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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
五月の妹も可愛い
23/269

第21話 ダメ姉は、購入する

「ふぃー、満腹満腹っと」


 無事にコマとの口づけを終え、コマの味覚を戻したのち昼食を済ませた私たち立花姉妹。料理はいつも作ってばかりな私だけれど、偶には他の人が作った料理食べるのも良いもんだね。


「美味しかったね。流石話題のお店なだけはあったよ」

「ですね。……まあ、私としては姉さまの作ってくださる料理の方がずっと美味しいと思いますが」

「あはは、ありがとコマ。でも流石にプロの作る料理には敵わないって」

「……そんなことありませんのに」


 やはりあらかじめリサーチしておいて正解だった。新しくオープンした評判のトルコ料理のお店だったけど、噂に恥じぬ店内の雰囲気の良さと料理の美味しさ……中々勉強になったものだ。味は覚えたし今度自分で試しに作ってみようかな。


「それはそうと姉さま。ご馳走になりました。ありがとうございます」

「へ?ああ、そんなに畏まらなくて良いってコマ。お礼を言われるようなことはしてないしさ」


 お店を出た途端、コマが丁寧に頭を下げながらお礼を言ってくれる。『今日は私の奢りだよ』と、コマの分のご飯の料金もまとめて私が払ったんだけど……姉妹で家族なんだし、何より姉としてコマの前で良い恰好したいがために払っただけなんだからホントお礼を言われるほどじゃないもんね。


「それだけではありません。こんなに素敵なプレゼントまで頂戴いたしまして、重ね重ねありがとうございます」

「またそんな畏まって……いいっていいって。偶にはこんなダメな私にもお姉ちゃんらしいことをさせてねコマ」


 だというのに更に深く丁寧にお礼を言ってくれるコマ。実は先ほどコマと私が口づけをするために試着室を借りたレディースファッションのお店で試着用に選んでいた服を一着、コマの為に買ってプレゼントしてあげた私。

 流石に10分近くも口づけの為だけに試着室を借りておいて何も買わないで店を出るなんて店員さんに申し訳ないし、それにいつも頑張っているコマにちょっとしたご褒美になるなら丁度良いだろうからね。


 ……まあ、ぶっちゃけるとそれは建前で……本当はあのセクシーな服をコマに着てもらいたいがために服を買ってあげたのはナイショだ。不純な動機でゴメンよコマと店員さん……


「ま、まあその服はアレだよ。……こ、今度その……私とまたデートする時とか気が向いた時に着てくれたら嬉しいかな」

「はいっ!着ます!それに…絶対大事にしますね。―――ええ、一生大事に……」


 その私が選んでプレゼントした服を愛おしそうに抱きしめて、満面の笑みを浮かべるコマ。……良かった。こんなに喜んでくれたなら、買ってあげた甲斐があるってものだ。


「さて。それじゃあ次はどこに行こうかコマ。私的にはもう大体回ったんだけど、どこか他に行きたいところはあるかな?」

「ええっと……そうですね。私も行きたいところは午前中にほとんど行きましたし、後はどうしましょうか姉さま」

「どうしようかねー」


 二人でショッピングモールの案内図を見ながら次に行きたいところを選んでみることに。といっても、コマも言っている通り二人とも午前中に行きたいところはほぼ網羅したわけだし……仮に残っている面白そうな場所と言えば―――


「「あとは書店くらい―――え?」」


 と、同時に同じ単語をポツリと口に出し、お互い目を丸くして顔を見合わせ…そのままクスクス笑い出す。


「……ふふふっ♪ちょうど欲しい本もありますし。姉さま、一緒に書店に行きませんか?」

「賛成だよコマ。私も実は買いたい本があったし、行っちゃいますかねー」


 流石我ら双子の姉妹。息もピッタリで何かちょっと嬉しい。意見も一致したところで笑い合いながら書店へと足を運ぶことに。


「ところでコマはどんな本が欲しいの?参考書とか?」


 書店に二人で手を繋いで向かう道中、気になって尋ねてみる私。勉強熱心なコマだし参考書かな?それとも運動も大好きだからスポーツ関連の本だろうか?


