ダメ姉は、勉強会に参加する(その3)
ダメ姉更新です。前編中編後編の三部にするはずだったのですがすみません…予想以上にお風呂が長くなってその○○形式に変更です…ああ、また長くなってきた…
とにもかくにも勉強会編改めお風呂編はじめー
一体誰が私とお風呂に入るのかで、あわや勉強会が殺戮の武闘会へとなりかけた寸前。
『……勉強と一緒で、みんなが交代でマコと風呂に入ればいいんじゃないの?』
親友の一人であるヒメっちが帰り際にそんな提案をしてくれた。その一言はまさに天啓。カナカナやレンちゃんたちは喜んで賛成したのは勿論の事、最初は一人反対していたコマでさえも―――
『…………不本意ではありますが、仮にこの飢えた女狼たちを野放しにしてしまえば……姉さまが一人でお風呂を楽しんでいる中、突貫してくる輩たちが出てくる恐れもありますし……でしたらいっそルールや持ち時間を決めちゃえば……下手を打てない……ハズ……』
最後にはこの通り、渋々だけど条件を付けて同意。そんなわけで4人の美女&美少女たちとお風呂を共にすることとなった。
……あ、ちなみにこれはどうでも良いことだけど。話の中心人物であるはずのこの私の了承は全然取られていない。誰かとお風呂に入るのはすでに決定事項らしい。拒否権はないのでせうか……?いや、まあ拒否する理由もないから別に良いんだけどね……
「さて。それでは嬉し恥ずかしドキドキ☆姉さまと一緒にお風呂タイム―――の前に。最低限のルールを決めるとしましょう。まず第一に。姉さまが本気で嫌がるような事はしない、これは絶対条件です。このルールを破った場合、お泊りは勿論この勉強会への今後一切の参加は認めませんのでそのつもりで」
「それについてはコマちゃんに言われるまでも無い事ね。マコに嫌われることにも繋がり兼ねないわけだし守るわよ」
「右に同じく、です!先輩に嫌われることなんて、絶対しませんっ!」
「わ、私も守ります…………多分」
そんな私を横目に。コマは持ち前のリーダーシップを活かしてルールを設定し始める。
「宜しい。では次です。私も含め、おそらく皆さん姉さまと一対一でお風呂に入りたいと思っているでしょうが……二人一組で姉さまとお風呂に入ることにしましょう」
「「「ええー!?二人一組!?」」」
「シャラップ。不満があるなら帰って貰って結構です。……仕方ないでしょう?私とかなえさま、レンさまに清野先生―――四人が一人ずつ姉さまと入るのは姉さまにも負担がかかり過ぎます」
確かに。コマの言う通り一人ずつ、全員とお風呂に入るなんて……最後にはきっとのぼせてしまって今晩は勉強会どころではなくなってしまうだろうね。
「二人一組、持ち時間は……三十分。これなら姉さまにもそれほど負担はかからないと思われます。……良いですね?」
「……チッ。おじゃま虫たちと一緒か…………わかったわよ」
「ほ、ほんとはマコさんと二人っきりが良いですけど……仕方ないですよね……」
「どういう形でも、先輩と一緒にお風呂入れるならあたしはなんでも良いです!」
「姉さまもその条件で問題ありませんか?」
「へ?あ、ああうん。なんでもいーよ」
折角入るならコマと二人っきりでとか。修学旅行みたいな感じでワイワイ仲良く皆で一緒に入るとか。本音を言うとそういうのもしてみたかったんだけど……残念ながら状況が状況だけにそう言う事も言っていられまい。大人しくコマの条件に従っておくとしようか。
「それでは最後に一つだけ。……皆さまはきっと、姉さまとお風呂に入るというイベントに……相当期待や興奮をされていらっしゃるとは思います。その気持ちは痛いほどわかりますが……勉強会をしているという意味でも。そして、姉さまは私のお嫁さんであるという意味でも。皆さまには『姉さまを傷つけない』というルールと同じくらいに、守って頂きたいルールがあります」
怖いくらい真剣な顔でコマはそう切り出してくる。一体どんなルールを設定しているのかと、ごくりと唾を呑み込む私たち。
皆の視線が集まる中、コマはカッと目を見開き。そして―――
「―――お風呂中は、姉さまに過度なスキンシップをするのNGです」
「「「「…………」」」」
「姉さまに、必要以上に接触するの、ダメ絶対。いいですね?」
この場にいる皆が唖然とすることを言いだした。……過度なスキンシップの禁止……?え、ええっと……
「……さーてと。誰もツッコまないようだからわたしがツッコミましょうか。……ねえコマちゃん、一言言っても良いかしら?」
「……?なんですかかなえさま?不満や文句は受け付けませんよ?」
「そうじゃない、そうじゃなくてね。―――よりにもよって、一番そのルールを守りそうにない奴が、そんなルール提案すんじゃないわよ」
「え?」
この場にいる全員の気持ちを、きっちり代弁してくれたカナカナ。
「な、なんですか皆さまその目は?まるで人を性欲魔人か何かのように見てませんか?」
