第97話 ダメ姉は、プランニングする
来週と再来週、もしかしたら更新出来ないかもしれません。先に謝っておきますすみません……基本余裕のある時にしか更新出来ませんので、読んでいただいている皆さんものんびり時間のある時に気ままに読んでいただけると嬉しいです。
「―――このように。想定しているある事象の起こり方が一体何通りあるのかを示す数を【場合の数】といい、そして想定しているある事象の場合の数を全体の場合の数で割ったものを皆も日常生活でも度々聞くであろう【確率】という」
「……うーん」
ただいま数学の授業中。私、ダメ姉こと立花マコは数学教師の眠くなりそうな子守歌をBGMにし、うーんうーん唸りながら無い頭をフル回転させていた。
「―――さて。とりあえず皆には今の話をどのくらい理解できたのかを確認する為に、これから私が黒板に書く問題を解いて貰うぞ。今日の先生の授業をちゃんと聞いていれば、答えは自ずと導き出せるハズだ。さあ、頑張ってみてくれ」
「…………ううん……難しい……」
そう言って先生がカツカツカツと軽快な音を立てチョークで黒板に何やら書いている最中、私はその黒板には一切目もくれず……ただひたすら腕組みをして考えを巡らす。難しい……ホント、この問題はどう解決すべきか……
……うん?お前は今一体何を考えているのかって?そりゃあ勿論授業中なわけだし、とっても難しい数学の問題の解き方を―――では決してなく。
「(どうやってコマに告白するべきなんだろう……)」
この私が本気で考え込む事柄なんて決まっているじゃない。授業?そんなもん最初から一切聞く気無しよ。学生の本分?知らん。それよりも何よりも、コマについて、ひいてはコマにいかにして自分の好意を伝えれば良いかについて考える事が最優先事項でしょうが。
今朝も親友のカナカナから素敵な激励(?)を受けたわけだし……何より最近のコマの様子が明らかにおかしいのもひじょーに気になるところ。コマとは今後腹を割って話をする為にも、まず最初は…………自分の好意をきちんと伝え、その上で何もかもさらけ出してコマと本音でぶつかる必要が私にはあるのである。
「(とはいえ……ここのところ連敗続きなんだよなぁ……)」
告白しようと決意してから今日に至るまで、これでもダメな私なりに果敢にコマにアタックしてきたつもりだ。
けれど今朝カナカナに相談した通り、コマに私の好意はまっっっったくと言って良いほどに伝わらず、どれもこれも空振りに終わっている。
「(じゃあまずは。何がダメだったのかを考えてみようかな)」
とりあえず今までやってきた私の告白の反省会をしてみよう。『失敗を反省し、そして何が悪かったのか分析すれば次の成功に繋がりますよ』と以前偉い人が言ってた気がするし。
「(ストレートに好意を伝えても、大胆に抱きしめても、キスすらも効果が無かったんだよね……)」
まぁそりゃそうだ。だって私ったら、告白とか以前にいつでもどこでも365日コマに全力で愛を叫んでいるんだもの。コマからして見れば『ああ、姉さまのいつものやつですね』としか思わないのも当然じゃないか。
「(つまり……本気で告白したいなら、いつもとは違う何か特別な事をすべきって事だよね……)」
けどいつもと違う事って具体的に何だろう……?つーか、それ以前の問題として……告白ってそもそも何すりゃいいんだっけ……?誰かに告白するなんて13年間生きてきて一度たりとも無いわけだし、全く思いつかないんだけど……
「(だったら……参考書に頼ってみるしかないかなー……)」
自分にそういった知識が無いのであれば、先人たちの知恵と経験を参考にすればいい。そう考えた私は机の上に数学の教科書を立て、そして先日購入した恋愛ハウツー本を教科書の陰に隠しつつこっそりと開く。
何かこの本の中にヒントがあれば良いんだけど……
「えー、それではもう少しで答え合わせに移るぞ。まだ解き終わっていない者は頑張ってくれ。難しいと思うなら、教科書に載っている例題を参考にしてみるといい」
「(えーっと……なになに?『告白は電話やメールを使うよりも、直接会って想いを伝えた方が効果的』……か。うんうん、やっぱそうだよねぇ。となると……私のアプローチ自体はそれ程間違っているというわけでもないって事なのか……)」
授業をやっている先生にバレないよう気を付けつつ、解決の糸口になりそうな目ぼしい項目が載っていないか参考書を流し読みする私。
「……ん?んんんー……?…………ッ!こ、これは……!?」
と、そんな中ある一文が目に留まり、ページをパラパラ捲っていた手が不意に止まる。そこにはこんな事が書かれていた。
【告白するのもされるのもムード作りが何よりも大切!場所・タイミング、そしてシチュエーションをよく考えるべし!】
その一文にハッとする私。これは……もしかすると……
「(もしかすると……私の告白が上手くいかなかったのって……場所とかタイミングとか……シチュエーションにも問題があったからなのでは……!?)」
そうだ……よくよく思い返してみれば、私が今までコマに告白してきた場所は―――決まって住み慣れた我が家の中だったハズ。
そんな場所で愛の告白なんてしても、これっぽっちも特別な気持ちは沸いてこないじゃないか……!?
