ダメ姉は、誘惑する(その2)
愛するコマに抱かれなくなってしまった私。コマに限ってそんな事は無いと信じているけれど……万に一つの可能性として、飽きてポイされちゃうかもしれない―――そんな危機感に苛まれた私は、頼れる友人と後輩を呼び出して緊急対策会議を開始した。
「……ふぅむ。コマちゃんに襲って貰えるくらい魅力的な女性になりたい―――ねぇ。わたしにとっちゃ敵に塩を送るどころの話じゃないんだけど?それ、マコはちゃんとわかっててわたしに頼んでいるのよね?」
「う、うん……」
事情を説明すると、要件が要件なだけに最初はカナカナも渋い顔をするカナカナ。……まあ、そりゃそうか。好きな子を恋敵に抱いてもらう手伝いをしてほしいなんて、カナカナにとっちゃ罰ゲームってレベルじゃないお願いだもんね。
「…………ま、でもいいか。他ならないマコのお願いですものね。本気でマコが困っているなら仕方ない。微力ながらわたしも力になりましょう」
「か、カナカナ……!ありがとう!」
それでもやれやれといった表情で私の力になると言ってくれるカナカナ。ごめん、そして本当にありがとう我が生涯最高の親友よ……!やはり君に相談して良かったわ……!
「ああ、手伝うのは良いけどさ。その代わり、上手くいったら後でマコからたんまりお礼をしてもらうから。勿論、身体で払ってもらうわよ」
「えっ」
「当然でしょう?今回のあんたのお願いに見合うだけのお礼はいただくわ。覚悟しておきなさいなマコ♡」
「…………お、お手柔らかにお願いね……?」
…………アレ?私、もしかしなくても頼む相手を間違えたか……?い、いやいやカナカナなら大丈夫だろう……たぶん。
「……あ、あたしも……正直言うと、嫌ですけど。でも……マコ先輩の頼みなら……断れません。あたしで良ければ、お手伝いします……」
「レンちゃんもありがとーっ!愛してるよーっ!」
「あ、愛っ……!?は、はひっ!が、ガンバリマスネッ!!?」
カワイイ後輩レンちゃんも、私のおかしな頼み事にちょっと複雑そうな顔をしながらも渋々協力すると言ってくれる。いい子だわ……先輩想いのいい子だわレンちゃん。
「……そんで。具体的にどうしよっか」
カナカナ、レンちゃんの協力を無事に得たところで早速ヒメっちが議論を始めてくれる。
「……コマが我慢できずに襲いたくなるようなマコになる。……つまりはマコが女を磨き、魅力的になれば良いって事だよね」
「うん、まあそうなるよね」
「……女磨くと言えば。やっぱダイエットとか、お肌のメンテとか?」
「却下よおヒメ。それはどれもこれもぱっと見じゃわかんないし、何より時間がかかり過ぎるわ。マコは今すぐにでもコマちゃんから抱かれたいんでしょ?ならもっと手早く、そしてより効果的な手段を択ばないと」
「……ふむ。一理ある」
だ、抱かれたいって……なんか語弊のある言い方じゃないかねカナカナや?間違ってはないけどさぁ……
「んじゃどうすれば良いと思うカナカナ?」
「そうねぇ。やっぱり手っ取り早いのはアレよアレ」
「どれです叶井先輩?」
「手っ取り早く意中の相手を魅惑したいなら―――媚薬を使えばいいのよ」
待てやコラ。
「あの……叶井先輩?それ不健全ですし、なにより全然手っ取り早くないような……」
「……カナー?どうやってそんなアブナイものを入手する気なの?漫画とか小説じゃないんだからさー」
「えっ?…………あ、うんそうね。じょ、冗談よ冗談。場を和ませるための小粋なジョークよ、おほほほほ……」
レンちゃんとヒメっちにドン引きされて、あわてて冗談だと言うカナカナさん。……ほほぅ、冗談ねぇ?
