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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
四月の妹は可愛い
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第11話 ダメ姉は、花見する(中編)

 優雅に咲いた桜の木の下、重箱広げて花見真っ盛りの私とコマの立花姉妹+めい子叔母さん。紙吹雪のように春風に舞う桜の花びらは落ちた先で色鮮やかにピンク色のふわふわな天然もののじゅうたんを作り、その中でお昼寝なんてしたらとても気持ち良さそうだなーと思ってしまう。

 そんな舞い散る花びらを鑑賞しながら、作ってきた料理を食べては他愛のない会話を楽しくする私たち。


「ホントに綺麗な桜だよね。良い時に来れて良かったよ」

「……ええ。素敵です」


 昨日の夜、突然に花見をしようと言われたときはちょっと面倒だなと思ってしまったけれど……やはり花見は良いものだ。

 寒すぎず暑すぎない穏やかな気候の中で美味しいものを飲み食べ、そして春の訪れを肌で感じ見事に咲いている桜と……その桜の可憐さに決して負けない清楚で美しいコマを愛でる。花見はまさに新しい学期の始まりの季節を締めくくる良い行事だ。日本人が花見を愛するのも納得できてしまうね。


 と、そんな感じでちょっぴり桜に感動している私たち双子の横で、この花見を企画した張本人の叔母さんがぐびぐびとお酒を飲みながらぽつりと呟いた。


「……()()()

「は?」

「え?」

「花見、飽きたわ」

「「……えぇー」」


 私たちが花見を始めてまだ10分といったところなのに、突如水差すような発言をする叔母さん。今の私のモノローグが台無しだよこん畜生。人が折角花見を楽しみ始めたところだというのに、一体何を言い出すんだこの人は。


「だってなぁ。ただ飲んで食べて駄弁るだけなんざ家にいる時と変わらんだろ。正直飽きるわ」

「い、いえ……ですが叔母さま。こうして外で花を見ながら季節を感じるのはとても風情があって素敵だと思いませんか?」

「コマの言う通りだよ。この季節にしか出来ない楽しい行事でしょう?」

「桜なんざテレビつけときゃどうせどっかの番組の映像で見れるだろ?それでも季節を感じられるじゃんか」

「「……」」


 何て身もふたもないことを……。思わずコマと顔を見合わせて苦笑い。全く……アンタそれでも文字で読者に感動届ける仕事をしている物書きか叔母さん。

 謝れ、折角良いこと言ってくれたコマと頑張って花を咲かせてくれている桜に謝れ。


「つーかそのセリフ、よりにもよって花見したいと言い出した人が言っていいことじゃないよね……」

「ですよね……叔母さま。確かにテレビでも見られるかもしれませんが、直に体験できるのは何物にも代えられないと思いますよ」

「そうそう。楽しいじゃないの、(コマと一緒の)花見は」

「そうかぁ?……じゃあ聞くけどよ。お前たちが考える花見の楽しい事とか面白い事って一体何なんだよ?」

「「え?」」


 本日何本目かわからない瓶を開けながら、私たちにいきなりそう問う叔母さん。ホントこの人突発的な事ばかりだなぁ……


「んじゃ、まずはマコ。お前が考える花見の楽しさって何だー?」

「私?そりゃあ勿論決まってるよ。コマと―――」

「ああ、先に言っとくけどなマコ。『コマとイチャイチャするのが楽しい』って言うのは無しだからな」

「……はい?私と?」

「…………チッ」


 先に言われた……それ以上に楽しい事なんてないのにネタ潰しとは酷いなこの人。


「え、えっと……それ以外……それ以外は……」

「ホーレ見ろ。お前だって思いつかないだろうが」

「いや、すぐ思いつくし!た、例えばさ…………かっ、カラオケ……とか……?」

「カラオケぇ?何と言うか……随分と安易な解答だなマコ」


 失礼な。良いじゃんカラオケ。さっき叔母さんと一緒に酒飲んでたおじさんたちもカラオケ楽しそうにしてたし……花見と言えばカラオケって人もいるだろうし……


「そんなことありませんよ。私は花見をしながらカラオケするのも素敵だと思いますよ叔母さま」

「だっ、だよね!良いよねカラオケ!」


 現にコマが賛同してくれる。ホント姉思いの良い子だよコマぁっ!