「あ……その、実は最近嵌っている趣味の本です。……う、占いの本が欲しくて」

「ふぇ?占いの本?」

「はい。……ちょ、ちょっと私の趣味って子供っぽいですね」


 そう言ってはにかむコマ。やだ、うちの妹乙女チックで超かわいい。


「ううん。可愛らしくて素敵な趣味だと思うよ。そっかぁ、占いが好きなんだねコマ。知らなかったよ」

「ええ。この前私の友人から教わっているうちに、だんだん楽しくなってきまして…………(ボソッ)特に、恋占いとか」


 ほほう。あんまり占いとかは私は普段はやらないけれど、コマも楽しそうだし折角なら暇なときにコマにコマとの相性とか占ってもらうのも悪くないかもね。

 そんなことを考えているうちに書店に辿り着く私とコマ。うーむ、広い。流石は大型店。書店一つとってもかなりの規模のよう。ここなら品ぞろえも相当良いに違いないしコマも満足してくれるだろう。


「てか寧ろ広すぎな気もするねここ……マズい、ちょっと迷いそうかも。えーっと、ここが現在地だから……おっ、発見。コマ、占いの本のコーナーは一番奥にあるみたいだよ」

「ありがとうございます。結構遠いですね」


 先ほどのように今度は書店の案内図を確認して、それぞれの欲しい本の売り場をチェックする。ふむふむ……コマの欲しがっている占い関連の本はあっちで……私がこれから買う予定の本の売り場は―――よし反対方向……っ!


「あ。そういえば、そういう姉さまはどんな本を買う予定なのですか?買いたい本があると仰っていましたよね?」

「ぅえ!?わ、私!?……わ、私はその……ほ、ほらいつもの料理雑誌を……ちょっとね」

「ああ、毎月発売されている例の料理雑誌ですね」

「う、うん……それそれ……」


 コマの発言に思わずびくりとしてしまう私。あ、慌てるな私。ここで変に動揺するとコマに怪しいと勘ぐられてしまいかねない。

 一度こっそりと息を整えてから気持ちを落ち着かせて、ある目的の為にコマに一つ提案をしてみる。


「ね、ねえコマ。お姉ちゃんから……ちょっと提案があるんだけどさ……」

「あ、はい。何でしょう姉さま」

「その……う、占いの本が置いてあるコーナーと、料理の本が置いてあるコーナーって大分場所が違うよね」

「えっと……ああ確かにそのようですね」


 案内図を見てみると、幸運なことにベストな配置になっている。コマとは反対方向に料理の本と……()()()()()()()()()があるようだ。


「だ、だから……ね。ここは一旦別れて自分たちの買い物をして…買い終わったらここに集まるってのは……ど、どうかな?」

「つまり姉さまと別れて行動するという事ですか?うーん……」


 恐る恐るコマにそう提案すると、コマは少し考える素振りを見せる。……いけるか?やっぱ無理か?流石に唐突過ぎたか?

 今の今までずっと一緒に買い物やお店巡りをしていただけに何か怪しいと思われちゃってるかもしれない。でも……ここで一旦コマと別れないとあの本が買えないし……


「どうしても一緒じゃダメですか?それとも何か姉さまにご予定が?」

「い、いやホラ!特に何か用があるわけとかじゃないんだけど……こ、こうすれば時間短縮にもなるし効率的かなって思ってねっ!?こんなにも売り場が離れてると行ったり来たりが大変そうだし……だ、だからコマさえよければ別行動に……」

「……わかりました。姉さまがそう仰るのであれば仕方ありませんね。姉さまと離れるのはちょっぴり寂しいですけど……姉さまもゆっくり本を選びたいでしょうし。私も時間をかけて選びたいですし承知しました」


