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悪魔と大鷹の対峙

 



 これほどまでに月曜日を迎えるのが苦痛だったことがあるだろうか。

 土日を過ごすのは辛かった。月曜日の放課後は必ず空けておくように、と言い渡されたことで、あたしは死刑宣告を待つ囚人のように恐れおののき、それを見た辰巳があわてふためき、敬吾さんは静かに怒り狂った。


「あなたはいったい何をしたのですか。会話内容を聞く限り、完全に鷹津様を怒らせているじゃないですか」

「や、あたしにもよく……」

「あなたがやったことでしょう。とにかく謝ってきなさい。ですが、あくまで個人の問題におさめること。白河や美月様にまで頭を下げさせるようなマネはしないでください」

「はい……」

「わかりましたね? この土日でしっかり原因と対応、謝罪の言葉を考えておきなさい」

「はい……!」


 そう言われたにも関わらず、あたしはなんの言い訳も謝罪の言葉も思いつかなかった。

 鷹津が怒った一番の理由は、あたしが生徒会を勝手に辞めたからだろう。

 それに対する弁解?

 面倒になったから。それが学園の悪魔としての正しい答えじゃないか? だが、謝罪にはつながらない。というか、学園の悪魔なら謝らないんじゃない? でも謝らないでいられる自信もないし……。雀野の携帯電話はつながらず、あの哀れな男がどうなったのかもわからない。やっぱりあたしのせいだろうか、責められてはいないだろうな。


 ドツボにはまってしまい、あたしは鬱々としたまま眠れぬ夜を過ごし、おぼつかない足取りで学校へ向かう。

 隣を歩く美月様の飛んでいるかのような足取りがうらやましい。

「今日もいい天気だね!」

「うん、そだね」

「生徒会でね、夏休み明けからいよいよ文化祭の計画が始まるんだけどね、その前段階の会議に参加させてもらえることになったの! 緊張しちゃうけど、私なら大丈夫だって篤仁先輩も言ってくれて。もう今からやるき出ちゃって、何を提案しようか考えてたの。おかげで夜更かししちゃった!」

「そっかぁ。でもちゃんと寝なきゃダメだよ」

「ふふ、わかってる!」

 うう、寝不足の目にはまぶしすぎる笑顔だ。これを曇らせるわけにはいかないよなぁ。




「アキラくん、風紀室に来てもらう」

「ことわーる!」

 悶々と過ごして迎えた放課後、教室を出たところを城澤に待ち伏せされた。

「拒否権はない。先週の奉仕活動を途中放棄した理由を聞こう」

 至極不機嫌そうな城澤の相手をしている暇はない。また捕まってはたまらない、とあたしは城澤と距離をとる。

「悪いけど先約があるの」

「何?」


「そうだ。お引き取り願おうか。アキラには今日、生徒会補佐の補佐退任についての釈明をしてもらう」

 図ったようなタイミングでさっそうと現れた鷹津はあたしと城澤の間にはいり、にっこりとほほ笑んだ。

「鷹津会長……」

 とたんに城澤の顔がゆがむ。きゃあきゃあと羨望と憧憬から騒がれることが常であろう鷹津にとって、珍しい反応ではないだろうか。

「アキラくんの退任は、本人の希望というだけでなく雨宮副会長も認めています。釈明の必要はないかと思いますが」

「彼女の就任を認めたのは会長であるこの俺だ。解任の辞令もまだ出していない。彼女はまだ辞める前の最後の責任を果たしていない」

「しかし」

 ちら、と城澤はあたしに視線を移した。

「自主性が求められる役職だからな、無理に引き留めるようなマネはしない。本人の意思を確認し、簡単な手続きを済ませるだけだ。手荒な真似は一切しない……お前らと違ってな」

