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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
三年生の妹も可愛い
139/269

ダメ姉は、後輩に慕われる(前編)

ネタに詰まったその時は、読者様のネタを使えば良いじゃない(三度目)。


そんなわけでまたもや感想欄で頂いていたネタを勝手にパク―――リスペクト。ダメ姉に後輩が出来ました。

 私とコマが所属しているパシリ部……もといボランティア部である生徒補助委員会―――通称『生助会』。当初コマの味覚障害を隠すという目的の元入部した私とコマだったけれど……コマの味覚障害が完治して私たちが三年生に進級した今でも。私とコマはこの部活に所属している。

 続ける必要性もない上に、地味に大変なこの部活にどうして今も所属しているのかって?それはほらアレですよ。この部活を二人が辞めちゃったら悲しむ人たちがいっぱいいるもの。私もコマも困っている人を見捨てられない心根の優しい双子たちだからね! 辞めるに辞められないのさ☆


 …………決して『学校で姉さまとイチャイチャするのに、鍵がかけられる上に防音対策バッチリなこの部室を手放すのは惜しいですよね』ってコマの提案に乗ったとか……そういうちょっとアレな理由では決して違うからね?…………ホントダヨ?


 ま、まあそれは置いておくとして。ともかく私とコマはたった二人の生助会の部員として、先生や生徒たちの悩みと闘う毎日を過ごしているのである。


「―――あ、あの……立花先輩。今ちょっと良いですか」

「んぁ?」


 そんなある日の事だった。コマはいつものように運動部の助っ人に出向き。私はというと溜まっていた書類の整理でもしようかなーと思っていた矢先。生助会の部室の扉を、見知らぬ女生徒がおずおず叩く。


「えーっと……ゴメン。どちら様かな?」

「あ、すみません。初めましてです先輩。あたし……一年A組の柊木レンって言います。サッカー部のマネージャーをさせて貰っています」


 丁寧に名乗り出る彼女。なるほど一年生か。今年入って来たばかりの子たち全員の顔と名前は流石に覚えていなかった。柊木レン、レンちゃんね。OK、今完璧に覚えたよ。


「私は立花マコだよ。よろしくね。それで、レンちゃん?生助会に何かご用でもあるのかな?……ああ、サッカー部のマネージャーって事は、もしかしてコマに用事でもある?ゴメンよ、うちのコマは今ちょっと席を外してるんだよ。何か言伝があるなら聞くけど……」


 運動部関連の相談事は、基本的に運動音痴な私ではなく運動神経抜群なコマが請け負っている。この子と私の間に接点など今までなかったし、恐らくコマに何か相談事があるのだろう。

 そう思ってそんな助言をした私だけれど、レンちゃんは慌てて『違うんです』と手を大きく振る。


「い、いえその……あたしは立花コマ先輩にではなくて、立花マコ先輩にお願いしたい事があって来たんです」

「へ……?私に?」


 完璧超人なコマではなくダメダメな私にお願いしたい事、だと……?かなり意外な彼女の発言に少し面食らいながらも、立ち話もなんだからと彼女を生助会に迎え入れる私。

 とりあえずソファに座って貰ってからその要件を聞いてみる事に。


「それで、お願いしたい事って何かなレンちゃん?」

「えっと……お願いの前に聞きたいのですけれど。立花先輩って……この学校で一番お料理が得意な人だと家庭科の先生や先輩方から聞きました。それって本当ですか?」

「料理?んー……まあ一応私が唯一誇れる特技かもね」

「お菓子作りはどうですか?」

「そっちも割かしイケる方だと思う。それがどうかしたのかな?」

「そうですか……良かった」


 私のその返答にホッと胸を撫で下ろしながら、レンちゃんは改めて私に頭を下げて、


「お願いします立花先輩。今週末までに……あたしに美味しいお菓子の作り方を教えてください!」


 こんなお願いを私にしてきた。今週末までに、美味しいお菓子の作り方を教えて欲しい……?


「ええっと……教えること自体はやぶさかではないけどさ、今週末までって随分急だね。何か理由でもあるのかな?」

「はい。……実はその、あたし今()()()()()が居るんです……!」

「……(ピクッ)」


 彼女の一言に警戒レベルを上げる私。好きな、先輩……ねぇ?


