(番外編)ダメ姉は、ホワイトデーに遅れる
……逆に考えるんだ、遅刻したなら遅刻したネタを本編で使えば良いんだと。そんなわけでホワイトデー編大遅刻で更新です。
3月14日―――それはバレンタインデーに貰った愛のお返しをする忘れてならない大切なイベントの日……そう、ホワイトデーである。……なに?それもバレンタインデー同様に日本のお菓子業界の陰謀?そんなイベント実は日本とかくらいしかないって?
知らん。貰った愛への感謝の気持ちを贈る日……そんなんあって当然なイベントだろがい。
「……ぐぬぬ」
さて。その大事なホワイトデーを前にして。私、立花マコは大いに悩んでいた。
「お返し、どうしよう……」
ダメ人間と自他共に認める私だけれども。それでも料理やお菓子作りに関してだけは唯一自信を持っている。お花見、海水浴、紅葉狩り、クリスマス―――色んな季節のイベントに相応しい料理やお菓子を作るのには慣れているし、自分で言うのもなんだけど結構得意だ。
だからホワイトデーのお返しくらい朝飯前―――と言いたいところなんだけど。今回に限って言えばそう簡単な話ではない。何故かって?それはだね……
「……あんなに濃厚なモノを贈られて……何を返せばいいんだよ私……」
今年のコマのバレンタインは……凄かった。身体にチョコを塗りたくり、艶めかしく『私を食べて、姉さま♡』と誘惑してくれたコマ。あんなにインパクトのある贈り物、私は他に知らない。……あんなにオイシイ素敵な贈り物、私は他に知らない。
あの時のコマ、それはもうえろかった。コマの身体に塗り込まれたチョコ……それはもう極上の味がしたよ。それだけに思う、そして悩む。
「一体何を贈れば正解なんだ……!?」
嫁にあれだけの事をされたのなら、それ相応の何かしらのカタチでお返ししたい気持ちはある。姉としてのプライドもある分、私が感じたあの興奮や感動以上のモノをコマにも味わってほしい気持ちはある。
けれど……そう思えば思うだけ、何をどうプレゼントすれば良いのか分からなくなってしまう私。コマのバレンタインの記憶が強烈過ぎて、何を贈ってもアレと比べたらどれもこれも霞んでしまいそうで辛いのである……
「……かれこれ考えてるうちに、もう一週間切っちゃったし……」
そうこう頭を捻って夜も寝ずに授業中に寝て考えて。気づけばもうホワイトデーも目と鼻の先に。コマった……いや違う困った……何も思いつかない。
コマもある程度満足してくれそうなお菓子とかなら今からでも余裕で作ることは出来ると思う。だけどそれだけじゃお返しにはならない気がする。あの日のコマと同じか……出来たらそれ以上のお返しとなると…………うーん。
「……困った時は、人生経験豊富な先輩たちとか頼れる友人たちに聞くべきか」
そう考え、とりあえず身近な人たちに助け舟を出してはみたんだけれど―――
~ちゆり先生&沙百合さん~
『え?バレンタインデーのお返し?コマちゃんが喜んでくれるもの?そういう話ならやっぱり―――リボンを巻いて定番の、プレゼントはわ・た・し♡で良いんじゃ(ゴスッ!)あいたぁ!?な、なんで叩くの沙百合ちゃん……』
『真面目に考えている子に変な事教えないでください先生。ふざけているんですか貴女は』
~めい子叔母さん&編集さん~
『は?バレンタインデーのお返しだぁ?それもコマが一番喜ぶ奴?……やれやれ。バカだなぁマコは。なーに難しい事考えてんだ。余計な事考えてると知恵熱出るぞ。お返しなんてそんなん―――お前が裸になってお前が作った菓子乗せて女体盛(ドゴォ!)いだぁ!?なにしやがるシュウてめぇ!?』
『マコさんとコマさんの代わりにぶん殴っただけです。仮にも叔母たる貴女が大事な姪っ子さんにそんなド阿呆なアドバイスしないでくださいめい子さん。正直ドン引きですよ……』
~カナカナ&レンちゃん~
『バレンタインデーのお返しで貰って嬉しいモノ?わたしだったら決まっているわ。マコよ』
『あたしももらえて一番嬉しいものと言えば、やっぱりマコ先輩ですね!』
―――と、こんな感じで皆大体同じ意見だった。……要するに、アレか?私もコマにやって貰った通り……コマの前で『私を食べて♡』ってすればいいのか?
