?わ、私もかなり肩透かしで少なからずショックだったし……!で、でもここで暴れたらマズいって!ホテルの人に怒られちゃうよ!?さ、最悪出禁になって……もう二度とここにはコマと来れなくなるかもしれないよ!?」
「ぐっ、うぅ……そ、それは……そうですが…………でもぉ!」
暴走しかけているコマに説得を試みる私。暴力沙汰まで起こして……それが理由で出禁にでもなったら。最悪ブラックリストに登録されると聞く。そうなったらこのホテルはもとより……他の場所に行ってもホテルを利用できなくなる可能性があるらしいし……
「こ、今回は……仕方ないよ。カナカナにバレた時点でこうなる運命だったんだよ。この空気じゃとてもじゃないけど二人の思い出づくりは出来そうにないし、辛いだろうけど諦めよう。……べ、別の日に必ずコマと一緒に行ってあげるから。その時こそ今日の分まで全力でコマに尽くしてあげるって約束するから。ね?」
「う、うぅぅ……ぅうぅうううううう!!!」
優しくコマを抱きしめながら『いいこ、いいこ』とナデナデしてあげると。少しずつコマの怒りは薄れていった。代わりにコマの目からはじわりと真珠のような大粒の涙が浮かんできて……
「ぐすっ……ぜったい、ですよ……!?ぜったいに連れて行ってくれるってやくそくしてくださいよ姉さま……!?」
「うん、わかってる。はい指切りげーんまーん」
「……うそついたら、ねえさまおーかす……!」
「あ、そこは針千本じゃないのね……ま、まあいっか。ゆーびきった!」
半泣きでなんだか初めて聞くコマオリジナルのゆびきりしながら約束して。どうにかこの場は我慢してくれる事になった。
「なによぅ、二人とも。これじゃまるでわたしが悪いやつみたいじゃないの」
「……今回に限って言えば大分悪いと思うよカナー。一応反省しとけって。……すまんマコ。コマ。止められなくて」
「あ、あはは……まあ仕方ないさ。コマは別の日に別の形で埋め合わせしてみるから気にしないで」
こうなることを予測出来なかった私も少なからず責任はありそうだしさ。さて……これで一応はコマの問題は解決出来たとするとして。後はもう一つの問題をどうするかだけど……
「んーと。なんだかよくわかりませんが……とりあえず問題解決出来たって事で良いんですよね?じゃあマコ先輩!そろそろ良い時間ですしお部屋に入りましょうよ!あたし、お腹も空きましたし!」
「うん、それは良いんだけどねレンちゃん。…………コマの問題は解決出来ても。もう一つの問題に関しては解決出来てないし、どうにも解決出来そうになくて先輩困っているんだけど……」
「えっ!?もう一つの問題……!?なんですかそれは……!?」
「それは紛れもなくキミの存在だと思うよ現役女子高生……」
なに普通にラブホに侵入しているのかねキミは……
「ダメだよレンちゃんこんなところに来ちゃ。いくら私に誘われたからって…………いや、正確に言うと私は誘っていないんだけど……ともかく誰に誘われてもJKがこんな場所にきちゃダメなんだって」
「大丈夫ですよマコ先輩!」
「へ?だ、大丈夫って……」
後輩のレンちゃんに優しく諭してとりあえずお帰り願おうとする私なんだけど。どう言うわけかレンちゃんは自信満々に大丈夫と言ってくる。この自信……何か大丈夫な根拠でもあるのだろうか……?
そう訝しむ私を前に。レンちゃんは笑顔でこう告げた。
「気持ち的にはもう18歳みたいなものなので大丈夫です!」
「何一つ大丈夫な要素がないんだけど!?」
ダメだった。大丈夫の根拠、なにもなかった。
「レンちゃん……流石の私もこればっかりはどうしようもないんだよ。悪いことは言わないから、早くお家に帰りなさい。途中の駅までは送ってあげるから」
「嫌です!あたしもマコ先輩と一緒に女子会したいんです……!」
基本私の言うことはちゃんと聞いてくれる従順ワンコ系後輩のレンちゃんなんだけど。今日は珍しく言うことを聞いてくれない。何でだ……?
「だって他の先輩たちとは違って、あたしだけはマコ先輩と一緒に居られる時間は極端に限られますし……現に、先輩が卒業してから全然お会い出来てないじゃないですか。あたしだって寂しいんですよぅ先輩……!」
「いや……あのレンちゃん?辛い別れを経て、長い月日が経ったあとにようやっと再会した風に語ってるけどさ……私の記憶違いじゃなきゃ一週間前にも一緒に遊んだよね私たち……?」
「一週間も、会えてなかったんですよ!?コマ先輩とかなえ先輩だけズルい!二人はいっつもマコ先輩と一緒なのに……あたしはこういう機会でしかマコ先輩と会えないのに……!」
そう言われると何も言えなくなる私。確かにレンちゃんの言うとおり。年齢が違っている私たちはコマやカナカナたちと違って、会って遊んだりする機会がかなり限られてしまう。しかも中学高校の時と違い、私たちの通う大学とレンちゃんが在学中の高校は電車で移動が必須の距離にあるから尚更会いづらいし……
うーん……でも未成年をラブホに連れ込むのはちょっとどうなんだろう……
「…………受付で帰されても知らないからねレンちゃん」
とりあえず受付まで行って。『未成年者は入れません』って言われたら諦めるしかないよね。その時は諦めさせて強制的に家まで帰させるとしよう。
そう決めた私は一抹の不安を抱えたまま、恐る恐るチェックインしてみることに。
「あの…………申し訳ございませんお客さま。未成年の方はちょっと……」
案の定、チェックインしようとした瞬間に呼び止められる私。あちゃー……やっぱりこうなっ――
「あなたそもそも小学生でしょう?おまわりさんに補導されないうちにお家に帰った方が良いわ。親御さんも心配しているわよきっと」
「私は正真正銘、大学生なんですけど!?」
何故かレンちゃんではなく受付で弾かれる私。その後春休み中にとっておいた免許証を見せるまで…………と言うか。免許証を見せても、大学生だと中々信じて貰えなかった。
本来入れないはずのレンちゃんは余裕の顔パスだったのに……理不尽だ……!
読んでいただきありがとうございました。
迷探偵カナカナの迷推理が光る回。やってる事は探偵じゃなくてストーカーみたいなものだろって?気のせい。巻き込まれたマザコン娘は今回は完全な被害者枠。ま、まあいずれお母さんと一緒に来た時の予行演習と思ってくだされ。そして入れるか懸念されたレンちゃんは……マコの騒動のお陰で普通に入れました。良かったねレンちゃん!
ちなみにいつもの面子に一人いないようですが……あれ?あの人はどこ行った?