 残念そうな表情を見せたけど、私に気を遣ってくれたようでその提案に乗ってくれるコマ。


「う、うん。ごめんねコマ。……あ!い、一応念のために言っておくけどコマの事を邪険にしているわけじゃないからね!?そういうのじゃなくて……」

「大丈夫ですよ姉さま。わかっていますから。……では、そうですね。30分後にこの場所に集合することにしませんか?」

「あ、ありがとう。ならそういうわけで……」


 ここは一旦別れることにして、名残惜しそうに手を振って占いの本がある方へ向かうコマに私も全力で手を振り見送る。

 ……ふぅ。良かったコマが優しい子で。ホッと息を吐きながら、踵を返し私も目的の場所へ向かうことに。


 さて。自他共に認めるシスコンである私が、自分からコマの側を離れるなんて不思議に思われるかもしれない。そりゃ私だっていつもなら片時だってコマの側を離れるなんてことしたくはない。

 それに今日は休日で二人っきりのデート中。なおの事離れるなんて選択肢など本来ならあるはずは無い……のだが。今日はちょっと、コマがそばにいるとマズいのである。


「……よしっ…!ちゃんとコメイ先生の新刊売ってあるね」


 全速力で目的のブツの場所に辿り着き、目的の本を発見する私。そう、さっきコマには料理雑誌を買うと言った私。

 勿論その料理の雑誌も購入することは嘘ではないのだが……本命はこの本の購入だ。これって一体何の本かって?それは―――


「(……女の子同士……それも双子の姉妹同士の恋愛小説モノ……)」


 そう、いわゆるエス・百合・GLといったジャンルの小説だ。……ただでさえこういった女の子同士の恋愛ジャンルの小説は貴重。更に言えば双子の姉妹の恋愛小説なんて滅多に出会うことは無い。そういう意味で、今私が手に取った本なんか私の性癖にドンピシャで、私にとっての聖典と言っても良い。

 それでなくてもこのコメイという作家さんの本って独特の表現と描写で小説としても面白いしジャンルの割に一般の方にも結構受けが良いっぽいし。


 ……ただし。いくら小説自体が面白いからと言って、コマにこの本を私が購入していることは絶対にバレないようにしなければならない。どうしてかって?理由は簡単。

 ここで少し想像してもらおうか。自分の同性の親兄弟が、同性愛モノの小説を読みながらハァハァしている姿を。……そんなところ見たら十中八九引くことになるだろう。そしてそれは仏の異名を持つコマも例外ではなく―――


『……姉さま、何ですかその本は?もしかして……いつも私の事をそんな目で見ていたのですか……?』


 恐らくまずはこうなって。


『私との口づけの時、やけに息が荒くて気持ち悪いなって思っていましたが……ああそうですか。そういう事でしたか』


 こんな感じで冷たい視線で睨まれて。


『私に二度と近づかないでください。話しかけないでください。顔を見せないでください。……汚らわしい』


 最期は唾を吐きかけられつつ、こうなることだろう。……最愛の妹にそんな反応された日には私……


「(私……死ぬんじゃねぇかな……)」


 ……ま、まあともかくこれでコマと一旦別れた理由もわかってもらえたと思う。コマに嫌われ失望されたくないなら、どうあってもこの本の存在と私がこの本を愛読していることはコマに知られるわけにはいかんのである。


「あとはカモフラージュ兼定期購読のこの雑誌を……よしオッケー」


 小説と料理雑誌を手にすると、そのまま全力ダッシュでレジを目指す。のんびりしているとコマが自分の買いたい本を選んでレジで鉢合わせる可能性もあるし、とにかく急がねば。


「ハァ……ハァ……す……すみま……せん。会計を……ハァ……お願い……します……ハァ……」

「ど、どうなさいましたお客様……?何だか随分息を切らしているようですが大丈夫ですか……?」

「へ、平気ですから……と、とにかく急いで……会計を、頼みます……」


 ぜぇぜぇと息も絶え絶えになりつつも、レジに辿り着いて店員さんに会計を促す。よ、よし…まだコマは来ていないようだしこれなら多分間に合う……!


