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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
十一月の妹も可愛い(下)
116/269

第113話 ダメ姉は、結ばれる

ここまで来るのにまさか100話以上使おうとは……お待たせして申し訳ございません。ダメ姉更新です。そしてまたしてもタイトルがネタバレ……だってこのタイトルしか思い浮かばなかったし……

「「…………」」


 ……気まずい。ヤバい、どうしよう。ただ私はコマに自分の気持ちをわかって貰おうとしただけなのに。


「(折角ここまでなんとか隠し通してきたのに……勢い余ってコマへの偏愛行為を自分から暴露しちゃうなんて……)」


 何がどうしてこうなった。つい熱くなってしまい、余計な……それこそ姉妹仲が崩壊してしまい兼ねないような頭のおかしい事(例:盗撮盗聴の常習犯・現在進行形でコマの唾液を使い口噛み酒を密造中・掃除中にコマの毛集めてお守りとして肌身離さず持っている・洗濯前の衣服を嗅いだり舐めたり口に含んだりしているetc.)までカミングアウトしてしまったじゃないか。

 た、確かに本音で語り合おう。腹を割って話し合おうとコマには言ったけど……ここまでアレな話をしようとは言ってないし思ってなかったわけで。


「あー……えっと。その……」


 コマの顔をまともに見られない。気まずさでなんと声を掛ければ良いのかわからない。……なんで私はあんな事を正直に話しちゃったんだろうか……?バカかよ私。いや、まごう事無きバカだったね私は……嗚呼、自己嫌悪……


「…………うぅ」


 どうやらコマも同じ気持ちのようで、さっきから私の顔を直視しようとせず赤くなったり青くなったりと忙しい。

 うーむ。ここまで動揺しているコマはとても貴重であり、意外な一面を見せてくれるコマは新鮮で愛おしいね。許されるなら今すぐ写真に収めて今日の夜のオカズにしたい―――って、だからこんな時まで一体何を考えてんだ私はバカか……うん、確認するまでも無くバカな上にダメな姉だよね……


「…………聞いた通りです、姉さま」

「う、うぇい!?な、ななな……何がかなコマっ!?」


 そうやって半ばパニックに陥りしばし沈黙の中にいた私とコマだったけど。先に冷静になったのは意外にも……いやここはやはりと言うべきか、コマの方だった。軽く咳払いをしてから私の方へ向き直り(なお、お顔はまだ林檎のように真っ赤でかわゆい)話を再開する。


「私はですね、姉さま。今姉さまが聞いた通りの女なんです」

「と、言うと?」

「ですから……本当の私は実の姉に恋愛感情を持っていて。それどころか実の姉に対して性的興奮を覚えていて。姉を盗られたくない一心で、常日頃から盗撮盗聴などのストーカー行為を繰り返す……そんな女なんです」

「あ、うん。そうなんだね。いやぁ、コマもそうだったなんてお姉ちゃんも流石にちょっとビックリだったよー」

「…………びっくりって……それだけですか?」

「ん?」


 それだけって……何が?


「もっと……驚く以上に思う事があるでしょう?お願いです。今の私の話を聞いてどう感じたのか、それを正直に言ってください姉さま」

「正直に?」


 真剣な顔でコマが私にそう頼み込む。ふむ……コマのカミングアウトを聞いて思った事を正直に言え……ねぇ。

 恥ずかしいしコマに嫌な思いをさせかねないから言わないでおこうと思ってたけど……他でもないコマの頼みだし、ならば正直に言わせて貰いましょうかね。


「わ、わかった。じゃあ正直に言わせて貰うね」

「……はい。お願いします」

「今のコマの話を聞いて私が思った事は―――」

「…………はい」

「―――()()()だと思った……かな」

「…………はい?」


 私の答えが何やら予想外だった様子で、文字通り目を点にして呆気にとられた表情を見せるコマ。


「こ、好都合?今の話を聞いて思った事が……好都合?……あの。姉さまはちゃんと私の話を聞いていたんですよね?」

「うん、一言一句逃さず聞いてましたがそれが何か?」

「……で、では何故?何故姉さまはそんなおかしな感想を……?普通引いてしまったり……私の事が嫌いになったり、怒ったり、気持ち悪いと思ったり……軽蔑したりとかしますでしょう?なのに今の話を聞いて『好都合』って…………すみません、意味が分かりません……」

