ダメ姉は、修学旅行へ出発する(その13)
ダメ姉更新しました。長かった修学旅行編、並びに高校編も今回で終了です。いや……ホント長かった。とにもかくにも今回もよろしくお願いします。
~SIDE:コマ~
奈良漬を食べてから正気を失い。目を覚ました頃には……もうすっかり夜も更けてしまっていました。起きた場所は……泊まっていた旅館の一室。多分ホテルで眠りこけた私をマコ姉さまが運んでくださったのでしょう。
「…………情けない、情けない。穴があったら入りたい……穴が無くても掘って埋まって埋没したい……」
私、立花コマが……目が覚めて正気に戻り、最初に感じた事は……またやってしまったというとてつもなくのしかかってくる後悔の念でした。
断片的にしか覚えていませんが……覚えている範囲だけでも姉さまに多大な迷惑をかけまくった私。酔って折角の京都観光を打ち切りホテルに姉さまを連れ込んで、姉さまの制止も聞かずただ欲望のままに姉さまを押し倒してキス三昧……
お酒に弱すぎでしょ……もう絶対、お酒で失敗しないと失敗するたび誓っておいてコレですよ。
「……いえ、問題なのはお酒云々の話じゃありませんよね」
そう。本当に問題なのは、酔ったという事実そのものではなく……どうにか隠していた私の醜い嫉妬心を、姉さまの前で曝け出してしまった事。
『姉さまは、私とのキス……嫌なんですか……?』
『最近の……姉さまは。昔ほど私を求めてくれない……そんな気がしていました……もしかしたら、飽きられたんじゃないかなって……密かに、思っていました……』
『だって、だって……昔は、私が何かするたびに……鼻血を出して喜んでくれたり。授業中であろうと大声を上げて私を呼んでくれたりしたじゃないですか……それなのに……ここ最近の、姉さまは……全然そういうこと……してくれなくなったじゃないですか』
酔った最中に姉さまにぶちまけてしまった私のあれやこれやの失言の数々。それを思い出すほどに顔を覆いたくなってしまいます。なんて恥ずかしいでしょう……
……なんて身勝手で、面倒で、無駄に重いことを言ってるんですか私……メンヘラか何かですか……?これじゃあ恋人を束縛しちゃう激重ヤンデレ女じゃないですか……
……いやまあ。間違いなくそういう認識で合っているんですけどね……
『他の皆さまには無い、私の唯一誇れそうなものって言ったら……この、キスくらいしかないって。だって……これは。私が味覚障害になった時から始まった……姉さまと私を繋ぐ、唯一絶対のものだから。だから……これを無くしたら、もう私には……何も……』
そしてそれ以上にもっと恥ずかしいのは……挙げ句の果てに自分の身体にものを言わせ。キスさえすれば姉さまが離れないでいてくれると考えてしまう……そんな自分の心の幼稚さです。
「私、結局……味覚障害が治っても……変われてない……ちっとも成長できてない……」
自分でも唖然としてしまいます。結局私は……姉さまとの口づけに依存して、姉さまを縛り付けていたあの頃のままじゃないですか……
「姉さま……私の事、嫌いになったかも……」
あんな醜態を見せてしまったら、流石の姉さまも私を見限ってしまうのでは?そうなったら、私は―――
「―――コマ、起きた?」
「ひゃう!?」
なんて考えていた矢先。心の準備もまだの状態で暗闇の中から現れるマコ姉さま。お、起きていらしたのですか姉さま……!?