「(先月私に告白してくれたカナカナだって、放課後の……誰もいない夕日のキレイな屋上という絶好の告白場所を選んでいた……)」
そうだ。彼女は場所もタイミングもシチュエーションも、何もかも拘っていたじゃないか。……だからこそ、鈍い私にも彼女の本気の好意を理解することができたんだった……!
「(そ、そうか……だからか。だから私の告白はダメだったのか……!?)」
そう考えると色々と腑に落ちる。なるほどね、これまでは直球勝負で告白してみたんだけれど……それだけじゃダメなんだね。
料理と同じだ。ちゃんと下ごしらえを済ませなければ最高の料理は作れない。コマへの告白もちゃんと下調べ・下準備を整えてからやらないと、コマに自分の好意が伝わる事は決してないんだ。
「(おお……おぉお……!さ、流石は恋愛参考書……マジで参考になるじゃないですか!)」
思わず感動しちゃう私。凄いぞこの本……思い切って買ってみて良かったぁ……!この本の通りに行動すれば、なんか上手くいくような気がしてきたぞ……
「(ええっと……それで肝心の告白に向いた場所とかタイミングとかシチュエーションは…………ふむ、なるほど。二人っきりになれる場所とか景色の綺麗な場所とか……二人にとって思い入れのある場所がおススメっと。……あとタイミングは朝とか昼よりも夜の方が―――)」
大事そうな箇所をマーカーで線を引き、そしてノートにメモする私。それを続けて今後の告白プランを立てていく。
「(―――まずは……コマとデートしよう。ウィンドウショッピングとかしたり映画とかを一緒に見て……そんでお洒落な料理店でご飯食べて……そしてデートの終わり、帰り道に夜景の綺麗な河原まで立ち寄って…………そこでコマにデート中に購入したプレゼントを渡してその流れで告白……っと。……いよっし。だいたいこんな感じで良いかな?)」
参考書のとってもタメになる教えを元にして、無事プランニング終了。ちょっとベタだけど今回は『コマとデートして、そして帰り道に告白』という計画を立ててみた。
物事には順序ってものがある。何の前振りも無しに告白するよりもデートの後に告白する方が効果的だろうからね。
「(さて……あとの問題は……デートの日程をいつにするかと……そもそもコマがデートの申し出を受け入れてくれるかだけど……)」
……日程はコマの予定に合わせれば良いだけの話なんだけど。コマが私とデートしてくれるのか、これが一番の問題だ。
「(…………ここまでプランニングしておいてなんだけど、コマにデート断られたらどうしよう……)」
なんとなく……いやホントになんとなくだけど、近頃私コマから避けられているような気がする。コマから避けられる心当たりなんて―――ああいやうん、変態で変人でダメダメな私には山ほどあるんだけど、それは一旦置いておくとしてだ。
避けられてる(気がする)現状で、普通にデートしようって誘ってもコマに『すみません。また別の機会に』って言われそうなんだよなぁ……
「(兎にも角にもデートしない事には告白も出来ない……かと言って愛しい愛しいマイスイート♡シスターコマを無理やりデートに誘うのも気が引けるし……てか、そもそもどうやってデートしようって切り出せば良いだ……?いきなりデートしようなんて言っても引かれるんじゃ……?もしも引かれて……嫌われたら告白どころの話じゃなくなるし…………)」
……マズいな、コマを上手くデートに誘える自信がない。つーか思案しているうちになんだか段々怖くなってきた。私……こんなに憶病な性格だったっけ……?
