ダメ姉は、母校に帰る
少し遅くなってごめんなさい。ダメ姉更新です。今回はレンちゃん変…じゃなかったレンちゃん編。
「―――いやはや。ほんの数か月前まで、私もコマたちと通っていたハズだけど。なんだか無性に懐かしい気分になるねぇ。やっぱしなんだかんだここって思い入れがある恋しい場所だったのかな?」
「ですね。何せ私と姉さまの素敵な思い出がたくさん詰まった場所ですからね」
「そうね。わたしとマコの運命の出会いと幸せな日々を過ごした場所だからね」
「「…………ぁ?」」
「コマ?カナカナ?微笑ましい話題を振ったはずなのに、どうして君たちはそんなにすぐ喧嘩腰になれるのかね?あと……私を挟んだ状態で、取っ組み合いするの止めて頂戴……苦しいんですけど……?」
大いに学び、大いに遊び。3年間青春の日々を過ごした中学校の前に立つ。今日は偶々通っている私たちの高校が創立記念日で休校だ。
その休みを利用してこの私、ダメ姉こと立花マコは……最愛の妹と最高の親友に挟まれつつ、とある理由により母校へと足を運んでいた。
「だって姉さま……この泥棒狐が……」
「仕方ないでしょマコ……この卑しい狸が……」
「だから喧嘩しないの。ホラ、二人とも。いいから早く行くよ。こんな場所でギャーギャー騒いでたらいくら卒業生だからって下手したら通報されちゃうでしょー?」
「「はーい……」」
喧嘩する二人を宥め。不審者を見るような目つきで私たちをじっと見る通行人の皆様方の視線を避けながら、とりあえず校舎へお邪魔しまずは職員室へと向かうことに。
久しぶりに訪れた校舎は、懐かしきあの日あの時を思い返す私たちがいた頃の懐かしき面影が残っている反面。レンちゃんや後輩たちが過ごす今を感じさせる昔とは違う景色も見えていた。
昔とは違う景色ってどんな感じかって?例えば……そうだね。こんな感じかな。
廊下を歩けば私の顔写真が壁一面に貼られていたり。各教室をちらりと覗いてみれば私を模した人形が置かれていたり。窓の外を見てみれば中庭に私の銅像が建てられていたりと―――
「…………は、ははは……聞いてた以上に、想像していた以上に。やばいねコレ……」
「え?そうですか?私は悪くないと思いますけど」
「右に同じく。あの子も中々やるものね」
「…………」
目を覆いたくなりそうなあまりの惨状に思わず苦言を吐いちゃう私。何だこの悪夢のような光景は……自分の知らない間に、無断で自分のグッズが母校を侵食してるとか悪夢以外の何物でもないわ……
お供の二人はどういうわけか結構気に入っている様子なのが更に頭痛くなってくる……くそぅ……こういう時に冷静にツッコミ入れてくれるヒメっちが今日は不在なのが辛い……!私、ポジション的にはボケ担当でしょ!?なんでこの私が全面的にツッコミに回らなきゃいけないんだ……!?
