ダメ姉は、キスをしまくる(序章)
大事なあのイベントを……書きたいと思っていたのに素ですっかり忘れていたダメ作者。悔しい……キスを売りにしてる小説書いてるのに悔しい……!
そんなわけで大遅刻ですが、キスの日イベントに書きたかったネタ話です。
「―――ごめん、ごめんねコマ……!私、本当に酷いお姉ちゃんだ……最低だ……!」
「姉さま、マコ姉さま……どうか謝らないで……!姉さまは悪くありません……!私です、この私が……すべて悪いんです……!」
いつも通り何でもない平日の、いつも通り何でもない日の夕方。けれど……いつもとはちょっと違う風景が、我が家のリビングに広がっていた。
二人で抱き合い。そして涙をぽろぽろと流し合うのは―――私、ご存じダメ姉こと立花マコと……その双子の妹である立花コマ。互いに悲痛な面持ちで、懺悔する。ああ、私はなんて酷い姉なんだ……ごめんよコマぁ……!
「お、オイ。マコにコマ?家に帰ってくるなり号泣しまくるとか……ど、どうしたんだお前たち……」
そんな異様な光景を目の当たりにした私たちの叔母であるめい子叔母さんは、ギョッとした顔で心配そうにそう尋ねてくる。
「一体何があったんだ?何か問題でもあったのか?」
「……叔母さん。うん、そうだね……問題があったと言えば……大問題があったんだよ……」
「私のミスです……何故あの日に私は……ちゃんと気づいていれば、姉さまをこんなにも悲しませることにはならなかったでしょうに……」
「違う、違うの。私が悪いんだよ……なんで私、気づかなかったんだろ……」
「私のせいです。私がちゃんと、あの日が何の日であったのかを事前に調べておけば……」
「だから違うって。コマじゃなくて私が悪くて―――」
「ですから姉さまでなく悪いのは私で―――」
「それはもういいから。いつもの譲り合いという名のイチャつきはいいから。……とりあえずお前ら、とっとと何があったのかだけを簡潔にわかりやすく話せ」
せっかちな叔母さんに促され、私たちは仕方なしに何故こんなにも落ち込んでいるのかを説明する事に。
「あのね、叔母さん。これは先週の……話なんだけどさ」
「先週?ええっと、先週なんかあったか?」
「正確な日付を言うと……5月23日です。ちなみに叔母さま?5月23日が一体何の日か……ご存じですか?」
「え、いや知らんけど……なんか特別な日だっけ?誰かの誕生日―――ってわけでも無いよな。アタシは違うしお前らは12月だし」
誕生日とかではない。けれども私たちにとっては……祝うべきとても大事な日だったんだ……
「で?結局何の日なんだよ。勿体ぶらずに教えろや」
「……1946年、昭和21年の5月23日。この日にね、叔母さん。日本で初めてキスシーンが登場しちゃう映画の封切日になったそうなんだよ」
「ほう、そうなのか」
「キスをしちゃうような映画は、当時としては相当衝撃的なものだったそうです。お陰で、その映画は連日満員だったとかなんとか」
「ほーん?で?」
「その映画が由来となってね。日本ではこの日、5月23日を―――キスの日という記念日にすることになったそうなんだよ」
「…………なんか、オチがうっすら見えてきたけど。そのキスの日云々とお前らが落ち込んでいるのと何の関係があるんだい?」
どうかしたのかだと?鈍い、鈍すぎるぞ叔母さん……!
「関係大有りさ!そんな素敵で特別な日、キスの日にだよ叔母さん!」
「あろう事か私たち姉妹は……キスを全然出来ていなかったんです!」
「…………くそぅ、結局こういうオチかい。クタバレバカップル共!」
あの日は課題に追われてたり、友人の悩み事相談を受け付けたり……忙しすぎて『キスの日』の存在を私もコマもすっかりと忘れていた。
今日偶々親友のヒメっちに『……そーいや二人とも。キスの日ってどんな凄い事をしたの?』って聞かれて……そこでようやくこの重大なイベントをスルーしていた事が発覚してしまい……そのせいで現在進行形で、私たち双子姉妹は絶賛落ち込み中ってわけなのである。
「うぅ……知ってたら……知ってたらコマと、それはもう素敵な恋人同士のチューをいっぱいしてたのに……バカバカ、私のバカ……!」
「バカは私です……ちゃんと確認しておけば、姉さまを喜ばせるような気持ちの良いキスをしていたところでしたのに……ホント、私って大バカ者です……」
「……ああクソ、本気で心配したアタシがバカだったよ。わかっちゃいたけど、どーせお前らの悩みなんてその程度のもんだよな」
家族三人仲良く(なんか叔母さんは違う理由凹んでいるっぽいけど)自分の愚かさを嘆く。キス……コマとキス、したかったなぁ……
「つーかさ。敢えて一つだけ言わせろやマコ、コマ」
「何さ叔母さん」
「何です叔母さま」
「なんかキス出来なかったって嘆いているけどさぁ、キス自体は先週も―――というか365日、毎日欠かさずやってるだろがお前らは!?」
「「???」」
……?何を叔母さんは言っているの?