……私は覚えているぞカナカナよ。私と二人っきりになった時、どこで入手したのかホントに私に媚薬盛って襲おうとしたあの日の事を覚えているぞ。今のも絶対本気だったな……
「さて。冗談はこの辺にして真面目に話し合いましょうか。媚薬がダメとなると……あとはアレね。見た目の印象を変えてみるのはどうかしら」
「「「見た目の、印象……?」」」
「ええ、見た目よ。以前雑誌で読んだんだけどね。倦怠期の乗り越え方って特集があったのよ。そこに書かれてたんだけど、カップルたちが迎える倦怠期の原因って『慣れ』とか『刺激のなさ』にあるらしいのよ」
慣れとか刺激のなさ……?
「付き合い始めたばかりの頃はただ手を重ねるだけでドキドキを感じていたのに、今では慣れてしまってそのドキドキが失われる。毎日恋人と顔を合わせるせいで、付き合う前は一生懸命だった化粧や服装に気合を入れなくなる。そのせいで新鮮味や刺激を感じなくなって―――結果マンネリになって破局したって体験談そこには載っていたのよ」
ふーん……そういうものなのかな?私はコマと手を重ねるだけで今でも全力でドキドキしてるし、コマはそもそもお化粧なんかしなくても超絶カワイイし、服装もジャージですら着こなすし、コマと過ごす毎日はいつでも刺激的で見てて飽きなんて生まれないけど……
「そういう意味で、見た目の印象を変えるのって倦怠期を乗り越えるのにすっごい効果的なんですって。いつもはしない格好を纏い、いつもと違うシチュエーションで相手を誘うのはかなり刺激があるらしいのよ」
「ああ、それなんとなくわかるかもです。イメチェンとか刺激ありますもんねー」
「ええっと……つまりアレかな?何の前触れもなしに意表を突いたコスプレして恋人出迎えたら、その夜は燃え上がる……的な?」
「……マコ、それどういう例え?いや、まあニュアンスは合ってるっぽいけどさ……」
ふむ……なるほどコスプレか。それは……割とありかもしれない。ああ見えて、コマ結構コスプレするのが―――というか、私にコスプレさせるのが好きだもんね。
「というわけで。それじゃあマコ、さっそく実践よ」
「ん?実践?何が?」
「とりあえず善は急げということで―――とっとと、その服脱ぎなさい」
「……へっ?あ、いや何?ど、どしたのカナカナ?なんで、私に迫るの?つーかその服は、お化粧道具は一体どっから出して……てか、なんで私の服脱がそうと…………あ、やだ嘘待ってちからつよい、強いぞカナカナ……!?待ってカナカナ!?れ、レンちゃんにヒメっちたすけ―――みぎゃああぁぁああああああ!?」
~カナカナコーディネート中:しばらくお待ちください~
「―――よし、完成。ふぅ……我ながら最高の出来ね。ま、素材が最高なうえにマコの一番の親友であるこのわたしのコーデだから、そりゃ完璧に仕上がるってものよねー♪」
「……剥かれた……弄られた……ごめんコマ、もうお嫁にいけないかも……」
「ならさっさとわたしの嫁になりなさいなマコ♡」
さめざめと涙を流す私をよそに、着飾った私を見て満足げに笑うカナカナ。
「で。どうよマコ。これならコマちゃんも十分ときめかせる事出来ると思うんだけど?」
「そ、そうかな?」
「ええ、コーディネートしたわたしがすでにドキドキしてるもの。今すぐにでも押し倒してやりたいって思っているもの」
「へーいカナカナ。押し倒してやりたいって思ってるっていうか……現に今マジで押し倒してる。押し倒してるよ。ストップ、ストップだ。シャレにならないからやめて……やめなさい……ッ!」
剥かれたのはさておき。流石はこの中で一番オシャレに特化しているカナカナのチョイスだと感心する。
一体どこから持ち出したのか不明だけれど何故か私のサイズピッタリな肩出しニットにミニスカのコンボは……普段子供っぽい格好ばかりの私の印象がガラリと変わって大人な雰囲気を醸し出している気がする。
「れ、レンちゃんとヒメっちはどう思う?ドキドキ、する……?」
「ま、マコ先輩……刺激的すぎですぅ……」
「……えっろ」
ヒメっちたちも割と好反応の様子。胸の谷間や下着がギリギリ見えそうで見えないところとか、アクセントとして付けられた香水とかも色っぽさを感じるし……カナカナの言う通り、これならコマに抱いてもらえるかも……?
