ダメ姉は、活動報告する(中編)
授業も滞りなく終了し、あっという間に放課後を迎える。普段であるならばいつもの仲良しメンバーと楽しくおしゃべりをしたり、のんびり好きな事を好きな人とやったりしているところだけど……今日はそうも言っていられなかった。
「―――とうとう決戦の時が来ましたね」
「そうね。……へま打つんじゃないわよコマちゃん。コマちゃんの頑張りにかかっているんだから」
「それはこちらのセリフですよかなえさま。……この件に関してだけは、頼りにしてますからね」
「わかってる。マコの居場所を守るため」
「共に力合わせ、敵を打ち滅ぼしましょう」
生徒会室の前に立ち、まるで歴戦の戦友のような会話をしているのは私の愛おしい妹コマと、私の頼れる親友カナカナ。いつもは喧嘩ばっかりな犬猿の仲な二人だけど、今日はいつもと違い非常に息ぴったりな様子。
これから始まる我が部の―――マコラ部の存続を賭けた戦いを前に、互いが互いを高め合っている。
「…………憂鬱だ」
「……マコ、顔青いけどダイジョーブ?」
「…………大丈夫そうに見えるかねヒメっち?」
そんな風に闘志を全開に燃やしハイテンション気味な二人に対し。この私……立花マコはというと。二人とは真逆に気持ちはどこまでもどんよりローテンション。ため息吐き、付き添ってくれたヒメっちに背中を擦られながら胃を痛めていた。
「あらあら緊張しているのかしらマコ?珍しいわね。まあそりゃあ活動報告失敗したら廃部になるなんて聞かされたら、大なり小なり緊張するのも分かるけどね」
「カナカナ……」
「大丈夫。マコラ部は……絶対に廃部にはさせないわ。安心して頂戴、貴女の聖域はわたしが必ず守るから」
「かなえさまの言う通りですよ姉さま。心配しないでください。細々した活動報告は私たちが対応します。姉さまはどんと構えていてくれればいいんです」
「コマ……」
「マコラ部を守る事は姉さまを守る事に直結します。例えこの命に代えましても、姉さまの守りたいと願われているこの部活を守り通しますから」
どこぞの王子さまにも負けてないかっこよさで二人は笑い、震えている私に力強い言葉を贈る。落ち込んでいるとき、不安に感じているとき。こんな風に私に声をかけてくれる二人は本当に頼もしいなぁ。
…………けどね二人とも。違うんだよ。私が心配しているのは、部が廃部になることなんかじゃなくて。君たちが無茶をしないかってところなんだよ……
「私が……私がしっかりしないと……コマとカナカナが変人扱いされて、生徒会長さんとか先生たちとかに目をつけられることだけは何としても阻止しないと……」
「……ねえねえマコ。言ってもいい?」
「何かねヒメっち?」
「……もう、手遅れでは?」
それを言っちゃお終いよヒメっち……
「さあ皆さま、そろそろ時間です。行きましょうか」
コマに引き攣られて生徒会室の中へと入る。何とか穏便に済ませられると良いんだけど……
◇ ◇ ◇
初めて入ったこの学校の生徒会室。その中央に座っているのは眼鏡をかけたとても真面目そうな一人の女学生さんだった。ネクタイの色からすると3年の先輩さんだし……この人が生徒会長さんって事か。
周りには校長先生とか生徒指導の先生とか。あと何故か私の料理の師匠である清野和味先生とかまでいる。わざわざ放課後にこんなよくわかんない部の為に集まって貰ってすみません先生方……
「生徒会長の日野です。ようこそマコラ部の皆さん」
入ってきた私・コマ・カナカナ・ヒメっちの4人を一瞥すると、前の席に腰掛けるよう促す生徒会長さん。促されるままにメンバー全員が生徒会長さんたちの前の席に座ったところで生徒会長さんは話を始める。
「突然の呼び出し申し訳ありませんね。早速で申し訳ありませんが、活動報告をお願いしたいと思います」
「すみません、活動報告の前に聞かせてください生徒会長さま。何故急に、私たちマコラ部は活動報告をする必要があるのか……その説明を、今一度お願いしてもよろしいでしょうか?」
「聞けばわたしたちの部活だけらしいじゃないの、活動報告しなきゃいけないのってさ。いきなり部活調査が必要って言われても困るのよね。別にわたしたち悪い事なんてやっていないじゃないの」
「廃部の可能性もあると言われては、私たちも黙ってはいられません。納得のいく理由を教えてくださいませ」
活動報告することに不満があった様子のコマとカナカナは、早々に生徒会長さんに不服を申し立てる。そんな二人の訴えを聞いた生徒会長さんはというと、涼しい顔でこう返してきた。
「どうしても何も。活動していない部活動は、残念ながら部としては認められないからです。活動理念も意味がよくわからない部活ですし……目立った活動らしい活動もなし。ただただ放課後に集まってたむろするような部は部とは言えません。そのような部活動に部費を払うくらいなら、別の真面目に活動している部にその分部費を回した方がはるかに有用ですからね」
