7年ぶりの出会い
寮に戻ってきたものの、まだ召喚の儀は終わってないらしく1年生は一人もいなかった。
シェイドがくるまではする事もないと思い自室のベッドに倒れ込む。
まだ昼前だというのに、どっと疲れが押し寄せてきた。
(まさか精霊と契約ができないなんて思っても見なかった……。学園長達は何か知ってるみたいだし大丈夫だとは言ってたけど)
学園長たちの言う事を信じれば、魔法を使う事はできるらしいし普通の手段では無理だが精霊との契約もできなくはないらしい。
(問題は学園長の精霊が言ってた僕の魂が歪だってことだよな……)
この世界に生きる生物は精霊も含めて全て魂をもっていると考えられている。
魔力や生命力も魂を根源として湧き出ていると言われており、その魂に問題があれば生命活動にも関わってくる事になる。
(いままでは違和感とかを感じた事はなかったけど、これからも大丈夫なのかとか後で聞かないとな)
さきほどは動揺していてろくな質問もできなかったが、少し落ち着いてくると聞きたい事が山ほどでてきた。
もっとも、学園長達はアレクの身体についてはあまり深刻そうな感じではなかったためおそらく問題はないのだろうと思っている。
とはいえ自分の魂が歪といわれて全く気にしないというのも無理な話である。
「考えても仕方ないけど……入学初日からなんでこんなことに……」
ひとりでぼやきながら悶々と考えていると、どうやら生徒達が戻ってきたようで外が騒がしくなってきた。
もうちょっとしたらシェイドの部屋をたずねに行こうかと考えていると、ドアをノックされる。
部屋の外には案の定シェイドが心配そうに立っていた。
「もう帰ってきてたか、いろいろ聞きたい事だが時間も時間だし昼飯たべにいこうぜ」
ずっと考え事をしていたため気がつかなかったがアレクもだいぶお腹がすいていた。
「僕もだいぶおなか空いたしいこうか、食堂でいいかい?」
「おう、それじゃあいこうか。まぁ腹もちゃんと減ってるみたいだしそこまで落ち込んでるようでもないみたいだな、安心したぜ」
アレクの印象ではシェイドは細かい事をあんまりきにしないおおざっぱな性格をイメージしていたのだが、意外と相手の事をしっかりみているようだ。
「僕自身まだ何が起こったのかはっきりわかってるわけじゃないけど、少なくとも魔法が使えないってことはないらしいんだ」
食堂まで歩きながらさきほど学園長室であったことをシェイドに話す。
「……なるほど、学園長達の話がつくまでは何ともいえねぇな」
話してるあいだに食堂についたので、入り口付近の席を取る。
「まぁ考えても仕方なさそうだしとりあえず飯食おうぜ飯。俺が料理取ってきてやるよ」
「ありがとう、お願いするよ」
普段の食堂は注文制なので、アレクが席取りをしてシェイドが料理を取りに行った。
シェイドを待って一人席に座っていると突然後ろから声をかけられる。
「ねぇ、相席いいかな?」
後ろを振り返ると、そこにはフィオナが立っていた。
「誰かと思ったらフィオナさんじゃないですか。もう一人いますけどそれでもよければどうぞ」
そう言うとありがとうといってフィオナはアレクの隣に座る。
「呼び捨てでいいよ、同じ新入生なんだし」
五大家と聞いていた事もあって少しやりづらさを感じていたアレクだったが本人にそう言われると断るわけにもいかない。
「そっか、じゃぁフィオナって呼ばせてもらうよ」
名前を呼ばれてにっこりとフィオナが微笑む。
「うん、そっちの方が距離感がなくていいわ」
そんなやり取りをしているとシェイドが料理をもって席に戻ってきた。
「お待たせ……おや、あんたはシルフウィンドんとこの」
「はじめまして、ですよね?私はフィオナ・シルフウィンドです。あなたは?」
「シェイド・ヴィンダーだ。シェイドでいいぞ」
「私もフィオナでいいです。よろしくお願いしますね」
シェイドも席につき、3人で昼食を食べる。
「今日はフィオナ一人なんだね。昨日は結構いろんな人と一緒にいたけど」
アレクが食べながらフィオナに話しかける。
「みんな召喚の儀にいったまままだ帰ってきてなくてね。初めて契約した精霊を見せ合ったりしてるんだと思う。お腹空いたから先に食堂に行ったらアレクがいたから一緒に食べようと思ってね」
やっぱり手出してんだろお前とぼそっと隣でいうシェイドを横目で睨むアレク。
「そっか、フィオナはもう契約してるんだもんね。今日の召喚の儀はでてないのか」
「えぇ、私は入学する前に既に契約してるからね。シルフィっていうの、今度見せてあげるわ。二人はどんな子と契約したの?」
その問いにアレクとシェイドは微妙な顔で向き合う。
「俺は雷系統の精霊と契約したこいつはちょっとな」
「実は僕契約に失敗しちゃって……」
アレクは曖昧な笑みを浮かべて答える。
「契約に失敗?どういうこと?そんな話聞いた事ないけど」
アレクはさきほどシェイドにした話をフィオナにもした。
それ黙ってきいていたフィオナだったが、アレクの魂についての話になると顔色が変わる。
「魂が歪だと、学園長の精霊はあなたの事をそう言っていたのね?」
「うん、なんか僕の魂事態が歪で、そこに無理矢理精霊の魂をくっつけてるみたいだって言ってたかな」
その答えにさらに険しい顔をするフィオナ。
「……魂の欠損。あの鎌を受けていたなら当然魂を食われているはず。……それにアレクって名前はたしかあの子の」
ひとりでぼそぼそと呟くフィオナ、そして顔を上げるとアレクに尋ねる。
「ねぇアレク、あなたは7年前誰かに襲われた記憶がある?大鎌をもった少女とか」
「いや、ないかな。……というか正確には覚えてないんだよね」
アレクにはある一時の記憶がない。それが丁度7年前のことである。
消えた記憶は1ヶ月くらいだったため、大して影響はなかったのであまり気にしていなかったが、その時の話を聞くと皆曖昧な答えしかしなかったため何があったのかはわかっていない。
「そう……覚えてないのね。それなら私の事も知らなくて当たり前か」
少し寂しそうにフィオナは笑う。
「この話は基本的にタブーとさてる事なの、だから本当は誰かに喋ってはいけないのだけれど特別ね」
急に真面目な顔になってフィオナはアレクとシェイドに話し始める。
「7年ほど前にね、ある大きな事件があったの。その時の水の五大家の次期当主が惨殺されたっていう大事件」
シェイドがその話をきいて何かに納得したように頷く。
「なるほど、魂食いか」
フィオナは驚いたようにシェイドをみる。
「知ってるの?」
「家の都合でその辺の事情には詳しくてな、それで?」
トップシークレットのはずなだけどね……と苦笑いを浮かべるがすぐに話を戻す。
「彼の言う通り、当主を殺したのは魂食いとよばれたある少女だった。その魂食いはね、人間や精霊の魂を文字通り刈って自分に取り込む事ができた」
アレクも段々フィオナが語ろうとしている事がわかってきた。
「……僕はその魂食いに襲われた事がある?」
「えぇ恐らくはね。その事件が起こったとき、当主の近くには二人の幼子がいたの。一人は私、私は無事に逃げ切る事ができた。でもね、もう一人は魂食いから私を庇って魂を刈り取る魔法をその身に受けてしまったの」
そこでいったん区切るとフィオナはアレクをじっとみつめる。
「そしてね、初めてあった時にその子は私にこう名乗ったわ。アレク、と」