「何故って言われても……」


 いやだってそうだろう。私のカミングアウトにも全く動じず、それどころかコマも私と同類(=双子の片割れに恋をするインモラルで変態な同性愛者)で、しかも私と同様にとても長い間私を想い続けてくれていたなんて……私にとっては好都合な話にも程がある。

 つーかあまりにも都合が良過ぎるから、これは夢かコマにからかわれているかドッキリなのではとちょっとさっきから内心ビクビクしているくらいよ私……


「引く?嫌いになる?怒る?気持ち悪いって思う?軽蔑する?……私が?そんなわけないじゃん。コマって昔からストーカーまがいの事をしちゃうくらい私の事を想ってくれてたんでしょ?つまり両想いって事でしょう?お姉ちゃん的には寧ろ嬉しいなって思っちゃう」

「……」

「つーかそもそも私だってコマの事が大好きで、さっきポロっとゲロった通りコマ以上に普段から犯罪スレスレの変態的行為をやってたし……その、お互いさまというか……私、罪の意識が薄れて良かったなーとホッとしているというか……あ、あはははは!」


 ここまで余計な事ペラペラと自分から暴露しちゃったわけだし、恐れるものも失うものも何もない。開き直ってここは笑って素直に答える事に。

 そんな私の素直な気持ちを聞いたコマは、安心を―――


「……嘘です」

「ふぇ?」

「……ごめんなさい。姉さまの事を疑うなんて私もイヤですが……嘘です。信じません」


 ―――するどころか更に表情険しくなり。そんな事を呟いたでは無いか。あれー?


「嘘って……信じないって……え、えーっとコマさんや?何を?どれを?私のどの辺を信じないのかな?」

「なにもかもです。…………特に、姉さまが私の事を一人の女性として好きだって事が……信じません。信じられません……ッ!」

「そこが一番重要で、そして一番信じて貰いたいところなんですけどぉ!?」


 『私はコマを愛している』という事は今回のお話の大前提で、そこを信じて貰えないと色々と先には進めないんだけどな!?


「待ってコマ!?こ、コマこそちゃんと私の話を聞いてたの!?」

「……はい。私も一言一句逃さずに姉さまのお話を聞かせて貰いました」

「だったらナンデ!?わ、わかるでしょ私の気持ち!?さっき私あれ程語ったじゃん!?コマの事をどんだけ好きで、ドン引きするくらい好きだって告ったじゃん!?」

「……信じません」

「信じてお願いッ!?も、もうさ!数値化なんて出来ないよ!?私のコマLOVE度は無限大だよ!?他の事ならともかくさ、私のコマへの愛は疑いようなんてないと思うんだけどな!?」

「……信じられません」

「なんでぇ!?」


 必死にコマ好き好きアピールする私だけれど、コマは頑なにそれを認めてくれない模様。流石に泣きたくなってきた。ぐぬぬ……どうしよう。どうやったらコマへの愛を信じて貰えるんだ……?


「(い、いっそ愛の証明に、私の部屋に戻ってこれまでコレクションしてきた盗撮写真とか盗聴記録とか……コマへの愛を綴ったポエム帳を取って来てコマに見せてみるか……?)」


 でもそれだと今度はガチでコマに引かれるかもしれないし……仮に引かれなかったとしてもコマも『それくらい普通です。私なんかこんな事やあんな事までしてましたよ』とさっきのカミングアウト合戦よろしく、私になにかと対抗しようとしてきそうだし……そうなった場合また話がややこしくなりそうだし……

 考えろ……な、何か無いか……?私のコマへの好意の証明方法は何か……


「…………わからないんです」

「ふぉ?」


 そうして今まで以上にスカスカの頭を一生懸命に回してどう証明すべきか考えていた私の隣で、コマがポツリと何か呟く。わ、わからないって何が……?