「ええっと……お客様?ブックカバーはいかがなさいますか?」

「カバー……ですか」


 カバーか……いつもならやってもらうところだけれど、今は一秒でも時間が惜しい。下手に頼んでコマがやってきたら元も子もないし……


「いえ、いりません。そのままで大丈夫です」

「畏まりました。では―――お会計は全部で1,821円です」


 そう言いながら店員さんは書店のロゴの入ったポリ袋に二冊とも入れてくれる。勝った…!ここまでくればもう安心。これでコマと合流しても平気だ。


「はーい。えーっとちょっと待ってくださいね。今出しまーす」


 あとはお金を払うだけ。嬉々として財布を取り出して、ここはちょっとセレブ(?)っぽく一万円から出そうと財布の中を開けてみると。


「すみません一万円からお願いしま―――うん?」

「?お客様どうなさいました?」


 …………んん?おや、おかしいな。お財布を開けても、みんな大好き諭吉さんが一人もいらっしゃらないじゃないか。


「え、あ……いや……ちょ、ちょーっと待ってくださいね」

「はぁ……」


 待て待て、落ち着け私。しっかり探してみようじゃないか。目をよく擦って改めて、改めてお財布の中を確認してみる。その中には―――諭吉さんどころか一葉さんも英世さんもいらっしゃらない。

 ……ば、バカな!?叔母さんから今日のデートのために前借もしていたし、ちょこちょこ貯めている貯金も少し下してきたはずなのに何故無いんだ……!?今日の私ってそんなにお金使ってないよね……!?


 とりあえず念のため、今日私は一体何にお金を使ったか思い返してみよう。ええっと確か……



 ◇ ◇ ◇



 ~出資場所その①:診療所~


『あー……コマ。ここは私が払っておくね。コマはお薬をもらっておいで』


 ~出資場所その②:女性服店~


『はいコマ!これお姉ちゃんからコマにプレゼントだよ!良かったらいつか着てくれると嬉しいな』


 ~出資場所その③:トルコ料理店~


『コマ、ここは姉である私がご馳走しちゃうよ!どんどん好きなもの食べてね!』



◇ ◇ ◇


 ……確かこの三店+叔母さんへのお土産用に買った甘味くらいか。ふむふむ、なるほどね。はっはっは!


 …………アホか私はっ!?どんだけ行き当たりばったりで計画性が無いんだ!?お姉ちゃん面してコマに良い恰好見せようとした結果がこれかい!?

 なーにが『今日の私ってそんなにお金使ってないよね……?』だよ!?あれだけ軍資金あったのに、財布の中身がすっからかんになってるのに気づかないなんて……なんてダメな私なんだおバカ!?


「あの……お客様?大丈夫ですか?今度は顔色が優れないようですが」


 レジ前で自分のダメさ加減に頭を抱える私を心配して店員さんが話しかけてくる。し、仕方ない。ここで突っ立っていても払えないものは払えないし…恥ずかしいのを我慢してお金がないことを伝えなきゃ。


「いや、その…ごめんなさい店員さん。実は()()()()お金が足りなかったみたいで……申し訳ないんですが商品戻してもらっても良いでしょうか……?」

「―――あら姉さま、お金が足りないのですか?」

「うん……実はそうなのコマ。恥ずかしいよね私」


 恥を忍んで店員さんに説明していると、コマにまでこんな姉の残念なところを見られてしまう始末ときた。

 ああ、やっちまったぜ……こんなところを最愛のコマに見られるとかホント恥ずかし…………!!!???


「こここ、コマぁ!?」

「はい、コマです。あ、姉さま安心してくださいね。ここは私が払いますから♪―――店員さま、申し訳ありません。私のも姉の商品と一緒にして改めて会計してもらっても大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。少々お待ちください」


 いつの間にか私の後ろに立って会計待ちをしていたコマが、私の代わりにお金を払ってくれている件について。し、しまった完全に油断してた……ま、まさかもうコマが来るなんて。神は我を見放したとでも言うのか……!?