「立花先輩……まるで、っていうか……」
「そ、そのままズバリといいますか……」
「ッ!?ね、姉さま!そんな事ないですよね!?私、そこまで性欲魔人ってわけじゃないですよね!?」
「…………(ササッ)」
「どうしてそこで気まずそうに目を逸らされるのですかマコ姉さまぁ!?」
ごめんコマ。お姉ちゃんも正直……過度なスキンシップは……この中じゃコマが一番してきそうな気がする。
「うぅ……ひどい風評被害です……ま、まあいいです。とりあえず、今言ったルールは必ず守ってくださいね皆さま……で、では誰と誰がペアを組むのかの話ですが―――」
◇ ◇ ◇
「と、言うわけで!最初はこのあたし、柊木レンと!」
「わ、私……清野和味が……お相手します……よ、よろしくお願いしますマコさん」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
コマの独断と偏見で。最初の三十分はせんせーとレンちゃんが私と一緒に入ることとなった。
「まずは身体を洗っちゃいましょうか!」
「マコさん……お、お手伝いさせてくださいね」
「いや、そんな気を遣わなくても一人でできますよ」
目を輝かせて早速私の身体を洗おうとする二人。いや、どこぞのお姫さまとかお嬢さまじゃないんだし……身体くらい一人で洗えるし、それにお客さんたちにそんな事させるわけにもいくまい。
ただでさえよその家の家事手伝いをさせている二人なわけだし……そう思って私はやんわり断ってみたんだけど……
「……嫌、なんですか先輩……?」
「……マコさんの勉強の疲れ、癒したいって……楽しみにしていたのに……」
断った途端、世界の終わりが来たような表情で明らかにレンちゃんたちのテンションが下がっていく。れ、レンちゃん?せんせー?何もそんな絶望した顔しなくても……
そ、そんなに私の身体洗いたいの……?別にどうという事もないただの駄肉抱えた身体なんだけどなぁ……
「あ、あー……そう思ったけど、やっぱし疲れて身体洗う気力がないかもなー……誰か手伝ってくれると助かるなー……」
「「やらせてください!!」」
……結局二人のそんなしょんぼりした様子に耐えられなくなり、お願いする事になった。最近薄々感じていたんだけど……ひょっとして私、押しに弱くなってきてないか……?
いやでも仕方ないでしょ!?尊敬する教師と慕ってくれる後輩に、捨てられたわんこみたいな顔されて無下に出来る人なんているか普通!?
「では、あたしは先輩の綺麗な髪を洗います!」
「わ、私は……僭越ながらお背中を流させていただきます、ね……」
そう内心葛藤する私の横で許可を得た二人は、嬉々として手にシャンプーやボディソープを出してしっかりと泡立てる。
「先輩!お痒いところはありませんかー?」
「ち、力加減は如何でしょう……?」
「ん、バッチリですよ」
えっちらおっちらと。カワイイ後輩とせんせーが私の髪や背中を洗ってくれる様子が見える。せわしく、一生懸命洗う二人の姿は大変微笑ましい。
……いや、それにしても。
「(…………タオル越しとはいえ、女同士とはいえ……これは……)」
チラリと眼前の鏡を覗いてみると、鏡の向こうでは美女&美少女の二人がお世話をしてくれている。慣れない手つきで、それでも頑張ってわしゃわしゃと私の髪を洗うレンちゃん。一歳年下の彼女の手は若々しくてすべすべもちもちしていて……いや、手だけじゃない。身体全体が瑞々しい柔肌で、時折その肌と自分の肌がぷにっと触れ合う時……なんだかちょっぴりイケない気持ちになりそうで……
一方私の背中を洗う和味せんせー。普段(料理以外の時間は)あまり積極性を見せないおっとりしているせんせーなんだけど、今日は非常に積極的に。そして献身的に背中を流してくれる。めい子叔母さんやちゆり先生とはまた違ったタイプの大人の女性……タオルを巻いていても分かる、豊かな胸の膨らみに妖艶な曲線美を描く腰元。そして雪のように白い肌がとても眩しくて……魅入られちゃいそうになる……
「(い、いかん……しっかりしろ私……尊敬する人を、慕ってくれる後輩を何て目で見てる…………そもそも私はコマの嫁……浮気はダメ、絶対ダメ……!)」
……コマ以外の人に靡くことは絶対にないと神に誓えるし、この身体も心もすべてコマに捧げている身ではあるけれど……正直言うと結構これは拷問だ。元々そっちのケがあっただけに。二人にほぼ裸で身体を洗ってくれている今のシチュについドキッとしてしまいそうになる。
ダメだしっかりしろ私……コマに浮気と思われるような事、考えるな……!つーかせんせーとレンちゃんの事を変な目で見るなんて、やましい事を考えるなんて失礼にも程があるだろうが……!変態チックな事なんて考えるな……!この二人は善意で私の手伝いをしてくれているだけなんだぞ……!