「私には、ですね……姉さまを好きになる理由がいくらでもあります。多分小1時間では語り切れないほどに」

「そ、そんなにあるの……?」

「はい。例えば今日のようにですね、姉さまは我が身を顧みず何度も私の命を救ってくれましたよね。どんな場所にいてもどれだけ離れていても必ず私を見つけ出してくれて、まるでヒーローのように私の危機に颯爽と現れて……そんな姉さまの凛々しさにカッコよさに、私は惚れこみました」


 ゴメンよコマ。ヒーローのようにコマのピンチに颯爽と現れる事が出来たのは、ひとえにコマに無許可で仕掛けていた盗聴器のお陰なの……種明かしすれば全然カッコよくないの……


「それだけじゃありません。6年間……いいえ、生まれてからずっと姉さまは私の為に献身的に尽くしてくださいましたよね。私の味覚障害を私以上に真剣に向き合い、私の為に家事を覚えて私の為に料理を作ってくれて。そして私の味覚を戻す為に、毎日毎日嫌な顔一つせずに私と口づけを交わしてくれました。甘く蕩ける口づけを交わしながら、私は姉さまのそんな底抜けの優しさにいつも胸を打たれていました」


 ゴメンよコマ。コマといつもの味覚を戻す口づけで、嫌な顔一つしていないのは事実だろうけど……多分イラやしい顔をしてたと思うの。お姉ちゃんが底抜けなのは優しさじゃなくてやらしさの方だと思うの。


「私が寂しい時。辛い時。自暴自棄になった時。そんな時姉さまは私の心の変動を機敏に察知して、温かな言葉を送り私をぎゅっと抱きしめてくれましたよね。冷え切った私の心と身体をどんな時でも温かく包み込んでくれてくれる、そんな太陽のような姉さまの温もりに……私はずっと癒されていました」


 ゴメンよコマ。コマが寂しい時とか辛い時とか自暴自棄になった時とかだけじゃなくて……そういうコマの心の変動とか関係なしに、いつでもどこでも鼻息荒く下心アリアリな気持ちでコマの事をハァハァしながら抱きしめてたと思うの。


「そんな姉さまの凛々しさに、強さに、優しさに、温かさに。私は憧れました。ドキドキしていました。……大好きになっていました」

「そ、そうなんだ……」


 どうしよう……大好きなコマに好きになって貰えた事自体は泣きたくなる程嬉しいけど、好きになって貰えた理由がコマ補正でめちゃくちゃ美化されまくっている気がする……


「……だから、私が姉さまを好きになっちゃうのはわかります。理解できます。……ですが逆に、姉さまが私を好きになってくれる理由が……私にはまるでわからないんです」

「え?私がコマを好きな理由?」

「はい。そこが一番わかりません、全く理解できません。……姉さま。姉さまは私の事を好きだと言ってくれましたが……姉さまは私のどんなところが好きになったのですか?」


 わからないってさっきのコマの発言……もしかしなくてもアレか?私のコマへの好意の源流がわからないって事か?


「私の容姿?それとも勉強が出来るところ?もしかして運動は出来るところとか?まさか人柄が好きになったところじゃないですよね?」

「え?いや、あの……」

「……もしそうなら残念ですが全部偽りです。仮初なんです」

「はぁ?」


 容姿も学力も運動神経も人柄も、全部コマの良いところだと思っているけど……それが偽り?仮初?ええっと……どこがかね?


「容姿は姉さまに好かれるためだけに磨いてきました。いつも姉さまが褒めてくださるこの髪なんて良い例です。姉さまがずっと昔に『ああいう真っすぐで長いかみの女の人ってキレイだよね。あこがれちゃうな』と言っていたのを聞いて……その日から短かった髪を伸ばし、そして何時間もかけてくせっけの髪を整えるようになりました。……姉さまに気に入ってもらう、ただそれだけが目的で」

「……」

「学力も姉さまが『私勉強ダメダメだし、勉強できる人ってそんけいする』と漏らしているのを聞いて。その日から必死になって勉強するようになりました。……姉さまに尊敬してもらう、ただそれだけが目的で」