「……一応聞いておく。レンちゃん。その好きな先輩って言うのはまさか―――コマの事ではあるまいね?ね?」

「きゃっ!?た、立花先輩急にどうしたんです?近いです……そ、それになんだか目がとても怖いような……」

「いいから、答えて頂戴な」


 その返答次第では、残念だけどここでかわいい後輩を穏便に処理しなければならないからね。


「コマって……立花コマ先輩の事ですか?いえ、違います……あたしが好きなのはサッカー部の副部長さんですが……」

「ならば良し♡話しを続けて良いよレンちゃん」

「は、はぁ……えっと、それでですね。その副部長さんに、あたし……ついこの間告白して……付き合えることになったんです」

「へぇー。それは良かったね」


 ポッと頬を染めながら、嬉しそうにそう告げるレンちゃん。ほほぅ。一年生だってのに早速青春してますなぁ。


「んで?それと今週末までにお菓子作りを教わりたいって話とどう繋がるのかな?」

「はい……実はその先輩、来週の月曜日に誕生日を迎えるそうでして。折角彼女になれたわけですし、先輩に誕生日プレゼントを渡したいって思ったんです」

「ほうほう」

「何をプレゼントするか悩みましたが……この前部活が終わった時に、先輩が『あー、なんか甘いものでも食べたいなぁ』と口にしていまして。聞くところによると先輩は……大の甘党らしいんです」


 そこまで説明されて、鈍い私もようやく話の流れを察する事が出来た。


「つまりレンちゃんは誕生日プレゼントとして、その人に手作りのお菓子をプレゼントしたくなったって事ね?」

「は、はいっ!その通りです!……で、でもあたし……お菓子は勿論、お料理もあまり得意じゃないんです……」


 なるほどね。そこで白羽の矢が立ったのが、この私ってわけか。


「最初は家庭科の先生とか、料理部の部長さんに相談したのですが……『そういう話なら他に適任がいる』と言われて、皆さんから立花先輩を紹介されたんです。……いきなりこんな事を頼んでしまって申し訳ないと思っています。無茶を言っている事も重々承知しています。ですが……お願いします立花先輩!あたしに、どうか力を貸してください……!」