「いや……でも、でもなぁ……二番煎じはちょっとなぁ……」
まるで何もお返しを思い浮かばずに、『こうしておけばコマは多分喜ぶだろ』って安易に考えたって思われそうで嫌だ。……つーかそもそもだ。
「そもそも……女性に下心のあるお返しをするのは良くないって恋愛雑誌に載ってなかったか……?」
いやまあ私はえっちなバレンタインデー死ぬほど嬉しかったけど……バレンタインデーとかホワイトデーにそういうお色気方面を攻めるとパートナーに引かれる可能性大って恋愛雑誌に書いてあった。この方向性、やっぱあんまし良くないんじゃないのか……?変に色気方面で攻めてドン引きされるのもそれはそれで辛い気がする……
「…………いや、でも待て……コマはむしろそういうのバッチコイ的なスタンスでは……?」
何故だろう?嬉々として私を剥きに来るコマの姿を容易に想像できてしまうのは、私が妹に日々調教されまくってる証拠なのだろうか……?
「ならやっぱしお返しは、身体で払うってのが筋ってものなのでは?……で、でも私みたいな駄肉ぼでーで誘惑なんてしても自信過剰って思われそうだし……けどコマはそれがいいって言ってくれそうで……だけど誘って空振りしたら虚しいし……じゃあ他に何が喜んでくれるかって考えたら…………うーん、うーん……うーん…………」
◇ ◇ ◇
そうやって悩みに悩んで気づけば3月14日。その日の私は―――
「…………きゅぅ……」
あろう事か急な高熱に襲われて、ベッドから一歩も動けなくなっていた。身体がだるい……あたま痛い……つらい……
わざわざ出張診察に来てくれたちゆり先生と沙百合さんによると、私の身体自体には特段の異常はないらしく。
『見たところこれ、風邪とかじゃなくて……急性的な心因性発熱ね』
『急激なストレス・緊張・プレッシャー……そういうものが原因で起こる熱なんですよマコさん』
『残念ながらお薬とかは効かないし、とにかく難しい事は考えずに安静にして眠るのが一番よ。マコちゃんお大事にねー』
という話。まー、要するにアレだ。コマへのお返しの事に悩みすぎてうっかり熱が出ちゃったって事らしい。
「ほーれ言わんこっちゃない。お前バカなんだし余計な事考え過ぎたら知恵熱出るぞってちゃんと忠告しただろうが」
「……ハァ……ハァ……う、うっさい叔母さん……」
「めい子さん、それは間違いです。俗語としてよく耳にする言葉ですが、【知恵熱】なんて医学的な言葉はありませんよ。あれは元々生後1年以内の乳児が出す熱の事を指します。今回のマコさんのケースをあえて言うなら心因性発熱やストレス性高体温症、機能性高体温症というのが正解ですね」
「シュウ。そんな豆知識はどうでもいい。……ったく。一か月近くもホワイトデーを悩みに悩んだ挙句その当日にダウンとか世話ねぇなマコは。コマを喜ばせようとして、結果コマを泣かせかねないことしやがってからに」
ぐったりベッドに沈む私に容赦ない言葉の槍を突き刺してくるめい子叔母さん。……ごもっともだけど、言わないでよ……うぅ……
「まあまあめい子さん。説教も看病も、あとはコマさんに任せましょう。私たちがどうこう言うよりも、そして私たちが看病するよりもコマさんに任せた方がマコさんには効くでしょうからね」
「だな。そもそもコマの場合『姉さまの看病は私の役目です。すっこんでおいてくださいませお二人様♡』とか言いそうだもんなー。んじゃ、あとはアイツに任せるか。今日は飲み会だぜひゃっほーいっ!」
「お大事にマコさん。私もめい子さんも夜まで帰れませんが……もし何か困ったことがありましたら、遠慮せずお電話くださいね」
「ありがとです編集さん……叔母さんはとっとと行っちゃえ……」
そう言ってめい子叔母さんと編集さんは手を振って私の部屋を出る。そして。その二人と入れ替わるように入ってきたのは……
「マコ姉さま、気分はいかがでしょうか……?」
「…………だ、大丈夫……デス……」
いつだって一緒に居たいけど、今この瞬間だけは居てほしくない私の最高の妹のコマだった……
どうしよう……結局、ホワイトデーのお返し用意できてない……用意できていないどころか、その当日に動けなくなってお返しどころの話じゃなくなるなんて……コマも色々と楽しみにしていたかもしれないのに、何でこうも間が悪いんだ私……
「ちゆり先生と沙百合さまから聞きました。一先ず大事には至らないようで何よりですね」
「……そ、そうみたいだね」
「今日がお休みで本当に良かったです。これで私、付きっ切りで姉さまの看病が出来ますねっ!姉さま!私にしてほしい事があったら言ってくださいませっ!私、姉さまの為ならなんだってしますから!」
