ダメ姉は、修学旅行へ出発する(その2)
申し訳ございません、だいたい土日に更新していますが今週がかなり忙しくなりそうですので土日更新ではなく本日一話更新しておきます。次回の更新は10日ほど空くことになるかもですがすみませんです……
下調べもしっかり済ませ、旅行に必要なものもバッチリ備え。そして迎えた修学旅行当日。
さて。修学旅行に限らず校外学習をする時は観光バスに乗って揺られバスガイドさんの案内を聞きながらだったり。引率の先生の小言を聞きながら集団行動で連れられて現地へ向かうのが一般的だろうけど。うちの学校はちょっぴり変わっている。
社会に出てもちゃんと自立が出来るようにという指導方針の下。予めどの新幹線に乗って、どの列車に乗り継いで、指定された旅館に何時にたどり着けるかを調べて計画表を先生に提出し。そんでもって実際に当日は班行動でその計画に従い自分たちで現地集合する決まりとなっているのである。
当然、子どもたちだけで旅行するとかちょっと不安になってしまう保護者達も少なくないらしい。……まあ、うちの保護者であるめい子叔母さんは―――
『何事も経験だしな。高校生にもなって新幹線にもバスにも乗れないようじゃ将来絶対苦労するし、そう言う意味じゃいい指導方針だと思うぞ。失敗して行先間違うのも旅行の醍醐味さね』
って、うちの学校の指導方針に賛同していたけれど。そうじゃない保護者もやっぱり居て。
「―――なあマコちゃん。本当に、自分たちで京都まで行けそうかい?ヒメに何かあったらと思うと……私は……」
「心配しないでくださいヒメっちのお母さん。ヒメっちは、必ず私たちが責任もって送り届けますから」
新幹線の入場券を使ってまで。我が子の旅立ちを見送ろうとしているのは、ヒメっちが世界で一番愛しているヒメっちのお母さん。心配そうに班長である私に問いかけてくる。
「ちゃんと無事に現地に着けそうかい?お金は足りてるかい?乗る時間や電車に間違いはないかい?」
「大丈夫ですよ。班全員で念入りに確認しましたし、先生にも計画表をチェックしてもらいましたから」
「ヒメやマコちゃんたちが変なやつに声かけられても、間違ってもほいほい付いて行くんじゃないよ?危ないと思ったら、すぐに110番通報したり頼れる大人に助けを求めなさい」
「それも問題ありません。いざとなったらコマを護衛するために常時携帯している防犯グッズで返り討ちにします」
「あと、出来れば定期的にヒメに連絡させてくれないかい?このままじゃ不安で仕事に手が付けられなくなりそうなんだよ……」
「あー……それに関しては、多分私たちが言わずともヒメっちの方から毎分ごとにテレビ電話してくるかと……」
目に入れても痛くない、大事な我が子の旅路を前に相当心配そうにイロイロ確認してくるヒメっちのお母さん。この問答を聞いているだけでも、ヒメっちが相当にお母さんから愛されているってよくわかるよ。ふふ、ホントに良いお母さんだねヒメっち。
「それじゃあ……すまないがマコちゃん。うちのヒメの事をよろしく頼むわ……」
「はいです、ヒメっちのお母さん。任されました」
ヒメっちのお母さんは不安そうな表情ではあるものの、私にヒメっちを託してくれる。ここまで託されたからには親友として、それから班長として私も気合を入れて頑張らないと。
さてと。それじゃあ早速班長の記念すべき最初の仕事をしようかな。
「嫌だぁああああああああああ!!!!いかない、修学旅行なんか行きたくなぁああああああい!母さん、かあさぁああああああん!!!!」
…………そう。ヒメっちを大人しく新幹線に乗せるという、最初にして最大の難関であるお仕事を。
「ま、マコ!急いで手伝って!もう時間がないわ!出発しちゃう!?おヒメを車内にぶち込むわよ!」
「姉さまお願いします!わ、私とかなえさまだけでは手が足りません……!新幹線の車内に乗せればこっちのものですから……!」
「離せカナー!コマ!離せェエエエエエエエエエ!!!!」
いつもは物静かで賢くて(比較的)常識人なクールビューティなんだけど。今日はその面影はどこにも見当たらなかった。コマとカナカナに羽交い絞めにされつつも、どうにかヒメっちのお母さんの元へと戻ろうとヒメっちは決死の表情で喚き泣き散らかし大暴れ。
キャラ崩壊し過ぎでしょ……普段の君はどこへ行ったんだヒメっち。ああ、いや。究極のマザコンってキャラは一ミリもブレてないけどさ……
