ダメ姉は、卒業する(コマ編)
ダメ姉更新です。そんなこんなで中学編、これが最後(?)のお話です。
卒業生、在校生、職員、保護者にetc.……大勢が集まる体育館。そこでは集まった人々の不安や緊張、そして期待と興奮。様々な感情が渦巻く中、卒業式が執り行われていた。
《―――三年生の皆さん、本日はご卒業おめでとうございます》
送辞を締めくくり、在校生代表が私たち三年生に一礼をし檀上を降りてゆく。
《続きまして三年生の答辞を行います》
在校生代表が席に戻ったタイミングで、司会の先生がそんなアナウンスをする。さて、答辞と言えばご存じの通り卒業生の代表の挨拶である。誰でも簡単に出来るものではない。
答辞を読む生徒は学校によって選出方法は様々だと聞くけれど……例えば成績優秀者だったり、生徒会長だったり、部活動等で優秀な成績を納めた者であったり。とにかく優秀な生徒が選ばれるのが一般的らしい。
それを踏まえたうえで。私たちの学年で一番優秀な生徒と言えば、やはりこの人―――
《それでは……三年生代表、立花コマさん。宜しくお願いします》
「はい」
「きゃぁああああああ!コマぁああああああああ!!」
「「「ッ!?」」」
我が半身。双子の妹でかわゆいお嫁さんの……立花コマが選ばれるのは、もはや自明の理と言わざるを得ない事だろう。
先生に呼ばれ壇上へと昇るコマのカッコいい後ろ姿に、思わず歓声を送る私。
《はいそこ。姉の方は呼んでいませんので今すぐ静かにしなさい。さもなくば強制的に退場させます》
「……流石マコ。卒業式でもブレないね」
「ええい立花、最後までお前ホントうっさいわ!?」
「コマさんの素晴らしい答辞がテメェのダミ声で聞こえねーだろ静かにしてろやバカ野郎!」
「ああ、卒業式までダメ姉はダメ姉だったか……」
「よーし皆、卒業前の最後の仕事よ。全員でこのアホの子を黙らせましょう」
「「「おー!!!」」」
「む、ムグゥウウウウウッ!?」
そして即先生に注意され、即カナカナ率いるクラスメイト達に制圧される。数秒も経たないうちに猿ぐつわを噛まされ鎖でグルグル巻きにされ席に縛り付けられてしまった私。
いやあの……つい感極まってしまっただけなんです……謝るからせめてこの猿ぐつわだけでも外してくれませんかね皆々様……?あと、こんなもんどっから持ってきたんだい……?
《暖かな春の日差しが私たちを照らす、今日のこのよき日。私たち60名はこの学校を卒業します》
そんな珍プレーが繰り広げられる中。私のコマはちょっぴり苦笑いを浮かべつつもマイクの前に立ち、朗々と答辞を読み始める。
《三年前、この場所で執り行われた入学式。季節は巡り瞬く間に日々は過ぎ去って、今日この日を迎えることになりました》
動揺や緊張などみじんも感じられない自信に満ち溢れたそのコマの一言は、(私のせいで)ざわめいた体育館を一瞬で静かにさせた。
《この三年間は多くの出会いがありました。多くの出来事がありました》
コマの言葉に私は頷きながら、この三年間のあの日あの時をもう一度思い返してみる。
あのダメ親共の住む町から離れたかったから、コマと叔母さんと一緒に仲良く暮らしたかったからと懸命に勉強しこの学校に入学した事から始まって。入学して早々に、コマとは別々のクラスになってちょっと(ちょっとか?)悲しかったけれども。
「ちょっとマコ?なにをキョロキョロしてるの?折角のコマちゃんの答辞中なのに落ち着きないわねあんた」
「……また先生に注意されるよー。コマもマコにいいとこ見て貰いたいだろうし前見ろ前ー」
