ダメ姉は、その後を語る(クラスメイト編)
息抜きのつもりで書いたどうでもいい短編その①
~SIDE:マコ~
コマと念願の恋人同士になって、幸せ順風満帆な生活を送っていたダメ姉こと立花マコは……幸せすぎて幸せボケをしていた。油断していた。
……命にかかわる危険なことが、常に自分の目の前に存在することを……私はうっかりすっかり綺麗さっぱり忘れていた。
「―――皆さま聞いてください。実は私……マコ姉さまと正式にお付き合いする事になったんですっ♡」
……それはコマの唐突な一言。突然私のクラスへ乗り込んで、教壇に立ったコマの……超弩級の爆弾発言が発端だった。
「ちょっ……こ、コマ!?い、いいいいきなり何を……!?」
「ふふっ♪いえ、折角私と姉さまが恋人同士になったというのに私も―――姉さまも。未だに告白をされたりアプローチを掛けられたりするじゃないですか。このままでは告白される私たちも、告白してくださる皆さまも。お互いの為にならないですし、良い機会なのでちょっとこの辺で皆さんにわかっていただこうかなと思いまして」
「あ、ああ……そ、そういうことか……」
慌ててコマのお口を塞ぎつつ何故このような行動に出たのか問う私に、天使の笑みを浮かべて懇切丁寧に説明してくれるコマ。な、なるほどね……
私は別に誰かからそういう事をされているわけじゃないけれど、学園中の人気者であるマイぷりちーシスターコマの場合はこの私とお付き合いする事になった後も毎日のように男女問わず誰かしらからラブレターを送られたり告られたり求婚されたりと忙しい。
その忙しさに疲れてこんな突拍子もない行動に出るのも無理は無いだろう。
「……あの、マコ姉さま?何だか困ったお顔をされていますが……もしかして私たちがお付き合いしている事って皆さんに言っちゃダメでしたか?」
「えっ?」
「だったらごめんなさい……軽率でした。姉さまと想いを遂げられて……嬉しくてつい調子に乗っちゃって……」
「……あ、いや違う大丈夫っ!コマに問題があるわけじゃないから安心して欲しい!コマと恋人関係になった事は隠すような事じゃないし、寧ろ誇るべきことだもんネッ!」
不安そうな表情に変わったコマに慌てて問題ないと私は笑顔で告げる。……そうだ。コマに問題などあるハズ無い。問題があるとすれば……
『『『…………タァチィバァナァアアアアアアアアッッッ!!!??』』』
…………一瞬で私の周りを取り囲み、どこから取り出したのか中学生が持つにふさわしくない物騒な凶器を片手に私に呪詛を吐く嫉妬に狂ったコイツらの方だろうし。
『は、ハハハ…………お付き合い?コマさんと……ダメ姉がか?ハッハッハ!……笑えねぇよオイ。どういうことだアァン!?』
『気のせいかしら?コマちゃんと恋人同士になったとか……あり得ない発言が聞こえた気がするんだけど?』
『奇遇だな俺もそう聞こえたぞ。妹ちゃんと想いを遂げられた、とかも聞こえた。さぁてと……立花マコ君?ちょーっと俺らと向こうでお話しようじゃないか。な?』
目を血走らせ刃物や鈍器などをちらつかせながら彼ら彼女らはいつかのあの日―――私がコマとカナカナと三角関係になったと噂されたあの日―――と同じくらい……いやあの日以上の交じりっ気無しの本気の殺意を私に向ける。
『何か弁明する事があるか駄姉?』
『遺言があれば聞くぞ』
『命乞い以外の発言も許そうじゃないか』
……さてさてこれはどうしたものやら。ここで適当に『私なんかが完璧超人のコマとお付き合い出来るわけないでしょ?コマのお茶目な冗談だよ冗談』なんて言い繕っても多分無駄だろう。興奮しているこいつらは話を聞かない恐れがある。
つーかそもそもコマの手前、そんな『恋人じゃない』なんてコマを傷つけかねないような事は死んでも言いたくないわ。
これだけ隙間なく周りを囲まれては、逃げ足が自慢の私であっても流石に逃走は厳しそうだ。……だったら仕方ない。
「あ、ああそうだよ!私、コマと恋人として付き合う事になったんだよ!コマとは毎日ちゅっちゅしてイチャイチャラブラブあまーい蜜月を送っていますがそれが何!?どーだ!悔しいだろ!羨ましいだろ!」
遅かれ早かれコマとの関係はバレてしまっていただろう。だったら腹くくって開き直り、今ここで堂々と宣言しようじゃないか。コマは私ので、私はコマのモノだってことをね……!
『『『ブチコロスぞ立花ァアアアアアアアア!!!』』』
「おお上等だ、文句があるならかかってこいやオラァアアアアアアアア!」
私の宣言を皮切りに、クラス中の暴徒たちが一斉に私に飛び掛かる。迎撃態勢を取りながら思う。これはきっと愛の試練……これから先コマとの最高の関係を築き上げていく為に、乗り越えてゆかねばならない愛の試練。
だったら……こんなところで死んでたまるかぁ!