「……相変わらずコマはマコに甘いなオイ。まあいいか。じゃあマコ。発案者なんだし折角なら今から歌いな」

「ぐっ……また無茶ぶりを言ってくれるね…叔母さんわかって言ってるでしょ。アンタ私を辱める気なの?」


 カラオケを推した私が言うのもなんだけど、実は歌うこと自体はあまり好きじゃない。人が―――特にコマがカラオケやっているのを聞いたり合いの手を入れたりするのは大好きだけど、自分で歌うのはちょっとダメだ。

 何故かって?……だって私は絶望的に音感が無いのだから。


「いやいや。ある意味お前の歌ってる姿は好きだぜアタシ。……()()()()()笑いものに出来て面白いし」

「ホントに失礼だね!?」


 この人いつか思いっきりぶん殴ってやりたい、切実に。


「(ボソッ)…………音痴?姉さまが?……そう…でしょうか?私は…姉さまの歌声が……世界で一番、好きですけど……」

「んじゃマコが歌わないなら……コマ。お前さんが歌いな」

「えっ?」

「おぉ……?コマのカラオケ!?そ。それは私も超聞きたいっ!」

「……はい?私がですか……?ええっと…」


 と、今度は私に代わってコマに歌うように促す叔母さん。私と違いコマは歌も上手。合唱部のお手伝いに度々呼ばれるその歌声は、聞く者すべてを魅了する。

 そういえばここしばらくは忙しくてカラオケにも行っていなかったし、是非ともコマの歌声を聞かせてもらいたいところ。そう期待した目でコマを見る私と叔母さんだけど……


「あの……すみません姉さま、叔母さま。お二人だけに聞かせるならともかく、流石に人前で歌うのはちょっと……色々と恥ずかしいと申しますか……」

「あ、ああうん。確かにそうだよね、ゴメン」


 申し訳なさそうに謝るコマ。うーん残念。まあタダでその辺の通行人共にコマの天使の歌声をタダで聞かせるのも勿体ないし仕方ないか。近いうちに二人っきりでカラオケに行こうねコマ。


「コマも歌わないのかよ。そんなん気にせず歌えばいいのにな」

「てか、人に歌わせたがってるけどさ。そういう叔母さんは歌わないの?」

「あ、私も叔母さまの歌聞いてみたいです」

「疲れるしヤダ」

「「……」」


 ホントこの人は……


「じゃあ結局誰も歌わないのかよ。やれやれ、やっぱ花見つまらねーじゃんか」

「私つまんないのは叔母さんの思考だと思うの。……じゃあ逆に聞くけど、叔母さん的には花見に何があれば満足できるのさ」

「酒」

「「……」」


 もう飲んでるじゃん……何言ってんのこの人?もしかしなくてもさっきから相当酔ってるんじゃないだろうか。言うこと為すこと支離滅裂だし。……いや、でもよく考えたらこの人いつもこんな感じか。


「マコの意見は参考にならんなぁ。つーわけでコマ。お前さんが考える花見の楽しさって何だー?」

「あ、私もちょっと気になる。コマ、お姉ちゃんに模範解答教えて」

「私の考える花見の楽しさですか?」


 叔母さんは勿論、悔しいが確かに私の意見も大して参考にはならない。ならばここは聡明な私のコマ先生に、花見の楽しさについての模範解答を教えてもらうことにしようじゃないか。


「ええっと……そうですね。姉さまの仰ったカラオケも、それから叔母さまの仰ったお酒―――つまりは宴会も、勿論どちらも花見の楽しみ方だと思います。あと付け加えるとしたら野点(のだて)とかやるのも楽しいのではないでしょうか?」

「おぉ。野点かぁ、それはとても雅で良いね」


 野点―――そう、それは屋外でお茶を淹れ、和菓子など食べて楽しむお茶会。茶道は正直作法とか面倒で難しいけど、野点はそんなに気にしなくても良い楽しいイベントだしお茶を飲みながら花を愛でることも出来てお花見にも丁度良い。

