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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
十一月の妹も可愛い(下)
107/269

第104話 ダメ姉は、馳せ参じる

更新遅めですみません。それと変な時間、曜日に更新で申し訳ないです。来週再来週も更新出来るか怪しいですが時間見つけてちょこちょこ書けるよう頑張ります。

 ―――コマが倒れる10分前―――



 ~SIDE:コマ~



「―――はぁ……」


 愛しのマコ姉さまとのデートの翌日。私、立花コマはそんな最高の日の翌日に相応しくない憂鬱としたため息を、早朝の教室で吐いていました。


「……ため息、今ので30回目。それに何かダメそうな顔してる」

「…………え?」

「……どしたのコマ」

「あ……ヒメ、さま……」


 唯一の親友と言っても良いヒメさまにそう指摘される私。……30回。そんなに……?どうやら自分でも気付かないくらい気が滅入っていたようです。


「ど、どうしたとは……何の話でしょうか?」

「誤魔化すの禁止。体調でも悪いの?それとも……昨日のマコとのデートで何かあった?」

「ッ……!」


 何の前触れもなく、そして一切の躊躇もなく。いきなり確信をついてくるヒメさまに一瞬面食らう私。


「い、いえ……別に何も……な、何故ヒメさまは何かあったとお思いになるのでしょうか?」

「……だって昨日はマコとデートだったんでしょ。その翌日にため息とか、全然コマらしくない」

「そ、そうでしょうか?」

「うん。いつものコマならどれ程マコとのデートが素晴らしかったのかを、聞いてもないのに()()()()()()()()()熱く語ってくるハズだもん。だから何かあったハズ」

「…………そうでしょうか?」


 ……い、一応自覚はありますが……いつもは引くほどは語ってないと思いますよ……?語ってない……ですよね?


「で。何があったのコマ。話をすると楽になるかもだよ」

「あ……いえその……で、ですから何もありませんでしたよ。あ、朝から少し食欲が無くて……それで……」

「……体調が悪いだけだと?」

「は、はい。そうです……」

「…………ふーむ」


 そんな私の言い分に納得いかないといった表情を見せるヒメさま。一瞬私に何かを言いかけて――――


「……そか。話したくないなら無理には聞かない」


 ―――でもその言葉を呑み込んで、ヒメさまは私にそう告げます。


「ヒメ、さま……?」

「無理には聞かない。でもコマが話したくなったら遠慮せずに話すといい。……私、これでもコマの親友だし。相談事ならいつでもおーけー」

「ヒメさま……あ、あの……」

「そろそろ朝礼始まるし、私席に戻るね。んじゃまた後で」


 そう言ってヒメさまはさっさと自分の席に戻られます。……今はそっとしておく方が良いと気を遣ってくれて。

 その上で、私にいつでも相談して良いと言ってくれて……ヒメさまは本当にお優しい方です。私は心の中でヒメさまに『ありがとうございます』と礼を告げます。


「はぁ……」


 ヒメさまに感謝しながらも、またもため息を自然と吐き頭いっぱいになって考えるのは昨日の事。そうです、大好きなマコ姉さまがこの私とデートをしてくれた昨日の事です。

 私をデートに誘ってくれたのは天にも昇る嬉しさでした。姉さまとのデートは心躍る最高の一時でした。素敵な夜景と手作りのブローチをプレゼントされた時は死んでもいいと思えるくらいでした。……ですが。


『私……実はコマにずっと言いたかったことがあったの』

『このままじゃ私にとってもコマにとっても良くないって分かって……』

『私……私、コマの事が―――』


 デートの最後。姉さまは私にそう切り出しました。あの時は……ある意味で幸運にも母さまからの電話が鳴り、最後まで聞けませんでしたが……


「(姉さまはあの時こう続けたはずです。『コマの事が、ずっと鬱陶しいと思っていた。コマと一緒に居るのがずっと辛かったんだ』……と)」


 お優しい姉さまの事です。もう少し遠回しに私を傷つけない言い方をするでしょうが……姉さまは……多分そのように私に伝えたかったはず……


 そう考えてみれば。このタイミング―――母さまの再婚が決まり、姉妹別々に暮らさないかという話が出てきたタイミング―――で突然デートしようと申し出た姉さまの真意も見えるというもの。