「具合はどう?何が起こったのか記憶はある?コマ、奈良漬食べてちょっと酔ったみたいなんだよ」
「は、はい……大丈夫です……何をしたのかも、少しは覚えて……ます……」
「気分は悪くなってない?どこか身体のおかしなところとかある?いつもの違うような事があったら教えてね。あ、気休めにしかならないかもだけど……はいコレスポーツドリンク。お酒飲んだ後は喉が渇いちゃうらしいからね。しっかり飲んでおくといいよ」
「あ、ありがとうございます……」
あんな情けない姿を見ていながら、それでも姉さまはいつも通り真っ先に私の体調の心配をしてくださります。
そんな姉さまのお優しさが却って辛い……いっそ罵って欲しいです……
「さて、と。コマが落ち着いたところでさ。ねえ、コマ。コマさえ良ければ……ちょっとお姉ちゃんと外でお話しない?」
「わ、別れ話とかでしょうか……!?」
あれだけの事をした後で、真剣な表情でお話があると言われたら……もしかしなくとも『もうお前とは付き合いきれない、別れよう』なんて言われるのかもしれません……言われて当然の事をしたんですし……
ああ、どうしよう……どう私は謝れば……いいえ、謝って済むような話では……
「わ、別れ話……!?い、いきなり話が飛躍したね……大丈夫だよ、そういう話じゃないから」
「で、では何の……」
「とにかくさ。おいで、コマ」
手を差し伸べ、私を誘うマコ姉さま。誘われるまま恐る恐る姉さまの手を取ると。姉さまは私の手を引いて部屋から……旅館からこっそり外へ抜け出します。
「あ、あの……姉さま?どちらへ……」
「ん?んー……特にどこにってアテは無いかな。中途半端に終わっちゃった京都観光をコマとしようと思ってね。夜デートだよデート♪」
「と言いますか、こんな時間に勝手に旅館を出て大丈夫なんですか?かなえさまや先生たちにも一言言っておかないと心配をされるのでは……」
まあ、姉さま大好きなあの人たちの事ですし……姉さまの身を案じて後ろから付いてきてそうですけどね……
「……コマ。コマはデート中に他の女の人の話しちゃうんだ?お姉ちゃんちょっと寂しいな」
「え……?」
「安心してよ。皆には『ちょっとコマと二人っきりで話がしたいんだ』ってお願いしておいた。……正真正銘、今は私とコマの二人っきりだよ」
「二人きり……」
その言葉を聞いて、怯え半分……嬉しさ半分。あの三人を説得してまで二人っきりにしてくれたって……一体姉さまは私に何の話があるんだろうと怖く思う気持ちと、姉さまと本当に二人っきりだっていうこのシチュエーションを喜ぶ気持ち。二つの気持ちが混ざり合いなんとも言えない感情が私の中でわき上がります。
「さてさて……よし。この辺で良いかな」
しばらくそんな気持ちのせめぎ合いを自分の中でしていると、いつの間にか夜景が美しい河原へ足を踏み入れていました。手頃な場所を見つけると、そこに腰掛け私にも座るように促す姉さま。私は言われるがまま、姉さまの隣にちょん……と座ります。
な、何を言われるんでしょう……い、いえ。何かを言われる前に……まずは今日の諸々の事を姉さまに謝らないと―――
「ま、マコ姉さま!わ、私……」
「……コマ。ごめんね」
「……え?」
私が謝罪の言葉を口にするよりも早く、マコ姉さまは私に頭を下げて謝ってきました。
「……な、なんで……?謝るのは、私の方で……姉さまが謝るような事なんて一つも……」
「私知ってるよ。お酒に酔ってる時のコマは、いつもよりも素直に自分の気持ち伝えてくれるって。……聞かせて貰ったよ、コマの気持ち。私がコマの事飽きたんじゃ無いかって不安だったとか。私がコマ見て鼻血出さなくなったのはその証拠だとか。私の周りに素敵な人がいっぱいいて気持ちが離れないか心配だとか。キスで繋ぎ止めたかったとか」
「…………もう、勘弁してくださいませ姉さま……」
罰ゲームですかねコレ?姉さまの口から私の失言を口に出される度、余計に惨めになってきます。なんてこと言っちゃっているんですか酔った私……消えちゃいたい……
そんな私を笑う事も、蔑む事もせず。マコ姉さまは……改めて惚れてしまいそうになるくらい凜々しく真剣なお顔で続けます。
「……それ聞いて、察しの悪い私もようやく気づけたよ。……コマに言われて、考えてみたんだ。最近の自分の行動を振り返ってみたよ」
「振り返って……?」
「うん。最近の私はさ……自分を慕う後輩が出来て、慕ってくれる嬉しさでコマじゃなくてそっちにばかり構ったり。尊敬する師を得て、コマと過ごす時間を減らしてまで料理の修業に明け暮れたり。……今日なんか、お礼の為とはいえ私の方から親友にキスをしてしまったり。こんなに素敵な恋人がいるってのに最低だよね。……そんなの見せられて。コマ、色々ため込んでたんだね。ずっと不安にさせちゃってたんだね」
「い、いえ。そんな事は……」
一生懸命謝ってくれる姉さま。……違う、違うんです。……これはただ、私が……くだらない、醜い独占欲を姉さまにぶつけてしまっただけで……姉さまが謝る必要なんて……
そんな事を考えながらも、一方で私は嬉しさも密かに感じていました。姉さまは……やっぱり、ちゃんと私の事も気にかけてくれているんだ……と。