「ありがとうございました。またお越しくださいませ」

「こちらこそありがとうございました。さぁ姉さま。行きましょ♪」

「は、はぃ……」


 その後も何一つ問題なく会計を済ませたコマは、私を連れて近くの休憩コーナーへと向かう。一番空いている場所に辿り着くとちょこんと座って、私もコマの横に座るように促される。


「姉さま早かったですね。本を選ぶのに遅くなってしまってごめんなさい」

「い、いやイインダヨ……こ、こっちが早かった……だけだし。そ、それよりこっちこそゴメン、私の分まで払ってもらっちゃって。か、帰ったらお金返すから……」

「ふふっ……良いのですよ、お気になさらず。そういう姉さまだって今日はいっぱい私のために奢ってばかりじゃないですか。ですのでこれでおあいこです」


 そうクスクスと優しく私のさっきの醜態を笑い飛ばしてくれるコマけど、対して私は今一切笑える状況じゃない。……コマの手の中には、私の分まで払ってくれた本の入った袋が一つ。当然あの袋の中には例の双子姉妹恋愛モノの本もあの中にあるわけで。

 あ、あれがコマの手の中にあるってどんだけ絶望的な状況なんだよ……!?さっきも説明した通り、あの本の中身をコマに知られた日には―――間違いなく軽蔑されて二度とコマと話ができなくなるだろう。だからこそ、何とか穏便にあれを回収したいのだけれど……


「そうそう姉さま。姉さまの本、返し忘れるとマズいですし今お返ししますね」

「っ!?」


 私の気持ちなど知りようもないコマは、無邪気な笑顔で本の入ったポリ袋を開けて中身を取り出し始める。や、ヤバい……ヤバいぞこれ……


「えっと……この二冊が私ので……こっちの二冊が姉さまのですね。はい姉さま、いつもの料理雑誌です」

「あああ、ありがとうコマ……」


 まずは一冊目の料理雑誌。こ、これは何にも問題ないのであっさり手渡し終了。問題は次の本だけど……

 お、落ち着け。落ち着くんだ立花マコ。大丈夫、大丈夫だ……流石に分析力が優れたコマと言えど、初めて見る本の―――しかも表紙だけでその本の内容までは分かるまい。変に緊張せずに堂々と受け取ればきっとコマも怪しいとは思うはずもない。


「あともう一冊も姉さまのですよね。はい、これもどうぞ―――あら?これって……」

「う、うん?どうしたのかなぁコマ?おかしなところなんて一つも……」


 そう思っていた私だけど、何故かコマはその双子姉妹恋愛本の表紙に目を奪われている。……だ、だいじょうぶ……ひょ、表紙だけじゃ中身はバレるハズなんてない。絶対ない。

 絶対ない…………ハズなのに、どうしてかコマは表紙を見入っている。どうしたものかとつられるように私もその本の表紙を見てみると。



『双子姉妹の恋愛模様!百合の花咲き乱れる、儚く美しき女の子同士の愛の行方は!?』



 …………おわった。死んだわ私。小説と共に、デカデカとそんなワードが載せられた帯を目にした瞬間、絶望する私。

 そうだよね、普通あるよね()。その本を宣伝するための帯って大抵の本にはついてるよね。時間を惜しんでブックカバーを店員さんにかけてもらわなかった事がこんなところで仇になるなんて……


「……姉さま。この小説って」

「……うん。見ての通りだよ…ゴメン、実はこの小説はね……」


 もうダメだ。これでもう二度とコマに口を利いてもらえないだろう。せめて……せめてこの最後のコマとの会話を堪能して消滅してしまおう。そう思って涙目になりながらもコマに向き合うと。


「この小説って―――()()()()()()()のですね。私ったらついうっかり()()()()()いましたよ」

「……うん、そうなんだよ。これ新刊が…………うん?」

「はい?」


 …………新、刊……?それに……買い忘れ……?

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