ダメ姉は、修学旅行へ出発する(その4)
遅くなってごめんなさい、あとバレンタインですがバレンタインに関係ないお話でごめんなさい。修学旅行編その4です。
ただただ京都まで移動するだけで、それはもうてんやわんやな一日になった初日をなんとか終え。本日は修学旅行2日目。
さて、いよいよ本格的に修学旅行らしいイベントが始まりとなる。今日のメインイベントは全体学習会だ。予め学校で指定された場所を全員で回り、お話を聞いたり写真を撮ったりメモを取っておき。後日それを元にしたレポートを班で提出するのが課題となっている。
つまりただ観光気分で見回るだけじゃダメって事。真面目に取り組まなきゃ単位も貰えない。これも立派な校外学習ってわけだ。
「―――そういう意味じゃ。結果論ではあるけど、レンちゃんが居てくれて助かったところはあるよね」
「あー……はい。それは確かに私も思います姉さま」
「そうねぇ。わたしもそれに関してはマコに同感よ」
「ふぇ?急にどうしたんですかマコ先輩?それに立花先輩に叶井先輩まで……」
パシャリとお寺の写真を撮りながら、忠犬のごとく私の後ろにぺったりと付いてくる本来この場所にいるべきではない後輩―――柊木レンちゃんにそうしみじみと言ってみる私。我が妹コマも、それからカナカナまでもが珍しく同意する。
「マコ先輩はともかく、立花先輩たちは寧ろあたしがいない方が良いって思っているとばかり思ってましたけど……どーいう風の吹き回しです?」
「まあ、貴女さまがマコ姉さまを狙っているという点は見逃せませんが……」
「それを差し引いても。今回に限りあんたの存在は結構助かってるのよね。なにせ―――」
「……母さん、今行くよ……母さん、かあさん……かあさーん……ッ!」
と、そんな話の途中でどこかのご乱心した友人が雄たけびを上げつつ走りだす。…………おっと。噂をすればなんとやら。早速レンちゃんの出番のようだ。
「レンちゃん、GO!」
「はいですマコ先輩っ!」
私の一声に、素早くそして従順に反応したレンちゃん。すたこらさっさと逃げ出した一人の哀れな目標目掛け。猛スピードで追撃開始。
『マコせんぱーい!麻生先輩、捕まえましたよー!』
『ぬぁあああああ……!は、離せ後輩……!?離せェ!私の、邪魔をするなぁあああああああ!!!』
『ごめんなさい麻生先輩。でもマコ先輩の命令は絶対ですから!』
数秒と経たぬうちに逃走を企てたヒメっちの首根っこを捕まえて、私の元へと戻ってくるレンちゃん。……いやはや。一時はどうなる事かと思ったけど。本当にレンちゃんがいてくれて助かった。だってレンちゃんのお陰で……脱走を企てて実家に帰ろうとするヒメっちに気にすることなく学習会に集中出来るのだから。
「マコ先輩、無事に麻生先輩を確保出来ました!褒めてください!」
「うんうん、レンちゃんは偉いなぁ。助かったよ、いい子いい子」
「……えへへー♪」
「次もまた、ヒメっちが逃げるような事があればよろしくね」
「任せてくださいせんぱい!」
戻ってきたレンちゃんの頭を撫でると、嬉しそうにぴょんぴょこその場でレンちゃんは跳ねる。なんか、本来ないハズの犬耳と尻尾が見えてきちゃいそうなくらいの忠犬っぷりだわ。
「……おのれ、おのれ……!どうしてみんな、私と母さんを引き裂くの……私、ただ……母さんの傍に居たい……ただそれだけが願いだっていうのに……」
さて、本日8度目の逃走を阻止されたヒメっちはというと。ぐすんぐすんと涙を流してこの世全てのモノに呪詛を吐く。どうしてって言われてもねぇ……
「ったく……昨日の夜はまだマシだったハズなのに。おヒメはどうして今日になってまたホームシックが再発したのよ?つーか昨日以上に重症化してない?」
「カナカナ。ヒメっちはね……悲しい事にお薬が切れちゃったんだよ」
「薬?」
「あれですよかなえさま。今の時間はお母さまとのテレビ電話、使えないじゃないですか。それで……」
「あー……」
カナカナの言う通り。昨日は宿に着いてからは、多少はいつも通りの冷静でツッコミも出来るヒメっちに戻ってくれてたんだけど。それはお母さんとのテレビ電話という名のお薬があったから。テレビ電話が使えた時は、どうにかヒメっちも精神を安定させられていたようだけど……今の時間はヒメっちのお母さんは残念ながらお仕事中らしくテレビ電話が使えない。