私は親友となるカナカナと出会い、コマを通してヒメっちと出会う事が出来た。ヒメっちの恋愛相談を受けたり、料理の師匠として指導したり。カナカナに怒られたり、励まされたり……告白されたり。
勿論カナカナたちだけじゃない。後輩のレンちゃんとの出会いもあった。周りのクラスメイトや先に卒業した先輩方。先生たちとの出会いと様々な交流があった。
《友人たちと触れ合い、勉学に励み、時に切磋琢磨し合う―――あの日の出会い、あの時の出来事は……全て私たちを成長させてくれたとても貴重な思い出です。様々な経験を経て、私は3年前に出来なかったことが出来ました。最高の宝物を得ることが出来ました。この学校に入って本当に良かったと……私は心から言えます》
力強い答辞を述べながら、私に対して熱っぽい視線を送るコマ。
そんな出会いや出来事の中で……私はコマと今まで以上に仲良くなって。今まで以上に大好きになって。そして紆余曲折あったけれど、こうして今双子の姉妹だけれど恋人という関係を築くことが出来た。何物にも代えられない、最高の宝物を得ることが出来た。
ダメだダメだとバカにされたり。コマと付き合う事になって学校中の連中から命狙われたりとちょっと色々あったけど……うん。そうだね。コマの言うとおりだ。私も……この学校に入って本当に良かったよ。
《―――この学校で学んだこと、得たものをすべて抱き。輝ける未来に向けて私たちは進んでいきます。本日は、このような素晴らしい式を開いていただき本当にありがとうございます。卒業生代表、立花コマ》
コマの最後の一言が終わると同時に、私は猿ぐつわを噛み千切り鎖を引き千切って。誰よりも早く大きな拍手をする。
そんな私の拍手につられるように体育館は割れんばかりの拍手で包まれた。
◇ ◇ ◇
「―――コマ、答辞お疲れ様!とっても素敵だったよ!お姉ちゃん感動した!」
「あ……♪ありがとうございます。マコ姉さまもお疲れ様です」
卒業式が終わった後。私はコマに呼び出され生助会の部室へと足を運んでいた。
「すみません姉さま。急にお呼び出ししちゃって……何かご予定などはありませんでしたか?大丈夫ですか?」
「んーん。特に何もないよ。先生とか後輩とか、あと友達とかには卒業式始まる前に話をしておいたからね。……けど、どうしてコマはこんなとこに私を呼んだの?」
私的にはコマに惚れているコマファンたちの最後の告白ラッシュから、愛するコマを遠ざけられるし都合が良かったわけだけど。なんでこんな場所にわざわざコマに呼ばれたのかがちょっとよくわかんない。
何か忘れものでもあったのかな?一応卒業式前にこの部室も綺麗に片づけたはずなんだけど……
「……半分は、姉さまにアタックしてくるであろう危険な方々から姉さまを遠ざけたかったから、ですね」
「アタック?危険?遠ざける?」
……それはつまりアレだろうか?コマに惚れてる連中が、恋人関係な私を亡き者にしようとするだろうからその危険から私を守ろうとしてくれているって事だろうか?
まあこれがこの学校でコマに告れるラストチャンスだし、躍起になった奴らも文字通り必死になってるだろうから確かに危険か。
「…………(ボソッ)かなえさま、レンさまは勿論のこと。今まで隠れていた姉さまファンたちが姉さまに何をしでかすかわかりませんからね……今日は特に、私の目の届くところに居て貰わないと……」
「……?コマ、なんか言った?」
「いーえ何も♡とりあえず姉さま。今日は決して私から離れてはいけませんよ。片時も離れず傍にいてくださいませ」
そんなの言われずとも。頼まれずともそうします。……つーかこちらからお願いしたいくらいですが何か?
