ダメ姉は、休日を謳歌する(朝編)
これはマコとコマの立花姉妹の、何でもないとある休日のお話。
「―――ふぁああ……はふ」
年頃の女の子らしくない、顎が外れそうになるくらいの大欠伸をしながらベッドの中で目を覚ましたのは……ご存知ダメ姉こと私、立花マコ。
ちゅんちゅんと外で鳴いている雀さんたちに『今日も起こしてくれてありがとう』と心の中で感謝しつつ、大きく背伸びをして覚醒する。……朝の陽射しが心地いい。いい天気で何よりだ。
「ふむふむ。現在時刻8時、か。……あちゃー、めちゃくちゃ寝過ごしちゃったね……」
ぱっちり目を覚ました私は、時計を見て苦笑い。普段は早寝早起きを心がけている私だけれど、休日とは言え今日は大分お寝坊してしまったようだ。……まあ、昨日誰かさんが散々寝かせてくれなかったから寝坊するのも致し方ないよね。
そんな事を考えながら、私は寝坊する原因となったすぐ傍にいる存在に―――傍と言うか、密着している存在に目をやる。その視線の先には……私の腰に抱きついて眠る一人の美少女。
「……うん、今日も私のコマは可愛い」
すうすうと愛らしい寝息を立てて眠っているのは、私の双子の妹で愛でるべき存在で更に言うならお嫁さんである立花コマだ。あどけない天使のようなコマの寝顔を見ていると、それだけで今日一日の活力がモリモリ湧いてくる。ああ、うちの嫁ったら最高だわ……
「さて、と。そろそろこのお姫さまを起こしてあげますかねー」
数分だけその寝顔を堪能させて貰ってから夢の中のコマを目覚めさせる準備を始める私。
本音と言うとこのまま寝かしてあげたい。折角の休日だしこんなに気持ちよさそうに夢の中にいる最愛の人を起こすのは非常に心苦しいところだけれど、このままの格好で寝かしておくのはちょっとイロイロと……その、マズい。ここは心を鬼にしよう。
「……コマ」
耳元で小さく名前を呼び、そしてちゅ……っと軽く唇同士が触れ合うようなキスをする私。
「ぅん……ん……」
キスした直後、スヤスヤと眠っていたうちの眠り姫は少しだけ艶めかしい吐息を漏らしつつ薄っすらと目を開けた。数回まばたきをし、そして私の事を綺麗な瞳でまっすぐに見つめ―――
「……おはようございます、マコ姉さま。早速で申し訳ございませんが―――いただきます」
「ん……っ」
最高の笑みを浮かべながら、今度はコマから熱くて甘くて深いキスを始めた。
「っあ……ん、んー……はぁ、ん……こ、みゃ……」
「んむ、っく……れる……ちゅ……ねぇ、ひゃま……」
唇を押し当てちゅっちゅと音を立てる。何度か繰り返してから今度は愛らしい舌を出して『中に入れてください姉さま』と言いたげに私の唇をチロチロとなぞるように舐めるコマ。拒めるはずもない、拒む理由も勿論ない。
迎え入れるように口を開けると、私の口内を荒れ狂うコマの舌が蹂躙する。私も負けじとコマの舌を自分の舌で押し返し、コマの口内に自分の存在を刻み付ける。
「「―――ぷはっ」」
「はぁ、はぁ……はぁ……キスで溺れるかと思った……」
「はぁ……はぁ……ふふ、姉さまと一緒に溺れるなんて、最高ですね」
しばらくそんな舌の応酬を二人で続けた後、どちらも息が苦しくなってきて息継ぎの為に名残惜しみつつ唇を離してみる。朝の挨拶は、キスと共に。これ、私とコマが恋人同士になってからずっとやってるちょっとした儀式みたいなものだ。これをやらないと一日が始まらない。
「……はぁあああ……しあわせ。ごちそうさまです姉さま♪あと、改めましておはようございます。今日もマコ姉さまは世界一お美しいですね」
「そういうコマも今日も世界一可愛い天使だよ。おはようコマ。……あ、いや。おはようって時間じゃないかもだけど……」
「というと……えっと、今何時ですかね?」
「8時ちょい過ぎだね。……もー、昨日あれだけ……その、コマに激しくされちゃったから完璧寝過ごしたよ私。てか、失神させられるまでヤられるとは思わなかったなーって……」
……昨日は(いいや昨日も?)コマにいっぱい愛して貰った私。とにかく始終コマにリードされっぱで、最後の方とかどういう事されたのかはっきり覚えてない。とにかくイき狂ってもう頭真っ白になっちゃって……トんでしまって気絶するようにそのまま寝ちゃった気がする。…………きもちよかった事だけは、ちゃんと覚えているけど。