「し、失礼しまーす……立花マコ、入りますよー……」
「む……?お、おお立花!来てくれたかのか!」
「あー……お久しぶりです、先生……」
なんてことを思いながらもどうにかこうにか職員室へとたどり着く。中に入ると私の担任として三年間毎日説教三昧していた先生が、ホッとした顔で私を迎え入れてくれた。
「それで……先生。電話で相談された件なんですけど……」
「ああ!おそらくお前もここに来るまでに散々見てきただろう!?見ての通りだ!あのお前の後輩を、何とかしろ立花……!」
半狂乱した様子で私に必死にそう頼み込む先生。……さて。一体どうしてこうなったのか。そもそも私がどうして卒業したはずのこの中学へ足を運ぶことになったのか……
『―――立花!頼む!お前のあの後輩を、どうにかしてくれ!?』
話は遡ること一週間前。この元担任の先生からの一本の電話から始まった。
突然の出来事で頭の上に疑問符を飛ばす私をよそに、切迫した先生は電話越しに話してくれたのは―――ダメな私をどういうわけか慕っている柊木レンちゃんが、最近奇行に走っているという話だった。
なんでもレンちゃん。私をあまりにも想い、妄信するあまり……
『マコ先輩の良さを、語り継ぎたいんです!』
とかなんとか言い出して。そして『マコ先輩を称える部』なる部活を設立したらしい。
……この時点で、お前が何を言っているのか意味が分からないって?安心してほしい、私も分からないから。
まあとにかく。私の事を知らない新一年生や新しく赴任してきた先生は勿論、あまり交流がなかった生徒にも……私を知っている生徒にも……果ては私をよく知る先生方にも。私のその良さ(?)を知ってもらうべく、様々な活動をやっているらしいレンちゃん。
その暴走を止める為、先生に呼び出された私は呼び出されてもいないのに何故か勝手に付いてきたコマとカナカナを引き連れて、我が懐かしの母校へと帰ってきたというわけだ。
「……時々レンちゃん『マコ先輩の布教活動をする部活で日々頑張ってます!』って言ってたけど……あれ、冗談じゃなかったのかー……」
「冗談ならどれだけ良かった事か……」
先生曰く。私とコマの愛の巣もといボランティア部『生助会』のあの部室は。今ではすっかりレンちゃんの手によって『マコ先輩を称える部』の部室へと早変わりしているそうだ。そこを拠点にしてレンちゃんは大暴れしているそうだ。
私のこの学校での功績を語ったり。私との出会いや私に救われた実体験を本にして配ったり。さっき見かけたように私の(盗撮)写真を学校中至る所に貼り付けたり。私を模した人形を製作して学校のマスコットキャラとして広めたり。学校の創立者の銅像の横にちゃっかり私の銅像を置いたりと……
「電話で聞いてた以上にヤバイですね……」
「ああ。ただの同好会としての活動なら……勉学や校内の風紀、社会性に反するような活動でなければ問題は無いんだ。誰が何をしようと、教師は生徒の自主性を重んじるからな。ただ……これは流石に問題あるだろう?」
「あー……まあ。あの惨状を見たらですねぇ……」
無断で私のポスターやら人形やら銅像やらを持ち込むだけでもアウトっぽいのに。まして勝手に校内に設置するのは流石に先生もストップをかけちゃうよね。
「恐ろしい事にな、布教活動は日に日に過激になっているんだよ。柊木の……と言うよりも、立花の信者も順調に増えているらしい。まるで唯一神のように毎日校内にあるお前のポスターや銅像を拝んでは『マコさま、マコさま』と涙を流して呟いてるんだよなぁ……」
「……なんですか?どこぞの過激な宗教団体か何かですか……?」
「……大体合ってるな。とりあえず新一年生は柊木の話を真に受けて『凄い先輩が居たんだ』とお前の事を神聖化してるし。お前のダメっぷりを見ていたハズの二年生、三年生、それから一部の先生方も最近は『なんか、凄い先輩がいた気がする』とか言い出してるし……」
「布教っていうか、レンちゃんに皆洗脳されてませんかそれ!?」
話を聞く限りレンちゃん、大分こじらせているようだ。これ……学校が離れ離れになって、レンちゃんと会う機会や時間が前までと激減したせいか……?