「……」

「運動も姉さまがテレビを見ながら『私運動苦手だから、運動できる人みるとカッコいいなって思う』と感心しているのを聞いて。それ以来どんな競技でも成績を残せるようにと死ぬ気で体力をつけ技能を磨いてきました。……姉さまに『運動できるコマって素敵だね。カッコいいよ』と褒めてもらう、ただそれだけが目的で」


 捲し立てるようにコマは震えながら話を続ける。あまりの剣幕に思わず口を噤みかけてしまう私だったけれど。


「人柄も……姉さまが好きになってくれそうな人間を演じていた、ただそれだけなんです。純粋無垢で、素直で優しくて、芯の強い女の子―――姉さまが好きになってくれるだろうと期待して、姉さまの前だけ良き妹を演じていた……ただそれだけなんです!」

「……ねえ、コマ」

「もう一度聞きます。姉さまはそんな私の何処を好きになったというのですか?本当の私は完璧超人なんかじゃない。臆病で弱くて寂しがり屋で卑怯者で嫉妬深くて卑猥で器の小さい、そんなダメダメな妹なんですよ!?姉さまは、姉さまはそんな私を知らないから、だから―――」

「―――だとしても」


 コマが言い終わる前に、強い言葉でそれを遮る私。いくらコマでもそれ以上は言わせてたまるものか。


「だとしてもさ。今日に至るまでずっと私に尊敬されるような『凄い妹』を演じるだけの努力をコマは惜しまなかったよね。普通出来る事じゃないよ。いくら才能があったからとはいえ、私に良いところを見せる―――ただそれだけの目的で、完璧な妹を演じ続けられるなんてさ。素直に尊敬する。凄いよコマ」

「ぇ……?」


 コマの心情的に、どうやら今までの話は私に悪印象を与える話のつもりだったらしいが。残念だったなコマ。私的には寧ろこれ以上は上がりようがないと思っていたコマへの好感度がうなぎのぼりですよ。


「なん、で……?失望したんじゃ……」

「どこがさ。私の為に一生懸命努力してきたんでしょ?なら嬉しいと思うに決まってるじゃんか。失望する余地何か一切ないね」

「でも、ですが、だって……」


 明らかに困惑している様子のコマ。そんなコマに畳みかけるように私も話を続ける。今度は私のターンだよコマ。


「コマは今聞いたよね。『姉さまは私のどんなところが好きになったのですか?』って。『好きになってもらえる理由がわからない』って。いいよ、なら教えてあげる」

「ッ……!」

「容姿も学力も運動神経も人柄も。全部含めてコマが好きだけど……私がコマの一番好きなところはさ」

「好きな、ところは……?」

「目標に向かって健気に努力するところ」

「は、い……?」


 奇しくもコマが自分を卑下していたところこそ、私がコマを好きだって思う一番の理由だった。


「コマは隠し通せていたと思ってたのかもしれないけどね。私は姉として生まれてからずっとコマの事を見てきたよ。いつでもどこでも見てきたよ。……だから知ってるの。コマがどれだけ頑張って来たのか知ってるの」

「知ってる……?」


 コマの事を完璧超人、なんて人は言う。実際その通りだと思うがその程度の表現では妹を説明するには言葉が足りないだろう。だってコマは、それに見合うだけの努力をしてきたのだから。


「私ね。コマが短かった髪の毛を伸ばし始めた事とか一生懸命毎朝鏡の前で櫛を入れてた事を知ってるよ。授業でわからなかったところがあれば、わかるまで……それこそ夜が明けるまで勉強していた事を知ってるよ。小学校の頃クラスの男子にかけっこで負けたその日から、その男子に勝つまで……血豆ができても毎日放課後になると校庭を走ってた事を知ってるよ。ホントは人付き合いが苦手なのに、印象を良く見せようと敬語を頑張って覚えていた事を知ってるよ」

