第110話 ダメ姉は、駆けつける
タイトルでネタバレしてる件について。
今回のお話、ベッタベタな上にご都合主義もいいところなお話ですが……知らん。だってマコならこうするもん。
~SIDE:コマ~
「…………マコ姉さま……マコねえさま……まこねえさま……」
置手紙を残し家を出た私は……駅前で一人ぽつんと佇んで、ただただ最愛の人の名をうわ言のように呟いていました。
『やーっと厄介なお荷物から解放されて……念願の、念願の二人暮らしが実現できるハズだったんだしさぁ!』
……お荷物。ええ、わかっていました。心の奥底ではそれを理解していて、でも必死に目を逸らしていただけでわかっていました。姉さまにとっての私は……お荷物で面倒で気持ちの悪い厄介な存在でしかない事を。
それでもどこまでもお優しい姉さまは、トラウマを抱える事になっても辛い思いをしていても我慢して我慢して我慢して……私の我が儘に今日まで付き合ってくださっていた事を。
……それを再確認できた瞬間、私の相貌失認は更に悪化。つい数十分前までは、親しい方々ならばなんとか認識できていたハズなのに……
「姉さまのお顔が……見えなくなるなんて……」
……とうとう今朝気絶するほどに恐れていた事が現実に。自分の世界そのものと言っても過言ではない……マコ姉さまのお顔までも私のこの目は映せなくなってしまいました。
「……私。これから、どうしましょう……」
絶望の淵で私は一人呟きます。もう何の未練もない―――とは言いません(寧ろ未練タラタラです)が、当初の予定通り姉さまの本心も聞けました。あとは覚悟を決めて……当初の予定通り母さまの元へ向かうべきでしょうか?
……ですが私と母さまを繋ぐ唯一の連絡手段の携帯電話は、姉さまのお顔が見えなかった衝撃に打ちひしがれてついうっかり家に置きっぱなしにしてしまいました。母さまの携帯番号なんて覚えてないですし(覚える気もありませんでしたし)、連絡出来ないと母さまの元へは行けません。
「……だったら携帯電話を取りに一度家へ戻る?」
……それはダメ。我が家には……いえ、マコ姉さまやめい子叔母さまの家には戻れません。別れは済ませましたし…………それに、今の私の精神状態のままで……お顔を認識できない姉さまと会うのは……
「…………そもそも母さまの元へ行ったところで……姉さまを姉さまと認識できないこんな世界なんて……」
生きていたって、しようがない。ならばいっそこのまますぐ近くを走る電車にこの身を投げ出してしまえば楽になれるのでは?
そんな弱い心が私を強く揺さぶります。
「…………ダメ。そんな愚かなことしたら、姉さまが悲しむ……」
ですが例え厄介なお荷物のような存在であっても。妹である私がそのようなバカな真似をしてしまえば、あのどこまでも優しくて慈悲深い天使のような姉さまの事。きっとこれまで以上のトラウマを抱えさせてしまうでしょう。
…………私個人としては、どんな形であってもあのマコ姉さまの純白の心に私という存在を一生刻み付けるという行為は少々……いえ、たいへん魅力的なものではありますが……それだけは、絶対にダメ……だめ……
進むも戻るもダメダメダメ。八方塞がりもいいところ。自分がこれからどこへ行くべきか、どうするべきかまるでわかりません。マコ姉さま……私、どうすれば……
「…………ぁ……雨……」
途方に暮れていた私の頭上に……突如としてポツリポツリと冷たい雨粒が落ちてきました。
曇天模様の空をパッと見上げると、私の頬を叩くように雨が降り注ぎ始めます。昨日のデート中にプレゼントとして姉さまに頂いたブローチと、ほんの少しの所持金が入ったお財布だけを身につけて家を出た私は当然傘など持っていません。雨脚はどんどん強くなり、あっという間にずぶ濡れに。
「どうしてこういう時に限って……いつも雨が……」
遠くの方からゴロゴロと嫌な音が聞こえてきました。……私、やっぱり雨の日が嫌いです。身体の芯を冷やす無慈悲な冷たい雨が嫌い。雨に濡れて肌に張り付く服の不快さが嫌い。地響きにも似た特有の音を立てつつ閃光と共に落ちてくる雷が嫌い。そして何よりも味覚障害を患うきっかけになった、あの日を思い出すこんな酷い雷雨が嫌い……
……本当に、どうして?どうして私が辛いと感じる時ばかり……こんな雷雨に出くわすのでしょうかね……?
