初めての友と挨拶
軽い気持ちで探検にいったが、思ってもみなかった幸運に恵まれたためほくほく顔で寮に戻り、夕食を食べに食堂にいく準備をする。
普段は各々が好きな時間に食べにいくのだが、今日は新入生の初めての晩餐ということで寮の先輩や先生方からの歓迎会となっている。
また、実質的に初めての新入生同士の顔合わせとなるため早めにいって挨拶もしにいかなくてはならない。
(一体どんな人達がいるんだろう……。友達ができるといいんだけど……)
寮には知り合いがいないためここで友人ができないとこれから一人で過ごす事になってしまう。
さすがにそれは嫌だなと不安を感じながら食堂に行く準備をしていると、突如ドアがノックされた。
「はいはい、今出ます。どちら様ですか?」
心当たりが全くないため首を傾げながらドアを開けると、そこには一人の少年がたっていた。
「お、よかったまだ食堂にはいってなかったみたいだな。はじめまして、俺は隣の部屋にすむことになったシェイド・ヴィンダーだ。これからよろしくな!」
そういうとシェイドはにこやかに笑って手を差し出す。
「アレク・ルナストーンです。僕の方こそよろしく!」
アレクはその手を握り返し自己紹介をすませる。
「本当はさっき部屋の片付けが終わった時に声をかけにいこうと思ったんだがいなかったみたいなんでな。そうそう、これから夕食にいくだろうとおもって誘いにきたんだが一緒にどうだ?」
アレクも丁度出るところであったし、友人ができるか不安になっていた事もあり願ってもない申し出だった。
「ぜひお願いするよ!すぐ出るから少し待ってて」
すぐに身支度をして部屋から出る。
「ちょうど友達ができるか不安だったんだよね。声をかけてくれて助かったよ」
アレクは部屋の鍵をかけ、シェイドと共に食堂へ向かう。
「おう、俺もお前みたいなやつが隣でたすかったぜ。これで取っ付きにくいやつだったらどうしようかと俺も不安だったんだよな」
シェイドとアレクは屈託なく笑いながら話す。
食堂は男子寮と女子寮の間にあり、アレク達の部屋からも少し距離がある。
続々とほかの生徒も食堂に向かっており、周りが段々にぎやかになってきた。
なかには既に集団で行動している新入生達もいる。
「もう結構グループみたいなものができてるんだね、クラスわけもまだなのに早いなあ」
アレクがぼそっと呟くと、シェイドもその集団に目をやる。
どうやら一人の人物を中心として何人かが集まっているようだ。
茶髪で、同年代にしては少し背の高めのその人物は周りを人に囲まれていてもよく目立った。
「ありゃたしか土んとこの長男じゃなかったか?そういえば今年の新入生は五大家の跡取りが二人ほどいるらしいって父さんが言ってたな」
王立魔法学園のあるエンペレス王国は王権性であり、貴族制度も存在する。
そのなかでも特に、五大家という五つの大貴族が存在する。
かつて存在した五人の英雄の末裔と言われており、各家が対応する属性の精霊を使う名家として名を馳せている。
精霊には様々な種類があり、正確に属性をきめることはできないが大まかな分類として火、水、土、雷、風の五つの属性に分類されている。
基本的に学園内に階級意識はなく、貴族側もそれを心得ている。
たしかに五大家や貴族階級の人間はその血筋を精霊が守護している場合があり、強力な精霊使いが多い。
しかし、普通の一般人の家系からも強力な精霊使いが生まれることは珍しくないため学園の中では平民の出だからと言って相手を軽んじる貴族はほとんどいない。
今彼が囲まれているのも五大家だからとまわりがすり寄っているいるわけではなく、家同士のつながり等でほかに比べて知り合いが多いからなのだろう。
「やっぱり名家ともなると知り合いがおおいんだね」
「まぁそりゃな、小さい頃からいろんな家との交流ももたなきゃいけないらしいし。名家ってのも大変だよな」