「それよりも姉さま。もう先生方に挨拶を済ませていたのですね。一体いつの間に行ったのですか?」
「ん?ああ、それね。朝コマが答辞の打ち合わせしているうちに終わらせてきたよ。えーっとね、最初に先生たちにお世話になった挨拶をして」
「ふむふむ」
「次にレンちゃんに制服の第二ボタンをあげて」
「……ふむ、ふ……む?」
「んでもって最後にカナカナから制服の第二ボタンを貰ったんだ」
「…………ほほぅ」
「ッ……!?こ、コマ……?あ、あの……」
そう説明した途端、コマは惚れ惚れする素敵な笑顔を見せながらも……目だけは『コロス』と言いたげな……そんな雰囲気を醸し出す。
あ、これ何かデジャヴ……
「…………(ブツブツブツ)まあ、あの二人なら先手を打ってきますよね。どっちも手ごわくて泣けてきます……レンさまは……多分天然でしょうけど、かなえさまは私の行動を先読みしてきましたね………………どこかのタイミングで第二ボタンを持って行かれること自体は想定済みでしたから、予め姉さまのボタンは新しいものと入れ替えていましたのに。まさか第二ボタンを合法的に押し付けるなんて……ずるい……」
「こ、コマ?コマさーん?」
先ほどのカナカナ以上のちょっぴり黒いオーラを出すコマに震えてしまう。よくわからんがどうやらまた私は余計な事を口に出してしまったらしい。
「そ、それよりさコマ!?ここに私を呼んだ理由のもう半分って何かな!?」
「……え?」
「ほ、ホラ!なんか言ってたじゃない?半分は危険遠ざけたかったとかなんとかって。もう半分、何か理由があって私をここに呼んだんでしょう?」
「あ、ああ。はい、そうでしたね」
これはまずい、何か話題を変えないとちょっとまずい……後でコマから『罰ゲーム』をさせられかねない……慌ててそう問いかけると、コマは漏らしていたオーラをしまい込んでくれる。
「と言っても大した理由じゃないんですよ。ただその……ここが。この場所が。私と姉さまがこの学校で一番長い時間過ごした場所だなって思ったら……ちょっと感慨深くなって。……そう思ったら、卒業前に。最後にもう一度だけ、この場所に姉さまと一緒に来たくなったんです」
「あー、なるほど。ここは色んな意味で一番お世話になった場所だもんね」
コマに言われてこの部室を改めて見回す私。そうだったね。ここは私とコマが最もこの学校で二人一緒に居た場所だ。
部活をするにも、二人っきりで話をするにもここ。そして―――
「この学校で一番姉さまと口づけを交わした場所……」
コマがそうポツリと呟いたと同時に、私はここで過ごしたコマとの思い出を思い返していた。
……この学校に入った頃は、コマは味覚障害を患ったままだったね。お昼になると他の誰かに見られぬように、ここで味覚直しの口づけを二人でやったね。コマと口づけをする幸福感と、味覚障害という弱みを握って口づけをしているという罪悪感の狭間で毎日が天国であり地獄だったよ。
二年生になってから、色んな出来事・事件があって。それを二人で乗り越えて……恋人になって。悲願だったコマの味覚障害を完治させた後も、時々この場所でキスを交わしたよね。味覚障害という言い訳のない、正真正銘の恋人同士のキスは……リンゴよりも甘くて、とてもオイシイ幸せの味だったよ。何千、何万と交わしたキスは飽きることなどなかったよ。これから先も飽きることなどあり得ないけどね。
あー……ヤバいわ。なんか、思い返してたら……ムラムラしてきた。
「あの、さ。コマ」
「?どうしましたか姉さま」
「記念すべき卒業の日に、こんなこと言うのもアレかもしれないけど……我ながら、欲望に忠実過ぎて情けないとは思うけど、さ……」
「……?」
「その……あの。そ、卒業の記念に……さ。最後に、思い出作りとして……」
「はい」
「そ、その……ここで…………私と……キス、しない?」
「は、い……?」
全力で顔を真っ赤にしながらも双子の妹に対してそんな情けないおねだりをする私。だ、だって今日で中学生最後なんだし……最後はやっぱ、一番好きな人と一番記憶に残るコト、したいじゃない……
そんな我がままで欲深い私のおねだりに、一瞬呆けた表情のコマ。けれど数秒後……
「あ、あはっ……あははっ!」
「へっ……?」
「あははっ!あははははははっ!」
コマにしては珍しい、ビックリするくらいの大笑いをしだしたではないか。え、え?な、何?もしかして呆れられた?呆れられすぎて……逆に笑われちゃったの私……!?
