恋の季節と邪魔者たちと 後編1/2
長いので2分割しました。
拝啓
お手紙拝読。
魔王さまにも、人並みの恋愛の体験がお有りだったんですね。
私は魔王さまと言えば、かつてこの世界を滅ぼしかけたように、傍若無人にやりたい放題、可憐な町娘も深窓の令嬢も、人妻も幼女も、天女も魔女も思いのまま、望むがままに手篭めにしているとばかり思っておりました。
今も昔も、魔王も勇者の息子も、男にとって女性というのはやはり神秘です。我が家の女達といえば、そんな神秘的な気配を微塵も漂わせてはおりませんが。やはり母にも、かつては恋愛をしたという事実があるのだろうか。母のことだから、魔爪熊を狩るが如く美男子を強引に捕まえたのではなかろうか。
ところで先週は、中途半端なところで話を終えてしまいました。これからは先週の続きです。
「俺達はお前の妹に交際を申し込みたいものである!」
私の前に列をなす男達はそう声高に叫んで、私の行く手を遮った。一刻も早くイリス嬢のもとに向かわなくてはいけないのにと、焦りが私を苛んだ。何故こいつらは私の前に立ちはだかるのか。妹に交際を申し込みたいなら、直接そっちにいけば良い。
「どけっ! 妹でも母でも勝手に交際でも結婚でも申しこめば良いっ! 俺は行かねばならんのだ!」
普段は温厚で知られる私もこのように邪魔立てをされればさすがに怒る。私の怒声に気圧された何人かが道を開け、そこへずいと進もうとしたとき、何者かが私の腕を掴んだ。
「まーまー待てよ、そう短期になることなくない? もしかしてあの日なの? 男なのにあの日なの? すごくねーっ! それってさー、超やばくない! だって、男なのに女の弱点も持ってるってことじゃない!? もはや最弱じゃん! 最弱って逆になんか可能性かんじるよね!?」
突如現れ矢継ぎ早に好き勝手に物を言うその軽薄な口調にうんざりしながら、私は腕を掴んできた男を睨んだ。それは知っている男だった。
「トラヴァー・ペルシーク……!」
私を取り囲んでいた男達が息を呑んで、その名前を口にした。
短く刈られたブロンドの髪に、煌めく青い瞳。鼻筋の通った、美青年と言える男であるが、その顔に浮かべた軽薄な笑みが、爽やかな印象を払拭している。そのどこか作り物めいた笑みが、道化師の化粧のように思えて、私はこと男のことが苦手だった。
「気色悪い。腕を離せ、腕を!」
私は掴まれた腕を捻って外しながら、トラヴァーを睨んだ。
「お前の企てか」
「そうだと言ったら? 違うけど」
私の詰問にトラヴァーは動揺することもなく、茶化すようにそう言い返した。
私はため息を吐いて、先程より距離をとって我々を取り囲む男達に聞いた。
「なんで妹と付き合うのに俺の許可が必要なんだ?」
すると、トラヴァーがずいと私の前に顔を寄せた。
「聞いちゃう? それ聞いちゃう!? ねえ、言っていい? 僕が説明していい!? アレスみたいな火脚猪並みの脳みその持ち主にわかるように説明す」
「ええい! 鬱陶しい! 説明がないのなら俺は行く! 行かねばならんのだ!」
私はトラヴァーの話を遮って、廊下を駈け出した。
「おい! 僕が説明してるんですけどー! なに無視!? 無視とかひどくねー!?」
後ろでトラヴァーが喚き立てるのを気にせず、私は今度こそイリス嬢のいる教室へと旋風のように疾走した。