ダメ姉は、部活に入る(中編)
誰だ忙しいから更新遅れるって言ったの。いやあの、ホント忙しいんですよ……?忙しすぎて息抜きで書き出すと止まんなくなるだけで……
とりあえずダメ姉いつも通り更新です……
走る、走る……走る……ッ!
『『『待てぇえええええ!!!』』』
「待てませぬぅううううう!」
廊下を全力で駆け、空き教室でやり過ごし。階段を跳ぶように上り、掃除用具入れに身を潜め。窓枠を乗り越え、木に伝って強引に一階まで降りて。垣根に飛び込み、匍匐前進でこそこそと地を這い……そして再び廊下を全力で駆けを繰り返し―――追いかけてくるお姉さま方から悉く逃げる私。
一体何故私が今追いかけられているのか、その理由自体は分からんが……こういう場合、経験上捕まれば大抵は碌なことにはならない。三十六計逃げるに如かず。
『くっ……な、なんて速さ……なんて脚力!こんなの……ますます我が陸上部に入れたくなっちゃうじゃないの!』
『いーや。あのまったく切れぬスタミナ、追っ手を見事に撒く瞬発力、陸上部如きにはもったいない。これはもう是非我がテニス部に!』
『ハァ!?どう考えてもあの子はバスケ部向きでしょうが!頭おかしいのアンタら!?』
『『『なんですって!?』』』
脱兎のごとく逃げる私の後ろでは、上級生の皆々様が何やら言い合いをしている。……よくわからんが、このまま仲間割れして自滅してくれると助かるんだけど……
『何バカな事やってんの!そういうのは後回し!まずは……あの子を捕まえるのが先決でしょうが!』
『『『確かに。…………てなわけで、待てぇええええええ!!!』』』
……ま。そう上手くはいかないか。
「ええい、仕方ない。だったらこのまま逃げ切るだけよ……!」
気を取り直して全力疾走。先輩方をぐんぐん引き離す。ふふん……この程度の追っかけっこ、生命の危機と常に隣りあわせだったあの頃と比べたらまるで子供の鬼ごっこよ。
中学時代から鍛え続けたこの私の疾風の逃げ足……捕まえられるものならば捕まえてみることだね……!
『ハァ、ハァ……な、なんて逃げ足の速さ……このままじゃ不味いわね……』
『作戦を、立てましょう。闇雲に追いかけてもダメよ。まず罠を仕掛けて、そこから逃げ場をなくすとかしないとキリがないわ』
『罠って言ってもどうすんのよ。誰か立花ちゃんの弱点とか好みとか分かる人いる?』
『『『……』』』
『ふっ……そういう話なら、ここはあたしたちの出番ね』
『『『ッ!その声は…………情報部!』』』
『あの子……立花マコちゃんと、同じ中学出身の子とつい先ほど連絡がとれたわ。あの子中学では色々と有名らしくてね。上手くいけば……簡単に取り押さえられるかもしれない』
◇ ◇ ◇
「…………?撒いた、か?」
と、そんなこんなで大体三十分ほど逃げ回ったところで……突然、私を追う背後からの足音がピタリと止みあたりに静寂が訪れた。
息を整えながら慎重に周りを見渡すけれど追っ手の気配が全く感じ取れない。あれほど追っかけてきていた集団の影も形も見えないではないか。
「まあ、かれこれ一時間近く走り回ったわけだからね……流石に諦めてくれたのかな」
ホッと胸を撫で下ろす。良かった……一先ず乗り切ったかな。まあ油断させておいて奇襲を喰らわす可能性もあるわけだし、念のためあと10分くらいは警戒を怠らず身を隠しておこう。その間に今後の対策とかも考えて―――
『…………さ、ま……』
「……?」
なんてことを考えていたまさにその時。遠くから微かな声が私の耳に届いてきた。
『……ねぇ……ま……』
「あ、れ……?この、声……は」
『マ、コね……さま……』
「……ッ!!?」
生徒や先生たちの朝の喧騒、鳥たちの囀り、近くでやってる工事の音―――その雑音に混じりつつも私にはハッキリと聞こえてくる小さいけれどとても耳に残るとても美しい音色。……ま、まさか……!?