『―――マコ姉さまー、ただいま帰りましたよー』
「「「「……!」」」」
と、そのタイミングで話題の超絶キュートなマイシスターが帰宅する。ちょ……は、はやい、早いよコマ……!?まだお姉ちゃんこの恥ずかしい恰好でコマの前に出る心の準備が……!?
「ちょうど良いわ。あとは上手い事誘惑すればコマちゃんもイチコロよ。さあマコ、行ってみなさいな」
「ゆ、誘惑って……どうすりゃいいのカナカナ!?わかんないんだけど!?」
「ああ、それならコレを持って行きなさいマコ」
あわあわする私にカナカナは何かの機械を手渡してくる。な、何これ……?
「小型ワイヤレスイヤホンよ。わたしたちは隣の部屋で待機しておくわ。それを付けてわたしの指示に従うと良いわ」
『……?姉さまー?どちらにいらっしゃいますかー?貴女のコマが帰りましたよー?』
「わ、分かった……頼んだよカナカナ!行ってくる!」
言われた通りにイヤホンを耳に付けて玄関先で私を呼ぶコマのもとへと駆ける私。よ、よし……コマ誘惑作戦、開始だ……!
「お、お待たせコマ……お帰り、なさい……」
「あっ♡ただいまです姉さ…………ま……?」
コマの目の前へと現れた瞬間。コマは私の格好を二度見する。最初は目をまんまるにして。そして二度目はじっくりと頭のてっぺんから足の先まで眺めて……ぽかんと口を開けて固まってしまったではないか。
『ふふ……わたしの狙い通り、どうやらかなり効いてるみたいねコマちゃん』
インカム越しにカナカナの不敵に笑う声が聞こえてくる。
『よし、チャンスよマコ。そのまま畳みかけなさい!』
「(ボソッ)た、畳みかけるってどうすれば良いの……?」
『コマちゃんに近づいて……そんでもって、わざとコマちゃんの前で転びなさい!』
「(ボソッ)こ、転ぶの……!?わ、わかったやってみる……!」
カナカナの指示に従いコマに近づき、そしてコマのすぐそばで躓くふりをして転んでみる私。すると……
「あーっと、しまった転んじゃったー(棒)」
「ッ!危ない、姉さまッ!」
私の危機(?)に固まっていたはずのコマは超反応と凄まじい運動神経を用いて受け止めてくれる。お陰で私は痛みなくポスっとコマの胸の中へと収まった。
『そこよ!そこっ!マコ、そこですかさずマコの自慢の巨乳をコマちゃんに押し付けるッ!自分の香りをマーキングするように擦り付ける!そして媚びるように!甘えた声で!満面の笑みを浮かべて感謝の言葉を口にするのっ!そうすれば、コマちゃんはマコの魅力に抗えずに堕ちるわ……!』
若干興奮気味なカナカナの指示が飛ぶ。OK、やってみるよ!
「だ、大丈夫ですか姉さま……!?お怪我は……」
「ん、大丈夫よコマ。……えへへぇ、ありがとねーコマっ♪」
「……っ」
カナカナに伝授された方法を用いてコマを誘惑してみる私。さあ、どうだ……?
