ダメ姉は、催眠される(その3)
ダメ姉更新です。今回は清野先生の催眠ターン。
~SIDE:ヒメ~
マコにかけられた催眠を解くためのミッションはまだまだ続く。
「つ、次は……私がマコさんの催眠を解いてみますね……」
お次の挑戦者はあのマコ以上に料理上手で、且つあのマコ以上に料理以外はまるでダメ人間な料理の鬼。二重人格でおなじみの清野和味先生だ。
「……もしかして、何かマコの催眠を解く良い案があるんですか先生」
「う、うまくいくかはわかりませんが……はい」
普段は(料理関連以外だと)内気でオドオドしている人だけど、マコをどうにか助けたいと思う気持ちは相当に強いらしい。いつもの消極性は何処へやら。真剣な顔で積極的に会話に参加してきた。
「え、ええっと……ですね。まず大前提として……先ほど叶井さんが説明してくれた通り、催眠というものは絶対的なものではありません……ですよね?」
「ええそうね。テレビではそう言ってたわ。催眠術師が解除するためのキーワードを唱えるか。もしくは……本能が嫌がるような行為を無理やりさせようとしたら自己防衛機能が働いてその衝撃で解けちゃうとかなんとか」
「そうです……どれだけ深い催眠状態であったとしても、心に強い衝撃を与えることで解除も可能という話でした……」
カナーの話を信じるなら。良くも悪くもドキドキするような、何かしらのショックを与えれば催眠も解けるという事らしい。
「……とはいえ先生?並みのショックでは催眠は解けないのはすでに私が実証済み。生半可な事では解除は難しいと思います」
実際パンツ見せろって命令したり恥ずかしい実体験告白させたりしたけれど、その程度ではマコの催眠は解けなかったわけで。
「ですです!あたしもさっきマコ先輩に『王子様になって』って命じてみましたけど……全然催眠解けませんでしたもん!ドキドキしてくれたはずでしたのに!」
「いや、柊木。あんたのアレはマコがドキドキするんじゃなくてあんたがドキドキしただけでしょうが」
「んな!?そ、そんなはずありません!きっとマコ先輩もドキドキしてくれたと思うんですけどー!?」
いや……さっきの柊木のあれこれはカナーの言う通り柊木だけがドキドキしてただけだと私も思う。
「そう……そこです。ここで重要なのは……マコさんの心を揺さぶるものは一体何なのか、だと思うんです……」
「……ほほう?と言うと?」
「柊木さんの先ほどの一件は、良い例でした……他の人が相当に恥ずかしいって思っている行為であっても……他の人がどれほど感動するような行為であっても……当のマコさんにとっては、さほど心を揺さぶるような事ではない可能性があるのでは……ないでしょうか?麻生さんや柊木さんの命令ではそれほどマコさんの心に衝撃を与えられなかったからこそ、催眠状態も解けていないという事では……」
「……ふむ。一理ある」
……よく考えてみれば。どんだけ恥ずかしい行為を私たちが強制しようとしても、マコにはほぼノーダメージだよね。何せそれ以上の事を毎日のように妹のコマからイロイロさせられているわけだし。
「なるほどね。じゃあ先生?先生は一体何をすればマコの心を揺さぶることが出来るって思うんですか?」
「むー……あたしの王子様体験以上に心揺さぶるような事って……そんなの本当にあるんですか?」
カナーや柊木の問いかけに、おろおろしながらもしっかり頷く清野先生。
「も、勿論です。……マコさんの趣味嗜好を分析すれば……自ずと答えが導き出せるはず。皆さんも……ご存じでしょう?マコさんの趣味にして最大の特技の事を。それは―――」
「「「それは?」」」
◇ ◇ ◇
「それは―――ズバリ料理だ!」
「「「…………」」」
「やはり料理だ!料理をすればすべて解決する!というわけでさあやろうすぐやろう今すぐやろうマコくん!私と一緒に料理の時間だ!」
「…………はい」
「……ストップ。待った。どういうことなの?」
調理器具を片手にとって、強気な性格にチェンジした清野先生に連れられて。やって来たのは学校の調理室。そこで先生はマコに『共に料理をしよう!』と命じた。
妙案があるかと期待したけど、ダメだこの人。柊木と同じだ。自分の趣味にマコを付き合わせているだけじゃないか……
「……聞かせてほしい先生。マコの催眠解除って話だったのに、何がどうして料理する事になるんです?」
「何を言うか麻生!これもれっきとしたマコくんの催眠を解くために必要な事なのだぞ!」
「……どの辺が?」
「ただ単に自分の好きな事をマコに無理やりさせようとしているだけにしか見えないわね」
「こんな風に自分の理想をマコ先輩に押し付けるのはあたし良くないと思います!」
良い事言うけどカナーに柊木。君たちもマコに同じことしてたよね?
