ダメ姉は、催眠される(その1)
ダメ姉ひっそり更新しました。今回は(今回も)バカ話。催眠なんかにかかったりしない!
『―――ねえマコ。マコはさ……催眠術って信じる?』
『開口一番、親友の口から催眠術って単語が出てきた事に若干の身の危険を感じるんだけど……まあいいや。急にどうしたのさカナカナ?』
『いやね、昨日ちょうど催眠術関連の話をテレビでやっててね。見てたらちょっと面白そうだなって思ったわけよ。ああ、ちなみにマコは催眠術には興味ない?』
『ええっと……いや興味も何もさ。アレってぶっちゃけヤラセの類でしょ?存在しないんじゃないの?」
『そうかしら?まあ確かにテレビとかでやってるのってヤラセっぽいけど……でも実はわたしたちが知らないだけで催眠術もあるのかもしれないでしょ』
『んー……そうかなぁ』
『ふふふ。あれって単純な人ほど引っ掛かりやすいってよく話に聞くわよね。マコも簡単に催眠されそうよね』
『ははは。それは何かい?もしやキミは私が単純単細胞なおバカさんとでも言いたいのかね親友よ。……全く失敬な!そういう非科学的な話は私信じないし、催眠術とか絶対にかかんないからね私!』
◇ ◇ ◇
「あらためて思ったんだけどさヒメっち。うちの学校って……何というかおかしな部活多いよね」
とある日の放課後。最愛のコマや親友のカナカナを待っている傍ら。ふと思い立ったことをもう一人の親友であるヒメっちに言ってみる私。
「……そう?私たちが入ってる『立花マコを愛でる部活』―――通称『マコラ部』も大概おかしい部活だと思うけど?」
「それは言わないでくれヒメっち……」
他でもない私が現在入部しているコマ&カナカナが立ち上げてしまった『マコラ部』が多分一番(頭が)おかしい部活であるとは思うけど、それは一旦置いておくとしてだ。
「陸上部とかテニス部とか料理部とか。普通の部活もあるにはあるけど…………恋愛研究部とかズカ部とか黒魔術研究部とか……色々と、ツッコミどころの多い怪しげな部活が多いよねこの学校」
「……寧ろ変な方向性の部活の方が多いと聞く。個性的だね」
「個性的にも程があると思うんだ私」
まあ、個人的にはどんな内容の部活であれ、他人に迷惑かけたり実害がない限りは自由に部活動を楽しんでくれればいいとは思ってるんだけど……
何の因果か『マコラ部』に所属している今でも時折、他の部活動の先輩方やら同級生たちから『掛け持ちで良いから一緒に部活動しようよ』とお誘いを受けている私。歓迎される事自体は悪い気もしなくもないけど、なるべく変な部活とは関わりたくないなーってひそかに思っていたりいなかったり。
「今日なんかさ、催眠研究会って連中から『誰に対してもフレンドリーで心の壁など存在しないマコくんは催眠にとてもかかりやすそうだ。是非とも我が部に入って被験体になって欲しい』って勧誘されてさぁ……本気で困ったよ」
つーか被験体になって欲しいって斬新過ぎる勧誘方法だよね……あんたら真面目に勧誘する気あるのかって聞きたい。
「……また面白そうな部活だね。ちなみに催眠研究会って具体的にどんな活動してんの?」
「よくわかんないけど文字通り催眠術の研究をしている部活なんだとか」
教本やネットで仕入れた情報を元に、催眠術を研究したり。部員同士で催眠術をかけたりかけられたりするのが主な活動らしい。
一応活動中の様子を見せて貰ったけど胡散臭い上に若干オカルトっぽくて……これに関わったら絶対禄でもない事になりそうだからと体験入部も全力で断らせていただいた。
「絶対楽しいから試しに持って行ってみてって半ば押し付けられる形で『催眠スターターセット』ってやつを貰ったんだけど……」
「……これ、どう見てもただの何処にでもある五円玉とヒモでは?」
「うん。正真正銘ただの何処にでもある五円玉とヒモだよ」
去り際に貰った古典的な五円玉のワッカに紐をくくりつけられたものを手に呟く私。これってアレだよね?古き良き『貴女はだんだん眠くなる』的な事言いながら振り子みたいに目の前で揺らすやつでしょ?
「こんなんで催眠されるわけないのに。まったくやれやれだよねー」
「……マコは催眠術とか信じてないタイプ?」
「そりゃそうでしょ。あんなんテレビとか漫画とかの中の世界のお話だからね」
「……?なんか、珍しいね。マコが頭ごなしに否定するだなんて」
「だって実際そういう催眠術とかって効果ないんだもん」
大体、そういうものが本当に存在しているのであれば……私はとっくの昔にコマに―――
「……なら、暇つぶしがてら試してみる?催眠術」
「へ?」
「……折角『催眠スターターセット』なるものが手元にあるわけだし。試してみようよマコ」
と、どうした事か貰った五円玉の振り子を手に取って私にそんな事を言い出したヒメっち。普段消極的な子なのにどうしてそんなやる気満々なんだろうか?