「そういうわけでだ。…………何とかしろ立花ァ!幾度となく注意喚起をしてもダメ、持ち物検査で持ち物をいくら没収しようとも追い付かん。それどころか日を追うごとに信者が増えて、この学校どこを歩いてもお前のグッズで溢れかえってしまう……!もはや私には止められん!あの後輩の暴走をどうにかしろ!」
「何とかって言われましても……」
「どんな方法でもいい!どうにか説得するんだよ!他でもないお前の言う事なら聞くかもしれないだろう!?」
なるほどね。この先生があろう事か学生時代手を焼きまくったこの私に助けを求めざるを得なかったのも頷けるレベルで事態は深刻と言える。
いや……でも、私の布教ねぇ……
「ねえ先生?レンちゃんの暴走についてはわかりました。けど……割と簡単に解決できませんかそれ?」
「ほう?なんだ、言ってみろ」
「事実を教えてあげれば良いんですよ。理想と現実のギャップを知れば、きっとこの騒ぎは収束しますって」
完璧超人でかわゆい世界一な我が双子の妹、コマならともあれ。この私を布教するだなんて……レンちゃんは流石に無謀過ぎる。実際に会ったら『なんか思ってたのと違う』とか『全然すごくないじゃん!』とか思われるに決まってるじゃないか。
そう提案する私なんだけど。先生は苦い顔で首を振って否定する。
「それは……かなり難しいと思うぞ立花」
「と、言いますと?」
「もうすでに教えてやったんだよ。立花がどれだけ阿呆でバカでダメなのか、三年間ずっと説教をし続けたこの私自らが教えてやったさ。勉強も、運動も、素行も。どれをとっても死ぬほどダメダメな、前代未聞の問題児だったと……ちゃんと事実を語ってきたさ」
「オウ先生。久しぶりに会ったからって、私の事貶し過ぎじゃありません?私が一体誰の為にわざわざ休み使ってここに来たと思ってるのかちょっと言ってみてみ?」
この人相変わらず可愛い元教え子に対して失礼だよなぁ……
「けどな……それでもダメだったんだよ。柊木に洗脳―――じゃない。布教された連中は、私の話を全然聞かないんだ。完全に『立花マコ先輩は凄いお方』って刷り込まれ済みなんだ……」
「えぇー……まさかぁ」
「論より証拠を見せようか。そうだな……おーい、そこの二人。ちょっとこっちに来てくれー!」
「「え?……あ、はーい」」
と、先生はちょうど職員室前を歩いていた生徒二人を呼び止めて職員室へ入るように促す。
「池田先生?私たちに何かご用事でしょうか?」
「すみません、これから柊木会長の講演がありますから……なるべく手早く終わらせてほしいのですが」
「急に呼び止めてすまない。いや何。ちょっと君たちに卒業生の紹介をしてやろうと思ってな。……ほら、こいつが例の先輩だよ。―――立花、マコだ」
「「ッ!?」」
「おいーっす。こんにちは初めまして。卒業生の立花マコだよー」
先生に紹介され見知らぬ後輩たちに挨拶をしてみる私。すると……
「ほ、ほほほ……本物!?本物の、マコ先輩!?」
「やだ……嘘!?マコ先輩!?本当に!?」
途端に女子二人はキャーキャー言いながら目を輝かせ始める。……え?何この反応……
「あの……!初めまして!柊木会長から話は聞いてます!」
「この学校の伝説の先輩なんですよね!?お会いできて光栄です!」
「で、伝説……?」
伝説って?
「テストで満点は当たり前!全国模試も毎回トップ3に入り込むほどの才女だとか!」
「は?」
「スポーツ万能!色んな部活の助っ人として大活躍をされ、在校中にはいくつもの賞を総なめしたとか!」
「え?」
「それでいてとても謙虚で真面目で面倒見がいいという性格の良さ!」
「うん?」
……おかしい。日本語のはずなのに、この子たちが何言ってんのかわかんない……
「確か、アイドルもやってるんですよね!?みんなに慕われて憧れられるトップアイドル……素敵です!」
「い、いやあの……君たち……?」
「女優もやってるとか!その演技力は見るもの全てを引き付ける……千年に一度の逸材なんですよね!?今度映画にも出るんだとか!どんな映画を撮っているんですか!?」
「…………」
まくし立てるように私について語りだす後輩たち。……勉強もスポーツも出来て性格も良い?みんなに慕われ憧れられるアイドル?演技力抜群な女優?
多分コレ、コマの事だ……コマが中学時代に修めた数々の偉業が、レンちゃんの手によって私の功績としてすり替えられて称えられてる……しかも何やら妙な風に脚色もされてるっぽいぞ……!?