 最後だけズルリと抜き身の刀の鋭さをギラつかせ、城澤の痛いところを容赦なくえぐる。

 筋は鷹津のほうが通っている。だがどうせこれから行われる『話し合い』では、「辞めまーす」の一言では片付かないのだろう。


「アキラくん? 大丈夫か」

 思考に沈んでいたあたしは、一拍遅れて返事をした。

「なにが?」

「顔色が悪い」

「問題ないよ。風紀委員長と生徒会長があたしを取り合うっていう乙女としては垂涎モノのシチュエーションを堪能してた。嬉しい限りだけどォ、あたしの体一つしかないからぁ。悲劇!」

 あたしは女優のように声をはって嘆いてみせる。すると城澤は自分が下校前の生徒たちのいぶかしげな視線にさらされていることにようやく気づき、バツが悪そうだ。だが鷹津は堂々としたものだ。

「ここで騒いでいては迷惑になるな。さ、行くぞ」

「ごめんね、城澤センパイっ」

 あたしが後に続くことを信じて疑わない鷹津は、さっさと背を向けて歩き出してしまう。悔しいがそれに逆らえる立場ではない。あたしは城澤に手をふる。

 何か言いたげに伸ばされた城澤の手が、すぐに行く場所をなくして力なく下されたのが視界の端にうつった。




 無言で鷹津の後についていくと、そのまま案内されたのは特別棟最上階の一番奥に位置する小部屋だ。今まで入ったことはなかったが、過去の生徒会資料置場となっているようだ。アルミ製の棚ばかりが並び、年月日のラベルが貼られたファイルが隙間なく詰められている。図書館の書庫のような雰囲気だ。つまり、人が長い時間滞在することが想定されていない部屋。わずかながらの気遣いか、この学園にはふさわしくない粗末なパイプ椅子が二脚用意されていた。

「生徒会室は使わないんですか」

「ここのほうが都合がいいだろう?」

「都合がいいとは」

「お前もいい加減、腹を割って話したいと思っていたんじゃないか」

 鷹津は淡々と言った。それがまた怖い。

 棚にはさまれた狭い空間はうなぎの寝床。鷹津は獲物を逃がさないようにするためか、あたしを奥にいかせ、自分は扉を背にして座った。椅子を広げてしまえば文字通り膝を突き合わせる距離になる。真正面から向き合いたくなくて、あたしはだらしなくななめを向いた。鷹津は肘掛のあるふかふかの豪奢な椅子にでも座っているように、優雅に足を組んであたしを見つめている。冷や汗がでそうだ。


「そう固くなるな」

 あたしのこわばり様を見てか、鷹津は親切に言った。

「そりゃどーも」

「俺が求めているのは謝罪ではなく説明だ。ここで何を言おうと勝手だ、鷹津家が白河家に圧力をかけるようなことはしない」

 現金なもので、あたしは「白河には迷惑をかけない」という鷹津の言葉にとびついた。

「……本当に?」

「ああ」

「言質、とったからね」

「好きにしろ」

 糾弾する側に立つ余裕か。だが、それに乗っからない手はない。敬吾さんからの最低限のお達しを守ることができそうな展開に、少しだけ肩の力が抜けた。


「腹わるもなにも、すぐ終わるって言ったじゃん。あたし、生徒会やめまぁす。これでいい?」

「そうか、わかった」

「………ほんとに?」

 間抜け面をさらしているであろうあたしとは反対に、鷹津は至極まじめだ。

「なんだ、その顔は。辞めたいんだろう」

「え、は、そうだけど」

 そうじゃないだろう。

 いや、ここでこじれることなんて望んでないけど! こじれないとは予想してなかったよ!