「いや、コマとキスを毎日するのは……当たり前の事でしょ?なんたって私たちは恋人で婦ー婦なわけだし」
「恋人同士だろが夫婦同士だろうが、いくらなんでも毎日はしねーよ普通……」
「???叔母さま?叔母さまは何を言っているのですが。姉さまとのキスですよ?そんなの……毎日ご飯を食べて水分を摂る事と同じくらい―――息を吸う事と同じくらい当たり前の事でしょうに」
「オメーらの常識を世間一般の常識と同じにすんなや」
コマと晴れて恋人同士になってからというもの。コマの味覚を戻すためのキスをしていた時と同じくらいの頻度で―――否。コマの味覚が治った後も、味覚戻しをしていた時以上の頻度で。毎日チュッチュと二人の愛を確かめ合うキスをしまくっている私とコマ。
毎日どころか毎時間、毎分、毎秒。コマと顔を合わせれば、目と目があえばいつでもキスしちゃいたいんだけど……
「お前たち毎日乳繰り合いながらキスしまくってんだろ。キスの日とかもはや関係ないだろが……」
「関係あるに決まってるでしょうが!?記念日だよ!?キスの日っていう―――いかにもおあつらえ向きなイベントだよ!?」
「そんな日だからこそ、普段以上に気合を入れ。姉さまへの愛を唇に込めていっぱいに贈るべきだったんです……!それなのに、それなのに私ったらなんて事を……!」
「知らんわそんなの……」
そうしてまた二人で抱き合って、おーいおいと泣きだす私たち。そんな私たちに対して叔母さんはというと深いため息を吐いてから。
「あーもう、ホンット鬱陶しい。なら遅刻したって事で……今から遅刻分も埋め合わせるくらいのキスをすりゃいいじゃねーか」
「「ッ!!」」
叔母さんにしては、珍しくまともで大変ナイスな発想を口にした。
「なんて冴えた発想……叔母さま、流石ですね!」
「ハッハッハ。褒めても何もでねーぞコマ」
「お、叔母さん……どうしたの?そんなまともで素敵な考えが出てくるなんて……もしかして熱でもあるんじゃないの?」
「ハッハッハ。マコ、キサマ……何が言いたい。まさか普段のアタシはまるでダメな事しか考えてないって言ってるように聞こえるんだがなぁ……!?」
まるでも何も……ねぇ?
「ま、そんなどうでも良いことはさておきだ。コマ!」
「はいです姉さま!」
「「キスしよう(しましょう)!!」」
以心伝心。お互いの想いを一致させてハモらせる。流石一卵性双生児な姉妹と言わざるを得ない。
「キスの日を遅刻しちゃった分、いっぱい……いーっぱいキスしようねコマ!」
「ええ、勿論です姉さま!…………あ、そうだ。姉さま、姉さま。どうせならですね……」
「お?なになに?」
と、いかにも『良いことを思いついた!』的なとっても愛らしい顔で何やらゴソゴソと本棚を漁り始めるコマ。
しばらく漁って一冊の雑誌を取り出し、その雑誌の中の一ページをわくわくした表情で私に見せてきた。
「これ!これ見てください姉さま!」
「んー?どれどれー?『キスの教科書♡これさえ読めばあなたもキスマスター!』……ふむ?」
恐らく女の子向けの恋愛系雑誌の特集であろう。そこにはソフトなやつからかなり濃厚なものまで。たくさんのキスの方法がイラスト付きで掲載されていた。
「普段通り姉さまといーっぱい♡キスするのはやぶさかでないのですが……折角のキスの日のリベンジですから。いっそここにあるキス……全部試してみませんか姉さま」
「ほほぅ」
これ全部をコマと試すのか……ただキスをするだけだと面白くないし、普段と違うキスを試してみるのも……新しいコマとのイチャつく方法が開拓出来て良いかも……
「よし乗った!コマ、是非ともやろうじゃないか!」
「はいっ!やりましょう姉さま!」
「…………もう、好きにしろお前ら。アタシは知らん……明日シュウと打ち合わせせにゃならんしもう寝るからな……」
コマの提案に心惹かれた私は即同意。そんなわけで……キスの日リベンジと称して。コマとキス三昧することになったのであった。
読んでいただきありがとうございました。次回の更新はちょっと遅くなるかもしれません。ゆっくり待っててくれると助かります。
今回の序章でもう皆さまお分かりだと思いますが、次回はただ双子姉妹が色んなキスを試すだけという、内容などこれっぽっちもない……ぶっちゃけただのイチャつき話です。どうかご注意くださいませ。