「……ハァ、ハァ……!(マコ先輩……ふわふわでふかふかで……先輩の肌もお胸もお尻も、とってもつやつやでぷにぷにで……すごくきれい…………抱きついてみたら、絶対気持ちいいんだろうな……転んだふりして、抱きついちゃダメかな……ダメだろうなぁ……)」
「……ハァ、ハァ……!(マコさんの胸、なんて大きな……形の良い豊かなお尻も、しっとりと吸い付くようなお肌も……どれもこれも美しい、美味しそう…………私がこの手で作った料理を、マコさんの身体に盛りつけたい……女体盛りしたい……)」
先にシャンプーを終え、洗い流したレンちゃんも先生に次いで私の身体を洗い始める。しっかりと泡立てられ泡を纏った4つの手が私の全身を這いまわる。首元や肩を揉みほぐし、背骨をゆっくりとなぞりながら下ってゆく。腰やお尻をなぞり、太もも、ふくらはぎ……足先までも丁寧に洗われる。くすぐったいのと二人の手の温もりの心地よさに、思わず声が出ちゃいそうになるのを口をグッと閉めて堪える私。
そうやって私の身体を洗うたびにレンちゃんの小ぶりだけど形の良い胸が、せんせーの豊かで柔らかな胸が。背中を掠めていく。絶対にヤラシイ気持ちにならぬように、心の中では常にコマの事を考えて気を落ち着かせる。平常心平常心……
「―――お、終わりました先輩!」
「おー、ありがとねレンちゃん。すっかり綺麗になったよー。さっぱりした!」
「い、いかがだったでしょうか……?気分は悪くなってませんか……?」
「いえいえ、隅々まで綺麗にしてくれて本当にありがとうございますせんせー。気分も良くなりましたし、これでまた勉強にしっかり励めますよきっと」
天国のようで地獄のような時間にも終わりは来る。どうにかこうにか暴走しそうな己の欲望に耐えきって、二人に背中の方を綺麗にして貰えた。
「う、後ろの方はちゃんとぴかぴかに洗いましたし……そ、それじゃあ次は……いよいよお楽しみの」
「ま、前の方も……是非とも私たちが……」
「前の方は私がするから良いよ。本当に二人ともありがとう、助かりました」
「「…………あっ……」」
「?どしたの二人とも?なんでそんな残念そうな顔してるの?」
私だけ身体を洗うのも悪いし、前はパパッと自分で洗い流す。……何故かその間名残惜しそうに指をくわえてまじまじと私が洗うところを見ている二人の様子がちょっと気になった。
「すみませんせんせー。ゴメンねレンちゃん。洗い場独占しちゃった上に、こんなに綺麗に洗って貰えるなんて。お返ししなきゃいけませんね、これは」
「い、いえいえ!お礼何てそんな……寧ろお礼を言うのはあたしの方といいますか……!」
「そ、そうですね……お礼を言うのは私たちの方です……お金を払ってでも……させてもらいたいレベルのご褒美でしたし……」
「???何の話してるのかわかりませんけど……まあいいか。そんじゃ二人とも。交代しましょうか」
自分の身体を洗うのも後回しにしてまで私を洗ってくれた二人。んじゃまあ、ここはちゃんとお礼の気持ちを込めてお返ししないといけないね。
「あ、はいです!お風呂の中で待っててくださいマコ先輩!あたし、すぐに洗いますからね!」
「マコさんは……私たちに気にせずにゆっくりお風呂に浸かっていてくださいませ……私も、すぐに洗ってお供させていただきますから」
「え?待ってる?お風呂に浸かる?……あの、何言ってんの二人とも?」
「「……?」」
「いや、だからさ―――」
◇ ◇ ◇
~SIDE:コマ~
「…………(イライライラ)」
「おーい、そこのシスコン。イライラする気持ち、不安になる気持ちはわからんでもないけど。浴室の前で行ったり来たりするのはやめなさいな。見ててうっとおしいじゃないの」