「あ、あの……あのね!?違う、違うの……」
「「え?」」
「イメージを壊すようで申し訳ない。ガッカリさせちゃうけどさ……私、君たちが思うようなコマみたいな完璧超人ではないんだよ。誤解してるというか、レンちゃんに誤解させられてるんだよ……」
取り返しがつかなくなる前に、私自らの口から否定してみる。直接この私を見て貰えれば一発で分かると思うけど、私はそんな大層な人間ではない。ただのスケベで変態で変人でシスコンな姉です私……
「き、聞きましたか?誤解なんですって」
「そんな……やはり……そうなのですね」
「うん。ゴメンね、なんか理想を崩しちゃったみたいだけど―――」
「「やはり……奥ゆかしいんですねマコ先輩!」」
「……うん?」
あれ?
「柊木会長が言ってましたよ。自分の功績をひけらかすような真似は絶対にしないお方だと」
「どれだけ偉業を達成しようと謙遜なさる……とても奥ゆかしいお方だと聞いていました。その通りで感激です私……!」
「…………」
「ほれ見た事か立花。……言っただろ。どれだけ否定しても、無理だってな」
先生が頭を抱えながらそう言ってくる。マジかコレ……想像してた以上にレンちゃんにしっかり洗脳されちゃってるわコレ……
「あ、あの!マコ先輩!折角なので……さ、サイン頂いても良いでしょうか!?」
「あ、わ……私は握手を……!握手をしたい、です!」
「ちょ、ちょっと待って……う、うぅぅ……」
どうしたものかと思っていると、興奮した後輩二人は私に迫ってサインだの握手だのを求めてくる。一方の私はただただタジタジになるだけ。
……見知らぬ後輩たちから自分の功績でもないものを過剰に褒められて慕われるこの状況……嘘ついてるみたいな気分で申し訳ないやら気まずいやらで……胃が痛い……心が痛い……誰かどうにかして……
「「―――はい、そこまで」」
「「「……え」」」
と、そんな途方に暮れる私に。救いの手を伸ばしてくれる二人組が現れる。……こ、コマ?それにカナカナ……?
「申し訳ございませんが、本日姉さまはお忍びでここに来ているんです。お静かに。そんなに騒ぎ立てて姉さまがこの学校に来ていると他の皆様にバレてしまったら混乱を招きかねませんでしょう?」
「サインしてる暇なんて無いし。悪いけどサインはマコに書いて貰ってから後日郵送で送ってあげるわ。握手くらいなら許すけど……時間はかけられないし、一人十秒でお願いね」
「それから……姉さまがここに来ていることは、他の皆様には内緒でお願いします。先ほども言いましたが、お忍びですから」
「マコのファンなら……分かってくれるわよね?」
「「あ……は、はいっ!」」
まるでアイドルのマネージャーのように。妙に慣れた対応で、二人を宥めつつ追い返してくれるコマとカナカナ。
「た、助かった……ありがと二人とも……」
「いえいえ。姉さまに憧れて思わず迫ってくる女の子の対応など朝飯前ですよ」
「気にしないでマコ。わたしたち慣れてるからね」
どうして二人がそういう対応に慣れているのかについては、深く聞かないことにしよう。聞いたら藪蛇になりそうだし。
「てか……コマにカナカナ?助けてくれたのはありがたいけど……どうせ助けるならもっと早く助けて欲しかったよ……誤解、解いてくれても良かったじゃないの……」
「「誤解?」」
「ほら、さっきのあの子たちの話。私が勉強もスポーツも出来るとか性格が良いとか。アイドルだとか女優だとかってやつだよ」
あの誤解さえ解ければ、レンちゃん洗脳問題も解決出来そうだったのに。
「「…………」」
「?どしたの二人とも?なんでそんなに不思議そうな顔してるの?」
「あの……姉さま?」
「ねえ……マコ?」
「何?」
「「誤解って……何の話?」」
「うん?」
君たちも、何を言っているのかね?