「まあ待て。話を聞け。諸君らも知っての通り、マコくんと言えば……自他共に認める料理好きで料理上手」
「……そうですね。それで?」
「つまり料理が生きがいで、この私同様に料理をすることに至高の喜びを感じるタイプだ!」
「……え?」
「技術を高め、試行錯誤の末新たなレシピを開拓し……究極の味を目指してゆく……そのあくなき探求心、好奇心の前では催眠術など児戯にも等しい!きっとここで私と共に料理をすれば……いずれマコくんも料理の楽しさで催眠とやらもあっさり解けるという寸法よ!どうかね?完璧な理論であろう?」
「……うーん?」
そうかなぁ……?
「あのさ……先生?それは流石に無理ありません?」
「む?何がだね叶井」
「そりゃいくら料理好きって言っても、マコからしたら料理はそんな特別な事じゃないでしょ。毎日毎日半ば機械的にやっているモノじゃないですか。料理したくらいで催眠が解けるとは思えませんけど」
「ですね。あたしもそんなに上手くいくとは思えないです」
私と同じことを他の皆も思ったらしい。カナーたちから厳しい指摘を受ける先生。けれども先生はその指摘を受けても自信満々にこう返す。
「いいや、上手くいくに決まっているさ。絶対に上手くいく」
「……その根拠のない自信はどっから来るんです先生?」
「仮に上手くいかなくとも大丈夫!それはそれ。料理の道こそ生きる道とより深く催眠させ……そして料理の師である私無しでは生きられぬ身体にしてしまえば良いわけだしな!」
「「「良くないと思います」」」
分かっちゃいたけど、この人やっぱ色々と危ないと思う。マコはホント、変なやつにばっか好かれるなぁ……
「とにかく御託はここまでだ!さあ始めるぞマコくん!料理開始だ!」
「…………はい」
そんなヤバイ思想を孕んだ先生の命令を抵抗なくあっさり受け止めるマコ。そのマコと共に先生は嬉々として料理を始めるのであった。
~先生&マコ料理中;しばらくお待ちください~
「完成、です。……マコさんお疲れ様でした」
「…………はい」
「「「おぉ……」」」
料理開始からきっちり一時間後。テーブルの上にはどっかでパーティでもするのかと思っちゃうくらい豪勢な料理が所狭しと立ち並ぶ。
「流石マコ先輩……!見ているだけで、香りを感じるだけで唾液が止まりませんよあたし……!」
「これはまた美味しそう。マコったらまた料理の腕を上げたのかしら?なんかいつも作ってきているモノよりも更に美味しそうじゃないの」
カナーの言う通り。心無しかいつもよりも更にマコの調理にキレがあった気がする。おそらく深く催眠状態に陥っている弊害で、普段抱えている余計な雑念とかが一切なしに料理が出来ていたのだろう。なるほどね、催眠ってこういう事にも使えるのか。
……ところで、先生。ちょっと一言宜しいか?
「うふふ……楽しかった……ですね。催眠のお陰で心の扉が開けっ放しのせいか、マコさんは私の指導をなんでも受け入れてくれて……教えれば教えるだけ忠実に吸収してくれて……教え甲斐があって良かった……催眠って素敵……♡」
「……あの、先生。一つだけ言わせて貰っても良いですか」
「?あ、はい麻生さん。どうかしましたか?」
「……あれだけ自信満々に絶対上手くいくとか言ってましたけど、結局マコの催眠解けてないんですけど?」
趣旨を忘れているようなので、改めて言わせて貰おうか。……これってマコの催眠を解くってのが今回のミッションだったハズなんだけど?僅かな可能性に賭けて一時間様子を見ていたけれど。マコの催眠が解かれる気配は残念ながら今も一切なし。料理で催眠を解くとか、やっぱ無理があったんだよなぁ……
柊木と言い、この先生と言い。やっぱマコが催眠されてるこの状況を利用して自分が楽しんでるだけじゃんか。……こいつらを少しでもアテにした私がバカだった。
「……全員、マコの催眠を解く気なんて無いなら今すぐ帰って欲しい。これ以上マコをおもちゃにするなら。コマに連絡して、然るべき処刑―――じゃなかった処置を施して貰う」
「え、あ……まって!待ってください麻生さん……!ち、違う!違うんです!」
そう非難の目を浴びせる私に、先生は慌てて首を振り否定する。ほほぅ?何がどう違うと?