「ヒメさま力強……!?ふ、普段どこにこんな力を隠しているんですか……!?」
「えぇい!駄々をこねるな抵抗するなおヒメ!良いからさっさと乗るのよ!」
力自慢のコマとカナカナの二人がかりでも、お母さんを目の前にしたヒメっちには力負けしているのが恐ろしい。……っと、いかんいかん。感心している場合じゃない。私も加勢しないと。
「はーいヒメっち。残念だけどもう時間だよ。大人しく自分のお席に座ろうねー」
「ッ……!マコやめて、離して!私、母さんの元に帰りたいの……!マコなら分かってくれるでしょう!?好きな人とは、一秒だって離れたくないっているこの私の気持ちを……!」
「わかる、すっごい分かる。……でもゴメン。その当人であるヒメっちの好きな人からヒメっちを託されたわけだし……大人しく私たち一緒に修学旅行へ行こうヒメっち」
「そんなぁ!?」
ヒメっちを説得しながらコマたちと共に新幹線に押し込む私。
「ヒメ……ごめんな。でも分かっておくれ。やはり……母親としては、娘が楽しい修学旅行に行かないっては……寂しく思うんだよ」
「修学旅行が何さ!母さんが一緒に居ないなら、楽しくもなんともない!」
「待ってる、かーちゃんは……ヒメの帰りをずっとあの家で待ってるから。……お土産、楽しみにしてるね……」
「嫌だよ母さん、私……母さんと離れたくない……!一生、母さんの傍に居たいんだ……!母さん、かあさぁああああああん!!!!」
まるで今生の別れでもしているかのように涙を流し遠ざかろうとするヒメっちマザー。そのお母さんに手を伸ばして追いすがるヒメっち。絵面的には何かの悲しいドラマの一シーンみたいに見えるけど。ただ3泊4日の旅行に行こうとしてるだけなのが酷い。
「ぐぬぬ……さ、三人がかりでもまだ足りないと言うのか……ひ、ヒメっち暴れないで!も、もう新幹線出発するから!下手に暴れると線路に落ちて危ないから!」
「離せぇ!私から、母さんを奪うな!私と母さんは、離れ離れになったダメなのぉおおおおお!!!!」
『間もなく出発します。駆け込み乗車にご注意ください』
そうこうしているうちに、駅内にそんなアナウンスが流れだす。いかん、発車時刻ギリギリだ。ヤバイぞ……このままだと間に合わない……
「こうなったら仕方ありませんマコ先輩!四人がかりで連れ込みましょう!立花先輩が右手を、叶井先輩が左手を!マコ先輩が右足を、そしてあたしが左足をそれぞれ持って麻生先輩を連行するんです!」
「ナイス判断だレンちゃん!コマ、カナカナ!二人もそれで良いね!?」
「わかりました!」
「任せなさい!」
レンちゃんのアドバイスにのっとり、ヒメっちの両手両足をそれぞれ抑え込んで引きずるように新幹線へとヒメっちを押し込む。どうにか押し込めたその刹那、プシューっという音と共に新幹線の扉が閉まる。
「ああ……あぁあ……かあ、さぁん……」
無常に閉まった扉に張り付き、手を振るお母さんの姿を見ながらヒメっちは泣き崩れ落ちる。……可哀そうだけど4日の辛抱だ、あとで私のテレビ電話使わせてあげるからどうか我慢して頂戴なヒメっちや。
「な、何とか間に合ったね……とりあえず皆お疲れ様。ここさえ乗り切れば勝ったも同然だね」
「ですね、あとは無事に京都までたどり着くのを待つだけです」
「やれやれね……どうして出発前からこんなにも疲れなきゃなんないのよ」
「マコ先輩のお役に立てて何よりです!」
「レンちゃんありがとねー。レンちゃんのお陰で助かったよ」
紆余曲折はあったけど。どうにかこれでいつもの仲良しメンバーが誰一人も欠けることなく修学旅行へ行けることにホッとする。いやー良かった良かった。やっぱりこういう楽しい思い出は、誰かが欠けたままだと寂しいもんだからね。
私も、コマも。カナカナもヒメっちも……そしてレンちゃんも。全員集結出来てなによりだわ―――
「―――って、いや待て。待って……なんか、おかしくない……?」
…………なんか。この場に居るはずのないメンバーがいる気がする。
「?どうしましたかマコ先輩?」
「いやあの……どうしたもこうしたも。…………何故ここにいるんだい、レンちゃん?」
すっごいナチュラルに介入してきたから、危うくスルーしちゃうところだったけど。修学旅行という場には相応しくない子にツッコミを入れる私。キミ、学年どころか学校も違う子なのに……どうして私たちにくっついているのかね……?