「……?」
『ホワイトデーのお返し用意できてないなんて……コマ、怒っているかな?悲しんじゃってないかな?』そう内心ビクビクドキドキと不安に駆られている私をよそに。コマはそんな事など露とも考えていなさそうな、とても素敵な笑顔を浮かべながらリンゴの皮を剥き私の為にお茶を淹れてくれている。
「あの……コマ?」
「あ、はいっ!どうしましたか姉さま?私に何かしてほしい事、ありますか?」
「いや、そうじゃなくて…………と言うか。無理して私なんかの看病とかしなくて良いのよコマちゃんや……?」
「……?無理なんて、私全くしていませんよ」
「……そう、なんだ……?」
コマのこの顔……嘘は吐いていなさそう。どうやら本当に私の看病をすることを苦には思っていないようだ。それ自体はありがたいし、コマに看病して貰えるとか……天にも昇る嬉しさなんだけど。
「ね、ねえコマ……?聞いても、いい?」
「はい姉さま。どうぞ遠慮なさらず何でも聞いてくださいませ」
「……じゃあ遠慮なく聞くね。あのさコマ…………怒って、ないの……?」
「……?怒ってないのって……何にです?」
「い、いやだから……今日ホワイトデーでしょう?それなのに私……コマへのお返しを用意できてないんだよ?そればかりかコマの手を煩わせるような真似までして……お、怒っていないのかなって……思って……」
「…………」
恐る恐るコマに問う。そんな私の問いかけに、コマはにこりと微笑んで……
「お返しなら、今まさに貰えていますでしょう?」
「は……?」
なんて答えてくれた。お返しを、貰えている……?
「……ん、んん?……いや、私お返し……コマにあげてないよね?そもそも用意できてないって言ったよね?コマ何か勘違いしてない?」
「いいえ、ちゃんと頂きましたよ」
「???」
お返しを貰ったと嬉しそうに言う我が妹。だけど残念ながら当事者の私は全く身に覚えのない話だ。わけもわからず頭の上に疑問符を飛ばす私に、コマはニコニコ笑いながら話してくれる。
「ですから。この姉さまの看病が私にとってはバレンタインデーのお返しになっているんですよ」
「……か、看病がお返し……?いや、なんで?看病される側ならまだしも……看病するのがお返しって……」
「だって普段の姉さまは健康優良児過ぎて、看病なんて素敵なイベントは何十年に一回あれば良い方ですからねー。こう言っては不謹慎というか、苦しんでいる姉さまに申し訳ないと思いますが……私としてはすっごくウキウキしちゃってますもの♪」
まあ、バカは風邪なんざひかないからね……
「そもそも看病にそんなにウキウキする要素あるっけ……?」
「ありますとも!弱った姉さまが……この私に頼るしかないというこのシチュエーション。正直ゾクゾクしますね……!さあ姉さま!どうか私に看病させてくださいませ!リンゴ食べさせてほしいなら、あーん♪してあげますよ。それとも喉が渇いていますか?でしたら口移しで飲ませてあげます。……ああ、もしや汗かいて気持ち悪いです?なら私が、姉さまの身体を隅々まで綺麗に舐め取って差し上げますからねっ!」
妙にハイテンションなコマ。言動がなんかおかしい気がするけど、熱で幻聴が聞こえた事にしておこう。……それは一旦置いておくとしてだ。
「こんなチャンスを今日この日にくださるなんて……最高のホワイトデーですね。姉さま、ありがとうございます♪」
「いや、まってコマ……看病がお返しってのは……流石に違うでしょ。……コマの気持ちがどうあれ。実質私、コマに何にも用意できてないんだよ……?コマはバレンタインの時は………その。身体を張って私の為にチョコを贈ってくれたのに。そのお返しを……結局私、用意できなかったんだよ……?」
こんな情けない姉に、もっとコマは怒って良いと思う。引っぱたいても文句言えないよね私……?そう吐露すると、コマはゆっくりと首を横に振り。
「怒りませんよ。怒る必要、どこにありましょうか」
そして私の手をきゅっと握って優し気な表情でそう言ってくれた。
「どう、して……?」
「……私、姉さまの事は毎日見ているので知っています。姉さまがあの日の……バレンタインデーの時からお返しをどうしようかと一生懸命に悩み考えてくださった事。当日に高熱で倒れてしまうくらいに私の事を想って、私へのお返しで頭がいっぱいになっていた事―――そのすべてを見ていました」
思わずかあっと頬が熱くなる。おおぅ……ここ最近の一連の私のアレコレ……み、見られていたのか……
