ダメ姉は、休日を謳歌する(夜編)
夜編って響き、何だか怪しい雰囲気ありますが健全です。至って健全なお話ですのでご安心ください。
「今日は、ホントごめんねコマ」
「えっ?い、いきなり何の話ですか姉さま?謝られるような事、何かしましたっけ?」
ちょっとしたハプニング―――という名の、私の変態的行為のせいで時間が取られてしまい、掃除・洗濯・料理が終わる頃には陽が落ちてすっかり夜に。
「いや……今日は貴重な休日なんだし、コマも楽しくお出かけとかデートとか行きたかったでしょう?それなのに私の都合で家事の手伝いとかさせちゃって、改めて申し訳なかったなぁって思って。……明日!明日は必ずどっか良いところに連れて行ってあげるって約束するから!今日はごめんね!」
「……ああ、なんだそんな事ですか」
夕食後、リビングのソファにいつものように二人並びで座りくつろぐ私たち立花姉妹。食後のお茶を淹れホッと一息ついたところで、隣で私の腕を抱き子猫のように頬擦りしていたコマに謝罪をする私。
そんな私の謝罪に対して、コマはクスクスと笑うとこんな事を言ってきた。
「いーえ。確かに姉さまとデートしたりするのは楽しいですが、二人で協力して家事に取り組む今日みたいな一日だって楽しかったですよ」
「えー?楽しかった?本当に?ぶっちゃけつまらなかったんじゃない?」
普通の中学生の感覚だと『めんどくさいな』とか、『私の休日返してください』とか思うんじゃないだろうか?
「本当に楽しかったですよ。だって姉さまと家事を協力してやるって、何と言いましょうか……愛し合っている熟年夫婦―――いえ愛し合っている熟年婦婦みたいでしょう?そう考えると私、家事もすっごく楽しく思えちゃって」
「ッ……こ、コマぁ!」
「わ、わわ……!も、もう。姉さまったら感動しすぎですよ」
事もなげにそんな殺し文句を言ってくるマイエンジェル。思わず感涙しつつコマを強く抱きしめる私。なんなの?私をキュン死させたいのこの子?
「さて。それはそうと姉さま?流石に今から眠るのは早すぎますし、これからどうしましょうか?姉さまは何かやりたい事とかあります?」
そんな風にコマとじゃれ合っていると、唐突にコマから問いかけられる。む?やりたい事……やりたい事か。
「そだねぇ。コマ、テレビでも見る?」
「テレビですか?うーん……今はあまり面白そうな番組はやって無さそうですね」
「ありゃホントだ。そんじゃ一緒に読書でもする?」
「読書は……積んでいた本は全部読んでしまいましたよね」
「そういやそうだったね。むー……あとは……ゲームとかする?」
「ゲームは……よくわかりませんよね」
「わかんないよねぇ」
ソファで二人、ゴロゴロしながらやりたい事について考える。困ったなぁ、やりたい事とかあんまり思い浮かばない。はてさてどうしたものか。やりたい事って言われても、パッと思い浮かぶ事なんて―――
「「あとは……えっちな事とか―――えっ?」」
全く同じタイミングで、やりたい事―――と言うか、ヤリたい事を口に出してハモってしまう私たちシスコン変態シスターズ。互いに顔を見合わせて、思わず苦笑い。
お前らいつでもそういう事考えているのかよ!?ってツッコまないで欲しい。若い証拠なのよ、ゆるして。
「えっと……こ、コマ?その……する?」
時間的にも、雰囲気的にも今がちょうど良い感じ。家事ばかりな一日だったし、せめて恋人らしい甘い時間をコマと共に過ごしたいなと思っていたところだ。おずおずとコマに尋ねる私だったんだけど……
「……でも姉さま。今日は……えっちな事、禁止な日ですよ」
「えっ?……あ」
カレンダーを確認して、コマは私に(非常に残念そうな表情で)告げる。慌てて私も確認すると、カレンダーには【禁欲日】と赤字でしっかり書かれていた。あっちゃあ……今日がそうだったっけ……