 なるほど流石はコマ、良い着眼点でお姉ちゃん感激だよ。


「えぇー……茶なんかよりアタシは酒の方が、」

「黙っててそこのアル中女」

「あ、あはは…」


 この人はどうしていちいち私の感動をぶち壊してくれるんだこのヤロウ。時間が来るまで泳がせておくつもりだったけど、やっぱお酒を没収してやろうかな。


「まあお酒を飲む人からすれば野点より宴会の方が楽しいかもしれませんね。後は……そうですね、私の思う一番の花見の楽しいことと言えば、やはり―――」

『コマー、メールだよ。コマ―、メールだよ』

「「「ん……?」」」


 と、コマが何か言いかけたところで、コマの携帯から私の声―――正確には私の声が録音されたメールの着信音が聞こえてくる。


「すみません、メールみたいですね。姉さま、叔母さま。ちょっと確認させてください」


 そう言ってからいそいそとその届いたメールを確認するコマ。……ふむ、このタイミングでメールか。なら多分あの人……かな?時間的にちょうど着く頃だろうし。


「…………相変わらず、お前もコマもお互いの声を着信音にしてんのかよ。家族のアタシでも流石にちょっと引くぞ……」

「えっ?何で?」

「何でってお前なぁ……」


 以前携帯を買ってもらった時、コマに『コマの声を着信音にしたいから録音させて』と頼んだ私。その際、録音させてもらう代わりに私の声も録音してコマに渡しておいた。その時から私たちの電話・メールの着信音はお互いの声だ。

 コマも喜んでずーっと使ってくれているのに、叔母さんは変な事を言うなぁ。


「……すみませんお二人とも。私、少し席外しますね」


 メールを確認すると一瞬私に目配せして席を立つコマ。……どうやら私の予想は当たっていたようだ。そうか、もう来てくださったんだ。


「うん了解。行ってらっしゃいコマ。気をつけてねー」

「はいです姉さま。すぐに戻りますからね」


 そう手を振って笑顔で駆けていくコマ。そんなコマを不思議そうに眺めながら、またトクトクとコップにお酒を注ぎつつ叔母さんが一言。


「何だーコマ?どこに行くんだー?もしかして便所か―――(バシィ!)痛ぇっ!?」


 そんなデリカシーの欠片もない発言をする叔母さんに、即手加減なしで平手打ちする私。


「い、いきなり何しやがんだマコ!?痛ぇだろうが!?」

「やかましい!外でそんなコマを辱めるようなこと大声で言わないでよ!?バカ?バカなの叔母さん?デリカシーって言葉知らないの?」

「あぁん!?常日頃からコマを辱めるようなこと口に出してるお前さんにんなこと言われたくはねぇなぁ!」

「ハァ!?失敬な!私が一体いつどこでコマの事を辱めたと!?」

「毎日毎日家でも外でも気持ちの悪いシスコン発言してんだろうがテメェ!」


 それは愛情表現だし、一応私だって時と場所は選んでいるつもりだもん。


「大体叔母さんは最高に素敵でかわいいコマの叔母さんなんだし、もうちょっとコマを見習って素敵な叔母さんになるべきだと私は思うよ!いっつもだらしないじゃない!家ではグダグダゴロゴロダメ人間、日夜問わずお酒飲みまくってさぁ!恥ずかしい人間だと自分で思わないの!?」

「自分の事を棚に上げておいてそれ言うのか駄姉!?お前さんももう少しダメなところ直せや!自分の恥ずかしさを見直せやゴラァ!」


 お互いそう罵り合いながらスッと立ち上がる。えぇい……我慢ならん。今日という今日こそ引導を渡してやる……っ!


「……おう。やんのか、マコ」

「……返り討ちにしてやるよ、叔母さん」


 構えを取りながらけん制し合う私たち。丁度いい機会だ、昨日叔母さんはあろうことかコマの唇を勝手に奪いやがったという恨みがある。普段のちょっとした恨みつらみも込めて、それらすべてを叔母さんにぶつけ今ここで利き腕以外全部ダメにしてやろうじゃないか……っ!