 そう言って一生懸命に私にお願いをするレンちゃん。……そのお願いに対する私の答えは―――決まっていた。


「顔を上げて頂戴な、レンちゃん」

「……立花、先輩……?」

「実は……私もね、レンちゃん。好きな人が居るの。ずっとずっと大好きで、長い時間をかけてようやく両想いになれた……最高に素敵な恋人がいるの」

「……」

「だからレンちゃんの今の気持ち……ちゃんとわかるよ。好きな人にもっと好きになって貰いたいとか。好きな人が喜ぶ顔が見たいとか……そういう素敵な気持ち、わかるよ」

「じゃ、じゃあ……!」


 私はレンちゃんの頭を片手でよしよしと撫でながら、もう一方の手で自分の胸をドンっと叩いてこう宣言する。


「承った。この立花マコ―――必ず君に美味しいお菓子の作り方を伝授してあげようじゃないか」



 ◇ ◇ ◇



 善は急げという諺もある。とりあえず時間もあまりないわけだし、早速私はレンちゃんを引き連れて、放課後解放されている学校の調理室へをやって来た。


「そんで?レンちゃんの恋人先輩って、どんなお菓子が好きなのか分かるかな?」

「えーっと……そうですね、確か―――」


 エプロンを拝借し、手を洗いながら参考までに聞いてみる。それが分かればどんなお菓子を作るかの指標が出来るもんね。

 レンちゃんは指を顎に軽く当て考える素振りを見せてから、私にその先輩の好きなお菓子を教えてくれる。


「確かシュークリームとかミルフィーユとかマカロン……だったと思います」

「ぶふっ!?」

「って、先輩!?ど、どうしたんですか立花先輩!?」

「……なんという、絶妙な……」


 その答えに思わず私は噴き出してしまう。お、オイオイ……嫌がらせかよそいつのチョイス……


「あ、あの……ごめんなさい。何か問題でもありましたか?」

「あー……うん。問題ってわけじゃないんだ。大丈夫……」

「でも、先輩の反応的に……かなり大丈夫じゃないように見えるんですけど……」

「……いや、そのね。ぶっちゃけその三つのお菓子ってさ……手作りするのが結構難しいお菓子なんだよね」

「そ、そうなんですか!?」


 どれもこれも定番の美味しいお菓子なんだけど、作るのはかなり難しい。シュークリームはクリーム入れるシューが中々膨らまないし生地管理するのが難しい。ミルフィーユはパイ生地作るのがかなり厄介。マカロンはマカロナージュ(生地とメレンゲの泡を潰して混ぜ合わせる作業)がマジ大変。

 私は長年いろんな場面で作って来て作り慣れているから問題はないけれど……これを初心者に教えていくとなると……難しいぞコレは……


「……先輩。あたしには、無理でしょうか……?」

「えっ?」


 さてどう教えていこうかと無い頭をフル回転させていた私の隣で心配そうな顔を見せるレンちゃん。……いかんいかん。教師役の私が、作る前から生徒を不安にさせてどうするんだ。


「……いや、大丈夫。レンちゃんが先輩さんを喜ばせたい―――その気持ちさえあれば絶対大丈夫、ちゃんと作れるよ」

「本当、ですか?」

「ホントもホント。立花マコ先輩は嘘なんか吐きませぬ。……ただ、悪いけど今週末までに作り方をマスターするとなると……どれか一つに絞って貰わないといけないと思う。それでも良いかな?」

「も、勿論です!じゃあ……シュークリームを作ってみたいです」

「オッケー、シュークリームね。じゃあ早速始めちゃおう。レンちゃん。失敗しても全然いいから、とりあえず私が作るところを見ながらレンちゃんも作ってみようか」

「はいです先輩!よろしくお願いします!」



 ~マコ&レン調理中~



 そんなこんなで始まった、立花マコのお料理教室。お料理もほぼ初心者だというレンちゃんの腕前は……まあ、本人が言っていた通りの腕前であった。というか……ある意味想像以上だった。


「まずは卵を常温に戻しておいてね」

「…………常温に、戻す?えっと……温めるって事ですか?レンジでチンすれば良いんですか?」

「うーん、それやったら多分爆発しちゃうからやめようねー」


 初っ端からレンちゃんが卵爆弾を作成しようとしたところからスタートし、


「次。生地をボウルに入れて、混ぜ合わせながら広げていくよ」

「えっ!?こ、これの中に生地を入れるん……ですか?」

「それはボールね。サッカーボール。つーか、そんなもん一体どっから出したのかなレンちゃんや?」

「あ、あたし……サッカー部マネージャーですから……」


 ボウルとボールを勘違いして何処からともなくサッカーボールを取り出したり。


「混ぜ合わせた生地と分けた卵を加えてね。生地が冷めないように、素早く切るように混ぜようか」

「は、はいっ!こうですかっ!?」

「よーしレンちゃん。そのハサミはしまっちゃおうか。あくまで切るように混ぜるんだよ。ホントにチョキチョキ切っちゃダメだよ」


 何を思ったのかハサミで必死になってチョキチョキ生地を切ったりと―――


「―――うぅ……ごめんなさい立花先輩。あたしったら……なんて恥ずかしいミスを……」


 そんな感じで、レンちゃんはとても教えがいのある生徒さんであった。うーむ、これは……私に弟子入りして間もない頃の弟子一号:ヒメっちを思い出すなぁ。ヒメっちも最初は酷かった。今日のレンちゃんは未遂だったけど、マジでヒメっち卵爆弾作りやがったからねぇ。

 いや、卵だけじゃなく……味噌汁も、コロッケも……爆発したもんなぁ……今でこそ笑い話に出来るけど当初の私はマジで頭抱えたよ……


「大丈夫大丈夫。初めてなら仕方ないよ。これからしっかり覚えていけば良いだけの話だからね」

「は、はい……ありがとうございます……」


 そんなヒメっちに比べれば、レンちゃんのお茶目な行動は可愛げがあって宜しいと思う。単なる知識不足って感じだし、間違っているところを指摘すると素直に聞いてくれるし……伸びしろは十分あるハズだ。