「……ぁ、ぇ……?な……?うそ……みられて……え、え?」

「うむす。バッチリ見てたよコマの事」

「…………」


 あとコマがそんな素晴らしい努力を他人に見せようとしなかった事も知っているよ。ま、コマ大好きな(ストーカー予備軍の)この私がそれを知らないわけがないけれど。

 私のそんな話を聞いて、見る見るうちに顔を真っ赤にするコマ。私に好かれるために努力して、完璧超人を演じる為にその努力をひた隠してきたのに……肝心の私にそれを全部見られてたなんてそりゃあ恥ずかしいよね。


「そういうコマを近くで見ててさ、私本当に尊敬した。無我夢中で努力していたコマの姿がとても美しいと思ったよ。……当時は理解できていなかったけど、多分そんなコマを見ていたその時に―――家族愛としての好きじゃなくて、立花マコとしてコマの事を好きになったんだと思う」

「…………」


 しかも努力していた理由は私に好かれる為だったって聞かれたら……ますますコマの事が好きになってしまうわけで。コマの事を失望なんて死んでもするハズがないじゃないの。


「う、ううう……嘘ですッ!違います!勘違いですッ!!!ね、姉さまは優しいから。本当にお優しいから……姉としての義務感とか、6年前の負い目とか、私が植え付けた4年間のトラウマとか、私への同情で……私に好きだと言ってくれているんですッ!!!」


 顔を赤らめたまま自棄になったように首を振って、コマはまたしても私の好意を否定する。む?6年前の負い目はともかく……コマが植え付けた4年間のトラウマ……?ああ、そういやノリと勢いでスルーしかけてたけど、コマって私とカナカナの先月の一件とか……誰にもう打ち明けられなかった私の例の一件―――


『4年もの間、毎晩コマのうわ言を聞いては自己嫌悪していた』


 ―――を、知ってしまってたんだったっけ。あー……なるほど。確かにあの話を盗み聞きしちゃったら、コマも私の好意を疑っても不思議じゃないか。


「……よしわかった。なら私も正直にコマに言わせて貰おうじゃないか」


 でも……いいや、だからこそ私は自分の想いをちゃんとコマに伝えないといけないね。


「確かに私、コマの言う通りコマに対してとんでもない負い目があるよ。後悔とか、懺悔の気持ちが無いといえば嘘になる。コマと口づけを交わす度、申し訳なさで胸がいっぱいになった事もある。4年間コマのうわ言を聞き続けたのは、正直言って辛かったよ。トラウマになったし、卑屈にもなったよ。ああ、なんて私はダメなんだろうって悩んで悩んで苦しんだよ」

「……ッ」

「でもさ。誤解しないで聞いてほしい。私負い目とかトラウマがあるからコマの事を好きだって言ってるんじゃないの」

「…………ぇ?」


 やれやれだ。コマはとっても頭がいいはずなのに、どうしてこんな簡単な事にも気づいていないのやら。


「考えてもみなよ。いくら義務感とか負い目とかトラウマとか同情心があったからって……それだけで姉がここまで献身的に妹に対して尽くせると本気で思ってるの?毎朝早くに起きて朝食とお弁当作って、そして妹に儀式まがいの口づけを交わし。昼食も夕食も同じように口づけして、おやつは別腹で口づけして―――それを6年間毎日欠かさず続けられると本気で思ってるの?」

「そ、それは……」

「妹の事を何も思っていない姉がさ、普通そんな異様な事を年単位で続けることが出来るって、コマは本気で思ってるの?」

「ぁ、ぅ……」


 そういう行為をずっと続けてきた自分が言うのもなんだけど、私はぶっちゃけそんなの無理だと思う。コマの事が好きだから。大好きだからこそ……私は6年間ずっと欠かさずコマと口づけを交わし続けられていたわけで。


「ホントはね、ずっと前からコマの事好きだった。だけど私ね、コマに対して負い目とかトラウマがあるからこそ、今の今までコマへの好意を死ぬ思いで隠し続けてきて……自分で自分の恋を誤魔化していたんだ。『叶うはずの無い恋』だって」