『…………なぁ、オイ。あの子どうよ?良くね?』
『んー?どれどれ?……おぉ、良いな。めちゃくちゃ良い』
『じゃあ……いつもみたいにヤるか?』
『モチロン』
そうやって天に向かって恨みつらみを吐いていると、どこかしらから視線を感じます。周りを見回してみるとずぶ濡れになった私を見ながら何やらヒソヒソと話をしている人々の姿が。
……平日のこんな時間に、しかも大雨の中傘も差さず雨宿りもせずに駅前でただぼうっと突っ立っている中学生の女の子。そりゃあ奇異の目で見られてもおかしくないですよね。
下手に通報されて補導なんてされたら姉さまたちの迷惑になり兼ねません。行く当てなどありませんが、とにかく一旦ここから立ち去った方が良いのかも……
「―――やあ!久しぶりだね!」
「…………え?」
……そう考え場所を変えようとした矢先の事でした。私に視線を送りつつヒソヒソと話をしていた二人組が、私に気さくに声を掛けてきたのは。
「どこかで見た事があると思ったけどやっぱりそうだ!ねぇねぇ、俺らの事覚えてるかな?山田に田中だよ」
「いやぁ懐かしいなぁ。ホラホラ、俺らキミの小学校の頃の先輩だよ。キミが一年生の時によくお世話してやったでしょ?覚えてない?」
「えっ……と?」
突然の事に私は面食らい、しどろもどろになってしまいます。山田に田中?小学校の頃の先輩……?そんな事いきなり言われても……困ります。私、基本的に男性は印象に残った方しか覚えていませんし……
そもそも覚えも何も……相貌失認を本日から患ってしまった私には、全くもって『小学校の頃の先輩だよ』と自称するこちらの二人の顔は認識できませんから反応のしようがありません……
「あ……あぁ……や、山田先輩に田中先輩……ですか。お、覚えています。覚えていますよ。どうもお久しぶりです」
とはいえ流石に事情も知らないであろう目の前の相手に対して『すみません。私、お二人の顔は認識できません』と正直に言えません。咄嗟に知っている風に話を合わせてしまう私。
全く認識は出来ませんが、ここまで親しげに話しかけてくださるという事はきっとこの二人は私の知り合いなのでしょう。言われてみれば小学校の頃そんな苗字の先輩たちがいたような気もしなくもないですし……
「良かったー、覚えててくれたんだ。ホント懐かしいねぇ!何年ぶりだっけ?」
「つーかどうしたのさ?こんなとこでずぶ濡れになっちゃって。大丈夫?」
心配そうな口調で私を気遣ってくれるお二人。ありがたいですがこれ以上関わってしまうとボロが出かねません。
それに……私の知り合いという事は、姉さまの知り合いも同義……この二人経由で姉さまに連絡を取られたらと思うと……
「あ……その。だ、だいじょうぶ―――」
そう考えて慌てて『大丈夫です』と答えようとした私。ですが言い切る前に、辺りが突如として目が眩むほど青白く光り……轟々たる激しい音と共に稲妻が空を走りました。
「ッ~~~~~!!!」
稲光を見た瞬間、まるで小さな子供のように恥も外聞もなく震えながら……私は耳を塞いでその場に蹲ってしまいます。
「あ、あれ?ひょっとしてキミって雷ダメ系?」
「あららー……そうなの?顔色すっごい悪いよね。平気かい?」
「……へ、へいき……で、す……」
……いいえ。全く平気ではありません。頭はガンガン痛みますし、吐き気もめまいも酷くなっていくばかり。元々雨や雷には弱い私ですが、今日は輪にかけて酷い状態みたいです。姉さまの本音を聞き、姉さまとお別れして、そして姉さまを認識できなくなっていた私は自分で考えていた以上に弱っていたようですね……
「いやいやー。全然平気じゃないでしょソレ。キミめっちゃ震えてるじゃん」
「あ、そうだ!良い事思いついた!実はこの近くに俺らのトモダチがバイトしてるカラオケ屋があるんだよ。ちょっとそこで雨宿りしようよ」
「おぉー!お前それナイスな考えじゃん。そうしよそうしよ」
関わりたくないというのに、私の気持ちなど知りもしないこの二人組は何やら話を勝手に進めます。だめ……こまる……
「……いえ、本当に……だいじょうぶで……」
「無理しないで良いって!雷止むまで休んでいこっ!あそこならタオルも着替えもあるしさ、このままじゃ風邪引いちゃうよ」
「先輩としてカワイイ後輩が苦しんでる姿は見過ごせないって。ホラ、立てる?俺らが支えておいてあげるから頑張って歩こっか」
「あ、あの……」