その件についてちょっとした抗議の意も含め私がジト目でそう告げると、コマは何やら昨日の余韻に浸るようにほんのり頬を染める。
「あ、あはは……張り切り過ぎましたか?でも……だって姉さまがあんなに良い反応してくれるんですもの。あんな誘うような甘い声聞かされたら、こちらとしては全力で応えたくなると申しましょうか……『私のこの手で気持ち良くなって欲しい』って気持ちになっちゃってですね。ホント、姉さまって誘い受けの才能ありますよね」
「あの、コマさんや?それはじぇんじぇん褒められてる気がしないんだけど?」
「褒めていますよ。ふふ……昨晩の姉さまも素敵でした。無理させちゃってごめんなさいね♡」
そう言って、まるでいたずらっ子のようにウインクをして舌をちろっと出し笑うコマ。……上目遣いでそういうことするの禁止よコマ。お姉ちゃん、なんでも許したくなっちゃうじゃないの。
「さて。朝ごはんはどうしようかコマ。何かリクエストとかある?」
「んー、そうですね。私としては朝から姉さまのキスという最高の御馳走を頂きましたので、朝食は抜いても良いのですが」
「それはダメ。朝はしっかり食べなきゃ体に悪いよ」
そんな自堕落一歩手前な事を言う妹にぴしゃりと告げる私。三食キッチリ食べないと生活リズムも悪くなる。完治したとはいえ、ただでさえ長年味覚障害を患って大変な苦労をしてきたコマにそんな不健康な生活は送って欲しくないわけで。
「はぁい。でしたら姉さまの手料理が食べたいです。姉さまさえ良ければ宜しいでしょうか?」
「え?私の?えーっと……今から作るとなると少し時間かかっちゃうかもだよ?なんだったら外に食べに行っても良いけど……」
最近近くに軽食の美味しい良い喫茶店が出来たって噂だし、そこでちょっと遅めの朝食を食べても良いかも。そうコマに提案した私だけれど、コマは首を大きく横に振りきっぱりとこんな事を言う。
「いいえ。どれだけ時間がかかっても良いので、姉さまの美味しいご飯が食べたいです」
「どして?外のだって美味しいと思うけど……」
「だって私、姉さまのお料理でしか満足できない身体になっちゃいましたし」
「……ッ!」
朝から嬉しくなっちゃう事言ってくれるコマに感動する私。ありがとう、私はコマが傍に居ないとダメな身体になっちゃってるよ……!
「OK、任せろマイシスター。光の速さで美味しい朝食を作って来るからねコマ!」
「ゆっくりで大丈夫ですよ。それと私も手伝います。二人で美味しいご飯、作りましょ♡」
「おっ、それは助かるよ。んじゃ一緒にお料理を―――あっ、と…………その前にだ」
「?何でしょうか姉さま」
と、早速二人でキッチンへ行こうとベッドを抜け出そうとした矢先。二人が包まっていたタオルケットがはらりと重力に従い落ちる。そこでとあることに気が付いた私。
…………あっ、あー……いかんいかん。何でスヤスヤ気持ち様さそうに寝ているコマを無理に起こしたのか、その理由を危うく忘れかけるところだったわ。
まあなんだ、朝の挨拶もキスも無事すんだところで。私とコマの二人がこれからやるべき事と言えば―――
「とりあえず、コマ」
「はい、何でしょうか姉さま?」
「風邪引く前にさ…………服、着よっか」
昨晩のままの姿、つまりその……愛し合ったままの姿だと、風邪を引きかねない。おずおずとコマにその辺に脱ぎ散らかしていた服と下着を手渡して、服の着用をお願いした私であった。
「…………姉さま。折角こんな格好しているわけですし、いっそ裸エプロンで朝食を作っていただけませんでしょうか?」
「ダメ」
「えー……どうしてです?」
「衛生的にダメ。あと……コマがムラッとなっちゃうだろうからダメ。お姉ちゃん、朝ご飯作る時間が更に無くなるオチが見えるよ」
「……流石です姉さま、よく私の事がお分かりで」
「…………どうでもいいけどさ。コマって裸エプロン相当好きだよね……」
「いえ。姉さまの、裸エプロンが好きなだけです私♡」
朝から爛れた休日を送る二人。とりあえず服着ろ服。