お母さんの声が聞こえなくなった途端、昨日よりもお母さん欠乏症がさらに悪化したマザコン娘。まるで薬が切れた麻薬中毒者のように錯乱し……手が付けられない状態なのである。
「なおさら今回柊木がいて良かったわ……」
「いなかったらヒメさまを捕縛するだけで一日が終わってしまって……学習会どころの話じゃなかったですからね」
「だよねー。……そういうわけでレンちゃん。悪いんだけど、引き続きヒメっちの監視よろしく」
「了解ですマコ先輩っ!」
「…………(そろりそろり)」
「って……言った傍からまた麻生先輩が!捕まえてきますねマコ先輩!」
私たちが話をしている隙にまた抜け出そうとするヒメっちを、レンちゃんは私に言われた通り再度捕まえに行く。学習会の間はヒメっちの事はレンちゃんに任せよう。レンちゃん、頼んだよ。
「私たちはヒメっちの分まで資料集めとか頑張んないとね。……まあ、そう言っても私は私であんまり役には立てそうにないんだけどね。こういう歴史関連の事は私専門外だし」
所詮、私は基本的には要領悪いダメな子なのは昔から変わりない。料理の歴史とか調べるならいざ知らず。興味のない文化とか歴史とか調べるなんて上手にできないし、やる気も出ない。なにをどうやれば良いのかも分かってないし……正直めんどいなぁ。一人でレポート作成しろって言われてたら途方に暮れてたところだったわ。
とはいえ、今回の課題のレポート提出は班全員で作る物だから心配何てしていない。何せ我が班には……素敵で知的で無敵なコマとカナカナという頼もしい味方がいるのだから。
「大丈夫ですよ姉さま。姉さまが役に立たないなんて事あり得ません。この私が、姉さまの力になりますので。一緒に頑張りましょう」
「大丈夫よマコ。あんたはただそこに居てくれるだけで良いの。あとはわたしが、マコの力になるから。マコの為に働いちゃうから」
「……はぁ?」
「……あぁ?」
「あっ」
と、そんな頼もしいコマ&カナカナはというと。二人ほぼ同時に同じような事を私に言って。二人ほぼ同時に互いに互いの胸ぐらを掴んで喧嘩モードに移行。はい、いつものパターン入りましたー……
「……かなえさま。あなたはお呼びではありませんけど?姉さまと私の愛の共同作業を邪魔しないでいただけますか?」
「……そっくりそのままお返しするわコマちゃん。邪魔しないで。資料集めならわたしとマコの二人だけで充分だわ」
「言ってくれますね。……では、どちらが姉さまの助手に相応しいか―――白黒はっきりさせましょうか?まあ、勝負するまでも無く私の圧勝でしょうけど」
「大口をたたいて、痛い目を見るフラグが容易に見えるわよコマちゃん。いいわ、乗った。どっちが優秀なのか勝負しようじゃないの」
「あ、あの二人とも……」
「姉さま、待っていてくださいね♡すぐにどちらが真に姉さまの横に立つべき者か、分からせてきますので」
「マコ、ゆっくり休んでなさい。コマちゃんなんかあっという間に蹴散らしてくるから」
「ちょっと待っ―――」
止める間もなく二人は競い合うように、カメラやメモ帳を片手に資料集めへと向かっていく。
「……置いてかれちゃった」
一人その場でポツンと佇む。私の恋人と私の親友、ああなると決着が着くまで周りが見えなくなっちゃうんだよなぁ……
「……まったく、仲が良いのか悪いのか」
二人とも顔を合わせれば私を挟んで勝負したり喧嘩をしたり。昨日もそうだったけど京都に来てもそれは変わらぬらしい。やれやれと思いながらも…………ちょっぴり。ほんのちょっぴりだけモヤモヤしちゃう私。
「……いいなぁ、カナカナ」
まあ……方向性はアレだけど。なんであれいつもはクールビューティでお淑やかなコマに……あんなに感情剥き出しで接して貰えるのは……正直羨ましい。
私はあんな風にコマと言い合いをすることなんて滅多にできないもん。……最近だと……私以上に、コマはカナカナに構っているような気が……
「……いかんいかん。何変な事考えているんだか」
これじゃまるでカナカナに嫉妬しているようじゃないか私。カナカナに言ったら『なにバカな事言ってんのよ』って二重の意味でキレられそうだ。