「し、仕方ないでしょう!?姉さまが、裸で……姉さまに惚れている二人と一緒になるとか……何があってもおかしくないでしょうが!?特にあのおとなしそうに見えてその実めちゃくちゃ飢えた狼なあの先生と一緒なんですよ!?姉さまがいつ襲われるかわかったものではないじゃないですか!?」
断腸の思いで姉さまをお風呂へ送り出した私、立花コマ。
「そう思うんならさコマちゃん。あの先生とペアを組めば良かったじゃないの。なーんでわたしなんかとペアを組んだのよ」
「…………貴女はあの先生以上に危険だからに決まってるでしょうが」
……正直、誰と誰を姉さまに送り出すのかについては非常に迷いました。例の先生は……正直危険度は未知数で、危険な香りが非常にしますが……あの先生よりもここにいるかなえさまを野放しにする方が明らかに危険。先生を姉さまの忠犬であるレンさまに『姉さまを守ってやってください』と託す方が幾分かマシだと判断した私。かなえさまにだけは隙を見せたら最後です……姉さまが奪われ兼ねません……
……それでも不安な事には変わり有りません。いつ何があっても姉さまを助け出せるようにと浴室前で待機済み。
「まー。でも大丈夫でしょ。いくら何でもよその家の風呂で襲い掛かるなんて蛮行、あの二人はしないハズよ。多分」
「……で、ですよね……いくらなんでも……そんな事ないですよね。そうならない為にも牽制と監視の目的で二人一組のペアというルールを決めたわけですし……二人が結託して姉さまに襲い掛かりでもしない限り大丈夫―――」
なんて甘い考えを口にした……次の瞬間です。
『ッ!!?きゃ、きゃぁあああああああああ!?』
「「ッ!?マコ(姉さま)!?」」
突如として、絹を裂くような悲鳴が浴室より聞こえてきました。私と……それから楽観的なことを言っていたかなえさまも。目の色を変え、瞬時に浴室へと飛び込みます。
ま、まさか……まさかあの先生が暴走した!?それともレンさまが!?いいえ、もしや二人結託して姉さまを……!?考えられる限り最悪の展開を予想しつつ、蹴り破る勢いで扉を押し開けた私たちの目に映ったのは……
「せ、せんせー!?レンちゃん!?どうしたの急に!?しっかり!しっかりしてよぉ!?」
「「…………(ぐったり)」」
「「……ええっと?」」
「あ!コマ!カナカナ!ちょうど良いところに!た、大変なの!なんか知らないけど、急に二人が意識失っちゃって……!ち、血も止まらないし……ど、どうしよう!どうしよう!?」
「あの……姉さま?」
「これ、一体何があったのよマコ?」
「わ、わかんないよ!?『二人が私の身体を洗ってくれたお礼に、私も二人の身体を洗ってあげるね』って言っただけで……ちょっと二人の背中を洗おうとしただけで、急に二人が鼻血を出してぶっ倒れて!!?」
「「…………」」
「しっかり!しっかりしてよ二人ともぉ!?」
幸せそうな笑みを浮かべ鼻血の海に沈みながら気絶している先生とレンさま。それを見て私は隣で唖然としているかなえさまに一言言います。
「……かなえさま」
「……何よコマちゃん」
「……思ったよりも、この人たち危険度は低い気がします」
「……同感ね」
……ここがお風呂で良かったですね。お陰で鼻血で汚れたとこも簡単に洗い流せそうですから……
読んでいただきありがとうございました!妄想したりヤバい事考えてたり過激な事しようとしていても。案外この二人初心ですから耐性が出来上がっていないので実はそんなに警戒は不要。やはり真のコマの敵はカナカナのみよ。
てなわけで、次回はマコとコマとカナカナのお風呂編。修羅場……