そんな話をしているうちに食堂が見えてくる。
食堂につくと、豪華な装飾が施されておりおもわずアレク達は足を止める。
「すごいな、この学園に来てからも思ってたんだがここって絶対すごい金かかってるよな、寮の敷地もめちゃくちゃ広いし」
ほえーとあたりを見渡しながらシェイドがそんなことを言っている隣でアレクも同じ感想を抱いていた。
一般的な家庭ですごしてきたアレクにとってはこんな豪華な場所でたべる食事は初めてであるため、驚きを隠せない。
まるで城みたいだなと思いながら食堂を見回すと、ひとりの少女がこちらに向かって手を振っているのが目に入った。
むこうもこちらが気がついた事がわかったのか、周りに集まっていたほかの女子をかき分けてこちら側に来る。
「随分と早い再会だったね、アレク君」
そういって笑顔で話しかけてきたのは先ほど別れたばかりのフィオナだった。
「フィオナさんももう来てたんですね。あれ……でもここってまだ新入生しかいないはずじゃ?先輩達は新入生が集まり終わったら来るってきいてましたけど」
そう言うアレクをフィオナはきょとんとした目でみると納得がいったのかお腹を抱えて笑い出した。
「あははははっ私は新入生だよ?妙に堅苦しいなと思ってたんだけど先輩だと思ってたのね」
その言葉に今度はアレクがきょとんとする。
「あれ……?でも昼間魔法使ってましたよね……?」
基本的に新入生は明日の入学式の後、召還の儀を行い精霊と契約する。
そこで初めて魔法を使えるようになるはずのため、魔法を使っていたフィオナをアレクは先輩だとおもっていたのだ。
「私はちょっと機会があって入学する前に精霊と契約しているの。それで少しだけ早くみんなより魔法がつかえるんだ」
一通り笑って満足したのかフィオナがアレクの疑問に答える。
と、そこで先ほどまでフィオナの周りにいた少女たちが声をかけてくる。
「おっと、ちょっとおよばれしてるから私戻るね!また後で!」
そういうと駆け足で元いた場所へ戻っていく。
忙しい人だなとアレクが思っているとずっと黙ってみていたシェイドが肘で脇腹をつついてくる。
「なぁお前入学式もまだだってのにもう女の子に手をだしたのか?しかもあんな美人ちゃんに」
ジト目でにらんでくるシェイドにアレクはあわてて反論する。
「ちがうちがう!さっき学園の中を歩いてる時にたまたま知り合っただけだよ!」
ふーん、とまるで信用してなさそうにシェイドはアレクを眺めていたが、ふと視線をはずして周りの女子と話しているフィオナを見る。
「まぁいいや、それにしもあの子を狙うのは俺の考えが間違ってなければ大変だろうな」
「どうして?」
アレクがつい聞き返すと、やっぱり気になるんじゃないかとシェイドにからかわれる。
「あの子のあの若草色の髪、それにすでに魔法を使えるって言ってたな?おそらくだが風の五大家の息女だろう。相当な大物だぞ彼女は」
この世界の人は、先祖に精霊と交わった者がいるという言い伝えもあり瞳や髪の色が色鮮やかの者が普通にいる。
その中でも五大家は自身の家が司る属性に関連する色になるものがおおい。
そして、もし彼女が五大家に連なる者ならば入学する前に精霊と契約していても不思議ではない。
五大家にはその血筋と契約している精霊がいるため、わざわざ新しく契約を結び直す必要がない。
また、本来はアレク達の年になるまでは幼い精神に契約した精霊が耐えられず暴走する可能性があるため普通の家ではこの年になる前の契約を禁止している。
しかし、血筋の契約した精霊はすでに人との契約を結んだ事があるため契約者の幼い精神にひきずられて暴走を起こす危険性もほとんどないのだ。
(だから同じくらいの年なのにあんなに魔法の使い方がうまかったのか)
昼間の出来事を思い出し、フィオナの魔法が年の割にとても上手だった理由を知る。
「まぁそんな子と学園生活初日にいちゃいちゃしてるお前の方がよっぽど大物だろうけどな」