「ごもっともすぎる理由だ……!」
冷静な生徒会長さんの一言に思わず頷いてしまう私。ハハハ、ぐうの音も出ねぇや。
「異議ありです!ちゃんと活動していますよ!マコラ部の部の理念は―――『マコ姉さまを愛でる』事。その理念に従い、毎日欠かさず活動しています!」
「日々わたしたちはマコを愛でまくってるわ!マコの魅力を語ったり、マコを輝かせるべくメイクさせたり!」
「マコ姉さまの素敵な写真を撮ったり、マコ姉さまに愛らしいコスプレして貰ったりと!私たちは真面目に活動していますもの!」
「……凄いね、傍から聞いていると全然真面目な要素がない」
このふざけた(※当人たちはいたって真面目な)説明を聞いただけで、廃部にさせられても文句言えないと思うのは私だけじゃないハズ。
「どの辺が真面目なのかはわかり兼ねますが……良いでしょう。そこまで言うならこの私を納得させるような活動報告をやってみせてください。それで判断させて頂きますから」
「わかりました、絶対に納得させてみせます」
「上等よ、この心のオアシスを廃部になんてさせないんだから」
そんなこんなで生徒会長さんVSマコラ部の熱い(?)討論開始。
「まずわたしから活動報告させて貰うわ」
先陣を切ったのはカナカナ。
「生物部が飼っている動物を愛でるように。園芸部が育てている花を愛でるように。わたしたちは毎日のようにマコを愛でているわ。まったくもってオシャレにやる気の無いマコの為にメイクしてあげたりネイルをしてあげたり。それから服装もコーディネートしてあげたりね」
「それが活動ですか?それだけでは流石に弱いですね。友人とメイクしたりネイルをするくらい、今どきの高校生なら休み時間や放課後にでもしている事じゃないですか」
カナカナにそう指摘する生徒会長さん。確かにそうだ。その程度の活動じゃ、帰宅部となんら変わりがない気がする。
その指摘に対してちっちっちと指を振ってカナカナは不敵に笑う。
「確かにその通り。それだけじゃ部としての活動とは言えないわ。けれどね、マコラ部の場合はそれに留まらないの。運動部とか美術部とかみたいにちゃんと部としての実績が出せるように、マコを愛でた活動をちゃんと形に残しているわ」
「形に……?」
「ええそう。具体的に言うと―――」
そう言いながらカナカナは、持っていた鞄の中から一冊の冊子を取り出して。
「―――着飾ったマコを写真に収めて、写真集を作って校内で販売しているわ」
「勝手になんてことしてくれてんのカナカナ!?」
自信満々に生徒会長さんたちの目の前にそれを叩きつけた。なにそれ知らない……慌てて中身を確認してみると、カナカナに(無理やり)おめかしされた時の格好の私の写真が何百ページにも渡り掲載されているではないか。
「つーかいつ撮ったコレ!?しかも……販売!?販売って言った!?誰に売ってんの!?初耳なんですがねカナカナ!?」
「良いでしょう?マコの可愛さ布教にもなるし、部活動としての実績にもなる。おまけに得た収益をマコラ部の活動資金に使える。お得よね」
「お得よね、じゃねーよ!?こんなの売るなや!?そもそも誰が買うっていうのさこんなもの!?」
「悪用されたら困るから基本的にこの学校内でしか販売していないけど……クラスメイトでしょ、あと先輩たち。ごく一部の先生たちに……例の後輩が買ってるわ。ちなみに先月号は大評判でね、なんと重版決定したわよ。やったわねマコ!」
「やったわねじゃないわ!?よくもやってくれたなカナカナ!?」
せめて……せめて写真を撮ったり本を売る前に、モデルになってる私の許可を得てから売れと言いたい。いや、そもそもそんなもの売るなと言いたい。
「え、ええっと…………と、とりあえずそれ……閲覧させて貰っても良いですか?」
「ええ、勿論。校長先生たちも良ければどうぞ」
カナカナのアレな言動に引きつつも、出された写真集を読み始める生徒会長さん。校長先生たちも一緒に中身を確認している。
「……なんだこの状況」
「……カオスだねー」
……冷静に考えると酷いなコレ。自分がコスプレした恥ずかしい格好を収めた写真が知らないうちに写真集になり。その写真集を本人の目の前に大勢に鑑賞会されているというこの異様な光景―――これは一体なんの羞恥プレイですかね……
「―――拝見させて貰いました。色々と、言いたい事はありますが……まず一言言わせてほしい事があります」
「なによ?」
数分後、ひとしきり写真集の中身を確認した生徒会長さんは、大きな溜息を吐きながらカナカナに向けてこう告げた。
「…………一冊、おいくらですか?」
「ちょっと待とうか生徒会長さん?」
いやあの……生徒会長さん?どうして財布を片手にそんな事を言い出しているんですかね?
下書きの時点では(珍しく)まともな生徒会長さんだったハズなのに…結局こうなるのはこの作品の運命だとでも言うのか…