 そう考えながらジリジリと間合いを詰める私。叔母さんも私と同じように間合いを詰める。そして絶好の間合いに入った瞬間、互いに今必殺の一撃を―――


『おうおう、何だ喧嘩かねーちゃんたちー?』

『はっはっは!おーやれやれー姉ちゃん』

『どっちも負けるなー!』

「「…………は?」」


 ―――喰らわせようとしたけれど、気が付けばいつの間にか私と叔母さんの周りには……さっき叔母さんと騒いでいた酔っぱらったおじさんたちが囲み、私たちの乱闘騒ぎを肴にして飲んでいた。い、いつの間に……


「「……」」

「……コホン。やめようか叔母さん、色々恥ずかしいわ私……」

「……そうだな、不毛だもんな。つーかオヤジ共!何見てんだ、解散しろやオラァ!」


 叔母さんが酔っ払いのおじさんたちを蹴散らしてから、二人で大人しくシートに座ることに。

 コマが見てなくて良かった……小学生じゃあるまいに、私も叔母さんも外であんな低レベルな喧嘩しちゃうなんてちょっと恥ずかしいね……反省反省。


「……ん」

「おぉ?何だ、偶には気が利くじゃねえかマコ」

「偶には、は余計だよ。ホラ、いいからさっさとコップを出して」


 恥ずかしさを紛らわすついでに、仲直りの意味も込めて叔母さんにお酒を注いでやることに。叔母さんも素直にお酌させてくれる。


「……うん、旨いな」

「やれやれ……いつも思うけどホントよく飲むよね叔母さん。そんなに美味しいの?お酒って」

「おう、旨いぞ。……これでマコもコマも一緒に呑めるんだったら今以上に旨いんだろうけどなぁ」

「は?」


 と、叔母さんは不思議な事を言う。それはどういう意味だろうか。


「叔母さん、何で私とコマが飲めると美味しくなるのさ?」

「ん?ああ、そりゃ旨くなるだろうさ。……そうそう。さっきさ、お前さんに『叔母さん的には花見に何があれば満足できるのさ』って聞かれて『酒』ってアタシ答えたろ」

「え?……ああうん。そういや言ってたね」

「あれ、正確に言うと『一緒に酒飲める相手が居れば満足できる』って意味なんだよ。一人酒より誰かと一緒に呑む方が楽しいし旨いからねぇ」

「ふーん、そういうものなんだ」

「そういうもんさ。だからさっさとお前ら大人になりな」


 流石にお酒飲める歳じゃないし飲んだこと無いからわからないけど、お酒好きな叔母さんが言うんだからそういうものなんだろう。

 それともめったに人に会いたがらないけど……いやだからこそ案外人恋しいのかもしれない。にしてもお酒かぁ……


「コマがどう思っているかわかんないけど、そんなに飲みたいとは思わないんだよね私。叔母さん見てると二日酔いとか辛そうだし」

「バカ言え、それも含めて旨いんだよ。大人になりゃわかるって。……あーあ、早くお前らも酒呑める歳にならんかね」

「大人になってもわかりたくないなぁ……」


 毎度毎度、飲んだ翌日の朝ホントに二日酔いで死にかけている叔母さんを見ながらしじみのお味噌汁とかを作らされる私としてはあんまり理解したくないなぁ。


「あっ!でもさでもさ、私大人になったら絶対に飲んでみたいお酒あるんだ」

「おっ!良いね良いね。何だ?何の酒だ?お前が呑める歳になったら飲ませてやるよ。その酒の名前を言ってみなマコ」


 そう言うと楽しそうに食いつく叔母さん。おおそれはありがたい。ええっと、確かあれの名前は―――


「確か……そうそう()()()()ってやつ」

「ああそうかアレか。口噛み酒か…………う、ん?口噛み酒……?」

「そう口噛み酒。知らない?」


 口噛み酒


 それは今は昔、米や穀物などを噛みくだき発酵させて作ったとされるお酒の事。何でもそれは神様にささげるために若くて綺麗な巫女さんに噛んでもらい作っていたとか何とかで、『美人酒』なんて別名もあるらしい。


「美人で神々しい私のコマに噛んでもらって作った口噛み酒は、きっと極上の味がするハズ……っ!大人になったら是非とも飲んでみたいお酒なんだよ―――って、あれ?叔母さん、どうして叔母さんは急に私から距離を取るのさ?」

「ははっ、気色悪いからアタシから半径3メートル以内に近づかないでくれマコ。気色悪いから」

「何で気色悪いを二度も言ったの……!?」


 叔母さんにドン引きされる私。むぅ……絶対美味しいと思うんだけどなぁ……

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