「自分が逆の……コマの立場だったらどうだろうって思った。例えばコマの前に、素敵な人が現れて。私の前でコマとイチャイチャし出したらどう思うのかって……考えた。……腸が煮えくりかえる程、嫌だなって思えたよ。コマもきっとこんな気持ちだったんだよね」
「それは……」
「コマは優しいから、本当に優しいから。怒る事なんてせずに我慢してくれてたんだよね。……私コマに甘えてた。調子に乗ってた。……これくらいならコマも許してくれるだろうって、とんだ思い違いをしていたよ。謝って許されるような事じゃないけど、言わせて欲しい。本当にごめんね」
「ぁ……」
そう言って姉さまは私をぎゅっと抱きしめてくれます。その温もりと、その一言で。私の中で今まで隠していたモヤモヤが……一気に晴れていくのがわかりました。
「…………わた、私……私も……ごめんなさい姉さま。あんな醜い嫉妬を見せてしまって……情けない姿を見せてしまって……」
「んーん。醜くない。情けなくなんてないよコマ」
「…………私、いつでも不安だったんです。姉さまは……いつだって私の事を思ってくれているって知ってます。私を一番好きだって言ってくれています。でも……それでも不安なんです。言葉だけじゃ足りなくなる。私以外の……誰かに、笑顔を見せないで欲しいって思う。私だけに見せて欲しいって思う……姉さまの頭の中、ぜんぶを私で満たしたいって思う……姉さまが欲しいって、いつだって思ってしまうんです……」
「……そっか」
姉さまの腕の中で、私は自分の本音を今度はお酒に頼らず素面のまま……伝えます。姉さまはポンポンと私の背中を撫でながら、全部真剣に聞いてくださいました。
「……現状が、嫌というわけではないんです。姉さまが他の人に慕われている事も、誇らしいと思うのも……嘘ではありませんから。……でも、でも。やっぱり私……ずっと姉さまの一番でいたいから……」
「…………ありがとう。コマも本音で語ってくれた分。お礼に私も……本音で語ろうかな。コマ。さっきの話で一つ、誤解を解かせて貰えるのを許してくれるなら……聞いて欲しい事があるの」
「聞いて、欲しい事……?何でしょうか……?」
「ほら、コマ言ってたでしょ。コマの事飽きたんじゃ無いかとか、他の人を好きになるんじゃないかとか、コマを見ても鼻血を出さなくなったとか…………その話なんだけどさ」
「は、はい……それが、何か……?」
何だろうと首を傾げる私を前に、マコ姉さまは突然すぅーっと息を大きく吸い込みます。そして限界まで吸い込んだ―――次の瞬間。
「この私が……コマを飽きるとか、他の人を好きになるとか…………あり得ないでしょうがぁあああああああああ!!!!」
「きゃっ!?」
溜め込んでいた空気と一緒に、姉さまの感情が爆発しました。
「もー、何なの!?可愛すぎかよ私の妹!嫉妬?嫉妬してくれたの?寂しがらせた私が言うのは最低で酷すぎるって思われるかもしれないけど…………ごめん、嫉妬するコマ最高だわ!元々嫉妬深いとこはあったけど、高校生になってそれに磨きがかかってて素敵よコマ!例えば私と他の人が話してるの見て、寂しくなってそっと私の袖引いてさりげなく自分の方へ注意を向けようとするところとか!自分では完璧に隠そうとしてはいるものの内心すっごい嫉妬してて、隠れてほんのちょっとだけぷくーって頬膨らませるとことか! 自分に感情が向いてないかもしれないって不安で、しょんぼり表情に陰りを見せるところとか!―――どれもこれも最高にキュートでお姉ちゃんキュンキュンしちゃう!そういうの隠さないで!むしろどんどん見せて!お姉ちゃんにもっと嫉妬してるとこ曝け出してって思ってる!」
なんとも言えない恍惚の表情で、唾とよだれと鼻血をダバダバとまき散らしながら……姉さまはマシンガントークを始めます。
あ……久しぶりに見ました……姉さまの鼻血……
「あー、ヤバい止まんない!もう止まらんわこんなの!お酒に酔って隠してた本音を曝け出しちゃったコマも良いよ、凄く良いよ!『私を見て』って幼児退行したみたいにひたすら感情爆発させるコマとかもう私メロメロよ!ぐっちゃぐちゃに泣きじゃくりながら『嫌いにならないで』って言うとことか嗜虐心煽られちゃってお姉ちゃんゾクゾクしちゃたわ!キス魔とかして私を襲いながらキスで私を繋ぎ止めようとするとことかいじらしくてたまらんかったし!酔いが回って眠りこけた後も寝言で『好き、好きなんです姉さま……』って呟くとこ見せられて……この子どんだけ私のこと好きなんだって泣きたくなるくらい嬉しくなって軽く絶頂しちゃったわ!他にも、他にもね―――」
「え、ええっと……」
息の続く限り、どこまでも私の事を褒め(?)てくださるマコ姉さま。私はただ、困惑してぽかんと姉さまの言葉を聞くほかありません。時に早口になりすぎて舌を噛んだり咽せたりしながらも、姉さまが語りに語る事約10分。
「―――ゼェ、ゼェ…………ハァ……」
「だ、大丈夫ですか姉さま……?」
「と、まあ……こ、こんな……感じよコマ……わかった、でしょ……?」
息も絶え絶えになりながらもどうにか語り終え。よだれと鼻血を拭いながら姉さまは私にそう問いかけてきます。わ、わかった……とは?
