ダメ姉は、将来を見据える
一体誰だ?ダメ姉しばらくは更新しないとかほざいたド阿呆は?……はい、私ですごめんなさい……ちょっとむしゃくしゃして気分転換がてら書いてすみません……ダメ姉更新でございます。
「「「「―――職業希望調査?」」」」
「は、はい……」
とある日の放課後。教室で一人残り、珍しく神妙な顔で一枚のプリントと睨めっこしていた後輩のレンちゃんを見かけてどうした事かと話しかけてみた私、コマ、カナカナ、ヒメっちのいつもの仲良しメンバー。
レンちゃんに見せて貰ったそのプリントには……大きく【職業希望調査票】と書かれているではないか。
「ナニコレ?職業希望?大人になったらやってみたい職業を答えろ的なやつ?」
「ええっと、要するに進路希望調査のようなものでしょうか?」
「あ、はい。似たようなものだそうです。これから先の進路の指針を決める為に一年生たちにぜひとも答えてほしいアンケートだそうでして……」
「そう言えばわたしたちが一年の頃もこういうのやったような気がするわね」
「……やったねー。なんか懐かしいや」
言われてみれば確かに、こういうの一年の頃に書いたような気がする。なんて書いたかあんまし覚えていないけど、たぶん『コマの嫁になる』的な事を書いて即先生に『ふざけるな』と殴られた事だけは覚えてるわ。
「それで?レンちゃんは何をそんなにお悩みタイムだったの?これってぶっちゃけただのアンケートなわけだし、漠然とした将来の夢を適当に書いても問題ないんじゃないかな?」
二年、三年ならまだしも、このアンケートの対象はまだまだ入学したてなレンちゃんたち一年生。流石に先生たちもそれほど真剣になって書かせているわけでも無いだろうし、お遊び感覚で気軽に回答しても問題ないと思うんだけど……
そうアドバイスしてみた私だけれども、レンちゃんはちょっぴり恥ずかしそうに首を振る。
「……いえ、その。恥ずかしい話ですけどマコ先輩……あたし、その漠然とした将来の夢すら持っていないんです。何になりたいとか、何に憧れているとかがなくて……だからこのアンケート、何を書けばいいのか全然思いつかないんです……」
「あー、なるほどね。それは困ったねー」
「そこで……先輩方に参考としてお尋ねしたいのですが。先輩方って……将来の夢とかありますか?」
「「「「将来の、夢……?」」」」
唐突にレンちゃんに尋ねられて考える。うーむ。将来、将来の夢ねぇ……
「……私は、母さんの会社に就職したい。んでもって、ランジェリーデザイナーとして働くのが夢」
即座に返答したのは明確に将来を見据えている、ご存じマザコン娘のヒメっち。
「ヒメっち昔から公私ともにお母さんを支えるのが夢だって言ってたもんね」
「デッサンの勉強も順調みたいで何よりですねヒメさま」
「……ん。まだまだ勉強不足だけどね。早く高校行って、ちゃんとした知識と経験積みたい」
実にお母さん想いな彼女は、お母さんを支えるべくすでに目的の為の勉強を頑張っているらしい。流石、ブレないよなぁこの子は。
「……あ。でもそれとは別に、今は介護系の勉強もしているよ。移乗の仕方とか、清拭の仕方とか色々と」
「え?か、介護……?な、何故に介護……?」
「ちょい待ちおヒメ。介護て……ランジェリーデザイナーとはかけ離れた職業じゃないの?」
「……うん。でも勉強中。だって……」
「「「「だって?」」」」
「……将来、母さんを物理的に支える時が来ても、ちゃんと支えられるようになりたいし」
「「「「…………」」」」
……流石。ホントブレないよなぁこの子は。
「……皆は?なりたい職業ってなんかあるの?」
「んー。そうね。わたしは趣味と実益を兼ねて、ネイルアーティストとかアロマセラピストとか良いかなって思ってるわ」
ヒメっちに話を振られ、次に答えたのはカナカナ。
「おー、そりゃカナカナにピッタリな職業だね!どっちもすでにプロレベルに凄いもんねーカナカナは」
「え?叶井先輩、そうなんですか?そんなに凄いんですか?」
「柊、マコの言う事を鵜呑みにしないで頂戴。マコはおだて過ぎなのよ。アマチュアの域を出ないわ。仮に本気でそういう道を目指すなら、おヒメのようにもっと勉強しないとね」
苦笑いをしながら謙遜するカナカナ。えー?そうかなぁ……?
「でもさでもさ!カナカナが前私にネイルしてくれたりアロママッサージしてくれた時は凄かったじゃない。十分プロとして働けるレベルだったと思うよ?正直お店でして貰うよりも綺麗にネイル出来てたし。マッサージも気持ち良かったし」
「ああ、それは単にマコが相手だったからよ」
「へ?」
わ、私が相手だったから……?