「ヒメっちどうしたん?まさかやってみたいの催眠を?」
「……ん。実は前々からやってみたかった。もしも上手くいけば―――母さんに催眠かけて私を抱いて貰えるようにしたいなって思って」
「……」
純真無垢な笑顔で、とんでもない問題発言かましてやがるぞこのマザコン娘は……逃げて、ヒメっちマザーマジ逃げて。
「……どうせコマたちが戻ってくるまで暇でしょ。やろうよマコ」
「ええっと……まあ、やるのは構わないけどさ。さっきも言ったけど催眠なんてないでしょ。ましてこんなもんで催眠なんてかかるはずもないでしょうに」
「……ダメ元でやるだけだし。お遊びみたいなもんだから。……ね?良いでしょマコ」
「んー……」
個人的には全然信じてないし、結果はやらなくても見えている。だからやる意味もなさそうなんだけど……
「ま、ヒメっちがやりたいって言うならいいか。良いよ、やろっかね」
「……流石マコ、話がわかる」
所詮退屈しのぎのお遊びだ。親友に付き合うくらいどうという事はあるまい。
「ちなみにヒメっちは催眠のやり方ってわかるの?」
「……私もよく知らない。でも適当に五円玉振っておけばなんかこう上手くいくんじゃない?」
「ホント適当だね……」
やる気十分なヒメっちには悪いけど、これじゃなおさら催眠がかかる気がしないんですが?
「……んじゃとりあえずやってみる。マコ、この五円玉をよく見て」
「あー、はいはい」
「……今から三つ数えるよ。そしたらマコは―――私の言う事なんでも聞いちゃうの。いい?」
「ほーい」
ゆっくりと振り子のように左右に動かすヒメっち。言われた通りに私はその五円玉を目で追う。
「……さーん」
ゆらりゆらりと目の前で揺れる。一定の動きを繰り返す五円玉に合わせ、私も視線を右に左に。
「……にーい」
……いやしかし。今時五円玉使ったレトロな催眠術ねぇ……ヒメっちは本気で効くって思ってんのだろうか?
「……いーち」
もし効くって思ってるのなら……効かないって分かったらヒメっちもガッカリしちゃうよね?……ここはちょっとは夢を持たせるためにも、催眠にかかったふりをした方が良いのかな―――
なんてことをポーっと考えている間にも私は吸い込まれるように光る五円玉の動きを目でなぞる。
「……ぜーろ」
そしてヒメっちのカウントがゼロを迎えた次の瞬間、
「(…………ぁ、ぇ……?)」
私の意識はそこでプツンと途切れてしまった……
◇ ◇ ◇
~SIDE:ヒメ~
「……どうしよう」
……お遊びのつもりだった。流石の私もマコと同様に、催眠術とかあまり信じていなかった。……まあ、この広い世界本物の催眠術師もいるのかもしれないけど。少なくとも素人な私が催眠出来るだなんて思ってもいなくて……ホントに暇つぶしで、冗談半分でやってみた事だった。
だというのに……
「……マコ、命令。三回回ってワンって言ってみて」
「…………はい」
くるくるくる
「わん!」
「……うん、ありがとう」
犬や猫の真似をしてと命じてみれば、言われた通りに成り切って。
「……じゃ、次。マコの中で今週一番恥ずかしいと思った事を素直に話してみて」
「…………はい。私が今週一番恥ずかしい思いをしたのは…………プレイの一環で、妹のコマに痴漢プレイをさせられたことです……リアリティを追及したコマに……満員電車に乗せられて……女性専用車両とはいえ周りに知らない人がいっぱいいるなかで、最初はお尻を触られて……だんだんとその手つきは大胆に……最後にはコマの指先が下着の中へと侵入してきて―――」
「……そのプレイはいずれ母さんとのアレコレに参考にさせて貰うね」
普段は真っ赤になって黙秘権を発動する自分のえっちい実体験も、顔色一つ変えずに赤裸々に告白し。
「……それじゃあもう一個命令。自分のスカート捲ってみて、パンツ見せて」
「…………はい(ぴらっ)」
「……随分、大人な下着だね」
普通は抵抗するであろう相当恥ずかしい命令にも、抵抗を一切見せずに躊躇いなくやってくれて。もしかしなくても、これは……
「……マコ、ホントに催眠にかかっちゃった……?」
「…………」
……どうしよう。本当に催眠にかかるとは思いもしなかった。だってそうでしょう?適当に五円玉振っただけでこうなるだなんて予想できないよ……
催眠術って思い込みが激しい人とか想像欲が逞しい人とかそういう人がかかりやすいそうだけど……こんなにあっさりかかっちゃうなんて。
「……いや、催眠にかかったこと自体は良い。問題は…………どうやって解除すればいいのか」
……催眠に関して全く知識のない私だ。催眠方法も碌に知らないのならば、当然解除方法も知っているわけがない。……このままじゃマコは催眠にかかったまま、誰の言う事でも聞いちゃうという大変危険な状態で居続ける事になり兼ねない。
「……とりあえず。マコの身の安全の為にも。マコが催眠されてなんでも言う事を聞く状態だって皆にバレないようにしないと……」
特にマコを精神的な意味でも、そして性的な意味でも狙うあの三人衆にバレたら大変な事になっちゃうだろう。
「……まずは保護者に連絡を……」
催眠をかけてしまった当事者として、そして親友として。ここはちゃんと責任とって私がマコを守りつつどうにかしなきゃ。さしあたり、マコの双子の妹にしてマコの嫁のコマに事情を説明して―――
ガシィ×3
「―――随分と、面白そうな事をしてるじゃないのおヒメ。ん?なぁに?マコが催眠されてるって素敵な事が聞こえた気がするんだけど?」
「マコ先輩を好きなように出来ると聞いて!」
「今日はマコさんを私の自由にしていんですか!?」
「……あー。詰んだぁ……」
……知らぬ間にマコ好き三人衆が瞳を爛々と輝かせ、私と催眠状態のマコを取り囲んでいた。ご丁寧に教室の扉に鍵をかけ、逃走手段を潰しながら。
……ごめんマコ。マコを守ると心に誓った直後で申し訳ないけど……これはちょっと、マコを守り切れないかもしれない。
読んでいただきありがとうございました。催眠には勝てなかったよ……
おかしい、今年中に高校編を完結させるつもりだったのにネタ話思いついてすぐわき道に逸れる……完結する気配が全然ない……