『マコ、姉さま……』
「コマ!?」
この私が聞き間違えるはずなんてない。この声……間違いなく私の最愛の双子の妹にして……守るべき存在、この世で一番可憐で美しいお嫁さんのコマの声だ……!その声が私が今隠れている体育倉庫から遠く離れた旧校舎の空き教室から聞こえてくるではないか。
早朝から行く必要など全くない人気のない場所から、一体何故コマの声が聞こえてくるのか?今の私の状況も踏まえて考えられる理由があるとすれば……一つ。
「しまった……!?まさか、コマも追われて……!」
迂闊。なんで今の今まで気づかなかったんだ私……!?どういう理由で追われているのかは未だに分からんが……この私が追われているって事は、双子の妹であるコマも同じように追われている可能性だってあるだろうに……!
もしかしたらコマも私同様あの先輩たちに追い回されて……そんでもって捕らえられたのかもしれない。ひどい目にあっているのかもしれない。今まさに私に助けを求めているのかもしれない……
「ま、待っててコマ!お姉ちゃんが今すぐ行くよ……!助けに行くよ……!」
そう考えたら居ても立っても居られなかった。私の身体は自然に声のする方へと脇目もふらず走っていた。
登校していく生徒達を吹き飛ばし、『ま、マコさん?マコさーん?ろ、廊下を走っちゃダメですよー……』と注意をする先生の前を堂々と駆け抜け、躓いて転んでも転がりながらも走り続け声のする方へと走る、走る。走る―――
「コマ…………コマぁああああああああ!」
そうしてたどり着いたその空き教室の扉を、蹴破る勢いで開けた私の目に映ったのは。
「「「よ・う・こ・そ♡」」」
「…………は?」
「「というわけで、確保ぉおおおおおおおお!!!」」」
「ぎにゃぁあああああああああ!!?」
『マコ姉さま、マコ姉さま……』と再生を繰り返すボイスレコーダーを片手に、とてもにこやかな笑みを……背筋が凍る笑みを浮かべた先輩たちのお姿であった。
◇ ◇ ◇
「―――いやはや。まさかとは思ったけど、ホントにこんな手に引っ掛かるなんてねマコちゃん」
「……うぅ。まさか、この私がボイスレコーダー如きの声に惑わされるなんて……」
数分後にはロープで縛られ(ちなみにどういうわけか……コマにプレイ中によくやられる亀甲縛りとかいう縛り方)先輩方に取り囲まれた私。
くそぅ……平常時なら機械に収められたコマの声とコマの生の天使の歌声のような声との区別くらい余裕なのに……追われていたせいで焦りから聞き間違えるだなんて……立花マコ一生の不覚……
「逃げようとしても無駄よマコちゃん」
「この場は完全に包囲したわ、逃げられないし……逃がさないわよ」
「つーか、逃げようとした時点で、きつーいオシオキしちゃうんだからね」
「……はーい」
こうまで見事に取り囲まれて捕まってしまったからには抵抗はもう無駄だろう。大人しく言う事を聞くしかあるまい。半ばあきらめの境地の私は、覚悟を決めて一つ聞きたかった事を先輩たちに聞いてみることに。
「……そんで、先輩方?一つ聞かせて貰えませんか」
「なぁにマコちゃん?」
「…………すっごい今更ですけどね。何故に先輩方は私を追っていたんですか?私、何か先輩たちに恨み買うような事でもしましたっけ……?」
それが分からないまま死ぬ思いで追われていたんだ。煮るなり食うなりされる前に、その理由を問う権利は私にはあると思うんだよね。
そう問いかける私に対して先輩方は顔を見合わせてから、
「「「―――貴女に、私たちの部活に入ってもらう為だけど?」」」
当然のように、口を揃えて答えてくれた。……ぶ、部活?
