ダメ姉は、修学旅行へ出発する(その1)
ダメ姉更新です。告知通りこれが高校編最後のお話となります。ダメ姉修学旅行編開始です。
中学を卒業し、コマやカナカナたちと高校へ入学して。気づけばあっという間に季節は巡る。
今日までにそれはもう色んなことがあった。目を閉じれば思い出す、コマたちと共に過ごした姦しくも楽しきあの日あの時。
料理の師である和味先生に出会って気に入られて弟子入りしたり、ちょっと(頭の)おかしな部活を立ち上げ入部する事になったり。放課後に大富豪をして遊んだり、勉強会に参加して定期テストに備えたり。アルバイトをしたりキスしまくったり妹を強制したりお世話されたりコマとカナカナが私争奪戦を繰り広げたり催眠されたり……
……なんか中学時代と相も変わらず、イロイロとダメな思い出ばかりな気もしなくはないけれど。まあ、それはそれこれはこれ。ダメではあったけど、それはもう一日一日がとっても楽しい高校生活だった。
そんな楽しい高校生活も、残念ながら永遠には続かない。何事にも終わりというものが存在する。今からちょうど一か月後、高校生活を締めくくる集大成ともいえるイベント―――そう、修学旅行が差し迫っていたのである。
「―――とかなんとか。哀愁漂うモノローグをちょっとやってみたわけだけどさコマ。それに皆」
「あ、はいです姉さま」
「どうかしたのマコ?」
「…………まだこの高校に入って、一年も経っていないんだけど……これは一体どういう事かね?」
いかにも今すぐにでも高校生活が終わりそうな語りをしてしまい大変申し訳ない。……随分と長い時が流れたように感じるけれど。実言うと私もコマたちもまだまだピカピカの高校一年生。この高校に入学してから一年も経っていないのである。だというのに……もう修学旅行って流石にちょっとおかしくないかな?
「普通さ、修学旅行って三年の時に行くものなんじゃないの?何故に一年の今ごろ修学旅行……?先生たち何考えてんの……?修学旅行ってなんだっけ……?」
「別におかしくはないでしょ。そりゃマコの言う通り珍しいといえば珍しいけれど……進学校とかは大学受験とか就職活動とかに専念させるために二年生の時とか、早いところはわたしたちと同じように一年の時に修学旅行に行くって聞くわ」
「この学園も一応進学校ですからね」
コマとカナカナが苦笑しながらそう答える。修学旅行って私の中では三年間苦楽を共にした仲間たちとの最後の思い出作り的なイメージだったのになぁ。まだ出会ってそれほど立っていない一年の友人たちと旅行するとか……もはやこれ、修学旅行というよりも親睦旅行では?
「なによマコ。あんたその様子だとあんまり修学旅行に乗り気じゃないのかしら?」
「気持ちはわかりますよマコ姉さま。姉さまの仰る通り、こんなに早い時期に行っても修学旅行という気分には浸りにくいですからね」
「え?……あ、いやいや違うよコマにカナカナ。時期にツッコミは入れてるけど、別に嫌なわけじゃないよ。寧ろ私、めちゃくちゃ楽しみにしているよ。だって―――」
「「だって?」」
「だって……いつ行こうが、どこへ行こうが。皆と一緒なら絶対に楽しい旅行になる事だけは間違いないもんね」
「姉さま……!」
「マコ……!」
「コマ、カナカナ。思い出に残る、いい旅行にしようね」
私が笑ってそう言うと、コマもカナカナもとてもいい笑顔で私の手を取り大きく頷いてくれる。
「勿論ですとも姉さま!下調べから当日のスケジュール管理まで、この私にお任せください。姉さまの一生の思い出になるような、そんな素敵な旅行にしてみせます!」
「マコ、わたしにすべて委ねると良いわ。最高の思い出を、あなたにプレゼントしてあげるんだから!」
どこから取り出したのかガイドブックやパンフレットをいっぱいに掲げて頼もしい事を言ってくれる二人。ありがたいけどそんな気合入れなくても……まだ旅行は一か月も先の話だぞせっかちさん達め。
「まあ、こんな風に下調べするのも旅行の醍醐味だよね。えーっと。なになに?旅行先は京都。三泊四日の旅。一日目は移動のみ、二日目は全体学習会。そんでもって三日目が班に分かれての自由行動ね」
今日のホームルームで配られた旅行のしおりをパラパラ流し読みしてみる。ふーん、やっぱり京都かー。いかにも修学旅行って感じ。オーソドックスだね。
でも、私もコマも行ったことのない場所だから結構楽しみなんだよね京都。それにさっきも言った通り。皆と一緒ならどこへ行こうときっと楽しいだろう。
「てか……班行動って聞いた時は正直心配だったけど。なんだかんだでいつものメンバーになったのはビックリだよね」
修学旅行の班分けは、誰か一人別の班になったり最悪全員がバラバラになる可能性も勿論あったわけだけど。フタを開けてみれば私が所属する班は―――私・コマ・カナカナ・ヒメっち―――という、いつもの仲良し四人組勢ぞろいだった。
偶然にしては出来過ぎてるし。先生たちも折角旅行するならと気を利かせて、仲の良い面子を集めてくれたのかね?