【禁欲日】って一体何なのかって?……実は、コマと結ばれて以来、私たちはある事を取り決めている。一か月に数日、お互いに無理をしないようにと指定したその日はヤラシイ事一切禁止するというルールを。
この【禁欲日】を作っていなかった当初。考え無しに一週間休みなく毎日全力で愛し合ってしまい、(主に私が)数日マジで動けなくなってしまったという情けない笑い話がある。何事も、ほどほどが大事よねって話だ。
……ただ。ぶっちゃけこれはお互いの為というよりも、体力の無い私の為にコマが作ってくれたルールだ。普段から鍛えて体力のあるコマは……私と違いそれこそ何時間だろうと毎日だろうとえっちい事はオールオッケーなようで。本音を言うと、多分……今だって私とシたいのだろう。
「あー……えっと。コマ?我慢しないで良いんだよ?」
私的には……コマが本気で私を求めてくれるなら、拒んだり絶対しないし何ならいつでも抱いて貰って構わない。今日は一日家事しかしていないから、体力的には問題ない……ハズだし。
「いいえ、止めておきましょう。昨日も散々姉さまに無茶をさせちゃいましたからね。今日は大人しくしておきます」
「そ、そう?……なんか、重ね重ねごめんね……」
けれどもコマは静かに首を横に振り、私を気遣ってくれる。うぅ……今日の家事の件といい、この【禁欲日】といい。なんだか今日はコマに申し訳ない事ばっかりさせてるよね私……
「ただ、ですね姉さま」
「へ?」
と、しょんぼりしていた私に一声かけてから。小悪魔のような笑みを浮かべたコマは正面から私に顔を近づけ……そして、
「ん……ちゅ……」
「んん……ッ」
私に不意打ちのキスをしてきた。
「ふふ。キスは、えっちな事には含まれませんよね?」
「……もう。いたずらっ子ねコマ」
「あら。もしやお嫌でしたか姉さま?」
「……嫌なわけ、ないでしょー!」
「きゃー♡」
そう言って私も仕返しにソファにコマを(無論怪我をしないように優しく)押し倒し、頬に手を添えキスを交わす。コマは悲鳴になっていない可愛い悲鳴を上げて私のキスを受け入れてくれる。
最初は軽く、唇同士でちゅっちゅと戯れるように。触れては離し、離しては触れを何度も何度も繰り返す。気分が乗ってきたら今度は唇が触れ合う時間を長く取る。しばらくそうして触れ合っていると互いの唇の温度が混ざり合い、溶け合って。何だかとっても心地良い。
「温かいねぇ、気持ちいいねぇ……」
「はい、最高です……」
そのぬくもりにうっとりする私たち。やっぱり、コマとのキスは格別だと思う。こんな幸せがあって良いのだろうか?
「姉さま……あの」
「ん、なぁにコマ?」
「キス、続けても……いい?」
「……いいよ。おいで」
触れ合うだけのキスから先に進む私たち。唇を隙間なく密着させるや否や、コマの熱い吐息と舌が私の口内に入り込んでくる。じゅるじゅるぴちゃぴちゃといやらしい水音がリビングいっぱいに広がりはじめた。
「ちゅ……ん、んぁ……れろ……じゅる」
「んちゅ……むぐ……ふぁ……」
舌をねっとり絡め取られ、漏れる吐息は飲み込まれる。温かい唾液が侵入し私の口内いっぱいに纏わりついて私を犯す。自身も唾液が泉のように湧き出てきて、コマのそれとドロドロに混ざっていく。
その二人分の唾液は、二つの舌の絡まり合いをより一層滑らかに、そしてより一層深く激しいものにしていった。
「はっ……はぁ……ハァ……」
「ふ、ぅう……ふー……」
窒息する一歩前で唇を離す私たち。出来ることならこのままずっとキスしていたい。そう思う二人の想いに呼応するように、二人分の唾液で出来た透明な橋がとろりと互いの唇にかかる。
「コマ、コマ……コマ!」
「ぁ……ねえ、さま……」