「ねえ、姉さま。姉さまは……バレンタインの時のように、私に身体でお返しすべきかそうでないのか随分と悩んでいたご様子でしたね」
「う……う、うん。まあ……そうだね」
「正直に言いますがね姉さま。なんでも良いんですよ。バレンタインは確かにそういう方向性で私は攻めましたが……別にホワイトデーだからってそういう……えっちなことを無理してしなくても良いんです。構わなかったんですよ。いつもみたいに作ってくれる美味しい姉さまの手作りお菓子をお返しにしても良かったですし、感謝の気持ちを言葉にするだけでも良かったんです」
「えっ、そうなの……?」
わ、私てっきり……コマはそういうのを望んでいるとばかり……
「そもそもお返しなんて糸くず一本でも良かったんですよ。姉さまから頂けるものならば何でも嬉しいんですもの。言ってしまえばお返しが貰えなくても構いませんでした。お返しの為にバレンタインをしたわけじゃありませんから。……ただ姉さまと一緒に過ごせるだけで、特別なんです。そういう意味で言えば、この看病という名のお返しは―――大正解でしたよ姉さま。姉さまに付きっ切りだなんて、姉さまに甘えられるなんて……最高です」
「そういう、ものなのかなぁ……?」
「そういうものです」
くすくすと笑いながらコマは私の額にスッ……と手のひらを乗せる。あ……コマの手、冷たくて気持ちいい……
「そうです、怒るどころか……むしろ喜んでいます。私の為に、私に喜んで貰えるようにと一生懸命色々と考えて……考え過ぎてこんなにお熱が出ちゃうくらい私を想って下さるなんて……嬉しい。本当に、嬉しいです」
「コマ……」
「姉さまのその気持ちだけで、十分です。改めまして……ホワイトデーのお返し、ありがとうございます姉さま」
優しくポンポンと頭を撫でてくれるコマ。……案外、叔母さんの言う通りだったかもね。余計な事とか難しい事とか考えずに……素直に感謝の気持ちを伝えればよかったんだ……
そんな事も分からないなんて、まだまだ私、ダメダメだなぁ……
「……あの、コマ」
「はい姉さま」
「熱、引いたら……改めてちゃんとお返しするよ。コマのしてほしい事、何でもするから。とりあえず今日は……感謝の気持ちだけ送ります。バレンタインありがとうコマ。大好きだよ」
「その言葉だけで、もう十二分にお返し貰えちゃってますよ姉さま。私も大好きです」
そう言って、二人でベッドの上で笑い合う私とコマ。ごめんね。遅刻しちゃったけど……ハッピーホワイトデー、コマっ!
「―――ところで姉さま。後日お返しするという事は……それはつまり三倍返しをしてくださるって事ですよね?」
「へ……?さん、ばい……?」
「よく言いますよね?ホワイトデーは倍返しで……遅れたら三倍返しって。バレンタインの時はいっぱい姉さまに私の身体を弄られましたから……今度は私のターンですよね!三倍、姉さまとイチャイチャさせていただきますのでお覚悟を!いやぁ楽しみです!姉さまの体調が戻ったら…………私、容赦しませんからっ!」
「あ、あれ……?こ、コマ?……えっちなことは無理してしなくても良いって言わなかったっけ……?」
「したくない、とは一言も言ってませんが?」
「あ、あはは……三倍は……身が持たないと思うんだけど……じょ、冗談だよ……ね?」
「私、姉さまに対してはいつもいつでも本気で向き合っていますよ。冗談など言いません」
「…………あの、コマさん?もしかして……やっぱしホワイトデーが遅れた事、怒ってませんかね……?」
「いえいえ。さっき言ったでしょう?姉さまのお返しが遅れた事自体は……全く。これっぽっちも怒っていませんよ私」
「そ、そう?なら良かっ―――」
「…………ただし。私の為にと夜も寝ずにお返しを考え身体を労わらずに無理をして、挙句体調を崩された事に対しては……結構、いえかなり怒っています」
「……」
「姉さまを看病できるのは嬉しいですが、それはそれこれはこれです。私は、姉さまを傷つける人を許しません。それが例え姉さま自身であっても許しません。オシオキ、ですね」
「…………ゴメンナサイ」
「謝罪の言葉は結構です。それよりも……楽しみですねオシオキ♪」
読んでいただきありがとうございました。結局いつものオチですよ。途中まではイイハナシダナーって出来たかもしれないのに……
ん?肝心のオシオキタイムが描写されてないって?……どうしましょうねホント。書き始めてはいますがちょっと内容がアレすぎるので、ここで載せて良いものなのかわかんない。……耳舐めくらいはセーフかな?それとも素直にノクタでRが18ばーじょんに載せるべきかな……