 きっとマコ姉さまは……私たちが別々に暮らす前に……私との最後の思い出を作ってくれようと考え、私の為にデートをしてくれたのでしょう。……最後の思い出を作ってから、未練も後腐れもなくすっきりさっぱり姉妹の縁を切りたいと考えたのでしょう。


「(……当然、ですよね。好きでもない相手と四六時中キスをしなきゃいけなくなって……長い時間をかけてトラウマを植え付けられたら……嫌われて、当然ですよね……)」


 私はあの日知りました。姉さまがこの私と一緒にいる、ただそれだけで辛く苦しかった事を。

 本音を言えば、離れたくない。姉さまとはこの先もずっと一緒に居たい。姉さまがいない日々なんて考えられません。……生きていける自信なんて、これっぽっちもありません。


「(ですが……姉さまの幸せを考えるなら、私は……)」


 ……昨日も母さまから『返事はまだ?』という催促の電話はありましたが、私はその返事が出来ていません。……母さまと一緒に暮らすか暮らさないか―――というよりも、姉さまと離れるか離れないかの返事を。

 ……せめてそれを決めるのは、姉さまの口から直接『コマと離れて暮らしたい』と言って貰ってから決めたかったから。


「(…………そんな事、死んでも聞きたくないですけどね)」


 聞きたくない。でも私は姉さまに聞かねばなりません。


「……はぁ」


 ……母さまからの催促の電話の頻度も上がっています。あまり先延ばし出来る問題ではありません。近いうち……出来れば今日中にでも姉さまに時間を作って貰い……話し合いの場を設けて貰って……それで……姉さまの心中を語って貰って…………姉さまと、離れて暮らす、決意……けつい、を…………


「…………はぁ」


 どよどよどよと気が重い。がんがんがんと頭痛がする。むかむかむかと吐き気が収まらない。……しっかりなさい立花コマ。姉さまは自分以上にこれまで辛い気持ちで私と接していたのですよ?ちゃんと向き合いなさい……

 そう自分を奮い立たせようと目を瞑りかぶりを振ってから、目を見開いたその時です。自分の異常に気付いたのは。


「(……あ、れ?)」


 最初は寝不足による疲れ目かと思いました。昨日も眠れませんでしたし、そのせいで見ている景色が可笑しいだけなのだろうと。そう考え違和感を拭うように目を擦りもう一度目を見開く私。けれど……


「(なに、これ……?)」


 周囲のクラスメイトたちの顔が……朧げに見えるのです。自分で言うのもなんですが、これでも記憶力抜群で仮面優等生として余計な敵を作らぬようにと彼ら彼女らとはそれなりに仲良くしている身。しかもつい数瞬までは簡単に判別できていたクラスメイトの顔を忘れるなど普通はあり得ないハズ。

 だというのに……わからない。その人が誰なのか、どんな顔をしているのかこの目で見えているハズなのに……まるでノイズが罹ったかのように判別できないのです。


 突然の出来事に混乱し、思わず席を立つ私。慌てて立ったせいで椅子がガタンッ!と音を立てて倒れてしまいました。その音を聞いたクラスメイト達の視線が、一斉に私の方へと向けられます。


『……えっと、コマさん?どうかしたのかな?』

『コマちゃん大丈夫?怪我はない?』

『いきなり立ち上がって……何かあったのかな?もしかして虫でも出たの?俺がやっつけてあげよっか』


 私を気遣うようにそう声を掛けてくださるクラスメイト達。その大勢の視線は肌で感じ取れますが……そのクラスメイトほぼ全員の顔が、表情が……全くと言ってよいほど読み取れません。

 目や鼻、口などの部分部分はちゃんと見えているはずなのに……全体を見ようとすると誰が誰だか認識できない……その異常さに、異様さに、異質さに。恐ろしさにくらりと目まいを覚えてしまい……