「何故って……そりゃあ、マコ先輩が居る所に後輩のあたし在りですよ!先輩のお役に立ちたくて、不肖柊木レン!参上しました!」
確かに役に立ったけど……この可愛い後輩が何を言っているのか、先輩は何もかもわからないよ……
「れ、レンちゃん!?貴女学校はどうしたの!?授業とかは!?先生たちに何て言って来たの!?」
「あ、それに関しては大丈夫ですよマコ先輩」
「へ……大丈夫って……」
……あ。もしかしてレンちゃんの学校―――というかうちの母校、今連休だったりするんだろうか?その休みを利用して私についてきちゃったって事?それならまあ分からんでもないけど……でも折角の休みをこんな事に使うだなんてもったいないよなぁ……
「ちゃんと先生方には『マコ先輩の良さを後世に残す部活動の一環で、マコ先輩の修学旅行について行きたいと思うので4日ほど休みます』って書置きを残しておきましたから大丈夫です!」
「…………」
Prrrrr! Prrrrr!
レンちゃんの爆弾発言直後に鳴り響く携帯のコール音。誰からかかってきたのか、ディスプレイを見るまでも無くわかる。
「…………(ピッ!)もしもし?」
『良かった、繋がったッ……!すまん、立花!?今お前どこだ!?お前を慕う例の後輩がだな―――』
「せんせー……残念、遅かった。私、もうすでに新幹線の中です。……そして、危惧された通りレンちゃんも今私の横に居ます……」
『ぬぁあああああ……!』
携帯電話の向こう側で、中学時代の私の担任の先生が悶絶しているのがわかる。あと数分かけるのが遅かったです先生……
『…………クソ、こうなったら仕方ない……すまんが立花。そいつの面倒を頼めるか?』
「あ、それは勿論。大事な後輩ですし、修学旅行中は責任もって面倒見ておきます。旅行が終わったら真っすぐそっちの学校に連れて行きますので」
『……頼んだ。ったく……どうしてこう、お前の後輩はお前の悪いところばかり似てくるんだ……』
「ちょ……!?まって先生!流石の私も、中学時代授業サボってどっかに遊びに行ったことなんて無いですよ!?」
『…………陸上の大会に出ている妹が心配で、学校をサボって妹の応援に行った奴が昔いた気がするんだがなぁ?』
身に覚えがございません。とにかくレンちゃんは任されました。
「……困りましたね。修学旅行だからライバルが一人減って楽だと思っていましたのに。これじゃあいつもと変わらないじゃないですか」
「面倒な敵が増えたわね。……まあ、誰かさん含め。マコにすり寄る連中をまとめて一網打尽にしてから。ゆっくりマコとイチャラブすれば良いだけの話だけど」
「……ふふ、面白い事を言いますねかなえさまは。お土産と一緒にクール宅急便でお家まで送ってあげましょうか?」
「「…………ッ!!」」
こんな時でもいつもと変わらず、元気に取っ組み合いを始める二人。他のお客様の迷惑になるからやめようねー……って言っても聞かないだろうけど。
「ほーんと。この二人は相変わらずだよねヒメっち―――って、あれ?ヒメっち?」
と、ヒメっちに声をかけようとしてみると。ついさっきまでそこにいたと思っていたヒメっちが姿を消している。あれ?おかしいな?どこ行った?もしかして諦めて自分の指定席でふて寝でもしてるのかな?
「あ、マコ先輩。麻生先輩なら後ろの方に行きましたよ」
「え?後ろの方……?なんで……?」
私たちが指定した席はもっと前だったような?もしや間違えちゃったのかな?
「なんかよくわかんなかったですけど、麻生先輩変な顔で『……だいじょうぶ。今ならまだ間に合う……いますぐ戻ればだいじょうぶ……』とかなんとか言ってました。アレってなんだったんでしょうね?」
「…………」
ダッ!
ヒメっちの考えていることを察して私は新幹線の中をかける。想像通り、ちょうど車掌室の手前で幽鬼のようにふらふらしていたヒメっちを見つけ。どうにかタックルして彼女を止める。
「待て、待てぃヒメっち!どこへ行く、何するつもりだ!?」
「……止めないでマコ。今から戻れば……すぐに母さんのところに戻れるから……」
「やっぱキサマ、車掌さん脅して新幹線を逆走させようとしていたな!?止めるに決まっとるわそんなの!?こ、コマー!カナカナー!レンちゃーん!ちょっと来てくれー!?ヒメっちが!ヒメっちがヤバイ!」
正常な判断が出来ずにいるヒメっちを何とか羽交い絞めにしながら思う。コマとカナカナは言わずもがな。レンちゃんまで加わって、現地には和味先生。いつもは頼れるヒメっちまでもがこのザマとなると……今回の旅行、私の役割めちゃくちゃ重大なのではないだろうか?主にツッコミ的な意味で。
わ、私本来……生粋のボケキャラだったハズなんですけどぉ!?
読んでいただきありがとうございます。普段は頼れるツッコミ役も、この状態では一番ヤバイまである。頑張れマコ、中学時代散々ボケたんだし高校時代はツッコミに徹しろ。