そんな事考えるよりもこれからどうするべきか考えないと。
「……二人ともどこに行ったかわかんないし、とりあえずここで待つべきか。それとも次の指定されてるお寺で待つべきか……んー。どうしたもんかねぇ」
「―――あれー?立花さん?」
「んぁ?」
と、京都の絶景を鑑賞しながら次の行動をどうするかボケーっと考えていると、私に声をかけてきた女の子たちの集団が。
「立花さん一人だけどどうかしたのー?」
「他の班の人は?見当たらないみたいだけど……」
「もしかして迷子かな?」
心配そうに話しかけてきたのは……別のクラスの女の子たちだった。一人黄昏ていた私を見かねてくれたらしい。
「あ、ああうん。そんなところだよ」
「あちゃー、それは大変だったね。良かったら班の人たちと合流するまで私たちと一緒に行動する?」
「え?いいの?」
「いいのいいの。ね、皆もそれで良いでしょー?」
「勿論!願ってもない事だよ」
「困っているときはお互い様だもんねー」
……ふむ。他の班と一緒に行動か。あてもなくただ一人でうろうろコマたちを探すよりも、彼女たちと混ぜて貰って探す方が見つけやすいかも……
「そう言って貰えるなら、お言葉に甘えちゃおうかな。ごめんね、うちの班の子たちの誰かを捕まえるまでの間よろしく」
そんなわけで。彼女たちの申し出を私はありがたく受けることに。
◇ ◇ ◇
「いやぁ、立花さんとは一度ちゃんとお話ししたかったし。今日はラッキーだったわ。こう言う機会でもないと話なんて出来ないもんね」
「ホントホント!修学旅行様様よねー」
「え?私と話を?なんで?」
今更ながらに簡単な自己紹介をお互いに終えてから。彼女たちは楽しそうにそんな事を言ってきた。
「双子姉妹の立花さんは、二人とも美人で優秀で有名で……隣のクラスの私たちもよく二人の話を聞くからね」
「ずっと気にはなっていたのよねー。でも残念ながらクラスは違うし、選択授業も被ってないから中々交流するチャンスもないでしょう?」
「だから今すっごい嬉しいの!ひそかに立花さんに憧れてたんだー私たち」
「あこ、がれ……?」
思わず私は首を傾げる。成績もその他の事もとびっきり優秀なコマはともかく。私に憧れるところなんてないと思うんだけどなぁ……?
「立花さん、好きな食べ物ってなーに?」
「基本何でも食べるよ私。なんでも美味しく食べちゃえるタイプ。……しいて言うなら、妹が作ってくれたお料理全部が好きだね」
「趣味とかある?休日とかどんなことしてる?」
「お料理かなやっぱ。休みの日とかは……コマと、妹といつも一緒だね」
「お、お胸とか……いろいろ凄いけど、どうやったら立花さんみたいに大きくなれるのかな?」
「え、ええっと…………好きな人に揉まれてたらこうなった……のかな」
お寺を観光&資料集めをする片手間。彼女たちから質問攻めを受ける私。普段は喋る機会のない子たちと一緒になってこんな風に接するのも、修学旅行の醍醐味かもしれないね。
こんな感じで彼女たちとの問答を繰り返していると、いつの間にか少し人気のない場所に来ていた。どうやら話に夢中になり過ぎて、お寺から随分と離れたところに来ていたらしい。いかんいかん、とりあえず戻らないと―――
「ねえ、君たちこんなところで何してんの?」
と、踵を返したその直後。私たちの前にぬっと見知らぬ男3人ほど現れた。
「知らない制服だね、ひょっとして……修学旅行生かな」
「俺らも今観光してる最中でさぁ、良かったら一緒に行かない?」
「面白いとこ案内してあげるよ。遊びに行こうよ、ね?ね?」
……この口調と言い、格好と言い。ただのナンパじゃない感じがする。どうやらあまりお知り合いになりたくないタイプの連中らしい。厄介そうな気配がビンビンしてるもの。
「あ、あの……すみません、私たち今校外学習中ですので……学校で指定されている場所以外は行けないですし……」
声を震わせながらも、この班の班長さんが勇気を出して男たちにそう言ってくれる。けれど経験上、こういう連中はそんなので引くような奴らではなく……
「えー、いいじゃん別に。楽しくないでしょー?校外学習だなんて」