「もともとミツの頼みで了承したことだ。辞めたいのなら辞めればいい」

「あの、じゃあ、お話終わりってことでいいですか」

「いいわけないだろう」

 あ、やっぱり。

 ギロっと鋭い目が突き刺さり、あたしの動きを封じ込めた。

「本題に入る。まじめに釈明してみせろ」

「本題? 釈明って、何に対して……」

「まずは姿勢を正せ。愚かしいフリもいい加減にしないと、頭もまわらなくなるぞ。俺と初めて会ったとき、お前はどんな話し方をしていた」

 まるで厳格な父親のような物言いだ。だが、二人きりのこの状況でいつもの白河アキラを演じては鷹津をいらだたせるだけだろう。あたしは膝をそろえて背筋を伸ばした。そうすることで学園の悪魔から、白河のイチ使用人へと自分の中のスイッチが切り替わる。

 鷹津はよろしい、とばかりに頷き、口を開いた。


「俺は、絶対に不貞行為は許さない」

「は」

「それと誤解されるような行為も絶対にしない。配偶者に不要な心配を抱かせるからな。そういった点から夫婦間に亀裂が入るのは絶対に避けたい。万が一疑いが出た場合は、即刻話し合いによる解決を図るべきだ。あとあとの遺恨になる」

 出ました。

 鷹津の夫婦観説法。

 あたしは頭痛を起こしそうになる頭を指でおさえながら、確認のためにたずねた。

「ええ、ご立派なお考えだと思います。わたくしも同感です。ちなみに、今は誰と誰のことをお話しなさっているのです」

「俺とお前だ」

 ですよね!

 

 はやくも目の前がくらみ始めたあたしは冷静になろうと深呼吸をする。その間も、鷹津はとうとうとあたしの罪状を述べあげた。

「お前はこの一週間という短期間で、三人もの男と怪しい行為をしている。風紀委員長の城澤隆俊、二年の東条彰彦、そして雀野光也。一人ひとり、どういった経緯でどうなったのか、教えてもらおう」

 なんだコレは。浮気調査か。

 目を背けてきたツケなのか。

 自意識過剰でもなんでもいいから、やっぱり敬吾さんに言っておくべきだったか、とあたしは今さらながら後悔した。だがもう遅い。

 今できることをするだけだ。

 あたしはぎゅっと一瞬目をつむってから、鷹津を正面切って見据えた。


「その前に一つ、よろしいでしょうか」

「なんだ」

 こちらの決死の思いなど伝わっていないのだろう。鷹津はゆうゆうと聞き返した。

「なぜ鷹津様は、ご自分とわたくしをそのような関係でくくるのです」

「そのような関係とは? はっきり言え」

 ええい、言いにくいことを! あたしは気負って聞こえないよう気を付けながら答えた。

「夫婦、と」

 それなのに鷹津はあからさまに眉をひそめた。

「何をいまさら。もうとっくにプロポーズは済ませたじゃないか」

「………アレ、本気だったんですか………?」

「当たり前だ。覚悟を決めておけと言ったはずだ」 

 ぐらっと体が傾く。

 ああ、聞きたくなかった!!

 自分で確認しておきながら、さも当然、というようにかえってきた答えに心が折れそうになる。だけど負けない!

「はっきりと言わなかったのはわたくしの落ち度でした。改めて言わせていただきます。わたくしは、鷹津様とは結婚できません」

「できる」


 間髪いれずに言い切る鷹津に、二の句が継げなくなってしまう。いや、まだ心は折れていない。がんばる!!

「わたくしは、鷹津様と結婚いたしません」

「するんだ」


 ああああ、もう!!

 なんでこの人は話を聞かないんだ!

 あたしは完全に頭を抱えてしまった。

 会話が成り立たない!

「お前は頭が固い。結婚なんてお互いの了解があれば成立するんだ。ただ書面に名前を書くだけじゃないか」

 その言い方に、あたしはぱっと顔を上げた。

「つまり、鷹津様は書面上での夫婦関係を望んでいると?」

 それなら話は通る。彼は己の自由を謳歌するために形ばかりの妻が必要なのだ。だから情が深い美月様よりもあたしのほうが都合がいいと考えている。そういうことか、と納得しかけたが、しかし。

「気持ちあっての夫婦関係に決まっているだろう!」

「……えー?」

 くわっと目をむいて鷹津はツッコんできた。さきほどよりも数段力がこもっている。


 もう、ほんとこの人何言ってるの?

 何がしたいの?