勢いが乗った私たちは止まらない、止まれない。コマの名前を呼びながら、頬や唇や鼻、額や首元、肩や腕や太もも……とにかくコマの全身をその存在を確かめるように唇で触れる私。
ただし……服は決して脱がさないように。脱いじゃうと、多分お互いスイッチ入っちゃって【禁欲日】を設定した意味なくなっちゃうだろうから。服に阻まれた胸やお腹は、服越しに唇を押し当てるだけだ。
「はぁ……姉さま、マコ姉さま……!」
「ゃん……コマ……」
頭の先から足の爪先まで。一通りキスをし終わると今度はコマの番。同じように私を懸命に呼びながら、私以上に激しくキスをする。
コマの場合はキスだけじゃ飽き足らなかった様子で、肌が露出しているところに軽く歯を立ててみたり舌でレロっと舐めてみたり。そういう事をされる度、ゾクゾクっと産毛が逆立ち身もだえしてしまう。
そうやってコマも私に全身残さずキスをし終わると、示し合わせたように私とコマはもう一度唇同士を重ねてキスを交わす。
「はっ……はっ……はぁあ……ッ!はぁあああ……」
「……コマ」
長い長い時間をかけ、息の続く限りのキスをして。そうしてようやく息継ぎの為に唇を離すころには……私に覆いかぶさっていたコマは完全にスイッチが入っていた。
爛々と瞳が怪しく光る。頬は上気し息が荒い。欲情しきったその顔は……可愛さ以上に妖艶さを感じて……それはもう、とても美しかった。
「ね、コマ……しないの?」
「は、い……?」
「コマ、辛そうだよ。ホントは今すぐにでも、シたいんだよね?」
そう言って私はコマの胸に手を当てる。服越しでも伝わる胸の鼓動はとても速く、コマの昂りを証明している。
その事を指摘されたコマは、かぁっと頬を更に赤く染めながらもこう返す。
「あ……えっと。さ、さっきも言った通り……今日はそういう事しちゃダメな日ですし……昨日も散々姉さまに無理させてしまった手前、これ以上姉さまに負担を掛けたくないですし……」
しどろもどろになりながらも、私を心配してくれるコマ。そんなコマの優しさにクスリと笑ってしまう。……まったく、コマは本当に良い子だよね。
「そう。コマは優しいね。ありがとう私の事を気遣ってくれて」
「い、いえそんな事は」
「でもね―――」
「えっ……」
そう言って私はコマの手を取り、自分の胸にその手を押し当てて……
「―――でも。今はその優しさは、イジワルかも」
「え、えと……あ、あの……姉さま?」
「わかる?私の胸のドキドキ。伝わってくる?私も、コマと一緒の気持ちなんだよ」
「は、はい……わ、わかり……ます」
コマと同じくらい昂る鼓動をコマに伝える。そして私は、目を白黒させてあたふたするコマにニッコリ笑う。いいんだよ、コマ。我慢なんてしないでも。
「【禁欲日】を設定したのは、コマが私の体調を心配したからだよね。だったら―――私から誘うなら、問題ないよね」
「ね、ねねね……姉さま、なにを……」
服をはだけ、両手をいっぱいに広げ、媚びるような声を出して。私はコマにこう求める。
「―――私も、我慢できなくなっちゃった。ねぇコマ……お願い。私を……抱いて」
「……ッ!!!」
そんな私の一言に、コマは完全に発情期のケモノとなった。
さて、これは余談だけど。案の定次の日は筋肉痛と疲労で死にかけてしまった私。ベッドから動く事が出来なくなり、結局コマとデートする約束を破ってしまったのであった。
「ご、ごめんねコマ……こんなダメな姉で……」
「いーえ。最高でしたから、なにも問題ありませんよ。気を取り直して今日はお家デートしましょうね姉さま♡」
健全。キスしか描写してないから健全。やましくない。何も問題はない……ハズ。
こんな感じでマコとコマは休日を楽しく謳歌しているそうです。なにこのただのバカップル。