あわあわと慌てる私を前に、コマはどうにか笑いを抑えようとする。
「も、もう……ホント、姉さまってば……」
「こ、コマ……えと、あの……ど、どうしたの?お姉ちゃん、あまりにもおかしなこと言っちゃったかな……?」
「……ふふ。ごめんなさい。バカにしたわけじゃないんです。ただその……」
そう言って言葉を切り、私に急接近するコマ。そして間髪入れずに、
「……ん、ちゅ……」
「ング!?」
不意打ちで、私の唇を奪っていった。
「…………ぷはっ。……ふふふ。ただ、ですね。私たちって、流石は双子だなぁって思っただけです」
「ぁ、え……?」
「先越されちゃいましたね。姉さまをここに呼んだのは、私も同じことがしたかったんです。中学最後の思い出作りを、姉さまとしたかったんです」
「そ、そそそ……それ、は……つまり……!?」
私の問いに、ニコッと最高の笑みを浮かべ。頬を染めて頷くコマ。
「私と、この場所で。最後の思い出作りを……させてください姉さま」
「こ、コマ……コマぁああああああああ!!!」
その一言に、私の理性は遠い宇宙へ飛び出して。本能のまま、お返しするようにコマの唇を奪い取った。
とある中学校の旧校舎三階の一室から、ぴちゃりぴちゃりと水音が響いている。外から中の様子が見えないようにカーテンを閉めきっているせいか、真昼間だと言うのに薄暗い部屋の中。そこでは二つの影が静かに交わっていた。
「ぁっ、んん……―――はぁっ、コマ……」
「ぅん……ふっ……―――ふぅっ。姉さま、どうでしょうか?」
「まだ……足りない。ねぇ……続けても……いい?」
「ええ、わかっていますよ。まだまだ時間はたっぷりあります。さあ、続けましょう」
「うん……ありがと」
交わっている二つの影は、体格的な違いこそあれどその顔立ちは瓜二つ。姉さま、なんて呼ばれ方をされているところを見てもらえれば、私と私の目の前にいるとても可愛い子が姉妹―――それも双子であることくらい誰にでもわかることだろう。
そしてこれほどまでにラブラブしているところを見てもらえば、私と私の目の前にいる宇宙一可愛い子が……恋人同士だってことくらい誰にでもわかることだろう。
「では、少々お待ちを。んくっ……ぅん、いいれすよ……」
「うん……いくねコマ……」
息継ぎのために一旦お互いに唇を離してみたけど、ダメだ……全然足りない。キスをしたりない。恥ずかしいけれど精いっぱい催促すると、コマはまるで私を安心させるようにニコッと笑って迎え入れてくれる。
どちらも顔を赤くしながらもトロンとした潤んだ瞳で近づく。両手で優しく添え合い、ゆっくりと唇と唇の距離を詰めていき―――
「「んっ……んんっ」」
先ほど以上に熱く、強く、貪るように唇を重ねて私と妹の距離をゼロにした。
「……んくっ……ねえひゃま、ふぉんで」
「ん―――むぅ……んふっ……はぁっ……」
口に含んだ自身の唾液を、私に口移し流し込む。私がそのコマの甘い蜜をこくんこくんと飲み込むと、満足そうにコマは舌と舌を触れさせて丹念になぞり、絡め、舐めとっていく。息の続く限り、互いの存在を刻み付けるように出来るだけ長くキスをする。
しばらくそれを続けて5分くらい経ってから、もう一度妹と私は唇を離したけれど……
「……姉さま、どうでしょうか?満足していただけましたか?」
「……」
「姉さま?」
「…………その、ごめん……できればもう少しだけ……いい、かな?」
「…………っ!」
やっぱりダメだ。飽きない、足りない、満たされているはずなのに、どんどん欲しくなっちゃう。
震える声で、コマの服をキュッと掴んでおねだりしてしまう私。ごめんね、コマ。なんか今日の私……ホントダメだ。感情が、欲望が抑えきれない。甘えん坊のダメダメ姉だ……
「ドンと来いです。何を遠慮する必要がありますか。私も……姉さまが欲しいです。さぁ、来てください姉さま」
「う、ん……お願いコマ―――」
「「……は、んっ」」
それから何度も、何度も。キスを繰り返す私とコマ。
…………中学時代に味覚を戻すためにやっていた、義務感と罪悪感に支配された天国で地獄な幸せな一時は。幸せな口づけの時間は。私は姉として自分の手で壊してやった。
じゃあ今やっているこの行為は何なのかって?決まってる。そんな建前なんて一切ない、姉と妹の恋人同士がやる―――混じりっけなしの純度100パーセントなさいっこうに幸せなキスだ。
読んでいただきありがとうございました。ダメ姉卒業しました。卒業しようがしましがマコとコマはこんな風に百合百合キスキスしまくると思います。つまり……いつも通りって事ですね!
以前から報告していた通り、これでダメ姉中学編は終了です。ダメ姉は一旦休憩して、通りすがりの娘や全力で停滞中のサキュバス勇者をのんびり書きつつ、ネタ思い浮かんだときに思い出したように更新すると思います。いつ書けるかわかんないので気長に、ホント気長に高校編とか大人編とか待っていただければ嬉しいです。
お付き合いいただき本当にありがとうございました。ではでは。