「それよりさ、もっと楽しい事しようよ」
「大丈夫大丈夫。先生には俺たち黙っておいてあげるから。ちょーっと遊びに行くくらい大丈夫だって」
案の定コレだ。さて、どうしたもんかね。
「いやぁ、最近の子たちはホント綺麗だよねぇ」
「発育も良いし、お兄さんたちちょっと興奮してきたよ」
「ちょーっと触らせてよ」
そうこうしているうちに、連中は私たちを取り囲むように立ってそんな下衆な事を言い始める。一人の男が手始めに班長さんの肩を抱こうと手を伸ばしてきた。
「ぁ……嫌……っ」
真っ青になって身を縮ませる班長さん。他の女の子たちも今にも泣きだしそうな顔だ。……そうだよね、怖いよね。華も恥じらうお嬢様校の女の子たちばかりだから、こういうナンパ共に絡まれた経験もないだろうし。
……大丈夫。大丈夫だよ。今度は私が、君たちを助けるよ。
「そーい!」
「痛っ……!?」
私は持っていた鞄を使い、班長さんに伸ばされた男の手を思い切り叩き落とす。そのままの勢いで力強く振り回しナンパ連中に距離を取らせた。
「てめ、何すんだ……!」
「……そりゃこっちの台詞。この子たちに触んな。嫌がってるの、わかんないの?あと言ったでしょ校外学習中だって。邪魔をしないでほしいんですけど?」
手を払われた男は怒って罵声を飛ばすけど、私は怯まず女の子たちを庇うように一歩前に出て言い返す。
「た、立花さん……だ、ダメだよ……」
後ろでは不安そうに女の子たちが私を見ている。そんな彼女たちの心配を取り払うように、私は笑顔でこうこっそりと声をかける。
「あはは、大丈夫だよ。こういうのは慣れてるから」
「あ、危ないよ……」
「良いから良いから。…………(ボソッ)それよりさ、私が合図をしたらお寺まで戻って欲しい。多分、先生たちが誰かその辺に居ると思うから。急いでこの事を伝えて」
「……で、でも」
「頼んだよ。よし、それじゃあ―――走って!」
もう一度鞄を振り回し、ナンパたちの隙を作って後ろの彼女たちを走らせる私。一瞬ためらいを見せた彼女たちだったけど。意を決して急いで元居たお寺に走っていく。
……よしよし。これなら彼女たちに危害は及ばないだろう。あとは先生たちが彼女たちを保護してくれるはず。
「……舐めた真似してくれるねぇキミ」
「勇ましいねー。そう言うの嫌いじゃないよ」
「こういう子見ると、分からせたくなるよなぁ」
さて。最大の懸念だったあの班の子たちの心配はしなくて良くなったわけだし。……あとはこいつらの対処を考えないとね。
うーむ……3対1は流石に分が悪い。逃げようにも見事に取り囲まれちゃってるから無理っぽい。体格差も人数差もあるから多分立ち向かっても簡単に組み伏せられてしまうだろう。いつもなら愛しいコマを守るための防犯グッズとかを常備しているところだけど。あいにく手持ちの装備は今は宿の中。せいぜい制汗スプレーが目くらましに使えるかどうかってところか。
となれば……
「(先手必勝、急所に一撃喰らわせて。あとは勢いで逃げるなり応戦する)」
現状これしか思いつかない。……やるしかないか。
「てりゃぁ!」
一番近くにいた男目掛けて、蹴りを飛ばしてみる私。……これが最初の、油断して私たちに声をかけてきた状態ならうまく決まったかもしれないけれど。すでに臨戦態勢に入っていたナンパには残念ながら効かなかった。私の渾身の一撃をあっさりと受け止めた男は、そのまま私の足を掴んで投げ飛ばす。
受け身を上手く取れないまま、地に伏す私。慌てて起き上がろうとしたけれど。それより早く男たちは私を押さえつけてきた。ちぃ……!やっぱそうそう上手くはいかないか……
「はーい、しゅーりょー。頑張ったけど残念でしたー」
「よく見ればキミ、めちゃくちゃ可愛いし……それにすっごい胸してるねぇ。いいじゃん。ロリ巨乳ってやつ?」
「さっきの子たちは諦めるよ。代わりにキミが相手してよね」
三人私を見下ろしながらニマニマ笑う。くそぅ、勝ち誇りやがってからに……今に見てろよ。この立花マコ、転んでもただは起きぬぞ。
頭突きなり噛みつきなりやって隙を作って……それからどうにか体勢を整えて仕切り直しを……
「手間取らせてくれた礼は、たっぷり取らせて貰おうかね。それじゃ早速」