「だって姉さまは、私たちの憧れなのは間違いありませんよね?」
「その通り。マコの性格が良いのは疑いようが無いし、(料理の)勉強なら誰にも負けないわよね」
「私がピンチの時は身体能力が格段に上がりますもんね」
「マコはわたしたちの愛でるべき愛らしいアイドルだもん」
「私に成り切ってスピーチコンテストを乗り切った事もある、演技派で美人な大女優ですもの」
「……」
ダメだこの子たち。よく考えなくてもこの二人もレンちゃんと同類だったわ……
「まあ、とにかくだ。さっき見た通り私や張本人のお前がどれだけ事実を語ろうとも。洗脳された連中を正気に戻すことは難しいんだ。……だからこそ。この騒ぎの元凶たるお前の後輩―――柊木レンをどうにかするしかないという事だ。わかったか立花?」
「……ええ、よーくわかりました」
確かにこれはトンデモ話の大本であるレンちゃんをどうにかしないとどうにもならない気がする。噂の発信源であるレンちゃん自らが私のありもしない噂話を否定して貰わないと収拾がつかないだろうなぁ……
「―――あのぅ……三年A組柊木レンです。失礼します。池田先生から何か御用があると聞いて伺ったのですが……」
「あ、レンちゃん」
「!あ、あーっ!マコ先輩!?マコせんぱーい♪」
と、噂をすれば何とやら。ひょっこりと職員室へと入ってきたのは……私のカワイイ後輩で、今回の騒ぎの中心人物。レンちゃんだった。
私の顔を見るなり。レンちゃんはまるで子犬のように私のもとへとすごい勢いで駆け寄る。
「まさかこの学校でまた先輩とお会いできるだなんて……うれしいですあたし!急にどうしたんですか?何かご用事だったんですか先輩?」
「あー……うん。ある意味で、レンちゃんに会いに来た……のかな?」
「あたしに会いに!?う、嬉しい……!歓迎します先輩!」
目を輝かせて喜ぶレンちゃん。……ううむ。こんなに喜んでるレンちゃんに、今からお説教みたいなことをしなきゃならないのは心苦しいぞ……
い、いやダメだ。心を鬼にしろ立花マコ!この現状をどうにかしないと、母校が色んな意味でヤバイ……!
「……コホン。レンちゃん。ちょっと先輩からお話があります。レンちゃんが今やってる―――私の布教活動だか何だかの話です」
「あ……先輩。もしかしてあのポスターとか、あの人形とか、あの銅像とか見てくださったんですか?えへへー♪どうでしょうか!あれ全部あたしが作ったんです!会心の出来でしょう?」
どうしてそこで誇らしげな顔が出来るのか、先輩はわからないよレンちゃん……
「出来は置いておくとして。……聞いて。レンちゃん……布教の事だけどさ」
「はい」
「……この学校で、そういうことするの……止めにしてほしいんだ。私は、レンちゃんの暴走を止めるためにここに来たんだからね」
「…………ぇ」
あれだけ嬉しそうにしていたレンちゃんが一転。絶望的な顔を見せる。
「ど、どうして……?あ、もしかして……あたしの布教、ダメでした!?足りなかったですか!?もっともっと、先輩の良いところを押し出さなきゃダメでしたか!?」
「逆、逆ゥ!?」
これ以上君はどうする気なのレンちゃん!?
「……あのね、やり過ぎなの!?ありもしない事を知らない後輩たちに話して!本人も知らないようなグッズを校内で埋め尽くしちゃって!洗脳レベルの刷り込みを皆にやっちゃうのがやりすぎだって言ってるの!?」
「そ、そんな……」
「レンちゃんの私を慕って布教してくれる気持ちは嬉しい…………いや、あんまし嬉しくは無いけど……とにかくやりすぎだよ。ね、お願い。先生方もちょっと困っているみたいだし、何より私も困る。知らない間に知らない人たちから崇拝されるとか恐怖しかないよ……」
「あ、あたし……あたしはただ……マコ先輩の良さを、全校に……全国に、全世界に、全宇宙に布教したいだけなのに……」
広めすぎ。
「と、とにかくだ。お願い、もうこういうのは止めよう?ね?」
「……どうしてもですか?どうしても止めなきゃダメなんですか……!?」
普段は聞き分けの良いレンちゃんが、半泣きになりながらも私のお願いを聞こうとしない。うぅ……そんな目で見られても……泣きたいのはこっちなんだけどなぁ……
どうしよう……私の説得も効きそうにない。どういえば布教活動を止めてくれるんだろう……?