シェイドに言われて自分がかなりすごい人と話していた事を知りすこし尻込む。
「……ほかの人とかに目つけられたりしたかな」
「だいぶ大声で話しかけられてたし多少目立っちまったかもな。彼女が風の息女だって知ってるやつも中にはいるだろうし。まぁ別に階級意識があるわけでもないしそこまで気にしなくてもいいだろ、嫉妬はされるかもしれんが」
とりあえず彼女を後で俺にも紹介しろよと、もう一度シェイドはアレクを小突いてから歩き出す。
「さて、俺たちもそろそろ席に着こうぜ、いつまでもこんな場所にたってたら邪魔だろうし」
そういわれてアレクも自分たちが通路の真ん中で話してた事に気づいてシェイドの後に続く。
すでにだいぶ人も集まっており、そろそろ夕食の時間になろうとしていた。
長机の端の席に着くと、ちょうど先輩や先生方が食堂に入ってきた。
それからしばらくして全員が席に着き終わると、初老の男がひとり立ち上がりよく通る声で呼びかける。
「新入生諸君、ようこそガイストへ。私たちは皆、君たちを歓迎する。」
初老の男、この学園の長であるグラン・ウォードは挨拶をはじめる。
「明日からの生活で不安を抱いている者も多くいると思うが、私を含め先生方や先輩達が皆君たちの力となってくれるはずだ。安心してこれからの学園生活を送り、多くの事を経験し学んでいってほしい」
新入生達は皆真面目な顔で学園長を見ている。いまだ緊張しているものもかなりの人数がいるようだった。そんな生徒達をみて学園長は真面目な顔を崩し微笑む。
「だいぶ緊張している者もいるようだし、堅苦しい挨拶はこの辺りにして食事の時間にしようか。君たちへの歓迎の意をこめて今宵は多くの食事を用意させてもらった、ぜひ楽しんでいってほしい。私の挨拶はこれで終わりだ」
そう言い終わると学園長はゆっくり席につき、それと同時に先輩達の座っている場所から一人の少女が席を立つ。
その少女は燃えるような深紅の髪をたなびかせ、先生方の前にでると新入生の方に向き直る。
「せっかくのごちそうを前に時間を取ってすまないがも少し時間をいただこう。私は学生会の会長をしているアリス・スカーレットだ。君たち新入生の先輩を代表して一言挨拶をさせていただく」
アリスのその凛々しく美しい姿と、よく通る鈴の音のような声に学園長の挨拶の時とはうってかわり、男子生徒だけでなく女子生徒までうっとりしている。
「あれが現学生会長のアリス先輩か……すげぇ美人だな」
シェイドの呟きに思わずアレクもうなずいてしまう。
ひと呼吸おいて、アリスが挨拶を口にする。
「これから生活をともにする生徒として一緒に協力して楽しく有意義な学園生活を送っていこう。
そしてさきほど学園長もおっしゃっていたが、何か困った事があったらいつでも私たちを頼ってほしい。学生会はそのための組織でもある。生活の環境も急に変わっただろうし困る事はたくさん出てくると思うが遠慮せず先輩達に声をかけてくれ。それでは明日の事など細かい連絡もあるがそれは食事の後にするとよう」
そう言うとアリスは生徒達に一礼した後先生方に向き直りまた一礼し、自分の席に戻っていく。
席に着いた事を確認した学園長は大きな声で生徒達に呼びかける。
「それではいただくとしよう!皆の者大いに楽しんでくれ!」
「「「「「いただきます!!」」」」」
かけ声が終わると同時に一斉に皆が食事をとり始める。
目の前の美味しそうな食事緊張しながらも皆我慢の限界に来ていたようだった。
「俺たちも食おうぜアレク。さっさとしないとなくなっちまう」
すぐにシェイドも自分の取り皿を持ってほかの生徒達のように料理を自分のさらに盛っていく。
「こんなにあるんだからそんなすぐにはなくならないよ……。でも僕もお腹すいたしいただこうっと」
そう言ってアレクも料理に殺到する生徒達に混じっていった。