「実はコマとカナカナが『マコ(姉さま)と一緒の班にしなければどうなるかわかるますよね?』って先生たち脅してたりして!なーんて―――」
「「…………(ササッ)」」
「―――おい、おいそこの二人?どうして私から目を背けているのかね?」
小粋なジョークを言っただけなのに、何故コマもカナカナも冷や汗をかいて全力で私から目を背けているのだろうか?ま、まさか本当に脅して班を一緒にしたとかというオチじゃあるまいな……?
「そ、そんな事よりマコ姉さま!姉さまはどこに行きたいとか希望はありますでしょうか!?」
「な、なんか行ってみたい場所とか気になる場所があるなら、わたしがリサーチしてあげるわよ!?」
「ねえ……二人とも。マジで先生たち脅したりしてないよね……?」
全力で話を逸らそうとする二人がこわい。
「ま、まあ良いか。ちなみに二人のお勧めする場所ってどこかな?」
「やはり私と姉さまは双子の姉妹であり、恋人同士であり、婦~婦でありますから……家内安全、そして婦~婦円満が叶う神社などが良いと思うのです。いくつかリストアップしていますので、お好きな場所をお選びくださいませ♡」
「マコ、やっぱ定番の地主神社とかどうかしら?あそこは縁結びにピッタリの素敵な場所なのよね。有名な恋占いの石を体験して、是非ともわたしとの恋を叶えるのはどうかしら?」
「……えっ?」
「……はぁ?」
「「…………」」
「あの、二人とも……?」
二人同時に自分のお勧めの場所を私に見せ、そして二人の間に不穏な空気が流れてくる。あっ……いかん、これいつものパターンだ。
「う、ふふふ……嫌ですねかなえさま。恋を叶えるも何も……姉さまはすでに私との恋を叶えていますので。そんなものは必要ありませんよ?ついでに言うと貴女の出る幕はこれからもありませんよ?」
「は、ははは……大丈夫、心配しないでも良いわよコマちゃん。京都にはね。安井金比羅宮っていう、とーっても有名な縁切り神社があるの♡そこでマコとコマちゃんの縁を断ち切って。その上でわたしがマコと縁を結んでついでに永遠に結ばれるようにするから」
「あら、それは良い神社ですね。教えていただきありがとうございますかなえさま♪お礼にその神社でマコ姉さまと貴女の悪縁を、長きにわたる姉さまへの執着心ごと断ち切らせて貰うようにお祈りさせて頂きますね♪」
「「…………ッ!!!!」」
「はいそこ、折角楽しい話をしてたのにおかしな喧嘩なんてしないの」
いつも通り取っ組み合いになりそうになる二人の間に挟まり制する私。どっかに仲の悪い二人も仲良しになれるような効能の有る神社とかないかなぁ……
「この二人は置いておくとして……ねえヒメっち?ヒメっちはどっか行きたいところとかないのかな?」
ヒメっちも私たちの班の一人。どこか行きたい場所があるなら早めに予定に組み込んでおきたいもんだ。そう思いさっきから机に突っ伏して動かずにいるいつも以上に静かなもう一人の親友に声をかけてみる私。
するとヒメっちは、何故か生気のない表情でのそりと顔を上げ……こう答えた。
「…………ない」
「え?行きたい場所ないの?ちゃんとパンフとか読んでみなよ、一つくらいは行きたくなるような場所が見つかる―――」
「…………行きたく、ない」
「は?」
「…………修学旅行になんか、行きたくない……!」
教室中に響き渡るどす黒い感情の籠ったヒメっちの慟哭。ど、どうした急に……?
「……いやだぁ……いきたくない、いきたくないよぉ……」
「い、行きたくないって……まさか修学旅行そのものに?」
「……かあさんと、1日どころか4日も離れるとか……なにそれ拷問?地獄か何かか?私いかない……母さんと離れるくらいなら、旅行なんか行かないわ……おうちで留守番してる……」
「…………あー。なるほどそれが理由かぁ……」
なんか今日はいつも以上にテンション低いなって不思議に思ってたけど、これが原因か真正マザコン娘め……まあ、4日も好きな人に会えない心中を考えると相当に辛いのはわかるけどさ。私も中学時代コマと1日、2日離れただけでダメダメになったし。
「お、落ち着けヒメっち。気持ちは分からんでもないけど……でもアレだよ?行かなきゃ修学旅行の記念写真撮った後で、右上の隅に寂しく一人ポツンって個別に載せられちゃうよ?」
「……別にいい」
「一生に一度しかない修学旅行、行かなきゃあとで後悔する羽目になるかもよ?ヒメっちマザーも自分の娘が修学旅行に行かないってなったら心配しちゃうよ?」
「……だったら母さんにも修学旅行に来てもらえるように説得する……母さんと一緒に修学旅行謳歌する」
「おかーちゃんにとんでもない無理言うなや!?」
ダメだ相当重症だこのマザコン……とりあえず修学旅行先の下調べよりも何よりも。ヒメっちの説得をすることが先だわコレ……




