ダメ姉は、合格する
お久しぶりです。大遅刻で大変申し訳ございません……ダメ姉大学生編スタートです。
それは長く辛く、そして苦しい戦いだった。
コマと一緒の大学に行く。ささやかでそれでいて向こう見ずな野望実現のため、ありとあらゆる努力を続けてきた。勉強時間を確保するべく睡眠時間を極限まで削り、大好きな人とのコミュニケーションを一時断ってまで。神経をすり減らして勉強勉強、また勉強の日々。
『万に一つも可能性がない』
『実ることなどあり得ない無駄な努力』
『ダメ姉が無謀すぎる』
『諦めた方が良い』
教師からも友人たちからもそう言われ続けた。模試の結果を返されて一体何度挫折しかけた事だろう。E判定地獄が続いて一体何度絶望した事だろう。私にだって身の丈にあっていないという自覚はあった。コマの為なら何でも出来ると自負するするこの私でさえも、今回ばかりは無理なんじゃないかと諦めかけていた。
それでも夢のため、愛する人とこれから先も一緒に居るため。最も苦手としている勉強も毎日死に物狂いで頑張った。
その努力は実を結び、そして……桜咲く。
「こ、コマ……!こ、これ……これっ!ゆ、夢じゃないよね……!?これ……わた、私の……私の受験番号だよね……!?」
「ええ、ええそうです。間違いありません。正真正銘、マコ姉さまの受験番号ですよ」
「こ、コマのは!?私のがあるって事はコマのはあって当然だけどコマの受験番号は…………や、やった!コマのもちゃんと載ってる!って事は——」
「はい。これで私たちは4月からも……また一緒の学校ですよ姉さま」
「い、いやったぁああああああああああああ!!!」
合格発表当日。コマに震える手を握って貰いながら合格者の番号を大学の公式サイトを開いてみる。そこには……私とコマの受験番号が双子のように仲良く隣り合って並んでいた。
その日は涙をこぼして喜び合い、二人抱き合って感動を分かち合った。受験勉強にかまけてあまり手の込んだ料理が出来なかった分を補うように、久しぶりに全力で料理を作り……仕事明けのめい子叔母さんを巻き込んで、家族三人盛大にお祝いパーティが始まった。
「いやはや……コマが合格するのは当然として。まさかあのマコまで本当に合格するとはね」
「ふっふっふ……!どーよ叔母さん。私だってやる時はやるんだからね!もっと褒め称えるが良いさ!」
「ああ凄い凄い。…………んで?金はいくら積んだんだい?裏口入学か?それともコマを使った双子ならではの替え玉受験?ひょっとして試験官を脅迫したのかい?」
「正攻法だよ!?正真正銘実力で合格したんだよ!?自分の可愛い姪っ子を何だと思ってんだよ!?」
失礼極まりない発言をする叔母さんに抗議を入れる私だけど、正直叔母さんの気持ちもわかんでもない。
自分で言うのも何だけど未だにちょっと信じられないわ。コマが合格する事は疑いなど一切なかったけれど……この私が合格するなんて正直夢のまた夢だったわけだし。
「って言うか……これ夢なんじゃないかって不安になるよ」
「え?どうしてですかマコ姉さま?」
「だって……コマの第一志望の大学なんだよ?中学時代あれほど勉強出来なかった『ダメ姉』の異名を持つ私が、よく受かったよなぁって思ってさ。私はただ自分に都合の良い夢を見てるだけで……目を覚ましたらまだ受験前だった、なんてオチなんじゃないかってさ。これが夢なら覚めないで欲しい……」
自分のほっぺをむぎゅむぎゅつねりながら呟くと、コマはその私の手をとり優しい顔でこう答えてくれる。
「夢なんかじゃありませんよ」
「コマ……?」
「夢でもなければズルい手を使ったわけでもない、間違いなく姉さまが勝ち取った現実です。常に姉さまのすぐ側で姉さまを見守ってきた私が証人ですよ」
「あっ……」
「本当に良く頑張ってくださいました。目標に向かい一心不乱に努力する姉さまはいつ見ても素敵でした。私……また姉さまに惚れ直しちゃいましたよ♡」