そう言って男は私の服に手をかける。覚悟を決め、次に来るチャンスを待とうと私は歯を食いしばり―――
「―――私の姉さまに、何をやっているのですか。…………ころしますよ」
どこまでも冷ややかな一言と共に。私に手を出そうとした男の顔面に女の子の靴先が減り込んだ。派手に鼻血をまき散らし、彼方まで吹き飛んで男は一撃でノックアウト。
「んな……!?だ、誰だ―――ぶふぉ!?」
「い、いきなり何しやが―――ぎゃふ!?」
ついでに周りで私を押さえつけていた連中も、顔面に蹴りが減り込んで……最初に倒れた男と同じように仲良くおねんねする。突然の事にあっけにとられる私を、ヒーローのごとくやってきたその子は急いで抱き上げてきた。
「……ああ、なんてこと……マコ姉さま……ねえさま、姉さま……!ご無事でしょうか!?」
「え、あれ……こ、コマ?なんで……」
当然と言うべきか。そこにいたのは私の愛おしい嫁。私のコマである。
「姉さまがピンチと聞いて飛んできました。……ああ、背中を打ってしまったんですね……ごめんなさい、安易に姉さまに離れるべきじゃなかった……!」
顔面蒼白になりながら私を思い切り抱きしめるコマ。襲われた私よりもコマの方が泣きそうになっている。
「痛くないですか!?怖かったですよね!?おかしなことされませんでしたか!?…………安心してください。この愚か者たちは、それ相応の処分をしますから……」
「あ、いや大丈夫……コマが来てくれたお陰でイロイロ未遂だし……」
「未遂という時点で、万死に値します……さあ、どうしてくれましょうか……死よりも辛い拷問して、ギリギリ死ぬか死なないかの一歩手前で一度治療して、そしてもう一度拷問してから一思いにブチコロシましょうかね……」
純度100%のどす黒い殺気を纏いながら、動かなくなった男たちを睨みつけてそんな物騒な事を言うコマ。いかん、コマのこの目……本気だ。本気でやり兼ねない。
「大体……姉さまも姉さまです!」
「へ……?」
「いつもいつも言っているでしょう?もっと自分の事を大事にしてくださいと……!逃げてきた女の子たちに聞きましたよ、自分たちを庇って男たちに立ち向かったって……!なんで姉さまは、自分を顧みないんですか!?反省していない!私がどれだけ心配するかわかってない!男連中に組み伏せられた姉さまを見た時……生きた心地がしなかったんですよ……!姉さまにもしもの事があったら、私が一体どうなるのか……わからないんですか!?」
顔を真っ赤にしてコマは私に説教する。必死に、どんなに心配だったかを私にぶつけて本気で怒る。そんなコマを見ていると……私は―――
「…………姉さま?どうして怒られているのに嬉しそうなお顔をされているのですか。ちゃんと私の話、聞いているのですか?」
「……ん、ごめんね。でも……不謹慎だけどちょっと嬉しくて」
「…………は?」
……私は、ついさっき考えていたことを思い返していた。
「姉さま、何を……」
「コマがこんな風に、私に感情剥き出しで……ぶつかってきてくれるのって……中々ないから嬉しくて。……最近のコマは、なんというかその…………カナカナにばかり構ってるような気がしてたから。ちゃんと、私の事を見ていてくれてるんだって……私に対して自分の感情をぶつけてきてくれるの……なんか、実感できて……嬉しいなーって」
「…………」
「あ、あはははは……こ、こんなおかしなお姉ちゃんでごめん……あと、まだ自分を大事にしない悪癖が治らなくてごめん……心配させちゃってごめんねコマ」
我ながらなんとも情けなく。なんとも意味不明な事で嫉妬していた事を告白すると、コマは心底呆れた顔になる。
「全く……今更何を言っているのですか」
そう言ってコマは、今度は私の事を愛おし気に優しく抱きしめて。
「そんな心配しなくてもいいんです。私が笑うのも、怒るのも、泣くのも、悲しむのも―――私の感情を昂らせるすべての根幹は、マコ姉さまただ一人なんですから」
私を心から安心させる言葉をくれた。
読んでいただきありがとうございます。
これがコマが襲われているような状況ならマコももうちょっと戦闘力は上がりますが、自分が襲われてる時は年相応の戦闘力になっちゃうマコ。