「りょ、料理で催眠を解くには……まだやらなきゃいけない事があるんです……!今までのは準備体操みたいなもの。こ、ここからが本番なんです」
「……ここからが本番?料理終わったのに?」
「ま、まだです!まだ終わっていませんよ!……麻生さん。りょ、料理というものはですね。盛り付けるまでが料理なんです」
ふむ、それは確かに。……で?
「マコさんの料理も、お皿に盛りつけるまでして……そしてようやく完成するのです。催眠が解けるのは、きっと最後の工程を経てからの……ハズです」
「……つまり、盛り付けまで終わらせたら……マコの催眠も解けると?」
「そ、その通りです!」
……うーん。正直言うと、たかだか盛り付けくらいで……催眠が解けるとは思えない。思えないけど……まあ、ダメで元々か。
「……まあ、いいか。じゃあとりあえず試してみてください」
「は、はい!ではマコさん、最後の仕上げです―――(ごにょごにょごにょ)」
「…………はい」
そうやって先生はマコに何やら耳打ちする。先生の命令を受けたマコはコクリと頷いて―――
「……ちょっ!?」
「(ダバダバダバ)ま、マコ……!?」
「(ダバダバダバ)マコ先輩……!?」
どういうわけか、その場でストリップ開始。一枚、また一枚と音を立てて服を脱ぎ始めたではないか。急にどうしたマコ……!?とうとう露出に目覚めたの……!?
「ああ、良い……凄くいいですよマコさん……素敵……そうです。やはり最高の料理は、それに見合うだけの器で盛り付けるのが一番ですよね……」
「……おい、先生。あんた今マコにどんな命令をしたんです?」
「へ?……どんな命令も何も……料理の盛り付けをお願いしただけですけど……?」
「……盛り付けを命令して、どうしてマコが服を脱ぐことになるのかを聞いているんです。今マコに一体どんな命令を下したのか、一字一句漏らさずに教えてください」
なんだ……?一体この先生は、マコになんて命令したんだ……?
「た、大したことは命令していませんよ。ただ私は……」
「……私は?」
「『マコさんが作ったその料理を、マコさんという最高級のお皿に盛りつけてください』と、命じただけで……」
……それって……つまり。
「ま、マコったら……なんて卑猥で……そしてなんて美しいのかしら……思いがけず至高の芸術品を見てしまった気分だわ……」
「せ、先輩……食べて、良いんですか……!?良いんですよね……!?」
慌ててマコの方を見ると。鼻血を出して半狂乱になりかけているカナー達のいやらしい視線を浴びつつも。半裸の状態でテーブルに横たわり、自分の素肌に自分で作った料理をそっと盛り付けているところだった。
要するにだ。先生の命令って……女体盛りしろって事じゃないの……何考えてんだこの淫行教師……
「……マコ、命令を上書きする。先生の命令は聞かなくていい」
「…………はい」
「「「えぇーっ!!?そんなぁ!?」」」
「……やっぱ全員今すぐ帰れ」
野獣共の視線からマコを庇うようにそっとバスタオルを巻いてあげながら。私はため息一つ吐く。
結局……学校で自分の慕う教師から女体盛りなんてアウト一歩手前な衝撃的な事を命じられてもマコの催眠はやっぱり解けず。最早打つ手はないのだろうか……?
「……というか先生。女体盛りとか衛生的にも倫理的にもどうかと思うんですけど。仮にも家庭科の教師がそんな事していいんですか?」
「倫理的はともかく……衛生的に……?え……ど、どうしてですか?マコさんの身体に汚いところなんてありませんよ……?」
「……ダメだこの人。まあ、とりあえず……マコの今後の身の安全の為にも、今すぐ教育委員会に連絡を……」
「そ、それだけは勘弁してください……!?」
……ああ、ちなみに。マコに盛りつけられた料理はもったいないので責任もって皆で美味しく頂きました。
読んでいただきありがとうございました。ある意味でコマ以上にアレな先生です。