「他の人相手だとマコにした時ほど上手くは出来ないでしょうね。だって……相手がマコだからこそ、あれほど本気になれたんだもの。大好きな人の爪だから、誰よりも綺麗に出来た。大好きな人に気持ち良くなって欲しかったから、誰よりもあなたを気持ち良く出来た。ただ、それだけよ」
「ぁ、うぁ……うー……」
「ふふ、マーコ?顔真っ赤よー?どうかしたのかしら♪」
予想外のところから油断していた私にキラーパスをぶつけてくる我が親友。こ、こういうこと素面で言うの卑怯だと思うぞカナカナよ……
「むー……わ、私!私だって姉さまを誰よりも気持ち良く出来ると自負してます!」
「ほほぅ……?言ったわねコマちゃん。なら、また今度マコの身体でどっちが気持ち良く出来るか勝負してみましょうか?」
「望むところです。かなえさまには負けませんっ!」
それと我が愛しの妹よ。変なところで張り合わないで頂戴な……
「つーかそういうコマちゃんは何なのよ。将来なりたい職業って」
「え……?私、ですか?私は……まあ陸上関係の道に進もうと思っていました」
「……?思って、いました?コマ、なぜ過去形?」
「ええっと……実を言うと、最近他にもやりたい職業がいくつか出てきていて迷っているんですよ」
「え。それはお姉ちゃんも初耳……そ、そうなのコマ?」
「はい。そうなんです」
私、てっきりコマはトップアスリートになるとばかり思いこんでいただけにちょっとビックリ。
「まあ、コマちゃん程勉強も運動も出来るならなんにでもなれそうだけど……」
「……意外。てっきり陸上で頂点取って、マコを喜ばしたいとか考えてると思ってたのに」
「立花先輩、あれほど早いのに陸上やらないなんて勿体なくないですか……?」
私だけじゃない。カナカナもヒメっちもレンちゃんもかなり驚いた表情をしている。
「ちなみにコマ?コマはどんな仕事をしたいって思ってるのかな?」
「そうですね……政治家とか。あとは……科学者とかでしょうか」
ほほぅ……政治家に科学者か。私と違って頭良いコマならそういう道も普通にバリバリ行けそうだ。知的なメガネをかけスーツを着て日本の政治を支えたり、白衣を纏い世界に役立つ研究をするコマか……
……あ、やだ凄い。似合い過ぎて怖い。想像しただけでキュンっと来るわ。クールなコマも良いよね!
「…………(ボソッ)それってさ、コマちゃん。もしかしなくてもアレかしら?『女の子同士でも結婚できるように』政治家として法律を変えたり、『女の子同士でも子どもできるように』科学者として研究したいから―――とか?」
「…………(ボソッ)うふふ。何のことでしょうかかなえさま?」
「…………(ボソッ)ブレないわねぇコマちゃんも……」
ま、お姉ちゃんは陸上選手だろうと政治家だろうと科学者だろうと。姉兼伴侶としてコマの事をどこまでも支えちゃうから安心して好きな道を進むといいよ。
「それじゃあ大トリでマコ先輩!どうかお願いします!」
「へ?」
「マコ先輩が将来なりたい職業ってなんでしょうか?ぜひとも教えてくださいっ!」
なんてことを考えていた私に、キラキラした目でレンちゃんが私の将来について尋ねてくる。
何故かえらくレンちゃんに期待されてるっぽいけれど……私のなりたい職業って言っても大したもんじゃないしなぁ……
「私は……うん、まあ無難に調理師とか管理栄養士とかかな」
「なるほどっ!先輩お料理上手ですもんね!ピッタリだと思いますよ!」
「あはは……料理上手っていうか、料理しかできないだけだけどねー。ぶっちゃけこういう道しか、私には選択肢ないからなぁ」
「…………ぇ」
勉強も運動もアレなダメ人間だ。選択の余地もないし、やっぱ唯一の特技である料理関係の職に就くのがベストと言えよう。
「そうでも無くない?マコなら……そうね。その愛らしい容姿とか、ダイナマイトボディとか使ってモデルとかになるのも良さげじゃない?もしモデル目指すなら他でもないわたしが、マコのメイクとかしてあげるからねっ!」
「い、いやいやカナカナさんや?流石にこの駄肉でモデルは無理あるでしょ……」
「……なら役者とかどう?ホラ、マコってば前にコマに成り切ってたじゃん。あれほどの演技力あるならいけるっぽいよ」
「そっちも無理だってヒメっち。前にも言ったけど、あれは単純にコマを真似しただけだから。素の私に演技力とか皆無だから」
「先輩カッコいいですし、女の子にもモテますし。男装カフェで執事さんとかになるのはどうでしょうか!?」
「レンちゃん?君は私をどんな道に誘おうとしているのかね?」
皆好き勝手言ってくれるなぁ……いやはや。どれもこれも似合わないし、向いてないと思うの私。
「…………(ボソッ)姉さま……選択肢がないって……それってつまり……」
◇ ◇ ◇
そんな皆との他愛のない楽しい話を終え、コマと帰宅した後の事。
「―――姉さま、少し……大事なお話があります」
「は、はい……な、なんでしょうかコマさん……?」