「コマ……!」
コマのそんな一言でようやく合格できた実感が持てた。同時に胸が熱い気持ちでいっぱいになる。あー……やばい、さっきあれだけ泣いたのに……嬉しくてまた涙出てきそう。このコマの一言だけで頑張ってきた全てが報われた気持ちになれるよ。
「わ、私だけの力じゃないよ!それもこれも、コマが一生懸命サポートしてくれたお陰だよ!ありがとう、本当にありがとうねコマ!」
コマに全力でハグしながら感謝の意を表する私。実際これは誇張でも何でもなくて。コマがいなかったら絶対に大学合格なんて無理だった。『私も良い復習になりますから』と付きっきりで勉強を見て貰ったり、『姉さまが勉強に専念できるように私がご飯を作りますよ』といつもと逆転して家事の大半をやって貰ったり。それに……
『お姉ちゃんはここに宣言します!志望校に受かるまで…………コマとのキス、封印します!』
それに……合格するまで色んな事をコマに我慢させてしまったんだよね。私にとってもコマにとっても。ホントに地獄のような日々だったと思う。それを文句の一つも言わずに私にずっと付き合ってくれたんだ。コマには足を向けて寝られないわ……
「一年間、コマにはずっと迷惑かけっぱなしだったよね。ごめんねコマ。今日まで私の我が儘に付き合って貰った分は必ずお返しするならね!これからはお姉ちゃんがコマのやりたい事に付き合う番だよ。遠慮しないで何でも言って!私、コマの為なら何でもするからさ!」
私の意地と我が儘を貫き通したせいで、コマにはずっと辛い思いをさせちゃったんだ。今度は私がコマの為に尽くす番。
そう思いコマに告げると、コマは久しぶりにスッ……と目を一瞬だけ細めて。
「何でも、ですか……姉さま」
「うん!何でも!合格祝いも兼ねて、コマがやりたいこと何でも聞いてあげるよ!」
「……そうですか。それはとても嬉しい限りです。ですが……合格祝いという話でしたら折角なので正式に大学入学してから……入学式の後におねだりしても良いですか?」
「ふぇ……?」
そんな事を言い出した。入学式の後?……なんで?
「ええっと……別に私はいつだって良いんだけど……でも良いの?そんな先の長い話で。大学入学式なんてまだ2ヶ月近くもあるっていうのに」
「良いんです。1年じっくり我慢したわけですし、その程度ならじっくり待てますよ。その代わりと言っては何ですが…………入学式が終わってから、姉さまにはいっぱい甘えさせていただく事にしますね」
私としては今すぐにでもコマのおねだりを聞いてあげるつもりだったんだけど。コマはにこにこ笑顔でやんわりと断ってくる。やけに『入学式が終わった後に』と拘っているのはちょっと気になるけど……
「んー……わかった!なら入学式の終わった後で、お姉ちゃんはコマの言うことなんでも聞いちゃうからね!」
「はいっ!楽しみにしていますねマコ姉さま!」
まあコマにはコマの考えがあるんだろうし、コマがそう言うならそれでいっか。そんなわけで、コマのお礼を兼ねた合格祝いは入学式の後に持ち越す事になったのであった。
「——言質は取りましたからね。入学式が終わって……晴れて私たちが正式に大学生になったその時こそ。覚悟して下さいねマコ姉さま……♡」
「……あーあ。あろうことかコマの前で『なんでも言うこときく』なんて安請け合いしちまいやがって。勉強出来るようになっても相変わらず考え無し過ぎだろ。どうなっても知らねーぞーマコ」
読んでいただきありがとうございました。マコ、大学生になりました。ご安心下さい。いくら大学生になっても一切ノリは中学高校時代と変わっておりません。まるで成長していない……
更新についてですが一応完結済みの小説ですのでかなりゆっくり更新になると思います。お待たせしてしまう形になって申し訳ございませんがまったりとお付き合いいただけたら幸いです。