「……コマ。なんか震えてない?急にどしたん?」

「……ヒメ、さま……ヒメさま……私……」

「うん」

「ヒメさま、しか……みえな―――」

「……ッ!?コマ、コマ……どうしたの……!?」


 ……何故かクラスでただ一人だけ。顔も表情も読み取れたヒメさまに最後にそう告げると。私の意識は暗い暗い奥底に沈んでゆきました……



 ◇ ◇ ◇



 ~SIDE:マコ~



『……どうか落ち着いて聞いて。…………コマが、倒れた』


 私の親友の一人である、隣のクラスの麻生姫香―――ヒメっちからそのように告げられた。


「―――こぉおおおおまぁああああああああああああああッッッ!?」


 ……まあ当然、落ち着けと言われて落ち着いていられるような話ではなく。生徒指導の先生たちの目の前で廊下を全速力で駆け抜けて、登校中の生徒たちを次々に跳ね飛ばし、階段をゴロゴロ転げ落ちながら……それでも止まらず一目散にコマの元へと馳せ参じた私。

 ノックも無しに保健室のドアをぶち壊す勢いで開けると、ベッドに横たわるコマの姿を確認する。


「こま、コマッ!?どうしたの!?何があったの!?大丈夫なのこまぁああああああああああああ!!!!???」

「た、立花マコさん静かに。コマさんが起きてしまうわ」

「せ、せせせ……せんせー!?コマは、私のかわゆいかわゆい妹のコマは……大丈夫なのでせうかぁ!?」

「ぐぇ…………!?ま、まっで……しまってる……首、くびが絞まってるわ立花さん……」


 コマに駆け寄ろうとして保健の先生にストップをかけられた私は、その先生の胸倉を掴んで必死に問いかける。


「……ストップだよマコ。手を離さないと、先生も説明できない。あとさっきも言ったけど落ち着け」

「うぅ……!だ、だって……ヒメっち……私のコマがぁ……!?」


 そんな私を後から追って来てくれたヒメっちが羽交い絞めをして止める。お、落ち着けって言われても……!コマに何かあったらと思うと私……わたし……!


「だいじょーぶ。とりあえず命に別状はないらしいから。……ですよね先生」

「え、ええ……特に外傷は見られなかったし呼吸状態は安定してきている。熱もないし今は少し眠っているだけでじきに目を覚ますと思うわ」

「そ、そうですか……よかった……本当によかった……!」


 ヒメっちと保健の先生に諫められ、ぺたんと床に崩れ落ちるように私は座り込む。ひ、一先ずは一安心って事か……


「……それで?ヒメっち。コマに一体何があったのさ……?なんで、コマは倒れたの?何か知ってるかな?」

「麻生さん。先生もこうなった原因がまるで分からないし、貴女の分かる範囲で良いから知っている事は話してもらえないかしら?」


 とりあえず今すぐコマがどうにかなるという事は無いと安心できたけど、コマが倒れたという事実に変わりはない。一体コマの身に何があったのか……私は知らねばならないだろう。保健の先生と共にコマの倒れる前後の状況を知るであろうヒメっちに状況説明をお願いする。

 私と先生の問いかけに、ヒメっちは腕を組み難しそうな顔をする。


「……正直言うと、何でコマが倒れたのか私もわかんない。朝会った時から何かに思い悩んでいる様子ではあった。でもコマ、私と話してた時は受け答えもしっかり出来てたから……急に倒れてビックリ」

「そっか……」

「麻生さん。クラスで何か立花コマさんがショックを受けるような出来事があったわけではないの?」

「……はい。少なくとも、私的には普段通りの朝の一時でした。気を失うような出来事があったわけでもなし……コマ以外に倒れた人がいたわけでもなし」

「そうなのね……参ったわね。ちょっとこれは判断に困るわ……」

「…………ああ、でも。倒れる直前、コマなんか震えながら……変な事を言ってたような……?」

「「変な事?」」


 変な事って……何だろう?


