母のパンツと魔王の書簡と
拝啓
初めまして、勇者の息子のアレスと言います。
近頃はやれ平和、やれ団結だのというキラキラしていて何となく胡乱な言葉に満ち溢れ私は何だか辟易してしまい、無性にむしゃくしゃして退屈なのも相まって、母のパンツを勇者のパンツと称して同級生に1枚1000ルブ(魔王さまはこちらの貨幣事情までご存知ないと思いますので、一応説明しますが100ルブでライ麦パンが1つ買えます。)で売りさばこうとしたところ、我がむくつけき妹君の密告により母上より腹に穴が開かんばかりの蹴りを見まわれ家の壁を突き破り倉庫の中に放り込まれてしまいました。
私がかつて勇者であった我が母と、かつて世界を滅ぼしかけた魔王との書簡を見つけたのはその時でした。
このような歴史的価値の高い資料を使わなくなった母の怪しげな健康器具や、不出来な妹が幼いころに描いたうす気味の悪い落書きなどと共に倉庫に埋もれさせることを甚だ遺憾に思い、かと言って公表し世に混乱をもたらした挙句に制裁の憂き目に遭うことは想像に難くないため、私はその案は即座に棄却せざるを得ませんでした。
世間一般から推し量ることのできない私の明晰な頭脳はそこで、自分だけが面白おかしくこの書簡を利用する術を思いつきました。
そういうわけで、私はかつて世界を滅ぼしかけた魔王である貴方から、世の中をより良い方向に導くべく文通を始めようと思い至ったのです。
言ってしまえば、この世の中がかくもつまらない方向に進んでいくのは魔王さまが好き勝手面白おかしく我々をからかってくれた反動であると私は思います。ならば、魔王さまには少しこの世の中を楽しくするための責任があると私は思います。
魔王城にて封印されし魔王さまではこの世界に影響を与えられないなら、僭越ながら私が手を貸しましょう。
私は腐っても勇者の息子です。世の中を良くするために、身を粉にする覚悟がどうしてなかろうか。
ご返事をお待ちしております。
勇者の息子 アレス・ヤーブラカ
追伸
もし返事をいただけるのなら、そのまま本名などで送られると大変困りますので適当に偽名などで送ってください。