「…………マコ、姉さま」
「(ドキドキドキ)う、うん?何かなコマ?」
「ふふっ♪ご無事なら良かったです。くれぐれも足元にはご注意くださいね」
「……え」
『……え』
あまりに普通な肩透かしの対応に、私も……インカムの向こうのカナカナも同時に間の抜けたような声を出してしまう。なんか、思ってた反応と違う……
「それよりも姉さま。ちょっと言いたい事があるのですが」
「あっ、はい……何かなコマさんや……?」
「そちらの服ですけど。とってもお似合いだとは思いますが……今日は少し冷えるそうですよ」
「『冷え、る……?』」
「肩出ていると余計に冷えて風邪を召されては大変ですし、良かったらこれをお使いくださいね」
「あっ……う、うん……ありがと……♡」
そう言ってコマはにっこり笑顔で自分が羽織っていたカーディガンを私にそっとかけてくれる。そのイケメンな仕草に私は思わずきゅんと胸を射抜かれてしまう。
あ、あれあれおかしいな?コマを私が誘惑してるはずなのに、こっちが逆に誘惑されちゃいそうなんだけど……
『ま、マコ!作戦中止!作戦中止!いったん戻ってきなさい……!』
「(ボソッ)りょ、了解…………ご、ごめんコマ!ちょ、ちょっとお姉ちゃんやることあるの!お部屋に戻らせてもらうねっ!」
「はいです。ではまた後ほど」
作戦の失敗を悟ったようで、カナカナ参謀総長に撤退の合図を出され私は一時退却する事に。
◇ ◇ ◇
「―――おかしいでしょ!?」
私が戻って早々に。カナカナは憤りを露わにして取り乱す。
「コマちゃんはなんなの!?こんなにオイシソウな格好のマコを前にして!あんなにオイシイシチュエーションで!なんで、なんで襲わないのよ!?なんで動揺一つ見せないのよ!?鴨が葱を背負って土鍋沸かして『骨までしゃぶって♡』って誘っているようなもんでしょ!?」
「た、確かに……あんなに魅惑的なマコ先輩が目の前にいるのに、逆にあんな二枚目な対応しちゃうなんて……あたしだったら多分耐えきれていませんよ」
「……マジでコマ倦怠期?」
相当自信があったようで、この失敗が理解できないと叫ぶカナカナ。レンちゃんとヒメっちの二人もかなり不思議そうだ。ううん……作戦自体に問題は無いっぽいし、これはつまりは……
「や、やっぱり……私に魅力がないから……だからコマ、反応してくれなかったのかなぁ……?」
「それだけは、絶対にないわよっ!!!」
自分の魅力のなさが失敗につながったのでは?そう呟いた私に、カナカナは隣の部屋まで聞こえかねないほどの大声でその考えを否定する。
「バカ言っちゃいけないわ。あんたの魅力は本物よ。あれは……多分、いいえ絶対にコマちゃんに何かしらの問題があるはず」
「いや、やっぱちんちくりんで魅力なんてない私じゃ、そもそもコマを誘惑するなんて無理な話だったんだと……」
「しつこい!あんたは魅力的だって言ってるでしょうが!」
「で、でもさぁ……」
「…………なんなら、さっきコマちゃんにやった事、わたしにもやってみなさいマコ!それで魅力があるかないか判断してやるわ!」
「へっ……?あ、うん。わかったやってみる……」
自分の魅力(の無さ)を証明するため、さっきコマにやった事をとりあえずカナカナにもやってみることに。
数分後。
「―――感、無量……(ドサッ)」
「か、カナカナぁああああ!!!?」
同じことをやった結果。カナカナは何やら満たされた表情で鼻血を吹いて失神してしまった。た、頼れる作戦参謀長が早くも離脱。コマ誘惑作戦は早くも怪しい雲行きを漂わせ始める……
読んでいただきありがとうございます。もうそろそろ今年も終わりますね…
年末年始死ぬほど忙しいのでダメ姉含め更新が中々出来ないかもしれませんが、のんびり待っていただけると嬉しいです。ではでは