「んーとね。意味がよく分かんなかったけど……確か『ヒメさましか見えない』―――的な事言ってた……ような気がする」

「……???ええっと……ヒメっちしか見えないって、どういう事さ?」

「さあ?」


 ヒメっちしか見えないですと?……聞きようによっては愛の告白チックなそのコマの言葉の真意が読めず、思わずヒメっちと共に首を傾げる。


「―――ぅ……ん……」

「「「っ!」」」


 そんな会話をしていると、微かな声がコマの愛らしく小さなお口から漏れる。私・ヒメっち・保健の先生がバッとベッドに横になっているコマを一斉に見ると、コマがうっすら目を開いているところだった。


「こっ、こここ……コマ!だ、大丈夫!?へーき!?」

「…………?」


 慌ててベッドに駆け寄って、コマの手を取ってそう問う私。コマはぱちぱちと瞬きしてから私の方へ顔を向けると―――


「…………マコ、姉さま」

「う、うん!そうだよ!コマの唯一無二のお姉ちゃんのマコだよ!私の事わかる?」

「…………はい。ああ、良かった……ちゃんと、()()()……姉さまだって……わかる……よかった、本当に……よかった……」

「あの……コマ?」


 私の顔を見るや否や、握った私の手を握り返しながら心底ホッとした表情を見せてくれるコマ。


「すみません……ここは?」

「……保健室。コマ、なんか急に立ち上がったかと思ったら教室でぶっ倒れたの。……覚えてない?」

「ああ、ヒメさま。…………そうでしたね……そっか、倒れちゃったのか私……」

「立花さん。気分が悪かったり、どこか痛いところはありますか?」

「…………え、と…………は、はい。大丈夫、です……」

「(……あれ?コマ?)」


 私、ヒメっち、保健の先生。三人が次々にコマに話しかける。私とヒメっちに対してはいつも通りの反応なのに、保健の先生に対しては……何故かコマが一瞬怯えたような……困ったような表情を浮かべたように見えたのが……少し気になった。


「ごめんなさい立花さん。先生は一度立花さんの担任の先生にこの事を報告してくるわ。調子が戻るまでは休んでいていいからね」

「あ……はい……」

「立花マコさん、麻生さん。そういうわけだから少し席を外すわね。職員室に居ると思うから、何かあったらすぐに呼んで頂戴」

「はいっ!すんません先生!よろしくお願いします」

「……しまーす」


 そう言ってそそくさと保健室を後にする保健の先生。朝っぱらから妹にベッド貸してくれてありがとうございました先生。


「それで……コマ?本当にどうしたの?何で倒れたのか心当たりとか……あるかな?」

「……さっき言ってた『ヒメさましか見えない』的な発言と、倒れた事って何か関係あるんじゃないのコマ?」

「…………」


 先生が出た後すぐに私はヒメっちと共にコマに再び問いかけてみる事に。二人の質問に対してコマは少しだけ逡巡した様子だったけれど。意を決してぽつりぽつりと話を始める。


「……その、私にもよくわからないのですが……」

「「うん」」

「……突然の事でパニックになってしまって。もしもこれで()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ったら目の前が急に真っ暗になって……気づいたらここに居たんです」

「「…………はい?」」


 コマの発言の意味が分からなかった私とヒメっちは、二人そろって頭に疑問符を装着する。『姉さままでわからなかったらどうしよう』って……なんのこっちゃ?


「ええっと……ゴメンよコマ。それは一体どういう事かな?」

「……コマ。分かるように説明」

「あ……す、すみません。私も何が何やら混乱していて……つ、つまりですね」


 言葉足らずだったと謝りつつ、コマは私とヒメっちにこう続けてくれた。


「―――私……姉さまとヒメさま以外の人の顔が……判別出来なくなっている……みたいなんです……」

これはマコにも言える事ですが、思い込んだら一直線なコマさん。今まではそれが良い方向へと進んでいましたが、今回は悪い方向に……というか最悪の方向に進んでいます。


そして今回コマに新たな身体の不調が。最終章なだけあってダメ姉に似合わないシリアス&暗い話が続きますが、シリアスブレイカーマコなら何とかしてくれると信じてる。

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