息を切らしながらも拒絶しようとしましたが、有無を言わさない勢いで二人に両脇を抱えられ無理やり立ち上げられる私。戸惑う暇もなく下手に文句も言えないまま、まるで警官に連行される犯人のように歩かされます。
「着いた着いた。このお店だよ」
「もうちょっとの辛抱だよ。しばらくそこに座って待っててくれる?ちょーっと俺ら部屋使えるかどうかトモダチに聞いてくるからさ」
「……はぁ」
そうやってしばらく歩かされて辿り着いたのは駅前のカラオケ店。その入り口のベンチに私は座らされ、私をここまで連れてきた二人はカラオケ店の店員に話を通しに向かいます。
『いらっしゃいま―――って、なんだ。お前らか。…………お、おぉ?今日はどうした?随分と……良いの拾ってきたじゃねーか』
『へへ……ちょっと休憩させてくれよ。例の部屋は空いてるか?』
『ああ、勿論空いてるぞ。…………いつもみたいにカメラは切っておくから安心しな』
『サンキュー!毎度毎度気が利くねぇ』
『その代わり後で混ぜろよな。あんな上玉滅多に見ないし』
受付の店員と短く言葉を交わした二人はすぐに私の元に戻ってきました。
「お待たせ!交渉してきたよ。部屋使って良いってさ」
「さあ行こうか。早く乾かさないと風邪引いちゃうもんな」
再び私の両脇を抱えて奥の部屋へと連れて行く二人。案内されたその部屋は、広く高級感のある所謂VIPルームと言われる場所。
「はいタオル。遠慮せずこれ使ってね」
「寒くない?今暖房入れて貰ったからすぐに暖かくなると思うよ」
「……ありがとう、ございます」
そんな高級そうな部屋の、これまた高級そうなソファに座らされた私は連れて来てくれた二人にタオルを差し出されました。
……半ば無理やりここへ連れてこられた事もあり、不満が無いわけではありませんが……知り合いのようですし好意を無下には出来ません。ありがたい事ではありますし、大人しくタオルを受け取って見る事に。
「…………」
濡れた髪や服を軽く拭いてみると、少しだけ不快感が取り除かれます。……カラオケ店のそれもVIPルームなだけあって、どうやら防音もしっかりしている様子。今もなお鳴り響いでいるであろう外の雷鳴が全く聞こえないお陰で少しは気も楽になった……かも?
「……ええっと。ありがとうございました先輩方。大分楽になりました」
結局二人がどこの誰だか認識が出来ていませんが助かりました。大ざっぱですが髪と服をタオルで拭いてから改めてお礼を言う私。
そんな私を前にして、ニコニコと―――いえ。ニヤニヤと口元を歪ませて二人はこう私に告げてきました……
「いやいやいや。そんな言葉のお礼なんていらないよ」
「そうそう。礼なんて―――身体で払って貰うからさ」
「…………え」
そんな言葉を口に出された瞬間。嫌な空気がこの部屋全体を包み込みます。……今、この人何と……?
「ほらほら、そんな拭き方じゃ風邪引いちゃうよぉ?濡れた服は脱いでちゃんと中まで拭かないとダメだよぉ」
「辛そうだしさぁ。何なら俺らが着替えさせてあげよっか?いや寧ろ俺らが暖めてあげよっか?裸でさ!」
下衆な笑いを振りまきながら私ににじり寄って来た二人。雲行きが怪しくなってきた事に本調子でなかった私もようやく気が付きます。
「……冗談、ですよね?あと、申し訳ございませんが冗談にしても笑えません。いくら親しい先輩後輩の仲であっても、殿方に着替えを手伝って頂くのは……嫌ですよ」
二人の手を軽く払い、ゆっくりと扉の方へと移動しようとする私。ですが二人の内の一人が素早い動きで扉前に立ち退路を塞ぎます。
「まあまあそんな怖い顔で悲しい事を言わないでよキミ。別に先輩後輩って間柄じゃないけどさー、これから俺たち先輩とか後輩とかの関係以上に仲良くなるわけだしネー!」
「……は?」
もう一人のその一言に一瞬固まる私。……先輩後輩の間柄じゃないって……どういう……
「それにしてもいつまでも『キミ』って呼び名じゃよそよそしいよね。えーっと……なになに?立花コマちゃんか……うんうん!良い名前だねぇ」
「おおっ!?13歳なのコマちゃん!うっは!掘り出し物どころの騒ぎじゃないわコレ!」
「ッ……!?私の、学生証……!?」
いつの間にか盗られていた私の財布から学生証を抜き出して、まじまじとそれを見る二人組。
……待って。この二人のこの口振り……そして出会った時からこの店に入るまで一貫して私の事を名前で呼ばずに『キミ』と呼んでいた事。そしてさっきの先輩後輩の間柄ではないという台詞…………まさか、まさか……!?