「よしよしっと。んじゃ、とりあえず後は焼けるのを待つだけだし……その間はしばらく休んでおいてね。お疲れ様レンちゃん」

「あ、ありがとうございます!先輩もお疲れ様です!」


 焼き上がりが気になるのかオーブンの前に椅子を置いて腰掛けたレンちゃん。私も一緒に椅子を持って来て隣に座ってみる事に。

 さて、これから彼女をどう指導していくべきだろう。腰掛けたまましばらく静かに考え込んでいると……


「…………立花先輩って……何だか皆さんから話を聞いていた感じと……大分印象が違いますね」

「……ん?」


 いつの間にかオーブンではなく私をジーっと見つめながら、唐突にレンちゃんがそうポツリと呟いた。印象が違う?何の話だろうか?


「立花先輩って……凄い人なんですね。……実はあたし、今日先輩に会うまで先輩の事を誤解していました」

「と、言うと?」

「真逆なんです。部活の先輩たちから聞いていた話と、真逆な印象でした。先輩たち一同の印象しか分からなかったから、正直今日立花先輩と会うの怖かったんです。噂通りの人だったらどうしようかなって。……でも違った。実際の立花先輩は―――とても優しくて、思いやりがあって、博識で、可愛くてカッコイイじゃないですか」

「え、あ……えと……」


 急に褒められてしまって、普段から褒められ慣れていない私はかなり動揺する。た、他人にバカにされることは多々あれど。褒められることってコマとかカナカナとか(あと時々ヒメっちとか)くらいしかないから……新鮮と言うか、むず痒いと言うか……


「だからあたし……立花先輩の事尊敬します!あたし、先輩と知り合えて良かったです!」

「そ、そう。それは……えっと、どうもありがとう?」

「いえいえ。こちらこそありがとうです先輩っ!」


 キラキラした目で尊敬してくれるレンちゃんに、たじろいでしまう私。な、なるほどね。こ、これが後輩に慕われるという事か……

 恥ずかしさは感じるけれど、悪い気はしない。さーてと。折角こんなに良い子に慕われて教えを請われているんだ。先輩として、ここは気合入れて頑張っちゃいますか!







「―――ん?あれ?ところでレンちゃん。一つ聞きたいんだけどさ」

「あ、はい。何でしょうか立花先輩」

「印象が違う。先輩たちから聞いてた話と違うって言ってたけど……レンちゃんは私の事何て聞かされてたのかな?」

「ぅ……!?」


 そんな素朴な疑問に対して。レンちゃんは気まずそうに目を逸らす。……む、むむむ?この反応は……もしや。


「いえ、その…………えっと」

「真逆の印象だったって言ってたよね?レンちゃんから見た実際の私は『とても優しくて、思いやりがあって、博識で、可愛くてカッコイイ』だから―――その真逆って言うと、つまり?」

「…………その。あたしは立花先輩の事を……『とてもやらしくて、自分勝手で、バカで、ぽっちゃりなダメダメ変態シスコン人間』と……聞いて、いたり……いなかったり……」

「ハッハッハ!よーしレンちゃん。一体どこのどいつがそんな失礼な事言っていたか教えてちょーだいな♡このノートにそいつらの名前を書いてくれないかな?後で念入りにシメとくから」


 おのれバカ共。いたいけで誠実なかわいい後輩に、なんて事吹き込みやがるんだ。

読んでいただきありがとうございます。そしてネタくれた柳さんもありがとうです。


必ず拾えるわけではありませんが、頂いたネタは貴重故にこうしてしれっと使うスタイル。だって書いてて面白かったんだもの……皆さんも何か面白そうなネタがあれば是非とも感想にお載せください。しれっと勝手に使うかも?です。


そんなわけで本編は終了しているにもかかわらず!130話以上連載しているにもかかわらず!ここにきて誕生した新キャラ:柊木レンちゃんです。あのダメ姉を慕う後輩キャラ。今は普通に頼れる良き先輩としてマコの事を見てくれていますが、後編からは―――おっとここから先は次のお話で。

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