「そ……れは、私……も……」

「だからこんなにも遅れちゃった。ゴメンねコマ。……さっきのカミングアウトはムードもへったくれもないノリと勢いだけの告白だからノーカンって事で許してね」


 そう言って私は襟を正し、コマの手を取り……今にも口から心臓が飛び出そうな程に緊張しながらも、コマの目を真っすぐ見つめてこう告げた。


「改めて言わせてください。立花コマさん。私、立花マコは……貴女の事が好きです。大好きです。これまでも、これからも。ずっとずっと愛しています。付き合ってくださいお願いします」

「~~~~~~ッ!!!」


 …………よっしゃ。言った、言ったぞ。言ってやったぞ……!どーよ!自他共に認めるヘタレだけど、私だってやるときゃやる女なのよ……!

 そんな私の、まさに一世一代の大告白に。コマはまるで夢を見ているかのように呆けながらぽつりぽつりと呟きだす。


「…………わ……わた、し……多分姉さまもビックリするくらいの変態さんなんですよ……?姉さまの事を、性的に、抱きたいって思っているんですよ……?」

「おや奇遇だね。実は私もコマとえっちい事をしたいって思ってる、スケベで変態な姉なんだよ」


 コマもソッチの方面に理解のあるシスコンと分かれば話は早い。もう我慢する必要が何処にもなくなって万々歳だわ。


「…………私、姉さまにトラウマを植え付けて、姉さまを卑屈な性格に変えてしまった張本人なんですよ……?」

「ありがとう。コマに卑屈な性格に調教されたと思うとお姉ちゃんめっちゃ興奮するよ」


 まあ、それに対してコマが責任を感じるのなら……もう一度私を調教し直してくれると嬉しいね。今度はこんな卑屈なダメ人間なんかじゃなくて―――真人間に。どこに出しても恥ずかしくない、胸を張ってコマの自慢の姉だって言えるような真人間にさ。


「…………私、ホントはダメダメな……ダメ人間なんですよ……?」

「それは良かった。何を隠そう私もダメ人間なのだから、ダメ人間同士でちょうど釣り合うね私たち」


 そもそもだ。私たちは一卵性の双子なわけで。元は一つだ。だからコマ、私たち……二人で一人前になれば良いんじゃないかな。

 欠けているものを二人で補いあって、ダメ人間同士で支え合えたら……それってとっても素敵な事じゃないかな。


「…………それから、その……私は……味覚障害とか罰ゲームとかを建前に、姉さまの唇を貪るようなシスコンの……駄妹なんですよ……?」

「安心して欲しい。私も昔から建前色々考えて、コマとちゅっちゅする事しか考えてないような駄姉だし。それに―――」

「それに……?」

「―――もう、建前無しに妹の唇を奪う酷い姉だから、何の問題も無いね」

「ぁ……」


 そこまで言って私は、コマに断りなど一切入れずに、コマの唇に自分の唇を重ね合わせた。


 ……そうだ。私はこれまで何度もコマと口づけをしていた。だけどそれは……『味覚を戻す為』『罰ゲームの為』という建前の元の口づけだった。ああ、そういえばファーストキスでさえも『コマに食べ物を食べて欲しい為』だったっけ。

 だったら多分、この行為こそが……私とコマにとってのファーストキスになるんだろう。そう考えたら、何千回と繰り返してきたハズなのに……私たちは誰よりも慣れているハズなのに、不思議と今までで一番ドキドキするや。


 そんな私とコマのキスは……触媒の林檎も使っていないのに、とっても甘酸っぱく感じた。


「……コマ、告白の返事。いつでも良いから……どんな返事でも、私は良いからね」


 軽く唇を重ね合わせた後、5秒も経たずに離す私。あぶないあぶない……後0.1秒離すのが遅れてたら、このまま最後までヤッちゃうところだった。まずはコマのお返事を待たないと……


「……でしたら、今。お答えしますね、マコ姉さま」

「へ?」

「…………こんな私で宜しければ、喜んで……」


 そのお返事と共にコマは嬉しそうに涙を―――6年前から今に至るまで見る事の無かった涙を流し、満面の笑みを浮かべて私の唇を奪い取った。

多分次のお話がエピローグになると思います。ちょっと早いですがここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

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