「だ、騙したのですか……!?貴方方は……私の先輩では、ないのですか……!?」
青い顔でそう叫びつつ私はこの自称先輩たちを睨みます。やられた……!この二人、私の先輩なんかじゃない……!
「あはは!騙したなんて人聞きが悪いなぁ。そりゃ俺らも勘違いでコマちゃんの事を知り合いだって思ったけど、騙す気なんてこれっぽちもなかったよー?」
「そうそう。それにさぁ……コマちゃんも俺らの事を先輩だって勘違いしてたじゃん?お互い様だよ」
……嘘です。シャツを脱ぎ捨てて上半身裸になったこの二人の意図は、火を見るよりも明らか。私を騙してここに誘い出す気満々だったくせに……さっきとはまた違った意味で不快感が私を襲います。
「ひ、人を……人を呼びますよ……!大声を出せば、困るのは貴方方ですよ……!」
このまま黙ってやられるわけにはいきません。じりじりと後ずさりをしながら二人に向かってそう言い放ちます。
「大声を出すかぁ。コマちゃんは可愛いねぇ…………でもね、それ無☆駄♪」
「ここカラオケ屋だよ?しかも俺らの居る場所VIPルームだよ?防音バッチリだからいくら、大声出してもなんにも聞こえないよー?」
「そういう事。ここならどんな大声も―――コマちゃんがどんなに泣き叫んだり淫らに乱れても、だーれも気付かないってワケ!」
ですが二人は醜悪な笑いで私のその一言を一蹴します。
「……知らないのですか?カラオケ店には監視カメラが付いている事を。貴方方がそんなバカな真似をすれば……すぐに店員さまが気付いてくれます。そうなれば……一発で捕まりますよ」
内心挫けそうになりながらも、負けじと私も言い返します。お願いです……これで、退いて……
「残念でしたー!言ったでしょ?俺らのトモダチがバイトしてる店だってさ!」
「ここの監視カメラ?そんなものとっくの昔に止まってまーす!」
「…………ッ」
……私のそんな淡い願いを嘲笑うように、二人は私を更に絶望させる事を告げてきました。……もしやと思いましたが……やはりさっきの受付とこの二人は共犯でしたか……
「おっ!良いねぇその怯えた顔!オイ、今からカメラ回せカメラ!」
「りょーかい。一発ヤったら次俺の番な」
少しでも抵抗しようと後ずさってみた私ですが、とうとう壁に背がぶつかります。……元々退路など塞がれて逃げ場など無い状況。
……理解はしていました。ここに連れてこられた時点で……詰んでいるという事を。
「大丈夫、俺ら紳士だし別に酷い事はしないからさ」
「ひょっとしたら最初の内は、ちょーっと怖くて痛い思いをするかもしれないけど……最終的に気持ち良くなれるからねー」
……虫唾が走る二人の声を聞きながら私は……状況は違うハズなのに、何故かまたあの日の事を思い出してしまいました。
救いの声など外には届かない。頼れる味方はいない。自分の身に危険が迫っている。……そして……大好きな人が、傍に居てくれない。―――そんな6年前のあの日の事を。
「(……そうだ。あの日……もうダメだと思って……死を覚悟して……諦めて。絶望の中で最後に私……あの人の名前を呼んだんだった……)」
そう思うと無性にあの人の名を呼びたくなってしまいます。まるでピンチの時にヒーローに救いを求めるヒロインのように……私にとってのヒーローの名を呼びたくなってしまいます。
「(……何考えているの……私。もう頼らない、迷惑かけない、関わらないと心の中で誓ったハズなのに……何を今更。どれだけ情けないのですか……どれだけダメ人間なのですか……)」
自分から家を出ても、覚悟を決めたつもりになっても。結局助けを求めてしまう弱く醜い自分。ごめんなさい……でも私、呼ばずには……いられない……
「さーてと。んじゃそろそろヤりますかねー。んじゃコマちゃん。その邪魔な服、早速だけど脱ぎ脱ぎしよっかねー!」
追いつめられた私に覆いかぶさって、服に手をかけようとする一人の男。恐怖と嫌悪感を抱き、私は……来てくれるわけないとわかっているのに……無意識のうちにブローチを―――昨日のデートでプレゼントとして頂いた姉さま自作の素敵なブローチを握り、
「…………ね……さま……ねえ、さま…………マコ、姉さま……ッ!!!」
縋るように姉さまの名を叫びました。
ダァンッ!!!