「互いの心が沿っていれば結婚なんてすぐできると言ったんだ。曲解するな」

「なら、わたくしの心は鷹津様との結婚など望んでおりません」

 これでどうだ、と強気に出ると、鷹津はバカにしたように鼻を鳴らした。

「それは白河の望みではない、ということだろう」

「え」

「お前は自分で自分のことを決めるのを避けている卑怯者だ」

 卑怯者だと?

 急にそれた話より、その身に覚えのない侮蔑はあたしをひどくいらだたせた。おかしいな、身に覚えのない侮蔑など慣れっこなはずなのに。

「どういう意味です」

「そのままの意味だが、お前はわからないだろうから教えてやる。しかし先にこちらの質問に答えてもらう」

 すっかり鷹津のペースだが仕方ない。

 あたしは少しばかりの反抗を示してから問われた順に名前をあげた。


「鷹津様とは何の関係もないので、不貞も何もあったものではありませんが。城澤は、白河アキラ更生計画とやらを企んでいるとか。わたくしの素行から目をつけられているだけです。東条は姉を通して知り合った程度の人間です。雀野副会長は……」

 さて、なんといったものか。

 その名詞がふさわしいものなのか、あたしは少しばかり迷ってから口にした。

「と、と、とも……だ、ちです」

「ほお?」

「さ、最初は生徒会に入る姉が心配で、なんとかもぐりこめないかと思っていたところに、雀野副会長が姉に想いを寄せているってわかったんで、それで、話すようになったってだけなんですけど。それで電話とかするようになって。で、とも、と、友達になった……と、思ってて。あの、鷹津様との電話のあと、連絡がとれないんですが。大丈夫なんですか」

「友人が心配か」

「え、あ、いや」

 まずい。耳が熱い。


 雀野を友達とよんでよかっただろうか。あたしには友達がいなかったから、その基準がわからない。でも本人が友情を感じる、と言ってくれてたし、いいよね。間違ってないよね。

 つい早口になるのを抑えきれず、あたしは雀野のことをごまかすように話を続けた。

「今は姉も慣れましたし、わたくしが生徒会にふさわしくない、という他の生徒の意見もありましたので、辞める機会をうかがっていました。いじめに発展しかねない状況を城澤が案じてくれて、東条にもそれに協力してもらいました」

「それだけか」

「はい」

 鷹津はこちらを探るようにじいっと眺め回すと、嘘はないと判断したのか頷いてから足を組みなおした。

「ミツのことはいい。話も一致する」

 固いばかりだった鷹津の表情が少しばかりゆるむ。


「あいつは面白いヤツだろう。俺にとってもいい友達だ」

「はい」

「外面はあんなにいいのに、内心妙に卑屈で弱虫だ」

「ええ、まったく。だけどしたたかだ。その卑屈さを笠にきて言いたい放題ですよ」

「ああ。あいつはスネながら俺の痛いところをチクチクつついてくるんだ」

「相手をからかっていたはずなのに、いつの間にかこちらがからかわれているんです」

「だから俺もあいつには弱い。ミツも、お前のことをいい友達だと言っていた。今日もあまりいじめるなと注意されたばかりだ」

「……そう、ですか」

 片思いでは、ないみたい。

 胸がほっこりとしてくる。友達。友達か。


「まあ、東条もいいだろう。お前の計画に乗せられたといった感があるからな。だが、城澤隆俊は別だ」

 急に鋭さが戻った声に、あたしはびくっとまた背筋を伸ばしなおした。

「あの男は公然とお前を抱きしめていたそうじゃないか」

「や、捕獲、というべきかと」

「あの男はお前に過剰に触れすぎている。お前にその気がないのはわかったが、あの男と二人きりにはなるなよ。危険だ」

「あの鋼の男が危険……」

 確かに腕をつかまれたり肩に手を置かれたり、と思い返すと接触は多いが、別段下心のようなものは感じなかった。なにせ鋼の男だ。不純異性交遊のようなものを率先して行うマネはしないのではないか。