「コマが我慢していたように……結構私も、我慢してたんだよ?コマに嫌われたくないから。こーゆう見苦しくて気持ち悪いダメ姉な姿を見せたくないからね。……だってさぁ。高校生になってから、コマったら中学生の時以上に美しく凜々しく愛らしくなっていくんだもん。気を抜けば私、今みたいに中学生の時以上に興奮して……コマに自分の感情をぶつけてしまいかねないんだよ。わかる?コマに興奮しなくなったんじゃなくて……興奮しないようにどうにかこうにか自制しようとしてただけの話なんだよ」
「そう、だったんですか……?」
「そうだったのですよ。大丈夫?今のダメ姉を見て引いてないコマ?」
「い、いえ!とんでもない!むしろ安心しました。嬉しかったです……ちゃんと私を好きでいてくれてるって……言葉にしていただけて」
こう言っては何ですが、鼻血は姉さまの代名詞でしたからね。なんか……実家に帰ってきたみたいな安心感を感じます……これでこそ姉さまって感じです。
「高校生にもなってあんな姿を曝け出して、コマを困らせる事になるのは嫌だったんだ。だから高校に上がった時から……私、これでも毎日必死に耐えてたの。常識的で理想の素敵なコマのお姉ちゃん像に近づくためにも頑張ってたの。でも……もう、それもやめるわ。自分らしくないし……何よりコマに興奮しないように自制するのも結構辛いもんね」
そうして苦笑いをしながら、姉さまはまた私を抱きしめます。
「多分これから先も私……コマの事、嫉妬させちゃうかもしれない。不安にさせちゃうかもしれない。……ごめんね、当然コマの事が一番大好きだけど。でも……私のこと慕ってくれてる皆も……私、やっぱり大好きだからさ」
「……はい。知ってます。姉さまはお優しいですから」
……それに。そういう皆さんに優しいところも含めて、私は姉さまの事が大好きですから。
「うん、ありがとう。……その代わりと言ったらなんだけどさ。これからは……コマが不安にならないように。ちゃんと思っている事、コマにちゃんと伝えるよ。行動に示すよ。覚悟しておいてねコマ。もう許してって言われても、私コマに好きって気持ち……いつでもどこでもちゃんとコマに伝えるから」
姉さまはそういうと、静かに目を閉じて私に唇を突き出します。え、あ……あの、姉さま……
「……?コマ、どうしたの?キスは?」
「あ、あの……姉さま。ここ、一応お外で……し、深夜とはいえ……誰が見ているかわかりませんから……その……」
周りの目を気にして、キョロキョロする私。そんな私に姉さまはハァ……っとため息一つ吐き。
「……やれやれ。私の話聞いてなかったのかなコマ?言ったでしょ?―――覚悟しておけって」
「な、何を―――んンっ……ッ」
「ン……ちゅ……♡」
私を半ば強引に引き寄せて、姉さまはキスをしてくれました。私の事が大好きだって気持ちをいっぱいに乗せた、甘酸っぱくて優しい素敵なキスを。
……あ。これ余談ですけど。宣言通り姉さまはこの後旅館に戻っても、修学旅行が終わっても。遠慮とか一切無しにいつでも私に好意を伝えるのを忘れず、目が合えばどこでもキスを必ずしてくださるようになりました。
そんな姉さまと私を羨ましがり……かなえさま率いるいつものメンバーの姉さまへのアプローチがさらに過激になっていく事になるのですが……それはまた別の話という事で。
読んでいただきありがとうございました。ダメ姉復活。鼻血出さなきゃマコじゃない。これにて高校編も終了です。長かった……本編合わせて150万文字以上とか……本当に、お付き合いいただきありがとうございました。
これからの予定ですが、しばらくはダメ姉は休憩させていただきます。大学編とかも直ぐに書ければと思っていますが、今年資格試験も受ける予定でその研修やら試験勉強やらも必要なのでいつ頃更新出来るか未定です……待たせちゃうかもですが気長に待っていただけたら嬉しいです。
あと番外編って形で高校時代のマコたちのお話も今後書いていくかもしれません。ついでにRが18ばーじょんとかも続けていきたいし、思いついた他の百合小説も書いてみたいし……やりたい事いっぱい過ぎる……何にせよ、これからものんびりまったりどうかよろしくお願いします。