「「「…………え?」」」
その名を口に出した刹那。ついさっき落ちた雷よりもけたたましい轟音と共に、閉ざされていた扉が蹴り破られます。
予想だにしない展開に、私に覆いかぶさって来た男も……カメラを回しているもう一人も……そして私も。思わず固まってしまいました。な、何事……?
「……ゼェ……ゼェ……ゼェ……」
扉を蹴破り間髪入れずにこの部屋へと入ったその人は、息を整えつつこのVIPルームの状況を睨むように見つめていました。
……相貌失認を患ってしまった私には、人の表情が上手く読み取れないハズですが……何故かこの侵入者の感情が手に取るようにわかってしまいました。…………この人、多分、めちゃくちゃ怒ってる……?
「…………あー、コホン。ちょ、ちょっとキミ困るよ。部屋間違ってない?ここ俺らの部屋なんだけどー?」
最初に動いたのは扉付近でカメラを持って私を撮影しようとしていた男。侵入者を追い出そうとその侵入者に近づきます。
「って、アレ?よく見たらキミ……コマちゃんにソックリ―――(ドスッ)ほぐぁああああああああ!!!?」
…………それが彼の間違いでした。その侵入者は無言で、そして無慈悲に男の股を―――股間を蹴りあげました。その一撃でカメラを持っていた男は泡を吹き失神します。
「っ!?て、テメェ何をしやが―――(プシュ)ぬぁあああああああ!?め、目ェ!?目がぁあああああああ!!!?」
相方が倒れた事で、私を押さえつけていた男も慌ててその侵入者を排除しようと掴みかかろうとしましたが……侵入者は冷静に鞄の中からスプレーのような物を取り出して、無言のまま男の目に噴射。それを喰らった男は叫び声をあげながら目を押さえて先の男と同じように床に転がり悶絶します。
「…………何をしやがるのか、だとぉ?それはこっちの台詞だよ。よくも……よくも……」
そして二人が倒れた後。ずっと無言だったその侵入者は……鞄の中から今度は黒い機械を取り出しながら倒れた二人の首元にその機械をグッと当て……今まで聞いたこともないような低くゾッとするようなドスを利かせた声でこう叫びます。
「―――よくもうちの可愛い可愛い天使な妹のコマに手ェ出そうとしやがったなぁあああああああああ!!!?くぅたぁばぁれぇえええええええええええ!!!!」
「「ぎゃああああああああああああああ!!!???」」
……先ほどの雷にも似た閃光とバチバチとした音。それが数秒続いた後、肉が焦げるような独特の臭いと共に男たちは静かになってしまいました。
あまりの出来事に呆気に取られていた私。そんな私をその侵入者は強く抱きしめこういってくださります。
「ああ、コマ……コマ!ごめん、ごめんね遅くなった……!ホントにごめんよ、怖い思いをさせちゃったね……!でももう大丈夫だからね……!」
…………信じられません。ですが……この香り、この声、この温もり……相貌失認になってもわかります。この人は……この人は……!
「ま、マコ……姉さま……?」
「うん……うん!私だよ、コマのお姉ちゃんの……立花マコだよ……!待たせて本当にごめんね……!」
……私、立花コマには立花マコという双子の姉がいます。そう……それはもう、宇宙一素敵な自慢の姉さまが。
私にとってのマコ姉さまは、世界で最も信頼できる双子の姉で。誰よりも何よりも心から敬愛している存在で。一人の女性として憧れ、恋い焦がれている対象で。
そして……私がいつどこにいても、それが例えどんなピンチでも、絶対に駆けつけて守ってくれる……強く優しくかっこいい、最高のヒーローです……
ヒーロー見参。
多分大部分の読者様がお忘れになられていると思いますが、今回出てきた男二人……9月編からちょこちょこ話題になってた例の不審者二人です。伏線はちゃんと回収しましたよ(やり切った顔)。
それからどうやってマコがコマの元にやって来たのかとか、男二人とどうやって仕留めたのかですが……これも多分9月編からちょこちょこ出てる例のアレとかアレとかアレを使ってます。