 そんな鷹津を疑う心はばっちりと読まれていたようで、鷹津はぎろりとあたしを睨み、「わかったな」と念を押してきた。

「わかりました……。これで、納得していただけましたか」

「まぁいいだろう」

 なんでこんなことで許しを得なければならないのか。

 そう思いながらも、ほっとしてしまうのが悔しい。鷹津には人を従わせるオーラみたいなものがあるのだ。まったく、生まれながらの王様だ。

 

「これ以上は不毛なだけですから、話を戻します。鷹津様、わたくしと結婚できない理由なんて充分おわかりのはずでしょう。おかしなことを言うのはやめてください」

 あたしはいい加減鷹津との一対一の会話に疲れてきていた。鷹津の求める「説明」も済んだところで、一気に片をつけようと選ぶ言葉も率直になる。

「おかしなこと」

 鷹津は幼子のように繰り返す。

「そうです。わたくしと夫婦になってなんになります。鷹津家が許しますか。白河家が許しますか」

「鷹津は許す」

「え?」


 鷹津はニヤリと笑った。

「俺がなんて呼ばれていたか、知らないのか」

 そう言われてふと思い出すフレーズがあった。

 鷹津の放蕩息子。

「最近はおとなしくしすぎていたな。そろそろ暴れてもいい頃だろう」

 うーん、と気持ちよさげに伸びをする様子は、眠りから覚めて狩りに行く前の大鷹そのもの。

 鷹津家が、出来損ないと名高い白河の娘との結婚を許すはずがない。鷹津の嘘に決まっている。当然のことなのに、目の前の男はそんな常識すら無視してしまいそうな油断ならない力があった。

 だけど、あたしはその常識にしかすがることができない。

 あたしはぐっと両の拳を握った。

「白河のことはご存じでしょう。わたくしは鷹津様と釣り合いません」

「よく知っている。だが関係ないな」

「関係ないなんて……!」

「それを理由にするとは、やっぱりお前は卑怯者だ」


「何が卑怯なんですかっ」

 ついカッとなって怒鳴ってから、あたしは唇をかんだ。情けない。こんな悪口で心乱されるなんて。早くここから出たい。

「美月様じゃ、ダメなんですか……」

 ああ、これも失言。

 言うならもっとうまく、鷹津の興味をしっかり美月様に移すようにしなくてはいけないのに。もう頭がまわらない。

「それも言ったはずだ。お前の姉は俺の趣味じゃない。まったくそそらない」

「なっ……!」

 下世話な物言いに、怒りでまた頭に血が上る。

 そんなあたしに追い打ちをかけるように、鷹津はいやな笑い方をした。それこそ、悪魔みたいな。

「卑怯者のお前に、少しいじわるをする。お前が崇め奉る白河という盾を汚してやろう」

 鷹津は一呼吸おいて、ゆっくりと言った。


「しらかわ あきら」


「……なんですか」

「お前の名前だ」

 そんなこと百も承知だ。

「だから、それが……」

「お前の名前は、どういう字を書く」

 心臓をぎゅうっと掴まれた。そんな気分だ。

「お前はなんでもかんでもかたくなに『アキラ』とカタカナで通しているんだな。生徒名簿までカタカナか。ばかばかしい、少し探ればすぐにわかることだ」


「いい字じゃないか。『明』、お前のお父上から一字もらったのだろう?」



  

 荒く息をするあたしを満足そうに見やった悪魔は、美しい笑みを浮かべて、あたしの眼前に迫っていた。

 食べられる。

 そう覚悟したとき、ガンガンと激しく何かが打ち鳴らされる音がした。

 あたしの頭の中かと思ったら、どうやらそれはこの部屋の扉が叩かれる音のようだった。小さくだが人の声もする。

 鷹津は一度振り返って不機嫌そうに舌打ちしてから、眉間にシワを寄せたままあたしのピアスに口つけた。

「よく考えてみることだ。白河家が、お前にとって本当に崇め奉るべき存在なのか」

 



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