「まあまあ。姉さま、お待ちくださいませ」
「そんな説得で柊木が納得するわけないでしょが。ここは、わたしたちに任せなさいな」
「コマ、カナカナ……」
困り果てた私を前に。またも助け舟を出そうとしてくれるコマとカナカナ。正直嫌な予感しかしないけど……私にはもう策がない。どうにかしてくれ二人とも……!
「レンさま。貴女様の気持ち、私たちにはよくわかります」
「この子を……マコの良さを皆に分かってもらいたい。ええ、わかる。わかるわ」
「先輩方……」
「ですがねレンさま。布教するのは良い事ばかりではないのですよ」
「一つだけ、大きな弊害があるの。あんたそのリスクを分かっていないから、こんなことが出来たのよ」
「「「リスク……?」」」
一体何の事だろうとレンちゃんも先生も私も首を傾げる。
「そうです。かなりのリスクがあるんです」
「重大で、悩ましいリスクよ。それはね―――」
そんな私たち三人を前にして。コマとカナカナは息を揃えてこんな事を言い出した。
「「マコ(姉さま)の良さを布教し過ぎると、姉さま(マコ)に近づいてくる恋敵が増えてしまうんです(のよ)!!」」
「……ハッ!?」
「「…………」」
何言ってんのこの子たち?
「ただマコ姉さまを慕うだけなら良いんです。姉さまの良さを理解してくれる人が増えるのは、私も妹として鼻が高いですから」
「けどねぇ……良さがわかり過ぎて……『あの人ともっと仲良くなりたい!』とか言い出す輩が増えちゃうのは問題なのよねぇ」
「中には馴れ馴れしく姉さまに密着したり、過激に姉さまに迫ってくる常識知らずなお方もいますからね。……この人みたいに」
「そうそう。妹でありながら身体の関係を迫るような常識外れもいるからね。……こいつみたいに」
「「…………ぁ?」」
「あ、ああ……そっか。そうなのか……下手にマコ先輩の事を布教したら……マコ先輩にみんなが寄ってたかって…………そうなったら、ただでさえ先輩と一緒に遊ぶ時間が減ったのに……これまで以上に……先輩と一緒に過ごす時間が……」
意気投合していたかと思えば、再び喧嘩腰になるコマ&カナカナ。そしてそんな二人の一言で、目が覚めたような顔を見せるレンちゃん。
「…………マコ先輩!」
「へ?あ、はい。何かなレンちゃん?」
「ごめんなさい……!これからは、布教活動は……ほどほどにしますね……!」
「あ、ああうん……分かってくれて何よりだよ……」
「そして立花先輩!叶井先輩!ありがとうございます!あたし……間違ってました!」
「「わかれば宜しい」」
「「…………」」
……そんなこんなで。コマとカナカナの鶴の一声で、後日レンちゃんによる私の布教活動は鳴りを潜めたとの事。
「……なあ、立花」
「……なんです、先生」
「…………お前も、割と苦労してるんだな」
「…………お気遣い、どうもです」
…………珍しく私を気遣う先生の目は、優しかった。
読んでいただきありがとうございました。ダメだこいつらなんともならない…
高校編、大分話数も増えてきましたし……一応これ完結したお話であるので……あとはニ、三話コマとのイチャラブなお話書いて、カナカナのお話書いて、最後に一つ締めになるシリアス回書いてまた一度終わらせようかなと考えています。あまり長々書くのも読んでくださってる皆さんも大変でしょうし……
……まあ、高校編終わらせても、どうせ私の事ですからアレです。大学編だの過去編だの大人編だの書くと思います。好きな時に好きなお話を楽しんでいただけたら嬉しいです。