帰宅後、どういうわけか突然真剣な……怖い顔をしたコマにリビングにすぐに呼び出されソファに腰かけるようにコマに告げられた私。え、ええっと……どうしたのだろうかコマ?な、なんか怒っているようにも見えるけど……もしかして、私がまた妙な事をしてしまった?で、でも今日に限っては心当たりは特には……
戦々恐々している私に、難しい顔をしていたコマは……ふぅっと息を吐き。そしてこう切り出した。
「マコ姉さま、単刀直入に聞きますね」
「は、はい……」
「もしかして……姉さまは私の為に無理をしていませんか?」
「…………はい?」
……困った。何の話か余計に分からん。
「あの、ごめんコマ。お姉ちゃん頭悪いから、コマが何を言いたいのかさっぱりで……」
「……先ほど。やってみたい職業の話をした時。姉さま言いましたよね?『こういう道しか、私には選択肢ないから』と」
「へ?ええっと……ああうん。言った言った。そういう事言ったね私。……そ、それがどうかしたのかな?」
そう尋ねると、コマは愁いを帯びた瞳で私を見つめつつ。私の手を取ってこう続ける。
「姉さまは……私の為に、以前患っていた味覚障害を治すために。必死になって料理を覚えたり、料理の勉強したり研究をされてきましたよね。それこそ、寝る間も惜しんで……他の趣味や、やりたい事を惜しんで料理の事ばかりを……」
「う、うん……」
「だから姉さまは……選択肢がなかったのですか?もしかして、私のせいで……料理関係の道しか進めなくなったのではないですか?」
「……うん?」
……これ、コマが言いたいのはアレか?自分の味覚障害の為に私が料理の勉強し過ぎて、そのせいで他の道を選べなくなってしまっているって言いたいのか?
「も、もしそうお考えでしたら……どうか、どうか私などに気を遣うのはおやめください。姉さまの進みたい道を、姉さまの思うままに進んでください……っ!本当は、別にやりたい仕事があるのではないですか?私に気を遣って。その道を諦めているのではありませんか!?」
「……コマ」
「か、かなえさまたちが言っていた職業も、私も姉さまになら合うと思っています。モデルも、役者も、男装執事さんも……どれも姉さまに相応しいと思っています!ほ、他にも……姉さまが望むのであれば、好きな職業をお進みください!わ、私も全力でサポート致しますので!」
「…………コマ」
「で、ですから……ですからどうか、私に遠慮などなさらずに―――」
「きょーいくてき、しどーう!ていっ!」
「きゃんっ!?」
ぐるぐる目で若干暴走気味のコマに、愛の制裁という名のチョップをおでこに食らわせる私。まったくもぅ……私に似て、変なところで変に暴走しちゃうところあるよねコマ。
「見くびってもらったら困るぞコマよ」
「見くびる……?え、あの……何の話を……」
「私は、私の好きな道を好きに歩んでいるよ。コマの味覚障害があろうがなかろうが、私は多分この道を歩んでいたと思う」
選択肢がないって意味はアレだ。他に選択する必要がないくらい、私の将来の目標は定まっているって意味だ。
確かにきっかけはコマの味覚障害だったかもしれないけれど。それでも自分の進むべき道は、ちゃんと自分で決めてきたつもりだ。
「だからね、コマ。大丈夫。コマは……自分のせいで、私を縛り付けていないか心配してくれていたみたいだけど……大丈夫。ちゃんと、私は私の進みたいように進んでいるからね」
「ねえ、さま……」
そこまで告げて私は握られていた手を離して、そして震えるコマを優しく抱きしめ背中をポンポンと叩く。こうすると緊張していた様子のコマも震えはおさまり、私を抱きしめ返してくれた。
……うん、分かってくれたみたいだね。
「……ごめんなさい、早とちりしちゃったみたいですね」
「んーん。私こそごめん。変な言い方して誤解させちゃったみたいね」
「い、いいえっ!私が、変に意識しちゃったせいなんですっ!姉さまは悪くありませんっ!」
必死にそうアピールしてくれる私のコマ。……にへへ。ホント、可愛い子だよコマは。
さーてと、そんじゃ心配させてしまったお詫びと言っては何だけど。ちょっとコマを安心させるために、言うべきことをもう一つ言わせてもらうとしますかねー。
「ね、コマ。さっきは私、調理師とか管理栄養士になりたいって言ったけどさ」
「……?はい、そう仰っていましたね」
「あれね。あくまでも過程に過ぎないの。私の本命のやりたい仕事の過程として、調理師とかになりたいの」
「え……?で、では姉さま?一体姉さまは……どんな職業に就きたいのでしょうか?」
「聞きたい?」
「き、聞きたい……です。教えて貰っても……よろしいでしょうか?」
コマのその問いかけに、私はニヤリと笑いながらも耳元でこう囁いた。
「―――コマの隣に、永久就職」
「ぇ……」
「私の作ったお味噌汁、毎日コマに食べてほしいなって思ってる」
「……ッ!」
……この後。感極まったコマにオイシク食べられました。
読んでいただきありがとうございました。何を食べられたのかって?お味噌汁に決まってるじゃないですか。ケンゼンケンゼン。