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女奴隷と冒険者  作者: ほむら
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ジュリアンとケイト

「そういうわけで、誠に残念ですが、ケイトさんにソウルヒールを使うことはできません。皆さんにとってはつらいことと思いますが、教会としてはできる限り速やかに葬儀の準備をされるようにお伝えせねばなりません。彼女の魂が安らげる場所に至れますようお祈りいたします」


 俺は、聖霊師様の説明を茫然として聞いていた。

「違う! ケイトはまだ生きている!」そう言いたかったが、息が詰まって言葉が出なかった。

 聖霊師様の説明を納得したくはなかったが、心のどこかで、それが間違いない事実であることを理解してしまっていたのだと思う。 

 聖霊師様の説明によると、ケイトの魂はすでに肉体から離れており、今のケイトは魂のない抜け殻なのだそうだ。

 この1年の間のいつケイトの魂が旅立ったかはわからないが、今、そこにケイトの魂はないと。

 そして、魂のない肉体にソウルヒールはかけられない、ソウルヒールは魂をもとに肉体を再生させる魔法であり、魂を魔法で復活させることはできないと。

 人の生死を司るのは神々の領分であり、人間が使える魔法で死者を生き返らせることは、不可能であると。


 ケイトが負傷して意識がなくなった当初、キソロフの教会の聖霊師様に診てもらったときには、その時の聖霊師様からケイトはまだ生きていると言われた。

 キソロフの聖霊師様は、魔物の呪いによりケイトの魂と肉体が切り離されているものの、魂はまだ確かにケイトの体の中にあるとおっしゃっていた。

 ただ、その時の聖霊師様はこうも言われていた。


「魂は、肉体から切り離された状態でいつまでも存在することはできません。今後、意識のない肉体を生きながらえさせることも重要ですが、切り離された魂が肉体にとどまっているうちに聖なる力による治癒魔法を受けさせる必要があります。このようなケースは私も初めてですので、正直なところ、いつまで大丈夫かは分かりません。ですから、彼女の回復を祈られるのなら、なるべく早く準備されることをお勧めします」


 それから、俺はできるだけ急いできた。

 自分でも無茶をしていると思いながら、少しでも効率よく金を稼ごうと、一人でダンジョンに潜ってきた。 

 みんなには危険すぎると止められたが、誰かと一緒にダンジョンに潜れば、焦った俺のせいでそいつまで危険にさらしてしまいそうで怖かった。

 最後には一人で潜るのをあきらめ、奴隷ならいいかと思ってリンを買い、2人でダンジョンに潜った。

 そして、リンを危険にさらし、怪我をさせてしまったときには後悔した。

 ケイトが聞いたら怒るだろうなと思った。

 それで、ケイトを待たすことになって申し訳ないと思いながら、大枚をはたいてリンにハイヒールを受けさせた。

 結局、それですべてがうまく回りはじめ、最後にはリンが幸運を引き当ててくれたのだった。


 でも、それも結局無駄だったのだ。

 ケイトが負傷してから今日までの1年の間のいつかに、ケイトの魂は現世とどまる力を失い、俺やケイトの両親が気付かないうちに一人で旅立ってしまっていたのだ。 


 俺は、ベッドで横になっているケイトのそばに跪き、ケイトの横顔を見た。

 俺には、ケイトが寝ているようにしか見えなかった。

 でも、そう思いたかっただけかもしれない。

 ケイトが日に日にやつれてきていることは分かっていた。

 ポーションで体力を持たせているとはいえ、何も食べていないのだから、やせ細るのは当たり前だった。

 俺は、これまでいつもしていたように、寝ているケイトの手を取って両手で握った。

 痩せて骨ばったケイトの手は、今もかすかな温もりがあった。

 その温もりが、ケイトの生きている証だと思っていた。

 そして、ケイトの見舞いに来たときは、ケイトが聞いていてくれるものと信じて、ケイトに次の狩りでこうするつもりだ、ああするつもりだ、だから、今少し待っていてくれと、いつも話しかけてきた。

 でも、今はそこにケイトの魂がいないと知ってしまい、何も話しかける言葉が浮かばなかった。

 後ろで、お義母さんがしゃくりあげているのが聞こえた。

 それが聞こえたとたん、俺の中にあった何かがはじけ飛んだ。

 胸の奥底からこみあげてきたものをこらえきれず、おれはベッドのケイトのそばに突っ伏すと、人目もはばからず泣きじゃくった。


 すまん、ケイト。

 間に合わなくて済まん。

 結局助けられなくてごめんよ。

 魂が旅立ったことに気づいてやれなくてごめん。

 一人で旅立たせてごめん。

 幸せにすると誓ったのに、助けてやれなくてごめん。

 俺のせいでこんなことになって、本当に、ほんとうにごめんよ。






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