「あのね、立花さん。知らないなら教えてあげるわ。この学校ってね、部活動が盛んなのよ。有名どころからマイナーなジャンルまで、多種多様な部活動が幅広く活動をしているわ」
「え、ええ。それは一応知ってますけど……それがどうかしたんですか?」
「それだけ部活が盛んで、且つ部活動の種類も多いと……自然と支給される部費等も限りがある。部員が入れば部費もそれだけ上がる。部員が確保できなきゃそれだけ部費は下がる。部費は多いに越した事ないからね、どこも必死よ」
「弱小部の場合は新入部員の加入に文字通り命懸けよ。なんたって部の存続だってかかってるわけだもの」
「だから皆、全力で新入生を入部させたがるの。分かる?」
「は、はぁ……」
……え?待って。じゃあ何?私部活動の勧誘の為だけに、これ程大勢の先輩たちに追われてたって事?そ、そんな理由で死ぬ思いで逃げ回る羽目になってたわけ?
いかん……な、なんか一気にどっと疲れたぞ……そんな理由かぁ……
「にしても……何でこんな急に?昨日まで勧誘とか全然なかったじゃないですか……」
「んん?……ああ。もしかしてマコちゃん知らないの?部活動勧誘解禁日の事を」
「勧誘、解禁日……?」
知らんぞそんなの……
「さっきも言ったけど、この学校には色んな部活動があって、そしてそれぞれ色んな理由あるからみんな部員を日々死ぬ気で集めているのよ。時には他の部活からヘッドハンティングしたり、時には掛け持ちを頼み込んだり」
「とりわけどこの部活にも入っていない、入学したてホヤホヤの一年生の勧誘は……それはもう比喩抜きに各部活が戦争状態よ」
「新入生の奪い合いがヤバくてね、一時期は流血沙汰。刀傷沙汰にもなりかけたとかなんとか」
「えぇー……」
ここ一応女子校、一応お嬢様学校だったよね……?部活動の勧誘で流血沙汰って……刀傷沙汰って……流石に何かの冗談だと思いたい。
「そういうトラブルを避けるために、学校側から指定されているの。『新入生が入学してから一か月間は部活動の正式加入は認めない。勧誘も然り』ってさ」
「だから今日まで私たち、派手な勧誘はしてこなかったってわけ。せいぜいビラ配ったりこういう活動しているよーってPRするに留まったりとさ」
「まー、体験入部してくれたり仮入部してくれた子は……死んでも逃さないけどね!」
「拉致って監禁して洗脳して……絶対に『この部活に入ります』って言ってくれるまでは帰さないわ」
「…………」
先輩たちの過激な発言に頭を抱える。……ねえ、ここ一応女子校でお嬢様学校のハズだよね!?なんかノリがあの中学時代とあんまし変わんなくない!?
「そ、そういう理由があったのはわかりました……が。やっぱりわかりません」
「え?わからない?何が?」
「私を追いかけてきた理由が、ですよ。先輩方は……なんでまた、ここまで必死に私なんかを勧誘するんですか?」
そう、そこが一番分からない。どういうわけかこの人たち。今日は他の一年生にはほとんど目をくれず。何故か執拗に私を狙い追ってきた。
私一人を追っかけるより、まだその辺で何も知らずにノコノコと登校している一年生を捕獲したほうが面倒じゃないハズ。それなのに何でまたこんなまどろっこしい罠を使ってまで私を狙ってきたんだ……?
私のそんな疑問に対して、これまた当然のように先輩たちはこう答えてくれた。
「「「そりゃ決まっているでしょう。折角部活に入ってくれるなら、やっぱり―――優秀な人材が欲しいからよ」」」
「…………は?」
その発言は、私の脳が理解を拒む一言であった。ゆうしゅうな、じんざい……?
読んでいただきありがとうです。次回こそ多分更新遅れますですすみません。……いやフリとかじゃなくてですね……
マコは基本運動音痴な設定ですが、逃走技術に関してはマジで凄いのです。それもこれもあの中学時代が悪い。