『何を柄にもなく弱気になってんのよマコ』
「…………ッ!?」
と、気持ちが弱い方向へ傾きかけた瞬間。頭の中で今朝の親友の……カナカナの声がリフレインされた。
『唯我独尊、猪突猛進。相手の調子なんて関係なしに空気読まずに突っ走るのが貴女でしょうが』
『なら……覚悟決めてとっとと告ってきなさいよねおバカ』
「…………」
今朝の親友との一幕が私の脳内で繰り広げられる。……あー、ホントだよ。カナカナの言う通り、おバカだね私。今日も散々後押しして貰っておいて、覚悟決めたとか抜かしておいて、またも覚悟が揺らぎかけて。
…………そして何度も親友の言葉に救われて。
「―――時間だ。答え合わせに入ろうか。それでは……今日の日付と出席番号は…………ああ、立花か。えー、では立花マコ。前に出て、解いた答えを黒板に書いてみてくれ」
「マコ、あんたご指名よ。大丈夫?ちゃんと問題は解けたかしら?」
「…………うん、ありがとねカナカナ。もう大丈夫」
「あらそう?なら頑張りなさいなマコ」
隣の席のカナカナの『大丈夫?』という言葉に大きく頷いて、私は勢いよく席を立つ。ホントに……ありがとね私の最高の親友。
「よしっ!行くか!」
「お、おぉ?なんだ立花、今日は珍しく気合十分のようだな。もしかして自信があるのか?これはちょっと先生も期待しちゃうぞ」
「いいえ!正直自信は全くありませんが……自分のやれる事をやってみたいと思います先生!」
「ほほう。なかなか良い返事じゃないか。では立花早速行ってこい。例え出来なくても一生懸命やってみるんだぞ」
「はいっ!立花マコ、頑張ります!」
先生にも(珍しく)励まされ、勇気づけられた私は……言われた通り目的の場所へ早速行ってみることに。
◇ ◇ ◇
「―――コマ、コマっ!」
「…………えっ?」
『『『…………えっ!?』』』
思い立ったが吉日という言葉がある。多分、時間を置けばまた私はウダウダ余計な事を考えてヘタレてしまい、妹をデートに誘うなんて出来なくなってしまうだろう。
そんなわけで、これ以上覚悟が鈍らぬうちにコマの元へと馳せ参じる事を決めた私。
「あ、あの……え?あれ?ま、マコ姉さま……?な、なんで……」
「コマ!私、コマに言いたい事があるの!」
「え、わ……私に、ですか?」
「そう、他でもないコマにだよ!」
突如として現れた姉の存在に混乱している様子のコマ。悪いけど……その混乱、利用させて貰うねコマ。混乱して正常な反応が出来ない今こそ、デートに誘わせて貰おうじゃないか。
「あのねコマ!今度の日曜日……私と、二人でデートしよう!」
「あ、はい。わかりまし…………はい?で、でーと?……でーと、ですか?」
「そうっ!デート!」
「…………あ、ああなるほど。デートってつまりは……お買い物とか遊びに行くって事ですね?」
「違うっ!デートだよデート!恋人同士がやるやつの事!」
「…………え?でぇと……?ねえさまと、でぇと……?…………あ、の……えと。……ほ、本当に……姉さまとデート……?」
「うむす!」
更に混乱が深まっている様子のコマ。珍しく本気で戸惑ってるコマも可愛くて素敵。
「まあ、とにかくコマ!お姉ちゃんと一緒にデートしよっ!ね?ねっ!」
「い、いやその……ええっと……」
「えっ!?嫌!?こ、コマ……私とデートするの嫌なの!?」
「あ、いいえ違います!?そういう意味の嫌ではなくてですね!?…………(ボソッ)寧ろこちらから土下座してでもお願いしたいと申しますか……どんとこいと言いますか……」
「うっし!嫌じゃないなら良かった!なら日曜デートで決まりだね!コマ、その日は予定空けておいてね!」
「は、はい……です……わかりました……」
多少(?)強引に話を進め、そしてかなり無理やりにデートの約束を取り付けた私。
……ゴメンよコマ。でも、こうでもしないと私と一緒にデートなんて今のコマは望まないような気がするから……
「いやぁ、コマがOKしてくれて良かったよ。今から日曜がたのしみだわー♪」
「そ、そうですね……私も楽しみです……」
「あ、そうそう。一応帰ってから詳しいプランを教えてあげるつもりだけどさ、コマは何かデートの事で聞きたい事とかある?」
「あ……あ、あの……ええっと。で、デートの事はわかりました……けど」
「けど?けどなぁに?」
「その……別の事を……聞いてみたいのですが……よ、宜しいでしょうか姉さま……?」
まだ困惑気味のコマは、恐る恐る挙手して恐縮しながら私にそう尋ねてくる。そんな慎まし気なコマも愛らしくて私好きよ。大好きよ。
「おーいいよいいよぉ!コマにならお姉ちゃんが答えられる事なら何でも答えてあげる!」
「あ、はい……ありがとうございます。それではお尋ねしますが姉さま―――」
「うんうん」
「―――今、絶賛授業中なのですが……その。姉さまは……あちらのクラスの授業を抜け出しても……だ、大丈夫なのですか……?」
「…………う、ん?」
『たぁちぃばぁなぁああああああああ!!?キサマ、問題を解けとだけ命じたはずなのに……何をどう間違えたら隣のクラスで自分の妹をデートに誘う事になっとるんだこのド阿呆がぁあああああああああああ!!!!???』
「…………あ」
……これはまあ、当然の事だけど。無断で授業を抜け出した罪+授業聞かずに妹とのデートプランニングしてた罪+隣のクラスの授業を妨害した罪で……死ぬほど痛い拳骨が私の頭に降り注がれる事になりましたとさ。
最近のマコは(比較的)大人しかったので、久しぶりに彼女らしくギャグに走って貰いました。暴走しない、鼻血出さない、シスコンじゃないマコなんてマコじゃないですし。
……ああ、そういえば鼻血は最近出させてないのでそのうち出させます。